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極彩色の翼に抱かれて眠る
しおりを挟む真白の国の、真っ白な王子様がいらっしゃいました。
陶器のような肌、真珠の瞳。まろい頬に、透けると白銀に輝く御髪。
美しい王子様はお母上に大切に大切に、箱に閉じ込められて育てられました。
まるで、幽鬼に取り憑かれたかのように息子である王子様を愛でるお后様に、国民を始め、国王陛下は不安を覚えました。
「あれは本当に我が息子であろうか」
お后様に囲われて、表舞台に出て来ることのない美しすぎる王子様に猜疑心が積もり、国王陛下はついに実の息子たる王子様を塔に閉じ込めてしまうのでした。
塔に閉じ込められた王子様は、毎日空へ祈りを捧げました。
「神様、神様、どうか――」
何を祈っていたのかは、王子様のみ知ることです。
王子様と引き離されたお后様は愛しい息子を探して毎日毎日、昼夜問わずドレスを引きずり城中を徘徊しました。
「愛しい子……わらわの愛しい子はどこにおる……!?」
「あぁ、あぁ、我が后よ、王子はもういないのだ」
腕の中にお后様を閉じ込めても、国王陛下の言葉に耳を傾けることはありません。
向こう側に半分足を踏み入れかけていたのです。
宙を掻く細い腕、虚ろに彷徨う瞳。お后様はみるみるうちに窶れ、病んでしまわれました。
「嗚呼、嗚呼……! アレなど生まれなければ……! 生まれてなどこなければ……!」
側室を持つ国王が多いなかで、陛下にはお后様だけでした。
姉弟のように仲睦まじく育ち、生まれたときから結婚することが決まっていたふたり。時には喧嘩することもありましたが、ようやくできた子を、王子を慈しみ育んできたはずだったのに。
まさか、このような結末になるとは思ってもいませんでした。
「救うてやろうか?」
六枚羽の美しい天使様が、国王陛下の嘆きに姿を現したのです。
美しい、この世の物とは思えない美しさの天使様に、国王陛下は息を呑みました。
「王子をわたしにくれるのなら、富でも栄誉でも、なんでも授けよう」
「ならば! 我が后を返してくれ! 正気に戻してくれ!!!」
「――あい、わかった」
「天使様、お母様は、気が狂ってなどいません。僕のことを愛して、愛して愛して愛しているのです」
「嗚呼。わかっているさ。お前の母は狂ってなどいない――狂っているのはお前だったな」
天使様の低く艶のある声が響く。
美しい天使様に、王子様は見初められ、天へと連れて行かれたのでした。
――おしまい。
「地上では随分面白おかしく絵物語にしたものだな」
「……人間は、そういう生き物だからしかたないよ」
純白の髪をさらさらと流した美しい青年は、柔らかな翼に顔をうめる。
ふわふわ、ふかふか。日光の香りがする。
膝の上に童話の絵本を広げて、美しい真白い青年に、男は頬を寄せる。
男の背中からは六枚の翼が生え、人間でないことを証明していた。
「父と母が気になるか?」
「いいえ。あんな人たち、気になりもしません。僕には、僕を救ってくれた貴方さえいてくれたらそれでいいんです」
「嬉しいことを言うなあ」
ちゅ、ちゅ、と触れるだけのキスをすると、青年はくすぐったそうに、嬉し気に笑うのだ。
青年を見つけたのは、熱心な祈りが届いたから。幸せになりたい、と。太陽に向かって、星に願って、月に祈る声が切なくて、つい連れてきてしまった。
あの国はみんながみんな、狂っていた。
美しい真白い王子を生贄に、国を栄えさせようとした国王。王子の美しさに囚われてしまったお后。
人の欲のままに翻弄される王子を見つけて、心奪われてしまった。
あぁ、なんと美しく歪んだ人間だろう!
心が歓喜に踊った。
見目が美しいのも良かった。女神に祝福されて生まれたのが見てわかった。
王子がいるだけで国は栄え、巨万の富に恵まれる。
祈りが届き、声に応えた時には王子はすでに餓死寸前だった。それがいまではふくふくと美しい容姿を取り戻し、小鳥のように後ろをついて歩くのだから可愛いの何者以外でもない。
華奢な体にまとわりつく絹を捲り、滑らかな肌に手を這わす。
「ん、」
「俺もお前がいてくれるだけでいいさ」
唇を合わせ、甘い声を堪能する。
女神に祝服された王子がいなくなった国がどうなったか?
――それこそ、神のみぞ知ることだ。
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