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春
ウンディーネ寮
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入寮式は無事終わり、新入生は各寮へと振り分けられ、今は寮長を先頭にこれから生活をすることになる寮へと向かっている最中だ。そして僕はご報告しなければならないことがある。
メレディス・タナ―とお友達になりました! 嬉しくない。いや、嬉しいけど嬉しくないんだよ。分かってくれるか、この複雑な胸中を。一体全体どういうことなんだろうね。いや、お友達になったことはまぁ、仕方ないと思えば仕方ないのだけど、一番気になったというか頭が混乱したのはメレディス、あぁ、もういちいちフルネーム面倒くさいな。メルが、スカートを履いていることだ。女子の制服を着用してることだ。違和感なく似合ってるから一回スルーしてしまったけど、二度見するよね。
可笑しいな? メルって攻略キャラの可愛いショタだったはずだよね。これ、僕の記憶が可笑しいの? ううん、可笑しくない。だって攻略キャラって! 男の子のはずでしょ! ちょっと待って意味がわからないよ。シャワー浴びて今すぐベッドインしたい。
「兄さんに聞いたんだけど、ウンディーネの寮は湖畔に浮かんでるんだって。とっても清廉の空気で落ち着くって言ってたよ。楽しみだねクリスちゃん」
「あぁ、そうだね、楽しみだねメル君」
半ばやけくそだよね。美少年から美少女に性転換してるし、気付いたらお友達になってるし、もうこれ以上寿命が縮むようなことはないよなって思ってた矢先だよ。
「君も転成者?」って一言は思考を止めるには充分でした。ついでに息の音も止まるかと思った。
さらに驚くことに、シルフ寮寮長を務めてるはずのメルのお兄さんはウンディーネ寮に所属していて、六年ではなく四年生だった。僕は驚き疲れました。設定資料を下さい。それで予習させてください。
講堂から外に出て、石畳を東へ歩く。色とりどりの花が道中を彩り、きゃらきゃらと微笑う妖精たちが飛び交っている。指を伸ばせば、黄色の妖精がふゆふゆ近づいてきてちょこんと止まって、その愛らしさが僕のささくれた心を癒してくれた。
「何かいる?」
「うん。黄色の妖精さん」
「いいなぁ。僕も見えたらよかったのに。かわいい?」
「ふわふわしてて綺麗だよ。かわいい」
この黄色い妖精さんは言葉がわかるのかな。綺麗でかわいい、と褒めれば「きゃー」と顔に手をあてて照れている。うん、文句なく可愛い。
「メル君、って精霊の子なんだよね?」
「そうらしいね」
「僕の知ってる『メレディス・タナ―』は精霊の子だったと思うけど、僕は半分精霊っていうのが正しいかな」
「混血?」
「それがねぇ、僕さぁ、ちっちゃい頃に死にかけてて」
ストップ。これ以上の驚きはいらないんだけど。額に手を当てて天を仰いだ。綺麗な花に囲まれて「死にかけてさぁ」とか言うやつがいるか。いたわ、隣に。
「それ、今話さなきゃダメ?」
「今度でいいなら今度にするけど」
「じゃあ今度でお願いしたいな」
「わかった。簡単に言うと、僕は半分人間で半分精霊、目は普通の人と変わらないから『そういうの』を映し出すことはないってことだ」
メルは女の子、『中身』は『クソ真面目でクソ生意気な男子高校生』である。どうやら、メルの中の『俺』は、地元じゃ有名な悪ガキだったらしい。彼女、いや、彼の自称だけどね。一番最後の記憶は子猫を助けようと道路に飛び出してトラックに引き摺られたところ、だそうだ。自身の最後を覚えているのが、『私』と『俺』の違うところだろう。
転生して、成り代わって、あってはいけないチカラを見に宿した『僕』に成った『私』と、転生して、成り代わって、性別の変わった『僕』になった『俺』はとても似ている。親近感を抱いた。メルと『転成者』として話をして、心持が軽くなった。
それぞれの寮のグラフィックは見たことがある。オープニングで流れるのもそうだけど、ストーリーの途中でムービーが入るんだ。それも人気のひとつだったんじゃないかな。だって、喋るし動くんだよ? 夢が広がるじゃないか。
ウンディーネ寮は別名・水の寮とも言われてる。花に囲まれた湖畔にひっそりと静かに佇んでいるんだ。とても美しい寮である。お兄様が所属するに相応しい寮だよね。
時折近寄ってくる妖精たちと指先で戯れながら歩いていると、先頭の方が立ち止まった。どうやら着いたようだ。お兄様が振り返って、僕と目が合うとにこりと微笑んだ。癒し。
先頭のお兄様と、新入生の一番後ろにいる僕とはそれなりに距離がある。後ろにはきちっと並んだウンディーネ寮の先輩たちが歩いている。六年生はお兄様ひとり、五年生は四人、四年生がひとり、三年生が十人、二年生が二十人、一年生が三十人。どこの寮も、学年が上がっていくにつれて生徒数は少なくなる。それだけ難しいのだ。進級試験というのは。入るのは誰でもできる。出るのは超難関。竜の股を潜るくらい難しいなんて言われてるらしい。本物を見たことない僕はお伽噺の竜しかしらないんだけどね。
