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第4話
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ユニスは幼馴染みを守るようにして中年冒険者たちの前に立ち、自分よりも大柄な男たちを見上げて啖呵を切る。
「結構です。確かに冒険者に関しては初心者ですけど、自分たちで手探りをして学んでいきますから、どうぞご心配なく」
「へへへっ、まあそう言うなって。冒険者稼業は危険だぜ。先輩冒険者に教えてもらったほうがいいだろ、なあ?」
中年冒険者の一人はそう言って、ユニスを避け、ラヴィニアの肩に向かって手を伸ばしてきた。
ラヴィニアは嫌がるように身を引く。
ユニスがその前に立って、男の手をパンとはたいて払いのけた。
ユニスは中年冒険者を見上げて、睨みつける。
「勝手にニアに触らないでもらえますか」
「……なんだぁ、ガキがよぉ? こっちが優しくしてやりゃあ、つけ上がりやがって」
手をはたかれて、その中年冒険者は一瞬で頭に血が上ったようだ。
ユニスの胸倉をつかもうと、その右手を伸ばしてくる。
ユニスは自らも素早くその手を伸ばし、男の手首をつかんで止めた。
「やめてくださいと言っています。これ以上狼藉を働くなら、こっちだってそのつもりで対応しますけど」
ユニスは男の手首をつかんだ手に、ぎりぎりと力を入れていく。
体内の闘気を活用すれば、少女の細腕とて怪力を発揮する。
「なっ……!? ──痛ででででででっ!」
ユニスに凄まじい力で手首を捻り上げられた中年冒険者は、思わずがくりと膝をつく。
それを見たユニスは、男の手首から手を離す。
男は手首を抑えて床にうずくまった。
「ぐぅうううううっ……! い、痛でぇよぉっ……!」
「お、おい、お前! 何を冗談やってんだよ」
「おいガキ! テメェ今、何やった!?」
慌てふためく中年冒険者たち。
それにユニスは、静かに答える。
「何って、その人がつかみかかってこようとしたから、防御をしたまでですけど」
「そういうこと言ってんじゃねぇ! テメェみてぇな細腕のガキが、こいつに腕力で勝てるわけねぇだろうが!」
確かに、ユニスにつかみかかってきた男は大柄で体格も良く、筋肉もそれなりにはついている。
ユニスも鍛えてはいるが、性別と体格による差は大きく、単純な筋力だけならばまるで敵わないだろう。
だがそれにもユニスは、淡々と言葉を返す。
「『闘気』って聞いたことないですか? 正規の聖騎士クラスであれば、大なり小なり使えて当たり前の技術ですけど」
「なっ……!? と、『闘気』だと!? 冒険者ランクC以上の、上級冒険者レベルの技術だぞ!」
「ふぅん……。闘気を使えるの、冒険者だとCランク以上なんだ」
ユニスは相手の言葉のその部分を捕まえて、自身の冒険者に関する知識を補充する。
冒険者ランクはFから始まり、E、D、C、B、Aと上がっていく。
Cランクというと今のユニスたちの三段階上であり、冒険者全体でもかなり高位のランクという扱いになる。
「ちなみに先輩がた、冒険者ランクは何なんです?」
「でぃ、D──いや、Cランクだ! お前たちはまだFランクなんだから、もっと俺たちを敬うべきじゃないのか!? さ、さっきから、大人に対して失礼だと思わないのか!」
「全然思いませんけど。でもそっか、Dランクでこの程度か」
「Cランクだと言っただろうが!」
そう叫んで、最初とは別の男が、今度は両手でユニスにつかみかかろうとしてきた。
虚栄心ばかりが先だって、実力差が見えていない──いや、見たくないだけなのか。
いずれにせよユニスは、まかり間違ってこの人たちのパーティに入ったりしなくて良かったなと、心底思った。
ともあれ──
ユニスは迫りくる男の両手をかいくぐって懐に潜り込むと、男の胸元と腕を両手でつかみ、さらに足を払って、突進してきた男を勢いのままに投げ飛ばした。
「なっ……!? ──ぬぉぁああああっ!?」
──ずぅうううううんっ!
