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第三章
《 九 》
しおりを挟む銀雪華の夜はよく冷える。
最上階、深雪の室で月見酒を交わしていた癒神仙と秀神仙は、紫州皇都へと向かったふたりを思い浮かべていた。
「もはや共依存だったねぇ」
「あれだけべったり花謝の仙気がついていては、もう後戻りはできませんよ」
「うーん……それに、母親の元に帰りたいって言うのは、明らかに皇子殿下の意思ではなかったよ」
愛とは時に、呪いとなる。
母親からの呪いを、生まれた時から囁かれて来た蓮雨は呪いに気付いていなかった。
あんなにも、ドス黒い呪いを引き連れているのに皇子殿下の目には映っていない。花仙から密かに相談を受けていたのだが、蓮雨自身の目には異常はなかった。呪いが目隠しをしているのだ。
――わたくし以外を見ないで。
血の繋がった息子に向けるにしては少々行き過ぎた愛情だった。
「呪いも、花謝の気に押し負けて、支配を受けていた思考もはっきりしてきていることでしょう」
「秀神仙のあの言葉が効いたんじゃない? 現実逃避してるところあったから、現実見据えなくちゃねぇ。せっかく生きているんだもの」
とぷとぷとぶ、と空の杯に酒が注がれる。すっきりと爽やかな香りと口当たりの老酒だ。
「ちょーっとちょっかいかけただけなのに、私なんてこわぁい顔で睨まれたんだよ。せっかく呪血痕を治してあげたっていうのに」
「取られないか不安で仕方ないんですよ」
「誰も取らないって……」
花神仙の加護を受けた皇子。すぐにわかった。この子が花謝の目をかけている子だと。
華蝶国の皇族に子が産まれると、神仙たちは順番に加護を与えに下界へ降りてくる。
癒神仙は第二皇子と第三皇女に、秀神仙は第一皇女と第四皇子に加護を与えていた。花神仙――花謝が加護を与えているのは第三皇子・蒼蓮雨のみだった。
「加護に仙気。あんなにも花謝の気を纏わせておきながら、もし他の奴と一緒になっていたら、花謝が堕ちるんじゃないかと思ってしまうよ」
「うーん……わりと洒落になりせんね」
苦笑いする秀神仙の持つ杯も空だった。注いでやろうとするが、首を横に振って断られてしまった。仕方なく自分の杯に注ぐけれど、一滴垂れてくるだけだった。
「酒も無くなりましたし、お開きにしましょう」
「そうだね。さすがに、今日も飲みすぎたら僕も怒られてしまう……アイツ、怒ったら怖いんだよ」
「昨日も怒られたんでしょ」
くすくす、と涼やかな清流のような笑い声に、低い声音が被せられる。
「静若、迎えに来た」
「あぁ、すみません。影月」
卓子の端に立て掛けていた杖を手に取るよりも早く、精悍な男性が秀神仙の腕を掴んで支えた。
「お久しぶり、影月殿。飲んでかない?」
「……相変わらずおちゃらけているな。下で狐が待っていたぞ」
「うわぁ……これもう怒られそうな気がする」
酒盛りをすること自体、いい顔をしないのだ。ちょっとくらいいいじゃないか、と言うのだが、癒神仙のちょっとはちょっとじゃない。一甕二甕飲み干したところじゃあ飲んだ気がしないもので、ついつい飲みすぎてしまうから怒られるのだ。
「それじゃあ、また来月来ますね」
「待ってるよう。……ねぇ、秀神仙、あのふたり、どうなると思う?」
「――……さぁ、天帝のみぞ知る、と言った所でしょうか」
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