【本編完結】副団長様に愛されすぎてヤンデレられるモブは私です。

白霧雪。

文字の大きさ
上 下
3 / 18
本編

しおりを挟む
 

 好きだからこそ、ラインハルトのことを想って身を引いた――というのにだ。

「親父から聞いた。――俺の秘書官を辞めるって、どういうことだ」

 どういうことかはこちらが聞きたい。
 今日は、聖女との顔合わせじゃなかったのか。ラインハルトが留守にするから、わざわざ今日出て行くつもりでいたのに。

 肩の上に手をつかれ、壁際に追い詰められた体勢に、「これが壁ドンか」とのん気に思った。

「どういうこともなにも、文字通りよ。辞めさせていただきます」
「ダメだ。許さない」

 頭ごなしに否定をするラインハルトに頬が引き攣る。

 窓の外は暗い。
 デスクランプしかついていない執務室は、目の悪いサーシャには不利だった。そもそも、ラインハルトを振り切って出て行けるとは思えない。

「部屋がもぬけの空だった」
「勝手に入ったの!? ……ここも、出て行くわ。貴方も、聖女様と結婚するんでしょう? なら、きっと私はいないほうがいいのよ」

 肩を掴む手に力がこもる。

「……どういうことだ」
「貴方、聖女様と結婚するんでしょう? お父様が言っていたわ。前向きに検討する、って。それって、ほとんど決定事項と変わらないじゃない」
「俺は結婚なんてするつもりはない」
「そういうことじゃないのよ! 聖女様と貴方が結婚することで、聖教会との繋がりを強くする、そういう意味も――」

 強く、強く抱きしめられた。
 カシャン、とメガネが音を立てて落ちる。

「ッ、はなし、」

 黒髪が暗闇に乱れる。メガネに隠れていた瞳は透き通る蒼玉アクアマリンだ。そこらへんの街娘とは違う気品と、百合のようなかんばせが露わになる。
 白い肌が闇に映えた。細い顎を持ち上げて、ラインハルトは荒々しく小さな唇にかぶりつく。

「んっ、ふぁ……! や、らぁ、あ、インハル、ト……ッ!」

 薄く開いた唇から熱い舌が入り込んでくる。
 息もできないほど深いキスに、足が震えてその場に崩れ落ちてしまいそうになるのを抱きとめられた。

「なぁ、これでも俺から離れるっていうのか」

 獰猛な獣、血に飢えた化け物に見えてしまった。
 息ができなくて、真っ赤に染まった顔でラインハルトを睨みつける。

 酸欠だけで赤面しているわけじゃない。キスなんて初めて。それなのにこんな深いのなんて、ロマンチックのカケラもない。
 足が震えて、生まれたての小鹿みたいだ。

 ラインハルトという男は、もっと紳士的で優しかったはずだ。今、目の前にいるのは誰だ? 本当に幼馴染だろうか?

 獣のようにぎらついた瞳にサーシャが映し出される。

「俺から離れるなんて許さない」

 憎しみすら滲むような声色だった。
 辞表は受け付けない。今日は俺の部屋で寝ろ、と。掴まれた手首を引かれる。

 彼が、こんなにも感情的になるとは思わなかった。

 涼やかで、常に冷静な副団長殿。怜悧な瞳が素敵、なんてお嬢様方に言われているが、今のラインハルトの冷静の「れ」の字もなかった。

「俺は、サーシャを逃がすつもりはないからな」

 バタン、と扉が閉まる。外から鍵をかけられたのか、ドアノブを捻っても扉は開かなかった。
 思わず溜め息を吐いてしまう。今頃、街の宿に泊まっているはずだったのに。

 副団長の執務室の隣に併設された仮眠室。枕はラインハルトの匂いがして、眠れない夜を過ごすことになった。

 
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

ヤンデレにハメられて嫌われ展開です

白霧雪。
恋愛
レティシウス家の御令嬢・シルヴィアは俗に言う悪役ヒロイン――のはずだった。 「やっと、僕だけのシルヴィアになってくれたね」 背後から抱きしめる隣国の王子に鳥肌が立った。 優しい声色のこの男が怖かった。 たった一人の少女を手に入れるために、周りを騙して少女を孤立させて、自分だけ味方みたいな顔をして、全ての糸を引いていたのはこの男だったのだ。 私が楽しいだけの短編その2

(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?

水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。 私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。

恋心を封印したら、なぜか幼馴染みがヤンデレになりました?

夕立悠理
恋愛
 ずっと、幼馴染みのマカリのことが好きだったヴィオラ。  けれど、マカリはちっとも振り向いてくれない。  このまま勝手に好きで居続けるのも迷惑だろうと、ヴィオラは育った町をでる。  なんとか、王都での仕事も見つけ、新しい生活は順風満帆──かと思いきや。  なんと、王都だけは死んでもいかないといっていたマカリが、ヴィオラを追ってきて……。

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

ヤンデレ幼馴染が帰ってきたので大人しく溺愛されます

下菊みこと
恋愛
私はブーゼ・ターフェルルンデ。侯爵令嬢。公爵令息で幼馴染、婚約者のベゼッセンハイト・ザンクトゥアーリウムにうっとおしいほど溺愛されています。ここ数年はハイトが留学に行ってくれていたのでやっと離れられて落ち着いていたのですが、とうとうハイトが帰ってきてしまいました。まあ、仕方がないので大人しく溺愛されておきます。

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

彼氏に別れを告げたらヤンデレ化した

Fio
恋愛
彼女が彼氏に別れを切り出すことでヤンデレ・メンヘラ化する短編ストーリー。様々な組み合わせで書いていく予定です。良ければ感想、お気に入り登録お願いします。

じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが

カレイ
恋愛
 天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。  両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。  でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。 「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」  そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。

処理中です...