悪役令嬢は傍観に徹したい!

白霧雪。

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原作・悪役令嬢、現在・傍観主希望

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 小さなドラゴンを「アダム」と名付けたヴィオラに、それなら僕は、と子狼を「イヴ」と名付けたユリア。ドラゴンが好んで林檎を食べているのを見ると、なんだか皮肉を感じてしまった。

 同学年で、使い魔を召喚できなかった生徒はいなかった。毎年、数人は召喚できない生徒がいるのだと、魔法生物の先生は大層驚いていた。

 図書室で調べた結果、アダムは「宝石竜」という種族のドラゴンだった。
 成体となると五メートルから十五メートルと大きさが異なり、好物は幼体のときは林檎、成体になると鉱物を食べるようだ。
 宝石竜の名のとおり、とても美しいドラゴンで、一部では高額で取引もされているらしい。

 アダムのお気に入りはヴィオラの頭の上だ。
 授業中など気がつくと、そこに丸まっていることが多い。

「イヴってば、僕のことを食べようとしてくるんだよ」

 げんなりと話すユリアの足元ではちょこんとイヴがお行儀良くお座りをしていた。
 お互いに、パートナーとなる使い魔のために図書室で調べ物をして、今はくつろいでいる最中だ。
 一通り調べたことをノートにまとめて、もう少ししたら講堂へ行って夕食にするつもりだった。

「お姉さま! 使い魔を見せてください!」

 妹が来なければの話しだ。
 相変わらず、キラキラしている妹に目を細める。

「ユリア、寮へ戻りましょう」
「……そうだね。イヴ、行くぞ」
「ユリア先輩もこんにちは! そのワンちゃんが使い魔ですか? とっても可愛いですね! お座りしてお利口さんだし、真っ白でユリア先輩とお似合いです」

 ニコニコと、笑いながらイヴを褒める妹に、ユリアも頬をゆるめた。
 ギリ、と。奥歯を強く噛み締める。広げていたドラゴンの図鑑を閉じて立ち上がる。アダムはすぴすぴと寝息を立てて頭の上にいた。

「わぁ! お姉さま、ドラゴンを召喚したんですか!? さすがお姉さまです! 美しくて綺麗で可愛いお姉さまにぴったりのドラゴンちゃんですね」

 反応をしないいつもどおりのヴィオラに、めげずに言葉を発するアリスは、お姉さまの頭の上で丸くなっているドラゴンに触れようと手を伸ばした。
 パシンッ、と軽い音が響く。静かな図書室なだけあり、音はよく響いた。

「っこの子に、触らないで……!」

 それは、恐怖だった。
 美しい紫水晶に滲んだ恐怖を見てしまったアリスは、言葉を途切れさせて手を引っ込める。

「おい、何も叩くことねぇだろ」

 険しい顔をしたジュキアに、口を噤み、眦を吊り上げた。
 図鑑をぎゅっと抱きしめて、歩き出す。

 背後から「おいっ」と呼びかけられるが無視をして図書室を飛び出した。
 
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