上 下
40 / 46
闇堕ちイベントとか求めてないです!

02

しおりを挟む
 
「お姉さま!」と小鳥の囀りが遠のいていく。ホッと息を吐き出した。
 スヴェンの言葉を借りるならば、わたしに構うよりの、メインキャラたちと乳繰り合っていればいいのに。できればハッピーエンドを目指して欲しい。

 図書室で自習中、ちょうどスヴェンが席を外している間の出来事だ。
 メインキャラその一とその二と共に図書室にやってきた妹は、ヴィオラの姿を見つけるや否やダイヤモンドの如く瞳を煌かせて突進してきた。
 図書室ではお静かに、と書かれた貼紙に則り小声で「お姉さま! 会いたかったわ!」と生き別れの姉妹さながらの表情で抱きつこうとしてきた。

 身代わり呪文と目隠し呪文でさっさと図書室の奥へ逃げ、妹が出て行ったのを見計らって勉強していた場所へ戻れば、待っていたのはメインキャラその一のジュキアだった。

「あんた、なんでそんなにアリスのことを避けるんだ」
「あの子がトラブルメーカーだからよ」

 決まりきった言葉だ。

「妹だろ。家族だろ。どうしてそうまでして避ける必要があるんだよ。アリスが、悲しんでるんだぞ!」

 響いた声に眉を顰める。図書室は私語厳禁だというのに。

 妹が悲しんでいるからなんだ。妹と、あの子ヒロインと関わってしまっては、明日には我が身が滅んでいるかもしれないんだ。
 可愛い妹だから、と関わるつもりはない。だって悪役令嬢ヒールになんてなりたくないんだもの!

 多少なりとも、情はある。だからこそ、なおさら関わりたくなかった。

「――妹で、家族だからよ。寂しい、悲しい、と顔を歪めるあの子は可哀想でしょうね。でも、あの子はわたしから全てを奪っていくわ。両親からの愛、初恋の人、優しい親友――あの子はこの世界の主人公ヒロインなのよ」

 声を荒げそうになる激情を押さえ込む。語尾が震え、握り締めた手のひらに爪が刺さる。

「あの子といると、わたしは醜い感情に駆られるの。悪役になんてなりたくない……! 妹を憎みたくないの!」

 心の叫びだった。
 思いもしない言葉に、ジュキアは言葉を失い、視線をさ迷わせる。
 ぎゅ、と胸もとを握り締め、悲哀に満ちた表情のヴィオラを見ていられなかった。

 ヴィオレティーナの妹へのコンプレックス、強い劣情が胸の内を焦がす。

 初めは、トラブルメーカーすぎる妹に嫌気が差して。次に、愛される妹に絶望して。そして、そんな妹に嫉妬してしまう自分自身に嫌悪した。
 ヴィオラの大半を占めるのは前世の記憶、または別人の記憶だ。これらを思い出してからは ヴィオレティーナは今のヴィオラに近い形となり、悪役令嬢としてのヴィオレティーナから一度遠のいた。

 けれど。

 ゲームとしてのシナリオが始まると、修正力というのか、ゲームのヴィオレティーナに感情を引き摺られるようになった。

 原作とは違う、ユリアがヴィオラの友人として横に並んでくれていたおかげか、気持ちも多少和らいでいたのに。結局、ユリアも妹に奪られてしまった。

「そんな、自分勝手な我が儘だろ!」
「じゃあどうしろって言うの!? わたしは、嫉妬に駆られた悪魔になんてなりたくないわッ」
「はぁい、ストップ。まったく、ちょっと席を外しただけでこうだ」
「スヴェン……スヴェン……!」

 わざと足音を立ててやってきた彼が、ヒーローに見えた。

「僕のお姫様を虐めないでおくれよ、後輩君」

 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

婚姻初日、「好きになることはない」と宣言された公爵家の姫は、英雄騎士の夫を翻弄する~夫は家庭内で私を見つめていますが~

扇 レンナ
恋愛
公爵令嬢のローゼリーンは1年前の戦にて、英雄となった騎士バーグフリートの元に嫁ぐこととなる。それは、彼が褒賞としてローゼリーンを望んだからだ。 公爵令嬢である以上に国王の姪っ子という立場を持つローゼリーンは、母譲りの美貌から『宝石姫』と呼ばれている。 はっきりと言って、全く釣り合わない結婚だ。それでも、王家の血を引く者として、ローゼリーンはバーグフリートの元に嫁ぐことに。 しかし、婚姻初日。晩餐の際に彼が告げたのは、予想もしていない言葉だった。 拗らせストーカータイプの英雄騎士(26)×『宝石姫』と名高い公爵令嬢(21)のすれ違いラブコメ。 ▼掲載先→アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

転生モブは分岐点に立つ〜悪役令嬢かヒロインか、それが問題だ!〜

みおな
恋愛
 転生したら、乙女ゲームのモブ令嬢でした。って、どれだけラノベの世界なの?  だけど、ありがたいことに悪役令嬢でもヒロインでもなく、完全なモブ!!  これは離れたところから、乙女ゲームの展開を楽しもうと思っていたのに、どうして私が巻き込まれるの?  私ってモブですよね? さて、選択です。悪役令嬢ルート?ヒロインルート?

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

処理中です...