悪役令嬢は傍観に徹したい!

白霧雪。

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課外授業にトラブルは付き物です。

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 腕の中で意識を失ったヴィオラの額にキスをして、ゆっくりとベッドに寝かせる。

 久方ぶりの食事は、以前にも増して美味であった。

「かぁわいいなぁ。可愛くて可愛くて、可哀想な子」

 さらさらと零れていく髪をすくって口付けて、だいぶ熱の下がった頬を擽り撫でる。

 けなげで可憐でとってもいじらしい。
 特に「スヴェンはあげない!」と泣いて縋る姿は背筋が痺れるほどに心地よい優越感に浸れた。
 見物だったなぁ、ユリアの嫉妬に塗れた顔は。せっかくの色男が台無しだった。

 吸血鬼は、血液から相手の感情を感じ取ることができる。
 大体の人間からは畏れや恐怖、絶望を抱いているというのに、ヴィオラときたら求められることに対する喜びと、牙が肌を突き破る快感に身を震わせているのだ。これが愛おしいと思わないはずがない。
 恋と呼ぶには汚れていて、愛と呼ぶにはおぞましいこの感情に、なんと名前をつけようか。

「おやすみ、よい夢を」

 血色の戻った唇に口づけを落とし、夢の中での幸せを願う。
 夜を統べる王が一人の少女の幸せを願うだなんて、同胞に知られたら笑い種となるだろう。

 昼休みの間だけヴィオラの様子を見に来ていたのだが、時計を見て肩を落とす。そろそろ午後の授業が行われる教室へ向かわなければいけない。

 ヴィオラも眠ってしまったし、余裕を持って行動をしようと二人の寮部屋を後にする。

 手加減したとはいえ、空腹ゆえに少しだけ血液を飲みすぎてしまった。きっと帰ってくるまで眠っているだろう。

 上機嫌で廊下を歩く。
 普段なら絵画になんて挨拶をしないが、「御機嫌ようマダム」と声をかけてみたりした。

「――リーデルシュタイン」
「おやぁ? 誰かと思えば、ユリア君じゃないか。僕に何か用かい?」

 窓の外、緑の木々から小鳥が飛び立った。

「ヴィオラを誑かすな」
「誑かす? 僕がヴィオレティーナを誑かしているとでも言うのかい?」
「ッ……そうじゃなきゃ、お前みたいな軽薄な奴とつるむわけがない! ヴィオラは、僕の、」
「僕のお姫様とでも言うつもりかなぁ?」

 嘲りを含んだ笑みを向けられたユリアはこめかみを引き攣らせる。飛び出しそうになった罵声をすんでのところで飲み込んだ。

 スヴェン・リーデルシュタインの何もかもが気に食わなかった。
 ゆるりと浮かべられた笑み、飄々とした態度。何よりもヴィオラの隣に並んでいるのが許せない。

「男の嫉妬は醜いよォ? 自分の感情をきっちり理解してから出直して来いよ」

 低い、獣の唸るような声に息が止まった。

 横を通りすぎて、遠くなっていく靴音に歯噛みする。

「どうして……! 僕はヴィオラのことが好きなのに……! どうして僕以外の奴が隣に並んでいるんだ!!」

 ゆらり、と影が蠢く。

 真っ黒い闇が、ユリアの背中を覆った。
 
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