冒険者ギルドの床に、背中を強かに打ち付けてノックアウトし、白目を剥く中年冒険者。
ユニスはパンパンと手をはたき、残った一人へと視線を向ける。
「まだやりますか? さもなければ、こいつらを連れて立ち去ってくれると嬉しいんですけど」
「なっ、あっ……お、覚えてろよ!」
残る一人の中年冒険者は捨て台詞を吐くと、相変わらず手首を押さえてうずくまっている男と、仰向けになって白目を剥いて泡をふいている男をずりずりと引きずって、最後にもう一度「覚えてろよ!」と叫んでから、冒険者ギルドを出ていった。
「……ふぅ」
ユニスはホッと一息、ため息をつく。
そして、周囲を見回すと──
ぽかーんとした様子でユニスを見つめる、冒険者ギルド内の人々の目があった。
「あー……」
無駄に目立ってしまった。
ユニスは恥ずかしそうに頬を赤らめて、指先でぽりぽりと首元をかく。
そこに──
「守ってくれてありがとう、ユニス。格好良かったよ、ボクの王子様」
ラヴィニアがユニスのほっぺたに、ちゅっと軽くキスをした。
冒険者ギルド内に、「おおーっ」という感嘆の声が巻き起こる。
それでさらに顔を真っ赤にしたユニスは、ラヴィニアの胸倉をつかんでがくがくと揺さぶった。
「あ、あんたねぇ! めちゃくちゃ目立ってるときに何やってんのよ!? バカなの!? ねぇあんたバカなの!?」
「あははははっ。賢者の学院でも天才って呼ばれたボクにバカって言うの、ユニスぐらいのものだよ」
「頭が良くてもバカはバカよ、このバカ! ちょっとは時と場合ってものを考えなさいよね!?」
そんな二人の様子をギルドの職員たちはニヤニヤと見つめ、酒場の冒険者たちはあの二人には関わってはいけないのだなとぼんやりと思っていた。
そうしたトラブルはあったものの、ユニスとラヴィニアの二人は無事に冒険者登録を終え、冒険者となった。
そしてひとまずFランクの薬草採取のクエストを引き受けると、聖都ディヴァフォードの市門を出て、さっそく採取地である近くの森へと向かったのであった。
──だが一方で、そんな二人の姿を遠くから睨みつける者たちがいた。
誰かといえば、先ほどユニスにあしらわれた中年冒険者三人組だ。
「くそっ、あのガキども、ただじゃ済まさねぇぞ……!」
「つっても、どうすんだよ。あのガキ闘気を使えるせいで、バカみてぇに強かったぞ」
「それを今から考えるんだろうが──おい、いつまで伸びてんだ、起きろ!」
「ぐげっ。……こ、ここは……?」
「おい、静かにしろ! 出てきたぞ!」
冒険者ギルドの入り口が見える物陰に隠れ、様子を窺っていた中年冒険者たち。
ユニスに投げ飛ばされて気絶していた男を無理やり目覚めさせたところで、クエストを受けたあとの二人の少女が、冒険者ギルドの入り口から出てきたのが見えた。
「よし、追うぞ!」
「「お、おう」」
中年冒険者たちが街中を人混みに隠れて追跡をしていくと、少女たちがそのまま街の外へと出ていくところを目撃する。
「Fランクのクエストで残っていたのは、『角ウサギの森』での薬草採取だけだ。ってこたぁ、あいつらが受けたクエストはそれってわけだ」
「よし。だったら森の中で、全員で襲い掛かろうぜ。いくらあのガキが強くたって、俺たちだってDランク冒険者だ。三人がかりで不意を打てばイチコロよ」
「へへへっ……大人を舐めた罰は、しっかりと受けてもらわねぇとな」
じゅるりと舌なめずりをする中年冒険者たち。
そんな三人の男たちの姿を、道行く子供が「ねぇママ、あの人たち何やってるの?」と指させば、その母親が「しっ、見ちゃいけません」と言って引っ張っていくのだった。
