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第三章
第三十一話
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「ぜぇっ、ぜぇっ……はぁっ、はぁっ……」
「く、くそぉっ……おのれ逆賊クリフォードめ。狭い場所に誘い込んでの強襲とは、卑怯な真似を……!」
先行して遺跡に入っていた二十人ほどの王国兵たちは、ようやく外に出られて、今やばったりと遺跡の前の地面に大の字に倒れていた。
そこには先頭を切って遺跡に潜ったダグラス中隊長も混ざっている。
彼は槍を杖のようにして立ち上がると、ふらふらの様子ながらも不敵に笑う。
「ふ、ふふふっ……なかなかやるではないか逆賊クリフォード。おそるべき知略の持ち主よ……。よもやこれほどとは思わなんだわ。相手にとって不足はないというものだ……」
一方、それを見て大きくため息をつくのは、オーレリア王女だ。
「ダグラス中隊長。冒険者の方々に助力をお願いしてはどうですか?」
「な、何を言っている小む……何を言っておりますか姫様。まだまだ、我らの力の十分の一も見せておりませんよ」
「確かに、兵の十分の一ほどが倒れていますが……」
「と、ともかく、我々に任せておけば万事問題ありません! 姫様は安心して、後方で見守っていてください」
「分かりました。もうしばらく様子を見ます。ただし戦果よりも、兵たちの命を優先してくださいね」
「へ、へへっ、分かってまさぁ」
揉み手をするダグラス中隊長に背を向けて、オーレリアはカミラたち冒険者のいるほうへと向かった。
その後ろでダグラスは、「けっ、お高くとまりやがって、お嬢が」と悪態をついていたが、さすがにオーレリアに聞こえる声ではない。
オーレリアはカミラたち四人の冒険者の前まで来ると、律儀に頭を下げる。
「すみません、皆さん。もう少しかかりそうです」
「いや、大変だねぇ王女様も。何ならさ、これ終わったらいっそボクたちと一緒に冒険者でもやらない?」
シノがそう冗談めかして言うが、オーレリアは微笑をたたえるだけで答えはしなかった。
そこにやんわりとした拒絶の意志を感じたシノは、「そっか」とだけ答える。
さて、それからしばらくすると、再び遺跡の探索が開始された。
先に突入して負傷した兵たちを兵団所属のプリーストが治癒して回るのと並行で、真っ先に治癒を受けたダグラス中隊長は、元気な兵だけで突入部隊を編成していく。
「あー、先の突入では、全軍で一気に突入を仕掛けようとしたのが、少しばかり良くなかったようだ。今度は俺が選んだ少数精鋭の部隊で攻め入ることにするから、名を呼ばれた者は俺と一緒に来い。まずアンディ! それからイーノック! ウォーレス! それに──」
ダグラス中隊長はそうして、全部で十人強の部隊を組むと、残りの兵を遺跡の前に残して再び遺跡内部へと突入していった。
それを見ていたカミラたちは、まずまずという様子でうなずく。
「まあ、あれでさっきよりはマシに回るだろうな」
「そうですわね。……ただ、大きな懸念もありますわ」
「そうなんだよねぇ。いくつか足りないものはあるけど、特に──」
その冒険者たちによる品評会を横で聞いていたルーシャは、うーんと考え込む。
何かが足りないらしいけど、なんだろう。
でも考えても分からなかったので、先輩冒険者に聞くことにした。
「あの、シノさん。ダグラス中隊長さんたちには、何が足りませんか?」
するとシノは、にひっと笑って、自分自身を指さした。
ルーシャは首を傾げる。
「足りないのは、シノさんですか……?」
「そ、足りないのはボク」
シノがそう答えたとき、ダグラス中隊長たちが潜った遺跡の内部のほうから、「うわー」「ぎゃー」という悲鳴がまた聞こえてきた。
さらには、先にはなかった「や、やめろぉっ」というような悲鳴も聞こえてくる。
それを聞いたオーレリアが、弾かれたように遺跡の入り口へと走る。
カミラ、ローズマリー、シノ、ルーシャの四人も、互いにうなずいてからオーレリアのあとを追った。
事が起こっていたのは、遺跡の入り口をくぐってすぐのところにある広間を抜け、その先へと続く通路の一角だった。
