上 下
39 / 46
闇堕ちイベントとか求めてないです!

01

しおりを挟む
 
「ナイトレイさん、あの、」

 かけられた声に振り返ろうとすれば、ぷに、と指先で頬をつままれた。

「……なぁに、スヴェン。あなた、いつから構ってちゃんになったのかしら」
「君が僕を放って他所の根無し草に気をかけるから」

 理由になってないわよ、という言葉を飲み込んだ。

 翡翠エメラルドの瞳は獰猛な獣のように瞳孔が鋭くなり、ヴィオラ越しに声をかけてきた生徒を見やる。

「ひぃ……! お邪魔しましたぁッ!!」

 振り返らなくてもわかる。
 後ろにいた生徒はバタバタと慌てふためき足音を立てながら走り去っていった。

 学園一の才女と名高いヴィオレティーナ・ナイトレイに憧れや恋心を抱く生徒は数多くいる。
 ほとんどが声をかける勇気もない雑草だが、ときおり勘違いをして、やたらと自信満々に話しかけてくる生徒もいる。
 見ることも許さないとばかりにスヴェンがガードをするので余計な虫がつく心配もない。

 白い花のかんばせはここのところ機嫌良さげに笑みを浮かべている。以前であれば堅苦しくツンと澄ました横顔のキツイ印象は軟化し、穏やかな雰囲気に声をかけようとする生徒が増加した。
 高嶺の花であろうと、声をかけてくる輩はいるもので、その時はユリアがボディーガードみたいなことをしてくれていた。

「……あまり、威嚇するものではないわよ」
「身の丈にあった雑草と乳繰り合ってろって話だよねェ」
「口が悪いわ」

 はぁ、と溜め息を吐く。

 褐色の肌に墨を垂らした黒髪。キラキラと輝く翡翠の瞳。ヴィオラにしか向けられない甘い笑み。
 自身に向けられる熱い視線なんて知らぬ存ぜぬなスヴェンはヴィオラしか見ていない。

 先日のプロポーズを思い出して頬が熱くなる。とても情熱的で、心に響いた。あんなにも、人に求められたことない。

「――ユリア?」

 視界の端を、白雪の青年が通り過ぎていく。
 横目に合った視線は、どこか暗く淀んでいた。

「ヴィオレティーナ」
「……えっ、あ、なぁに?」

 透き通った翡翠に少女が映る。

「ヴィオレティーナが気にする必要ないサ」

 飄々とした、どこか冷たい声色だった。

 スヴェンは、妹が近づいてくるよりも、ユリアと接触することを良しとしなかった。
 仲がこじれているのは自覚済みだが、どうすればよいのか分からなかった。以前のように気軽に会話ができない。それ以前に、スヴェンが近づけさせなかった。

「そう、かしら……」

 後ろ髪を引かれる気持ちで、スヴェンに手を引かれるままに歩き出す。

 黒い黒い影が、底無しの闇のように蠢いていた。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?

曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」 エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。 最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。 (王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様) しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……? 小説家になろう様でも更新中

【完結】あなただけが特別ではない

仲村 嘉高
恋愛
お飾りの王妃が自室の窓から飛び降りた。 目覚めたら、死を選んだ原因の王子と初めて会ったお茶会の日だった。 王子との婚約を回避しようと頑張るが、なぜか周りの様子が前回と違い……?

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

真実の愛を見つけた婚約者(殿下)を尊敬申し上げます、婚約破棄致しましょう

さこの
恋愛
「真実の愛を見つけた」 殿下にそう告げられる 「応援いたします」 だって真実の愛ですのよ? 見つける方が奇跡です! 婚約破棄の書類ご用意いたします。 わたくしはお先にサインをしました、殿下こちらにフルネームでお書き下さいね。 さぁ早く!わたくしは真実の愛の前では霞んでしまうような存在…身を引きます! なぜ婚約破棄後の元婚約者殿が、こんなに美しく写るのか… 私の真実の愛とは誠の愛であったのか… 気の迷いであったのでは… 葛藤するが、すでに時遅し…

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...