上 下
4 / 7

第4話

しおりを挟む
 ユニスは幼馴染みを守るようにして中年冒険者たちの前に立ち、自分よりも大柄な男たちを見上げて啖呵を切る。

「結構です。確かに冒険者に関しては初心者ですけど、自分たちで手探りをして学んでいきますから、どうぞご心配なく」

「へへへっ、まあそう言うなって。冒険者稼業は危険だぜ。先輩冒険者に教えてもらったほうがいいだろ、なあ?」

 中年冒険者の一人はそう言って、ユニスを避け、ラヴィニアの肩に向かって手を伸ばしてきた。

 ラヴィニアは嫌がるように身を引く。
 ユニスがその前に立って、男の手をパンとはたいて払いのけた。

 ユニスは中年冒険者を見上げて、睨みつける。

「勝手にニアに触らないでもらえますか」

「……なんだぁ、ガキがよぉ? こっちが優しくしてやりゃあ、つけ上がりやがって」

 手をはたかれて、その中年冒険者は一瞬で頭に血が上ったようだ。
 ユニスの胸倉をつかもうと、その右手を伸ばしてくる。

 ユニスは自らも素早くその手を伸ばし、男の手首をつかんで止めた。

「やめてくださいと言っています。これ以上狼藉を働くなら、こっちだってそのつもりで対応しますけど」

 ユニスは男の手首をつかんだ手に、ぎりぎりと力を入れていく。
 体内の闘気を活用すれば、少女の細腕とて怪力を発揮する。

「なっ……!? ──痛ででででででっ!」

 ユニスに凄まじい力で手首を捻り上げられた中年冒険者は、思わずがくりと膝をつく。

 それを見たユニスは、男の手首から手を離す。
 男は手首を抑えて床にうずくまった。

「ぐぅうううううっ……! い、痛でぇよぉっ……!」

「お、おい、お前! 何を冗談やってんだよ」

「おいガキ! テメェ今、何やった!?」

 慌てふためく中年冒険者たち。
 それにユニスは、静かに答える。

「何って、その人がつかみかかってこようとしたから、防御をしたまでですけど」

「そういうこと言ってんじゃねぇ! テメェみてぇな細腕のガキが、こいつに腕力で勝てるわけねぇだろうが!」

 確かに、ユニスにつかみかかってきた男は大柄で体格も良く、筋肉もそれなりにはついている。

 ユニスも鍛えてはいるが、性別と体格による差は大きく、単純な筋力だけならばまるで敵わないだろう。

 だがそれにもユニスは、淡々と言葉を返す。

「『闘気』って聞いたことないですか? 正規の聖騎士クラスであれば、大なり小なり使えて当たり前の技術ですけど」

「なっ……!? と、『闘気』だと!? 冒険者ランクC以上の、上級冒険者レベルの技術だぞ!」

「ふぅん……。闘気を使えるの、冒険者だとCランク以上なんだ」

 ユニスは相手の言葉のその部分を捕まえて、自身の冒険者に関する知識を補充する。

 冒険者ランクはFから始まり、E、D、C、B、Aと上がっていく。
 Cランクというと今のユニスたちの三段階上であり、冒険者全体でもかなり高位のランクという扱いになる。

「ちなみに先輩がた、冒険者ランクは何なんです?」

「でぃ、D──いや、Cランクだ! お前たちはまだFランクなんだから、もっと俺たちを敬うべきじゃないのか!? さ、さっきから、大人に対して失礼だと思わないのか!」

「全然思いませんけど。でもそっか、Dランクでこの程度か」

「Cランクだと言っただろうが!」

 そう叫んで、最初とは別の男が、今度は両手でユニスにつかみかかろうとしてきた。

 虚栄心ばかりが先だって、実力差が見えていない──いや、見たくないだけなのか。

 いずれにせよユニスは、まかり間違ってこの人たちのパーティに入ったりしなくて良かったなと、心底思った。

 ともあれ──

 ユニスは迫りくる男の両手をかいくぐって懐に潜り込むと、男の胸元と腕を両手でつかみ、さらに足を払って、突進してきた男を勢いのままに投げ飛ばした。

「なっ……!? ──ぬぉぁああああっ!?」

 ──ずぅうううううんっ!

 冒険者ギルドの床に、背中を強かに打ち付けてノックアウトし、白目を剥く中年冒険者。

 ユニスはパンパンと手をはたき、残った一人へと視線を向ける。

「まだやりますか? さもなければ、こいつらを連れて立ち去ってくれると嬉しいんですけど」

「なっ、あっ……お、覚えてろよ!」

 残る一人の中年冒険者は捨て台詞を吐くと、相変わらず手首を押さえてうずくまっている男と、仰向けになって白目を剥いて泡をふいている男をずりずりと引きずって、最後にもう一度「覚えてろよ!」と叫んでから、冒険者ギルドを出ていった。

