悪役令嬢は傍観に徹したい!

白霧雪。

文字の大きさ
上 下
37 / 46
課外授業にトラブルは付き物です。

10

しおりを挟む
 
 星の寮の監督教師であるフロランタンは、過激な実戦魔法よりも花占いが似合う美人だ。
 白い肌に、白銀の髪をうなじでひとつに束ね、伏し目がちの翡翠の瞳は理知的な光を宿している。

 生徒思いの先生は、風邪を引いて休んでいた間の授業の遅れを心配して、空き時間に補習授業をしてくれることになったのだ。

「リーデルシュタインと恋仲だというのは本当か?」
「ふぁ!?」

 素っ頓狂な声が出て、振り向きざまに手元が狂った。

 追尾魔法は集中力を要する上級魔法のひとつ。標的を定めて、魔力が続くかぎり追いかけることができる。

 ドゴンッ、とコントロールを失った魔法弾は動く的を外れてフロランタンの頬を掠めていった。
 表情を変えることなくチリを払った先生は事も無げに「コントロールが乱れているぞ」と言う。
「先生のせいですから!!」と声を荒げて肩を落とす。集中力が途切れてしまった。

 恋バナなんて興味なさそうな顔をしているのに、「で、どうなんだ?」と聞いてくる。

「……付き合っていません」
「ふぅん、そうか。確かに、君にはもっと誠実で落ち着いた人が似合いそうだな」

 暗にスヴェンは不誠実で落ち着いていないと言っているのだろうか。

「わたしは、誰かと付き合うつもりはありません」

 きっぱりと言い切ったヴィオラに苦笑いをする。

 花の十代が何を言っているのやら。
 しかしヴィオラの精神年齢は云十歳。今更恋愛に振り回されるつもりはない。
 とにかく今は、学生生活を無事に乗り切ることだけを考えている。

「ふむ……次の授業までもう少し時間があるな。前々から気になっていたが、ナイトレイは杖を握りすぎている」
「え、そうでしょうか?」

 ぎゅ、と細身の杖を握り締める手は力がこめられている。杖は魔法使いにとって命と言っても過言ではない。
 落とさないように、と無意識のうちに強く握り締めてしまっていた。
 人生は二度目でも、魔法を使うのは今生が初めて。天才ではないヴィオラは修練を重ねてようやく身につけることができる。

 体内の魔力を放出するための媒体として杖を使う者が多いが、水晶玉やアミュレットを使用する魔法使いもいる。
 媒体無しで魔法を使うこともできるが、よほど魔力コントロールが上手くない限り、多大な魔力を消費してしまう。

「理想的な杖の持ち方は強く握り過ぎないことだ」

 背後に立った先生はぴったりと身体を密着させ、杖を握る手に大きな手のひらを重ねた。
 近すぎると思いつつも、いつも通りの無表情の先生に流されてしまう。

「肘の角度は九十度。人差し指を杖に沿え、緩く握る。振るうときは重力に逆らわない」

 言うとおりに肘を曲げ、握り締める手の力を緩めた。

「そう、上手だ。身体が強張っていれば魔力の循環も滞ってしまう。ストレッチも魔力をコントロールするには良い方法だ」

 上がり気味の肩に手を乗せられる。深呼吸をして、と言われるままに深く息を吸って吐いた。

「――ヴィオレティーナ、迎えに来たよ」

 どこか冷たい声色に、脱力しかけていた身体が強張った。

 実習室の入り口の柱にもたれかかったスヴェンがいた。
 常であれば口元に浮かべられている緩い笑みは引き結ばれて、眉間にはシワが寄っている。

「あ、もうそんな時間……フロー先生、ありがとうございました」
「また、時間が空いたときにでもおいで」

 華奢な手指を絡め取られて、足早に腕を引かれた。
 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

執着王子の唯一最愛~私を蹴落とそうとするヒロインは王子の異常性を知らない~

犬の下僕
恋愛
公爵令嬢であり第1王子の婚約者でもあるヒロインのジャンヌは学園主催の夜会で突如、婚約者の弟である第二王子に糾弾される。「兄上との婚約を破棄してもらおう」と言われたジャンヌはどうするのか…

【二部開始】所詮脇役の悪役令嬢は華麗に舞台から去るとしましょう

蓮実 アラタ
恋愛
アルメニア国王子の婚約者だった私は学園の創立記念パーティで突然王子から婚約破棄を告げられる。 王子の隣には銀髪の綺麗な女の子、周りには取り巻き。かのイベント、断罪シーン。 味方はおらず圧倒的不利、絶体絶命。 しかしそんな場面でも私は余裕の笑みで返す。 「承知しました殿下。その話、謹んでお受け致しますわ!」 あくまで笑みを崩さずにそのまま華麗に断罪の舞台から去る私に、唖然とする王子たち。 ここは前世で私がハマっていた乙女ゲームの世界。その中で私は悪役令嬢。 だからなんだ!?婚約破棄?追放?喜んでお受け致しますとも!! 私は王妃なんていう狭苦しいだけの脇役、真っ平御免です! さっさとこんなやられ役の舞台退場して自分だけの快適な生活を送るんだ! って張り切って追放されたのに何故か前世の私の推しキャラがお供に着いてきて……!? ※本作は小説家になろうにも掲載しています 二部更新開始しました。不定期更新です

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

完結)余りもの同士、仲よくしましょう

オリハルコン陸
恋愛
婚約者に振られた。 「運命の人」に出会ってしまったのだと。 正式な書状により婚約は解消された…。 婚約者に振られた女が、同じく婚約者に振られた男と婚約して幸せになるお話。 ◇ ◇ ◇ (ほとんど本編に出てこない)登場人物名 ミシュリア(ミシュ): 主人公 ジェイソン・オーキッド(ジェイ): 主人公の新しい婚約者

気がついたら乙女ゲームの悪役令嬢でした、急いで逃げだしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 もっと早く記憶を取り戻させてくれてもいいじゃない!

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

処理中です...