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編入生なんてシナリオイベントなかったわ。

04

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 ヴィオラの周囲はいつも静かだ。――妹がいなければ、だけど。

「……ミス・ナイトレイに頼みがあるんだ」

 スヴェンと共に、夕食を取っていたヴィオラは胡乱気な目を向ける。
 ニコニコ笑う妹と、眉を顰めた太陽の寮の男子生徒。いかにも不満です、といった表情だ。そんなに嫌なら話しかけてこなければいいのに。

 男子生徒――カトレアに目だけ向けて、夕食のパスタを口に運ぶ。

「ナイト、……君の妹から、失せ物探しが得意だと聞いた。大切な指輪を失くしてしまったんだ。どうか探してくれないだろうか」

 お願いをしているのはそっちなのに、有無を言わせない声に眉間の皺が深くなる。

 美しい、歴代随一の美しい瞳だと言われる紫水晶アメジストの双眸を細める。キラキラと、姿は見せないが煌めく粒子が教えてくれる。

「ジャケットの内ポケット」

 咀嚼して飲み込み、口の中が空になってから静かに呟く。

「隠すならもう少し上手に隠したらどうかしら。遊びには付き合わせないで」

 冷たく冷ややかな声。
 隣で同じくパスタをすすっているスヴェンは目を輝かせた。後で質問攻めにされるに違いない。面倒くさいことがまた一つ増えた。

 溜め息を吐いて、空になった食器を持って立ち上がる。いつもなら、スヴェンが食べ終わるまで待っているが今日は邪魔物がいるので、さっさと寮部屋に戻ろう。

 本当に失せ物があったのか、妹から話を聞いて面白がったのかは知らないが、付き合わされるこちらにもなってほしい。
 ヴィオラの紫水晶の瞳は、人ならざるモノを映し出す。それは妖精だったり、精霊だったり。はたまた人の思いの残り香だったり。

 小さい頃に、妹がお気に入りのおもちゃを失くして泣いていた。それを覚えていたのだろう。

「ま、待ってくれ! すまない! 君の実力を疑ったのは謝る! 本当に探して欲しいモノがあるんだ!」

 騒がしく慌てた声にチラと目だけで振り返った。

「モノというより、俺の、使い魔パートナーを探して欲しい」

 切羽詰まった彼の様子に目を見張る。
 アダムがくるる、と喉を鳴らした。
 
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