「ここが、私たちウンディーネ寮生の暮らす寮だよ」
ゲームのグラフィック通り、メル君の言っていた通り、美しい湖畔に建物は立っていた。
メレディス・タナ―とお友達になりました! 嬉しくない。いや、嬉しいけど嬉しくないんだよ。分かってくれるか、この複雑な胸中を。一体全体どういうことなんだろうね。いや、お友達になったことはまぁ、仕方ないと思えば仕方ないのだけど、一番気になったというか頭が混乱したのはメレディス、あぁ、もういちいちフルネーム面倒くさいな。メルが、スカートを履いていることだ。女子の制服を着用してることだ。違和感なく似合ってるから一回スルーしてしまったけど、二度見するよね。
可笑しいな? メルって攻略キャラの可愛いショタだったはずだよね。これ、僕の記憶が可笑しいの? ううん、可笑しくない。だって攻略キャラって! 男の子のはずでしょ! ちょっと待って意味がわからないよ。シャワー浴びて今すぐベッドインしたい。
「兄さんに聞いたんだけど、ウンディーネの寮は湖畔に浮かんでるんだって。とっても清廉の空気で落ち着くって言ってたよ。楽しみだねクリスちゃん」
「あぁ、そうだね、楽しみだねメル君」
半ばやけくそだよね。美少年から美少女に性転換してるし、気付いたらお友達になってるし、もうこれ以上寿命が縮むようなことはないよなって思ってた矢先だよ。
「君も転成者?」って一言は思考を止めるには充分でした。ついでに息の音も止まるかと思った。
さらに驚くことに、シルフ寮寮長を務めてるはずのメルのお兄さんはウンディーネ寮に所属していて、六年ではなく四年生だった。僕は驚き疲れました。設定資料を下さい。それで予習させてください。
講堂から外に出て、石畳を東へ歩く。色とりどりの花が道中を彩り、きゃらきゃらと微笑う妖精たちが飛び交っている。指を伸ばせば、黄色の妖精がふゆふゆ近づいてきてちょこんと止まって、その愛らしさが僕のささくれた心を癒してくれた。
「何かいる?」
「うん。黄色の妖精さん」
「いいなぁ。僕も見えたらよかったのに。かわいい?」
「ふわふわしてて綺麗だよ。かわいい」
この黄色い妖精さんは言葉がわかるのかな。綺麗でかわいい、と褒めれば「きゃー」と顔に手をあてて照れている。うん、文句なく可愛い。
「メル君、って精霊の子なんだよね?」
「そうらしいね」
「僕の知ってる『メレディス・タナ―』は精霊の子だったと思うけど、僕は半分精霊っていうのが正しいかな」
「混血?」
「それがねぇ、僕さぁ、ちっちゃい頃に死にかけてて」
ストップ。これ以上の驚きはいらないんだけど。額に手を当てて天を仰いだ。綺麗な花に囲まれて「死にかけてさぁ」とか言うやつがいるか。いたわ、隣に。
「それ、今話さなきゃダメ?」
「今度でいいなら今度にするけど」
「じゃあ今度でお願いしたいな」
「わかった。簡単に言うと、僕は半分人間で半分精霊、目は普通の人と変わらないから『そういうの』を映し出すことはないってことだ」
メルは女の子、『中身』は『クソ真面目でクソ生意気な男子高校生』である。どうやら、メルの中の『俺』は、地元じゃ有名な悪ガキだったらしい。彼女、いや、彼の自称だけどね。一番最後の記憶は子猫を助けようと道路に飛び出してトラックに引き摺られたところ、だそうだ。自身の最後を覚えているのが、『私』と『俺』の違うところだろう。
転生して、成り代わって、あってはいけないチカラを見に宿した『僕』に成った『私』と、転生して、成り代わって、性別の変わった『僕』になった『俺』はとても似ている。親近感を抱いた。メルと『転成者』として話をして、心持が軽くなった。
それぞれの寮のグラフィックは見たことがある。オープニングで流れるのもそうだけど、ストーリーの途中でムービーが入るんだ。それも人気のひとつだったんじゃないかな。だって、喋るし動くんだよ? 夢が広がるじゃないか。
ウンディーネ寮は別名・水の寮とも言われてる。花に囲まれた湖畔にひっそりと静かに佇んでいるんだ。とても美しい寮である。お兄様が所属するに相応しい寮だよね。
時折近寄ってくる妖精たちと指先で戯れながら歩いていると、先頭の方が立ち止まった。どうやら着いたようだ。お兄様が振り返って、僕と目が合うとにこりと微笑んだ。癒し。
先頭のお兄様と、新入生の一番後ろにいる僕とはそれなりに距離がある。後ろにはきちっと並んだウンディーネ寮の先輩たちが歩いている。六年生はお兄様ひとり、五年生は四人、四年生がひとり、三年生が十人、二年生が二十人、一年生が三十人。どこの寮も、学年が上がっていくにつれて生徒数は少なくなる。それだけ難しいのだ。進級試験というのは。入るのは誰でもできる。出るのは超難関。竜の股を潜るくらい難しいなんて言われてるらしい。本物を見たことない僕はお伽噺の竜しかしらないんだけどね。
「ここが、私たちウンディーネ寮生の暮らす寮だよ」
ゲームのグラフィック通り、メル君の言っていた通り、美しい湖畔に建物は立っていた。
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