【完結】脇役モブの悪役令息に転成したら、脇役モブの双子騎士にヤンデレられた。

白霧雪。

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本編

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 華やかな光の街・ルスティカ。鮮やかな花の街・フルールリーチ。ふたつの賑やかな街で彩られる王都は、人々の明るい笑顔と活気で溢れている。
 ガラガラと車輪を鳴らす馬車を引くのは、整った真っ白な毛並みを靡かせ闊歩する白馬だ。穏やかな気性ながら、走らせたら誰も追いつけないと言わしめるミラー家の騎馬である。

 二台の純白の馬車を護る青装束の王立騎士団員と白装束のミラー騎士団員は、人々の注目を浴びながら中心部に位置する大聖堂へと向かった。

 大聖堂と大聖教会は似て非なる組織だ。
 セラフィーナが所属する大聖教会は「民人に寄り添う」組織であり、これから向かう大聖堂は「神に寄り添う」組織だ。
 数百年前は同じ組織だったが、方向性の違いで分裂、対立とまではいかずともいがみ合う関係になってしまっている。

「兄上、大聖堂ってどんなところですか?」

 二台目の馬車に、双子と乗っていた俺はノアの質問に首をひねる。

「ノアも、行ったことがあっただろう? 覚えていないか?」
「あれ? そうだったっけ……」

 記憶の中の大聖堂は、とても居心地の悪い空間だった。
 人の好い笑みを浮かべる神官たちに、どこもかしこも真っ白な壁や床が続く廊下。高い天井はやけに音が響いて、自分の足音がどこか遠くから響くのが子供ながらに恐ろしかった。
 大聖教会の聖女は人々のために祈りを捧げるけど、大聖堂の神官はよくわからない神に祈りを捧げるのだ。
 当時は「大いなる白山羊に祈りを」と言われてもよくわからないままに祈りを捧げたが、きっと今もよくわからないまま祈りを捧げることになる。

「――アレ、誰の、弔いだったんだ」

 マリアとはぐれて、真っ白な空間を歩き回った。右も左も、前も後ろもずぅっと同じ廊下が続いていて、まるで鏡の中を歩いているようで、動けなくなったのを覚えている。
 純金の鐘を鳴らしたのも覚えているのに、誰のための弔いだったのか、思い出すことができなかった。

 眉を顰めて首をひねるが、ぽっかりと、そこだけの記憶が抜け落ちている。

「私たちも、一度だけ行ったことがあるよ」
「大おばあ様の弔いだったな」
「真っ白で、不気味なとこだった」
「だよな。白すぎて、気持ち悪くなった記憶がある」

 あの白すぎる空間を不気味に思っていたのは俺だけじゃなかった。げんなりと肩をすくめる双子にほっと息をこぼす。
 思い出せない、ということは俺にとって大した記憶じゃないってことだ。無理に思い出すこともせず、抱いた違和感をそのまま忘れてしまった。



「お待ちしておりました。ノエル・デズモンド様。ノア・デズモンド様」
「お待ちしておりました。チャールズ・ミラー様。イブ・ミラー様。セドリック・ミラー様――」

 ゲームのNPCのようなテンプレートの挨拶をする神官たちに嫌悪感が足からよじ登った。

 王都に着くなり、待ち構えていた神官たちによって大聖堂まで誘導された。拒否も抵抗も許さないとばかりに、左右を神官に固められ、歩くことを強制された。
 息を落ち着かせる間もなく、にっこりと張り付けた笑顔の神官によって祈りの祭壇へとされて、神に祈りを捧げた後、弔いの儀式が行われる。

「待て。なぜ、行先が違う? 祈りを捧げるだけなら一緒でいいだろう?」

 会話もなく、進めていた足を止めれば、後ろを歩いていたミラー一家は俺たちとは違う部屋へと連れていかれるところだった。

「恐れながら、信仰する神が違うからでございます」
「初めて聞いたぞ」

 切れ長の瞳を瞬かせるミラー閣下は驚きをあらわにしており、俺たちも同様だ。そもそも、俺は神なんて信じていないし信仰もしていないが、祈りを捧げる神が違うというのは初耳だった。
 原作でも大聖堂は大聖教会といがみ合っている謎の組織、くらいしか書かれておらず、信仰神や組織の内情について考察するスレが乱立していた。

「デズモンド家は大いなる白山羊に祈りを」
「ミラー家は大いなるヘラジカに祈りを」
「ヤギに、シカ……? もしや、家紋か?」

 閣下の疑問にそれ以上答えることなく、笑顔を浮かべて「さぁ」と促され、無理やり足を進めさせられる。
 強引な態度に舌を打つが、ぴくりとも笑顔を崩さない神官はまるで人形のようだった。

 閉まりきる扉の隙間から「後でな!」と声を投げることしかできなかった。アデルとカインが暴れていなければいいんだけど。

「ずいぶんと、強引だな」
「祈りを捧げれば、すぐにお戻りになれますよ」
「……俺は神を信仰していない」
「ノエル・デズモンド様がそうであっても、古き神々はそうではございません。デズモンド家は、大いなる白山羊の神を崇めなければいけないのです」

 お話にならなかった。にっこりと、笑みを崩さない神官に嫌気がして、つながらない会話に溜め息を吐く。さっさと祈りを捧げて出てしまおう。

「兄上……なんだか、怖い……」
「大丈夫。ほら、手を繋ごう」

 花のかんばせを白くするノアの手を繋いで、先導する神官についていく。ちら、と振り返った扉はぴったりと閉じていた。

 窓のない通路は汚れもチリもない白で、自分たちがぽつんと浮いて見える。
 ざわざわと産毛が逆立つ恐怖を奥歯を噛み締めて堪え、ノアの小さな手をギュッと握り締めた。

「さぁ、この先に大いなる白山羊がおわします。祈りを捧げるのです」

 通路を抜けると、祭壇のある部屋に出た。不自然なほど白い真四角の部屋の真ん中に、果物や花が供えられた祭壇があり、黒い箱が一番高いところに収められている。あの箱には何が入っているのだろう。

「大いなる白き山羊よ。彼の一族が祈りを捧げます」

 神官というよりも、どこかの宗教の熱心な信者のようだ。
 膝をつき、両手の指を絡めて目を瞑る。祈りを捧げる。祈りって何だ。願いを唱えるのも違うだろうけど、どうせ神なんていやしない。
 流れ星に願い事を言うように、心の中で、唯一の願いを唱えた。
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