上 下
22 / 46
編入生なんてシナリオイベントなかったわ。

09

しおりを挟む

 吸血鬼と言えば、ニンニクと十字架が苦手で、日光が天敵というのが主な伝承だ。ついでに付け足せば、棺桶で眠るくらい。

「――ふたりして、ナイショ話?」
「なんのことかな? って、その手に持ってるのって、ニンニク?」
「食堂で貰ってきたの。備えあれば憂いなし、でしょ」
「……くっさぁい」

 鼻をつまんだスヴェンに言葉がつまる。
 強烈なニンニクのにおいに、アダムにも距離を取られてしょんぼりした。

 スキップでもしそうな機嫌のよさに首を傾げる。
 直前まで、ユリアと話をしていたのは知っている。

 ユリアとは、気まずいままだ。
顔を合わせても一言二言会話をするくらい。雰囲気を感じ取ってか、ユリアが声をかけてこようとすればスヴェンが間に入ってくれる。
 ――これでいいんだ、と何度も自分自身に言い聞かせた。

 ユリアはメインの攻略キャラクターだ。
 不治の病に臥せった母を助けるために、運命の人(・・・・)を探している白雪の貴公子。
 寮は違えど、妹(ヒロイン)に運命を見出したユリアは冬の学園を舞台にシナリオが動き出す。
 ――悪役令嬢としての断罪イベントも、冬が舞台だ。

 ヴィオレティーナが深く関わってくるシナリオはジュキアとユリアのルートになる。
 ジュキアルートになってしまえば、ヴィオレティーナの闇落ちは確定だ。
 今のところ、ジュキアかクリスティアンと結ばれる可能性が高いが、行動をともにしなくなったユリアも最近妹と接触をしている、と同寮の女子が囁いていた。
 その話題になるたびに、彼女たちは伺う目線で見てくるのが煩わしかった。

「それ、どうするの?」
「今日一日持ち歩くのよ」
「えぇ……うっそぉ……」

 ありえないものを見る目で見られた。とてもショックだ。

「冗談に決まってるじゃない。そんな目で見ないでよ」

 茶化して笑ったその時――キャアァァ! と甲高い悲鳴が響き渡った。

「なに……」
「行ってみよう」

 手を引かれて、声のほうへ向かう。


 ざわめきと、焦燥が入り混じる。
 ひとつの教室の前に、人だかりが出来ていた。

「やっぱり……!」
「噂は本当なんだ」
「見ろよ、首のところ」

 たくさんの声がひしめき合い、生徒たちをすり抜けながら、一番前まで来た。

「――あれは」

 驚きに目を見張る。

 教壇の上に横たわった、星の寮の女生徒。青白い顔を横たえて、晒された首筋にはポツリと赤い二つの傷痕。

「吸血鬼だ!」

 誰かの声に、ざわめきが大きくなる。

「ニンニク、役立ちそうだね」

 スヴェンの声が、耳を通って頭に響く。

「……これは、」

 しゃがみこんで、伸ばした指先がきらりと光るモノを拾う。
 つるりとまぁるい鱗だった。

 第二の被害者は、星の寮の中等部三年生。すぐさま魔法病院へと運び込まれていった。
 この事件をきっかけに、学園全体に吸血鬼の噂が広まり、一人行動を慎むようにと御触れが出された。
 使い魔の残り香が、紫水晶の瞳にこびりついて離れない。
 最悪を想定して、ヴィオラは長く息を吐き出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼はもう終わりです。

豆狸
恋愛
悪夢は、終わらせなくてはいけません。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

【完結】悪役令嬢エヴァンジェリンは静かに死にたい

小達出みかん
恋愛
私は、悪役令嬢。ヒロインの代わりに死ぬ役どころ。 エヴァンジェリンはそうわきまえて、冷たい婚約者のどんな扱いにも耐え、死ぬ日のためにもくもくとやるべき事をこなしていた。 しかし、ヒロインを虐めたと濡れ衣を着せられ、「やっていません」と初めて婚約者に歯向かったその日から、物語の歯車が狂いだす。 ――ヒロインの身代わりに死ぬ予定の悪役令嬢だったのに、愛されキャラにジョブチェンしちゃったみたい(無自覚)でなかなか死ねない! 幸薄令嬢のお話です。 安心してください、ハピエンです――

【完結】公爵令嬢はただ静かにお茶が飲みたい

珊瑚
恋愛
穏やかな午後の中庭。 美味しいお茶とお菓子を堪能しながら他の令嬢や夫人たちと談笑していたシルヴィア。 そこに乱入してきたのはーー

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

処理中です...