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第二章

第十一話

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 ルーシャたちはシノを連れて、冒険者ギルドへと戻ってきた。
 シノを加えて四人パーティとなった一行は、あらためてクエストが貼り出されている掲示板へと向かう。

「よし、ちゃんと残ってるな。ま、Cランクなんて上級クエストは、そうそう売り切れねぇよな」

 そう言ってカミラが、掲示板から「キマイラ退治」のクエストを剥がすのだが──

 と、ちょうどそのとき。
 クエスト申請を終えたと思しきクライヴらのパーティが、そこを通りかかった。

 それを見たカミラが、「げっ、また鉢合わせかよ……」などとげんなりした様子を見せるが、一方のクライヴは少し意外という表情だった。

「ほぅ、これは驚いた。キミたちもそのクエストを受けるつもりかい? よくもまあ女子供だけで頭数を揃えて……逆に感心するよ。カミラの負けず嫌いも、ここまで来ると病気だね。な、そう思うだろ?」

 クライヴが自分の仲間たちに向かってこれ見よがしにそう言うと、彼の取り巻きの女性冒険者たちは彼に同調するようにくすくすと笑う。

 それにカミラが何かを言い返そうとしたところで──
 ルーシャはカミラの服の裾をくいくいと引っ張って、それを止めた。

「ん……? なんだよルーシャ、言い返すなってのか?」

「違います。私に言わせてください」

「へっ……? ちょっ、ちょっと、ルーシャ……!?」

 驚いているカミラを差し置いて、ルーシャは代わりに自分が前に出る。
 そしてクライヴの前に、胸を張って立った。

「おや、どうしたんだいお嬢ちゃん?」

 クライヴが、見かけ優しそうな表情でルーシャにほほ笑みかけてくる。
 だがルーシャは、そんなものには騙されないとばかりに言った。

「違います、クライヴさん」

「違うって、何がだい?」

「カミラさんじゃありません。私がカミラさんに、このクエストを受けたいとわがままを言ったんです。クライヴさん、私はカミラさんたちのことをバカにする、あなたのことが嫌いです。必ずぎゃふんと言わせます」

 ルーシャのその言葉を受けたクライヴは、一度きょとんとした顔を見せた。

 だが次には、くっくっと含み笑いを始める。

「……やれやれ、カミラ病がこんな子供にまで蔓延しているとはね。可哀想に」

 クライヴは、ルーシャと目線を合わせるように屈み込んできた。

「いいかいお嬢ちゃん、キミはカミラに騙されているんだ。女っていうのは、強い男に守られて幸せになるものなんだよ。もちろんキミだってそうだ。だからキミみたいな可愛い子は、もっと男の人に好かれるように、従順にならなきゃね」

 クライヴはそう言って、ルーシャの頭をなでようと手を伸ばしてくるが──

 ──パンッ。
 ルーシャはその手を自らの手で払い除け、拒絶した。

 そしてルーシャは、驚いた表情を見せるクライヴに向かって言う。

「ひょっとしてですけど──『強い男』って、あなたのことを言っていますか?」

「……。……まあ、そうだね。僕ほど強い男はそうはいないよ」

 子供相手に本気で怒るのがみっともないと思ったのか、クライヴは弾かれた手をプラプラとさせながら、一応の体裁を保ってみせる。

 だがそこに、追い打ちをかけるようにルーシャは言った。

「そうですか。でも、多分ですけど──私、あなたより強いですよ」

「……はあ?」

 クライヴはすっとんきょうな声を上げた。

 だが次には、やれやれといった顔になって立ち上がり、仲間の女性たちに向けて肩をすくめてみせる。

「手遅れだな。まったく、子供の妄想にも困ったものだ。──さ、もう行こうみんな。妄言には付き合っていられないよ」

 そしてクライヴは、仲間の女性冒険者たちを連れて冒険者ギルドを出ていこうとするが──

 カミラの横を通り過ぎるとき、クライヴはカミラの肩にポンと手を置いて、言い捨てる。

「ま、せいぜい子供のおままごとに付き合ってやるといいさ」

 そしてクライヴは手をひらひらと振って、取り巻きを連れて冒険者ギルドを出ていった。

 それを見送ったルーシャは、ぷっくーと頬を膨らませて地団駄を踏む。

「何なんですかあいつは! 男だとか女だとか、おじいさんはそんなこと言ってませんでした! ほんっと『嫌なやつ』ですねあの人!」

「どう、どう、落ち着けルーシャ! あたしたちのために怒ってくれたのは嬉しいけど、お前のほうがもっと怒ってどうする」

「もうカミラさんとか関係ないです! あいつは私の敵です! 絶対ぶっ殺します! 命を取る以外の手段で!」

「ええー……」

 ぷんすかと怒るルーシャを見て、困ったように半笑いを浮かべる残り三人なのであった。
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