「こ、これは……!」
「あー、落とし穴だねぇ。やっぱこうなったかぁ」
オーレリアの驚きの声と、シノのですよねーという声。
彼女らの立つ遺跡の通路。
石造りの角ばったダンジョンの通路にあって、その床に、ぽっかりと大きな穴ができていた。
穴は幅三メートルほどの通路の床のほぼいっぱいに開いた長方形のもので、奥行きは五メートル以上もある。
その穴の下から、うめくような男たちの声が聞えてきていた。
オーレリアと冒険者たちが、穴の淵まで歩み寄っていってその下を見ると──
「うっ……」
「こいつぁひでぇ……」
「ううっ……なんですのこれ……吐き気が……」
「うわぁあ……る、ルーシャちゃん、こっちに来ちゃダメだ!」
先に穴を覗いたオーレリア、カミラ、ローズマリーが口元に手をあて、シノは穴に近寄ろうとするルーシャを止めようとする。
「……?」
でもルーシャは、怖いもの見たさが勝ってしまう。
止めようとするシノを見事なステップでかわして、その先へとたどり着いて──
そして、その光景を見てしまった。
「うぅっ……なんだよこれぇっ……スライム、かよ……」
「ぬるぬるして……気持ちわりぃ……」
「鎧が……服が、溶けるっ……」
「ら、らめぇっ……」
ぽっかりと開いた落とし穴の底では、十人以上のむくつけき男たちが、大量のスライムにまみれてびくびくとしていた。
そのスライムはどうやら鎧や服を溶かす性質を持ったものらしく、男たちは今やあられもない姿となって穴の底に折り重なっている。
ちなみにその中にはダグラス中隊長もいて、毛むくじゃらの見事な肉体が半透明のスライムに覆われた姿でもがいていた。
──つまりは、部隊にスカウトを連れていなかったダグラス中隊長たちが、遺跡の落とし穴の罠に見事に引っ掛かり、その穴の底に待ち受けていたスライムによって鎧や服を溶かされて大変なことになっている、という状況だったわけだが……。
「え、えっと……」
その穴の中の光景を見下ろしながら、少しだけ頬を染めて呆然とするルーシャ。
「ルーシャちゃんは、見ちゃダメ!」
そのルーシャを、シノが手で目隠しをしつつ抱きかかえると、穴の淵から引きはがすように運び出したのだった。
「く、くそぉっ……おのれ逆賊クリフォードめ。狭い場所に誘い込んでの強襲とは、卑怯な真似を……!」
先行して遺跡に入っていた二十人ほどの王国兵たちは、ようやく外に出られて、今やばったりと遺跡の前の地面に大の字に倒れていた。
そこには先頭を切って遺跡に潜ったダグラス中隊長も混ざっている。
彼は槍を杖のようにして立ち上がると、ふらふらの様子ながらも不敵に笑う。
「ふ、ふふふっ……なかなかやるではないか逆賊クリフォード。おそるべき知略の持ち主よ……。よもやこれほどとは思わなんだわ。相手にとって不足はないというものだ……」
一方、それを見て大きくため息をつくのは、オーレリア王女だ。
「ダグラス中隊長。冒険者の方々に助力をお願いしてはどうですか?」
「な、何を言っている小む……何を言っておりますか姫様。まだまだ、我らの力の十分の一も見せておりませんよ」
「確かに、兵の十分の一ほどが倒れていますが……」
「と、ともかく、我々に任せておけば万事問題ありません! 姫様は安心して、後方で見守っていてください」
「分かりました。もうしばらく様子を見ます。ただし戦果よりも、兵たちの命を優先してくださいね」
「へ、へへっ、分かってまさぁ」
揉み手をするダグラス中隊長に背を向けて、オーレリアはカミラたち冒険者のいるほうへと向かった。
その後ろでダグラスは、「けっ、お高くとまりやがって、お嬢が」と悪態をついていたが、さすがにオーレリアに聞こえる声ではない。
オーレリアはカミラたち四人の冒険者の前まで来ると、律儀に頭を下げる。
「すみません、皆さん。もう少しかかりそうです」
「いや、大変だねぇ王女様も。何ならさ、これ終わったらいっそボクたちと一緒に冒険者でもやらない?」
シノがそう冗談めかして言うが、オーレリアは微笑をたたえるだけで答えはしなかった。
そこにやんわりとした拒絶の意志を感じたシノは、「そっか」とだけ答える。
