第三皇子の嫁入り

白霧雪。

文字の大きさ
上 下
22 / 24
第三章

《 九 》

しおりを挟む

 銀雪華の夜はよく冷える。

 最上階、深雪の室で月見酒を交わしていた癒神仙と秀神仙は、紫州皇都へと向かったふたりを思い浮かべていた。

「もはや共依存だったねぇ」
「あれだけべったり花謝ファシェの仙気がついていては、もう後戻りはできませんよ」
「うーん……それに、母親の元に帰りたいって言うのは、明らかに皇子殿下の意思ではなかったよ」

 愛とは時に、呪いとなる。

 母親からの呪いを、生まれた時から囁かれて来た蓮雨リェンユー呪いに気付いていなかった。

 あんなにも、ドス黒い呪いを引き連れているのに皇子殿下の目には映っていない。花仙から密かに相談を受けていたのだが、蓮雨リェンユー自身の目には異常はなかった。呪いが目隠しをしているのだ。

 ――わたくし以外を見ないで。

 血の繋がった息子に向けるにしては少々行き過ぎた愛情だった。

「呪いも、花謝ファシェの気に押し負けて、支配を受けていた思考もはっきりしてきていることでしょう」
「秀神仙のあの言葉が効いたんじゃない? 現実逃避してるところあったから、現実見据えなくちゃねぇ。せっかく生きているんだもの」

 とぷとぷとぶ、と空の杯に酒が注がれる。すっきりと爽やかな香りと口当たりの老酒だ。

「ちょーっとちょっかいかけただけなのに、私なんてこわぁい顔で睨まれたんだよ。せっかく呪血痕を治してあげたっていうのに」
「取られないか不安で仕方ないんですよ」
「誰も取らないって……」

 花神仙の加護を受けた皇子。すぐにわかった。この子が花謝ファシェの目をかけている子だと。

 華蝶国の皇族に子が産まれると、神仙たちは順番に加護を与えに下界へ降りてくる。

 癒神仙は第二皇子と第三皇女に、秀神仙は第一皇女と第四皇子に加護を与えていた。花神仙――花謝ファシェが加護を与えているのは第三皇子・蒼蓮雨ツァンリェンユーのみだった。

「加護に仙気。あんなにも花謝ファシェの気を纏わせておきながら、もし他の奴と一緒になっていたら、花謝ファシェが堕ちるんじゃないかと思ってしまうよ」
「うーん……わりと洒落になりせんね」

 苦笑いする秀神仙の持つ杯も空だった。注いでやろうとするが、首を横に振って断られてしまった。仕方なく自分の杯に注ぐけれど、一滴垂れてくるだけだった。

「酒も無くなりましたし、お開きにしましょう」
「そうだね。さすがに、今日も飲みすぎたら僕も怒られてしまう……アイツ、怒ったら怖いんだよ」
「昨日も怒られたんでしょ」

 くすくす、と涼やかな清流のような笑い声に、低い声音が被せられる。

静若ジンルオ、迎えに来た」
「あぁ、すみません。影月インユエ

 卓子の端に立て掛けていた杖を手に取るよりも早く、精悍な男性が秀神仙の腕を掴んで支えた。

「お久しぶり、影月インユエ殿。飲んでかない?」
「……相変わらずおちゃらけているな。下で狐が待っていたぞ」
「うわぁ……これもう怒られそうな気がする」

 酒盛りをすること自体、いい顔をしないのだ。ちょっとくらいいいじゃないか、と言うのだが、癒神仙のちょっとはちょっとじゃない。一甕二甕飲み干したところじゃあ飲んだ気がしないもので、ついつい飲みすぎてしまうから怒られるのだ。

「それじゃあ、また来月来ますね」
「待ってるよう。……ねぇ、秀神仙、あのふたり、どうなると思う?」
「――……さぁ、天帝のみぞ知る、と言った所でしょうか」




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

捨て猫はエリート騎士に溺愛される

135
BL
絶賛反抗期中のヤンキーが異世界でエリート騎士に甘やかされて、飼い猫になる話。 目つきの悪い野良猫が飼い猫になって目きゅるんきゅるんの愛される存在になる感じで読んでください。 お話をうまく書けるようになったら続きを書いてみたいなって。 京也は総受け。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

最強魔術師は流浪の将軍に捕獲されました

皇洵璃音
BL
過去に魔王として悪人に利用されていたエルケーニッヒ。 時が過ぎ、両親となってくれた二人はこの世を去った後に、彼は立派な青年になり皇城直属の最強魔術師として名を連ねていた。両親の実の子である長男リュミエール(皇帝陛下)と長女であり二番目の子のアンジェラ(第一皇女)に振り回されて心配しながらも、健やかに成長していく姿を見てほっこりしている。 そんな中、どこからか現れたという剣士は一夜にして三代目将軍の位を授かったという。 流浪の剣士が将軍になるという異例の事態に、エルは単身会いに行くと、まるで殺意なんてないようにほんわかのんびりとした優しい青年がそこにいた。彼から感じる神力は、どこか母と同じ気配がする。只者ではないと判断したエルは、皇帝であるリュミエールに彼の監視役にさせて貰うようお願いをするのだが? イラスト表紙担当者:白す様

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

失恋して崖から落ちたら、山の主の熊さんの嫁になった

無月陸兎
BL
ホタル祭で夜にホタルを見ながら友達に告白しようと企んでいた俺は、浮かれてムードの欠片もない山道で告白してフラれた。更には足を踏み外して崖から落ちてしまった。 そこで出会った山の主の熊さんと会い俺は熊さんの嫁になった──。 チョロくてちょっぴりおつむが弱い主人公が、ひたすら自分の旦那になった熊さん好き好きしてます。

【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。

N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い) × 期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい) Special thanks illustration by 白鯨堂こち ※ご都合主義です。 ※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。

処理中です...