「結構です。確かに冒険者に関しては初心者ですけど、自分たちで手探りをして学んでいきますから、どうぞご心配なく」
「へへへっ、まあそう言うなって。冒険者稼業は危険だぜ。先輩冒険者に教えてもらったほうがいいだろ、なあ?」
中年冒険者の一人はそう言って、ユニスを避け、ラヴィニアの肩に向かって手を伸ばしてきた。
ラヴィニアは嫌がるように身を引く。
ユニスがその前に立って、男の手をパンとはたいて払いのけた。
ユニスは中年冒険者を見上げて、睨みつける。
「勝手にニアに触らないでもらえますか」
「……なんだぁ、ガキがよぉ? こっちが優しくしてやりゃあ、つけ上がりやがって」
手をはたかれて、その中年冒険者は一瞬で頭に血が上ったようだ。
ユニスの胸倉をつかもうと、その右手を伸ばしてくる。
ユニスは自らも素早くその手を伸ばし、男の手首をつかんで止めた。
「やめてくださいと言っています。これ以上狼藉を働くなら、こっちだってそのつもりで対応しますけど」
ユニスは男の手首をつかんだ手に、ぎりぎりと力を入れていく。
体内の闘気を活用すれば、少女の細腕とて怪力を発揮する。
「なっ……!? ──痛ででででででっ!」
ユニスに凄まじい力で手首を捻り上げられた中年冒険者は、思わずがくりと膝をつく。
それを見たユニスは、男の手首から手を離す。
男は手首を抑えて床にうずくまった。
「ぐぅうううううっ……! い、痛でぇよぉっ……!」
「お、おい、お前! 何を冗談やってんだよ」
「おいガキ! テメェ今、何やった!?」
慌てふためく中年冒険者たち。
それにユニスは、静かに答える。
「何って、その人がつかみかかってこようとしたから、防御をしたまでですけど」
「そういうこと言ってんじゃねぇ! テメェみてぇな細腕のガキが、こいつに腕力で勝てるわけねぇだろうが!」
確かに、ユニスにつかみかかってきた男は大柄で体格も良く、筋肉もそれなりにはついている。
ユニスも鍛えてはいるが、性別と体格による差は大きく、単純な筋力だけならばまるで敵わないだろう。
だがそれにもユニスは、淡々と言葉を返す。
「『闘気』って聞いたことないですか? 正規の聖騎士クラスであれば、大なり小なり使えて当たり前の技術ですけど」
「なっ……!? と、『闘気』だと!? 冒険者ランクC以上の、上級冒険者レベルの技術だぞ!」
「ふぅん……。闘気を使えるの、冒険者だとCランク以上なんだ」
ユニスは相手の言葉のその部分を捕まえて、自身の冒険者に関する知識を補充する。
冒険者ランクはFから始まり、E、D、C、B、Aと上がっていく。
Cランクというと今のユニスたちの三段階上であり、冒険者全体でもかなり高位のランクという扱いになる。
「ちなみに先輩がた、冒険者ランクは何なんです?」
「でぃ、D──いや、Cランクだ! お前たちはまだFランクなんだから、もっと俺たちを敬うべきじゃないのか!? さ、さっきから、大人に対して失礼だと思わないのか!」
「全然思いませんけど。でもそっか、Dランクでこの程度か」
「Cランクだと言っただろうが!」
そう叫んで、最初とは別の男が、今度は両手でユニスにつかみかかろうとしてきた。
虚栄心ばかりが先だって、実力差が見えていない──いや、見たくないだけなのか。
いずれにせよユニスは、まかり間違ってこの人たちのパーティに入ったりしなくて良かったなと、心底思った。
ともあれ──
ユニスは迫りくる男の両手をかいくぐって懐に潜り込むと、男の胸元と腕を両手でつかみ、さらに足を払って、突進してきた男を勢いのままに投げ飛ばした。
「なっ……!? ──ぬぉぁああああっ!?」
──ずぅうううううんっ!
