27 / 46
編入生なんてシナリオイベントなかったわ。
14
しおりを挟むスヴェンの性別が変わっていることに、誰も気づきやしないのはおかしいと、当の本人を問い詰めたところ、簡単な催眠魔法で「スヴェン・リーデルシュタインは初めから男だった」と勘違いをさせているらしい。
なのにだ。スヴェンはヴィオラの部屋から出て行こうとせず、未だ居座っている。
それすらも可笑しいと思わないとはどういうことだ。
カトレアからは次の日、涙ながらにお礼を言われた。足元には美しい一尾の狐・フォーリアがいた。
「お姉さま! さすがお姉さま!! お姉さまなら解決してくれるって信じていたの!!」
そして今日も今日とて、元気に追いかけてくる妹プラスアルファ。
さらに後ろにユリアの姿も確認できる。
「――ヴィオレティーナ、こっち」
腕を引かれて、薄暗い教室内に引き込まれる。
艶のある声が耳元を掠めた。バタン、と扉を閉められるとローブの中に抱き込まれた。
「ちょ、っと、」
「しぃ、静かに」
目と鼻の先にある麗しい顔に心臓がドクドクと音を立てる。
聞こえるんじゃないかと、羞恥に頬が赤くなった。
ヴィオラはいまさら恥ずかしがったりしないけれど、ヴィオレティーナはそうじゃない。年頃の女の子だ。
ユリアも、スヴェンも、距離が近い上に簡単に抱きつきすぎなのだ。抱き枕ではないのだが、と抗議したい。
「――あー、ごめん、ヴィオレティーナ。抱きしめてたらお腹空いちゃった」
「先週あげたばかりよ」
教室の外に耳を澄ます。がっしりと腰を抱かれ、髪をかき上げられてようやくスヴェンに意識を移した。
ダメよ、という言葉も無視して、白い首筋に舌を這わす。熱く滑った感触に鳥肌が立った。
「ちょっと、スヴェンっ!」
「静かにして」
鋭い牙が肌に触れる。
ヂグリと甘い毒が身体に広がる。
ブツリッ、と肉を断つ音と痛みは何度経験しても慣れるものじゃない。
濃厚な血液の香りが広がる。
全身が熱く滾って、腹の奥底が疼き、甘い痺れが背筋を上った。
扉ごしに妹たちが走っていく声が聞こえた。
「ん、緊張してる?」
「うる、さいわッ」
飲むならさっさと飲みなさい、とヒールで爪先を踏みつけた。
顔が赤くなる。抱きしめる力が強くなって、牙が抜かれた。
脱力して、くずおれそうになった体を抱きとめられる。
血を吸われたあとはいつもこうだ。身体に力が入らなくって、甘い痺れと熱に苛まれる。
「今日も美味しかったよ♡」
ちゅ、と牙のあとに口付ければ、傷痕は小さく目立たなくなる。初めは傷痕なんてない真っ白い首筋だったが、毎回同じ場所から吸うために、ぽつりと痕がふたつ残ってしまうようになった。
乱れた襟元を直せば見えない位置だが、ときおり、ふさがったはずの傷痕が疼くことがある。
「一ヶ月に一回でいいって言ったのはどこのどなただったかしら」
「だって、ヴィオレティーナの血が思った以上に美味しかったんだもん。今生どころか、前世も処女だったんじゃないかってくらい」
にっこりと、邪気なく笑って言ったスヴェンに羞恥で顔が真っ赤になる。
「変ッ態!!」
バチン、と頬を平手で打たれたスヴェンは目を白黒とさせて「本当のことじゃないか」と冷静に言う。
もう一発食らわせてやろう、としたとき、氷の刃が飛んできた。
「ヴィオラがなんだって?」
「ゆ、ユリア……」
涼やかな顔をジャパニーズ・ハンニャにして、手に持った剣を振り翳す。
「ヴィオラから離れろ変態が!」
「僕に居場所を奪られたからって、嫉妬する男は醜いぞ?」
こめかみに浮かんだ青筋が痙攣する。
私闘は禁止されている、とヴィオラの声は魔法がぶつかり合う音でかき消された。
騒ぎを聞きつけて、「お姉さまぁ!」と妹ご一行までやってくる。
「……私は、静かに暮らしたいだけなのに!!」
傍観とはほど遠い喧騒に、思わず叫びが溢れてしまった。
悪役令嬢(仮)の傍観ライフはまだまだ先だ。
0
お気に入りに追加
236
あなたにおすすめの小説
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?
曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」
エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。
最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。
(王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様)
しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……?
小説家になろう様でも更新中
あなたが望んだ、ただそれだけ
cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。
国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。
カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。
王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。
失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。
公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。
逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。
心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【完結】夫は王太子妃の愛人
紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵家長女であるローゼミリアは、侯爵家を継ぐはずだったのに、女ったらしの幼馴染みの公爵から求婚され、急遽結婚することになった。
しかし、持参金不要、式まで1ヶ月。
これは愛人多数?など訳ありの結婚に違いないと悟る。
案の定、初夜すら屋敷に戻らず、
3ヶ月以上も放置されーー。
そんな時に、驚きの手紙が届いた。
ーー公爵は、王太子妃と毎日ベッドを共にしている、と。
ローゼは、王宮に乗り込むのだがそこで驚きの光景を目撃してしまいーー。
*誤字脱字多数あるかと思います。
*初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ
*ゆるふわ設定です
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる