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課外授業にトラブルは付き物です。
09
しおりを挟む腕の中で意識を失ったヴィオラの額にキスをして、ゆっくりとベッドに寝かせる。
久方ぶりの食事は、以前にも増して美味であった。
「かぁわいいなぁ。可愛くて可愛くて、可哀想な子」
さらさらと零れていく髪をすくって口付けて、だいぶ熱の下がった頬を擽り撫でる。
けなげで可憐でとってもいじらしい。
特に「スヴェンはあげない!」と泣いて縋る姿は背筋が痺れるほどに心地よい優越感に浸れた。
見物だったなぁ、ユリアの嫉妬に塗れた顔は。せっかくの色男が台無しだった。
吸血鬼は、血液から相手の感情を感じ取ることができる。
大体の人間からは畏れや恐怖、絶望を抱いているというのに、ヴィオラときたら求められることに対する喜びと、牙が肌を突き破る快感に身を震わせているのだ。これが愛おしいと思わないはずがない。
恋と呼ぶには汚れていて、愛と呼ぶにはおぞましいこの感情に、なんと名前をつけようか。
「おやすみ、よい夢を」
血色の戻った唇に口づけを落とし、夢の中での幸せを願う。
夜を統べる王が一人の少女の幸せを願うだなんて、同胞に知られたら笑い種となるだろう。
昼休みの間だけヴィオラの様子を見に来ていたのだが、時計を見て肩を落とす。そろそろ午後の授業が行われる教室へ向かわなければいけない。
ヴィオラも眠ってしまったし、余裕を持って行動をしようと二人の寮部屋を後にする。
手加減したとはいえ、空腹ゆえに少しだけ血液を飲みすぎてしまった。きっと帰ってくるまで眠っているだろう。
上機嫌で廊下を歩く。
普段なら絵画になんて挨拶をしないが、「御機嫌ようマダム」と声をかけてみたりした。
「――リーデルシュタイン」
「おやぁ? 誰かと思えば、ユリア君じゃないか。僕に何か用かい?」
窓の外、緑の木々から小鳥が飛び立った。
「ヴィオラを誑かすな」
「誑かす? 僕がヴィオレティーナを誑かしているとでも言うのかい?」
「ッ……そうじゃなきゃ、お前みたいな軽薄な奴とつるむわけがない! ヴィオラは、僕の、」
「僕のお姫様とでも言うつもりかなぁ?」
嘲りを含んだ笑みを向けられたユリアはこめかみを引き攣らせる。飛び出しそうになった罵声をすんでのところで飲み込んだ。
スヴェン・リーデルシュタインの何もかもが気に食わなかった。
ゆるりと浮かべられた笑み、飄々とした態度。何よりもヴィオラの隣に並んでいるのが許せない。
「男の嫉妬は醜いよォ? 自分の感情をきっちり理解してから出直して来いよ」
低い、獣の唸るような声に息が止まった。
横を通りすぎて、遠くなっていく靴音に歯噛みする。
「どうして……! 僕はヴィオラのことが好きなのに……! どうして僕以外の奴が隣に並んでいるんだ!!」
ゆらり、と影が蠢く。
真っ黒い闇が、ユリアの背中を覆った。
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