冒険者ギルドの床に、背中を強かに打ち付けてノックアウトし、白目を剥く中年冒険者。
ユニスはパンパンと手をはたき、残った一人へと視線を向ける。
「まだやりますか? さもなければ、こいつらを連れて立ち去ってくれると嬉しいんですけど」
「なっ、あっ……お、覚えてろよ!」
残る一人の中年冒険者は捨て台詞を吐くと、相変わらず手首を押さえてうずくまっている男と、仰向けになって白目を剥いて泡をふいている男をずりずりと引きずって、最後にもう一度「覚えてろよ!」と叫んでから、冒険者ギルドを出ていった。
「……ふぅ」
ユニスはホッと一息、ため息をつく。
そして、周囲を見回すと──
ぽかーんとした様子でユニスを見つめる、冒険者ギルド内の人々の目があった。
「あー……」
無駄に目立ってしまった。
ユニスは恥ずかしそうに頬を赤らめて、指先でぽりぽりと首元をかく。
そこに──
「守ってくれてありがとう、ユニス。格好良かったよ、ボクの王子様」
ラヴィニアがユニスのほっぺたに、ちゅっと軽くキスをした。
冒険者ギルド内に、「おおーっ」という感嘆の声が巻き起こる。
それでさらに顔を真っ赤にしたユニスは、ラヴィニアの胸倉をつかんでがくがくと揺さぶった。
「あ、あんたねぇ! めちゃくちゃ目立ってるときに何やってんのよ!? バカなの!? ねぇあんたバカなの!?」
「あははははっ。賢者の学院でも天才って呼ばれたボクにバカって言うの、ユニスぐらいのものだよ」
「頭が良くてもバカはバカよ、このバカ! ちょっとは時と場合ってものを考えなさいよね!?」
そんな二人の様子をギルドの職員たちはニヤニヤと見つめ、酒場の冒険者たちはあの二人には関わってはいけないのだなとぼんやりと思っていた。
そうしたトラブルはあったものの、ユニスとラヴィニアの二人は無事に冒険者登録を終え、冒険者となった。
そしてひとまずFランクの薬草採取のクエストを引き受けると、聖都ディヴァフォードの市門を出て、さっそく採取地である近くの森へと向かったのであった。
──だが一方で、そんな二人の姿を遠くから睨みつける者たちがいた。
誰かといえば、先ほどユニスにあしらわれた中年冒険者三人組だ。
「くそっ、あのガキども、ただじゃ済まさねぇぞ……!」
「つっても、どうすんだよ。あのガキ闘気を使えるせいで、バカみてぇに強かったぞ」
「それを今から考えるんだろうが──おい、いつまで伸びてんだ、起きろ!」
「ぐげっ。……こ、ここは……?」
「おい、静かにしろ! 出てきたぞ!」
冒険者ギルドの入り口が見える物陰に隠れ、様子を窺っていた中年冒険者たち。
ユニスに投げ飛ばされて気絶していた男を無理やり目覚めさせたところで、クエストを受けたあとの二人の少女が、冒険者ギルドの入り口から出てきたのが見えた。
「よし、追うぞ!」
「「お、おう」」
中年冒険者たちが街中を人混みに隠れて追跡をしていくと、少女たちがそのまま街の外へと出ていくところを目撃する。
「Fランクのクエストで残っていたのは、『角ウサギの森』での薬草採取だけだ。ってこたぁ、あいつらが受けたクエストはそれってわけだ」
「よし。だったら森の中で、全員で襲い掛かろうぜ。いくらあのガキが強くたって、俺たちだってDランク冒険者だ。三人がかりで不意を打てばイチコロよ」
「へへへっ……大人を舐めた罰は、しっかりと受けてもらわねぇとな」
じゅるりと舌なめずりをする中年冒険者たち。
そんな三人の男たちの姿を、道行く子供が「ねぇママ、あの人たち何やってるの?」と指させば、その母親が「しっ、見ちゃいけません」と言って引っ張っていくのだった。
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