助けてくれるのが正義の味方とは限らない

白霧雪。

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 おれの世界は、六畳一間の小さな座敷牢で完結していた。



 物心ついた時から六畳一間の座敷牢がすべてだった。
 赤塗りの格子に、薄暗い部屋。妙に明るい行燈が不気味だった。窓なんて無いから朝か夜かもわからず、日がな座っているか横になっているかだった。

 世話係の老婆に上等な着物を着せられて、長く伸ばした髪を結い上げられて、時折やってくるお客さんを格子越しに相手をする。
 日本人とはかけ離れた金色の瞳は、人に触れるとその人の『最悪』を視ることができた。触れても視えないときもあれば、視ようとしてないのに流れ出すこともあった。

 人々は椿貴のことを『神子様』と呼んだ。

「……おばあさま?」

 呼び鈴を鳴らしても、側仕えの老婆が来る様子はない。いつもなら数分と経たずに「どうなさいましたか?」と穏やかな笑顔を浮かべてやってくるのにだ。

 つるり、と黒髪が頬をくすぐった。老婆が毎朝(起こしに来るので朝と仮定している)苦労しながら結い上げてくれる射干玉の髪は、さらさらのツヤツヤでつるつるすぎて、一時間もしないで解けてしまう。紅い髪紐をつまんで、ちょいと引っ張ればさらりと背中に帳が降りた。

 大きな屋敷の奥の奥、ずぅっと地下にある座敷牢は喧騒とかけ離れており、吐息ひとつの音すらよく響いた。

 もう一度、呼び鈴の紐を引っ張る。やっぱり、いつまでたっても誰も来なかった。
 上で何かあったのだろうか。おばあさまは大丈夫だろうかと心配になる。この目が千里眼であったなら、上で何が起こっているのかわかるのに。もどかしさに胸が軋んだ。

 開かないとわかっていて、赤塗りの格子に触れた。その時――派手な音がして扉が吹き飛んだ。

「!?」

 爆風と白煙に目を瞑り、両腕で顔を覆う。

「まさかこんなところに部屋があるなんてねぇ。ご丁寧に何重にも結界を張ってさ。大事なものがありますよ、って言ってるようなものじゃないか」

 聞こえてきたのはおばあさまじゃない、男の声だ。
 風が止み、そっと顔を上げる。

「……女?」
「――おれは、男です」

 ぱちくり、と瞬いた三白眼と目が合う。
 これが、四条椿貴しじょうつばき一条誉いちじょうほまれの出会いだった。

 
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