「……ふぅ」

 ユニスはホッと一息、ため息をつく。
 そして、周囲を見回すと──

 ぽかーんとした様子でユニスを見つめる、冒険者ギルド内の人々の目があった。

「あー……」

 無駄に目立ってしまった。
 ユニスは恥ずかしそうに頬を赤らめて、指先でぽりぽりと首元をかく。

 そこに──

「守ってくれてありがとう、ユニス。格好良かったよ、ボクの王子様」

 ラヴィニアがユニスのほっぺたに、ちゅっと軽くキスをした。
 冒険者ギルド内に、「おおーっ」という感嘆の声が巻き起こる。

 それでさらに顔を真っ赤にしたユニスは、ラヴィニアの胸倉をつかんでがくがくと揺さぶった。

「あ、あんたねぇ! めちゃくちゃ目立ってるときに何やってんのよ!? バカなの!? ねぇあんたバカなの!?」

「あははははっ。賢者の学院でも天才って呼ばれたボクにバカって言うの、ユニスぐらいのものだよ」

「頭が良くてもバカはバカよ、このバカ! ちょっとは時と場合ってものを考えなさいよね!?」

 そんな二人の様子をギルドの職員たちはニヤニヤと見つめ、酒場の冒険者たちはあの二人には関わってはいけないのだなとぼんやりと思っていた。

 そうしたトラブルはあったものの、ユニスとラヴィニアの二人は無事に冒険者登録を終え、冒険者となった。

 そしてひとまずFランクの薬草採取のクエストを引き受けると、聖都ディヴァフォードの市門を出て、さっそく採取地である近くの森へと向かったのであった。



 ──だが一方で、そんな二人の姿を遠くから睨みつける者たちがいた。

 誰かといえば、先ほどユニスにあしらわれた中年冒険者三人組だ。

「くそっ、あのガキども、ただじゃ済まさねぇぞ……!」

「つっても、どうすんだよ。あのガキ闘気を使えるせいで、バカみてぇに強かったぞ」

「それを今から考えるんだろうが──おい、いつまで伸びてんだ、起きろ!」

「ぐげっ。……こ、ここは……?」

「おい、静かにしろ! 出てきたぞ!」

 冒険者ギルドの入り口が見える物陰に隠れ、様子を窺っていた中年冒険者たち。

 ユニスに投げ飛ばされて気絶していた男を無理やり目覚めさせたところで、クエストを受けたあとの二人の少女が、冒険者ギルドの入り口から出てきたのが見えた。

「よし、追うぞ!」

「「お、おう」」

 中年冒険者たちが街中を人混みに隠れて追跡をしていくと、少女たちがそのまま街の外へと出ていくところを目撃する。

「Fランクのクエストで残っていたのは、『角ウサギの森』での薬草採取だけだ。ってこたぁ、あいつらが受けたクエストはそれってわけだ」

「よし。だったら森の中で、全員で襲い掛かろうぜ。いくらあのガキが強くたって、俺たちだってDランク冒険者だ。三人がかりで不意を打てばイチコロよ」

「へへへっ……大人を舐めた罰は、しっかりと受けてもらわねぇとな」

 じゅるりと舌なめずりをする中年冒険者たち。

 そんな三人の男たちの姿を、道行く子供が「ねぇママ、あの人たち何やってるの?」と指させば、その母親が「しっ、見ちゃいけません」と言って引っ張っていくのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】刀で攻撃するとクリに振動が来ちゃう剣士がモンスターと戦うお話

3万円
ファンタジー
挿入なし、クリ責めのみ。 ノクターンノベルズ様にも投稿しています。

友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった

海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····? 友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))

短編物語パンドラ 【百合】

わまり
恋愛
百合成分をたまに含んだ短編物語です 異性恋愛モノは一つとして無いので濁っておりません。 様々なジャンルからネタを使っますので 少し過激な内容もしばしば。 ただの恋愛モノとは違います。 非科学的な要素のある物語もあります。 ※一つ一つ物語が題ごとに区切られています。どれから見ても差し支えありません。 基本不定期な更新です。 1日10本もあれば1、2本もありますし、1時間で2本もあれば30分で3本も。 いつ更新するかは私もわかりません。 「ロリストーカー」は終わりません

男装警官が触手を孕んで産んで快楽堕ちする話

うどんパスタ
ファンタジー
女性の連続行方不明事件を追って山中に足を踏み入れた、男装好きの女警察官。 池から、ごぽり、と泡が立ち、池の中に手を伸ばすと………触手が あらわれた!? 孕ませから出産まで、いちおう快楽堕ち要素もあるよ! ちなみにこの子は自慰経験ありだけど処女だ!() この小説には以下の成分が含まれます。 ・自慰経験あり ・処女 ・胸、膣弄り ・出産 ・導入→孕み→出産、快楽堕ち、の3ページでお送りします。 好きなところだけ読んでいただいて構いません。 ※2回目、かつ拙い性表現となりますが良ければご覧ください。

【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。

西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ? なぜです、お父様? 彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。 「じゃあ、家を出ていきます」

悪役令嬢血闘帖~婚約破棄なら屍拾う者無し~

都賀久武
ファンタジー
風魔忍者が手違いで悪役令嬢に転生して手刀で人の首を飛ばしたりする話になるんじゃないかな

【R18】心優しい触手さんが押しかけ女房エルフと苗床お嫁さん交尾して結婚しちゃう話

みやび
ファンタジー
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

これが普通なら、獣人と結婚したくないわ~王女様は復讐を始める~

黒鴉宙ニ
ファンタジー
「私には心から愛するテレサがいる。君のような偽りの愛とは違う、魂で繋がった番なのだ。君との婚約は破棄させていただこう!」 自身の成人を祝う誕生パーティーで婚約破棄を申し出た王子と婚約者と番と、それを見ていた第三者である他国の姫のお話。 全然関係ない第三者がおこなっていく復讐? そこまでざまぁ要素は強くないです。 最後まで書いているので更新をお待ちください。6話で完結の短編です。

処理中です...