さて、それからしばらくすると、再び遺跡の探索が開始された。
先に突入して負傷した兵たちを兵団所属のプリーストが治癒して回るのと並行で、真っ先に治癒を受けたダグラス中隊長は、元気な兵だけで突入部隊を編成していく。
「あー、先の突入では、全軍で一気に突入を仕掛けようとしたのが、少しばかり良くなかったようだ。今度は俺が選んだ少数精鋭の部隊で攻め入ることにするから、名を呼ばれた者は俺と一緒に来い。まずアンディ! それからイーノック! ウォーレス! それに──」
ダグラス中隊長はそうして、全部で十人強の部隊を組むと、残りの兵を遺跡の前に残して再び遺跡内部へと突入していった。
それを見ていたカミラたちは、まずまずという様子でうなずく。
「まあ、あれでさっきよりはマシに回るだろうな」
「そうですわね。……ただ、大きな懸念もありますわ」
「そうなんだよねぇ。いくつか足りないものはあるけど、特に──」
その冒険者たちによる品評会を横で聞いていたルーシャは、うーんと考え込む。
何かが足りないらしいけど、なんだろう。
でも考えても分からなかったので、先輩冒険者に聞くことにした。
「あの、シノさん。ダグラス中隊長さんたちには、何が足りませんか?」
するとシノは、にひっと笑って、自分自身を指さした。
ルーシャは首を傾げる。
「足りないのは、シノさんですか……?」
「そ、足りないのはボク」
シノがそう答えたとき、ダグラス中隊長たちが潜った遺跡の内部のほうから、「うわー」「ぎゃー」という悲鳴がまた聞こえてきた。
さらには、先にはなかった「や、やめろぉっ」というような悲鳴も聞こえてくる。
それを聞いたオーレリアが、弾かれたように遺跡の入り口へと走る。
カミラ、ローズマリー、シノ、ルーシャの四人も、互いにうなずいてからオーレリアのあとを追った。
事が起こっていたのは、遺跡の入り口をくぐってすぐのところにある広間を抜け、その先へと続く通路の一角だった。
「こ、これは……!」
「あー、落とし穴だねぇ。やっぱこうなったかぁ」
オーレリアの驚きの声と、シノのですよねーという声。
彼女らの立つ遺跡の通路。
石造りの角ばったダンジョンの通路にあって、その床に、ぽっかりと大きな穴ができていた。
穴は幅三メートルほどの通路の床のほぼいっぱいに開いた長方形のもので、奥行きは五メートル以上もある。
その穴の下から、うめくような男たちの声が聞えてきていた。
オーレリアと冒険者たちが、穴の淵まで歩み寄っていってその下を見ると──
「うっ……」
「こいつぁひでぇ……」
「ううっ……なんですのこれ……吐き気が……」
「うわぁあ……る、ルーシャちゃん、こっちに来ちゃダメだ!」
先に穴を覗いたオーレリア、カミラ、ローズマリーが口元に手をあて、シノは穴に近寄ろうとするルーシャを止めようとする。
「……?」
でもルーシャは、怖いもの見たさが勝ってしまう。
止めようとするシノを見事なステップでかわして、その先へとたどり着いて──
そして、その光景を見てしまった。
「うぅっ……なんだよこれぇっ……スライム、かよ……」
「ぬるぬるして……気持ちわりぃ……」
「鎧が……服が、溶けるっ……」
「ら、らめぇっ……」
ぽっかりと開いた落とし穴の底では、十人以上のむくつけき男たちが、大量のスライムにまみれてびくびくとしていた。
そのスライムはどうやら鎧や服を溶かす性質を持ったものらしく、男たちは今やあられもない姿となって穴の底に折り重なっている。
ちなみにその中にはダグラス中隊長もいて、毛むくじゃらの見事な肉体が半透明のスライムに覆われた姿でもがいていた。
──つまりは、部隊にスカウトを連れていなかったダグラス中隊長たちが、遺跡の落とし穴の罠に見事に引っ掛かり、その穴の底に待ち受けていたスライムによって鎧や服を溶かされて大変なことになっている、という状況だったわけだが……。
「え、えっと……」
その穴の中の光景を見下ろしながら、少しだけ頬を染めて呆然とするルーシャ。
「ルーシャちゃんは、見ちゃダメ!」
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