聖騎士見習いの少女、ついにブチ切れて冒険者になる

いかぽん

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第3話

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 そんなわけで、数日後。

 実際に退職届けを提出したラヴィニアは、ユニスと合流。
 彼女もまた冒険者を始めることになった。

 二人は今、「冒険者ギルド」に向かって、街中を歩いている。

「本当に宮廷魔術師をやめてくるなんて……ありえない……」

「大したことじゃないよ。そもそもユニスにひどいことをした国の中枢にいるなんて、ボク自身が嫌だしね」

 がっくりと肩を落としながら前を歩くユニスと、そのあとをぷらぷらとついていくラヴィニア。

 そんな二人の格好は、冒険者として必要な武装をしたものだ。

 ユニスは戦士でありながら、衣服の上から鉄製の胸当てブレストプレート小手ガントレット脛当てグリーヴなどを身に着けたばかりの軽装で、彼女の高い敏捷性を活かせる装備となっている。

 腰のベルトには長剣ロングソードが一振り、短剣ダガーが二振り提げられており、一応それなりに柔軟に対応できる武装である。

 また首からはネックレス状にした聖印ホーリーシンボルがかけられており、これは彼女が神聖魔法を行使する際の補助具の役割を持っていた。

 一方でラヴィニアはというと、こちらはユニス以上に軽装だ。

 戦闘用の武装らしきものは魔術師の杖メイジスタッフを手に持っているのと、いざというときのために短剣ダガーを一振り身につけているだけ。

 防具に至ってはまったく何も装備しておらず、普段通りに褐色のローブを一枚纏っているだけだが、これは魔法の行使を阻害しないための魔法使いの基本スタイルだ。

 そんな装備をした姿で、街中をてくてくと歩いていく二人。

 前を歩くユニスが、後ろのラヴィニアへと声をかける。

「冒険者になるためには、ひとまず『冒険者ギルド』に行けばいいっていう認識なんだけど。それであってるかな、ニア?」

「だと思うよ。ボクも冒険者について詳しくは知らないけど。でも冒険者ギルドに行って聞けば、いろいろと教えてくれるでしょ」

 冒険者の仕事に関しては、わりと右も左も分かっていない二人であった。

 冒険者ギルドは、ある程度大きな都市ならば、どの都市にも一軒は存在する組織だ。
 ユニスたちが住む聖都ディヴァフォードにも、当然ながら存在する。

 やがて二人の少女は、その建物の前へとたどり着いた。

 石造りの立派な建物で、大きさは大規模な酒場や宿屋と同じぐらい。
 入り口上部の看板には剣と杖と盾が合わさったシンボルが掲示されている。

 ユニスを先頭にして、二人は冒険者ギルドの入り口をくぐっていく。

 建物内部に入ると、さっそく襲ってきたのはその騒がしさだ。

 ギルド内部は、冒険者のためのクエスト関係の手続きを行う実務スペースと、併設された酒場のスペースとで構成されている。

 騒がしいのは酒場のほうで、まだ夜でもないというのに、多くの粗野な冒険者たちがエールを呷りながら駄弁っていた。

 しかしユニスたちが冒険者ギルド内に入ってくると、その酒場スペースで飲んでいた冒険者たちのほとんどが、二人を見てぽかんとした顔になった。

 それから彼らはそれぞれに、同じテーブルの仲間たちとごにょごにょ話し始める。

「おい、見ろよ。すげぇ可愛い女の子が二人も入ってきたぜ」

「冒険者って感じじゃねぇな。俺たちとは人種が違うって感じだ。身なりもいいし、どこか気品みたいなものがあるっていうか」

「依頼人か? でもそれにしちゃあ、武装してるんだよな」

「貴族家のお嬢様が、お遊び感覚で冒険者をやりたいって言い出したとか」

「あー、ありうる。へっぴり腰で剣を振って、ゴブリンとかにやられて大変なことになっちまうやつだ」

「えー、あんないい女が二人も、もったいねぇな。それだったら俺たちでいただいちまってもよくね?」

「ハハハッ、いいね! 俺たちが世間の厳しさってやつを教えてやろうってわけだ」

 酒が入って気が大きくなっているのか、本人たちに聞こえる声の大きさであることが分かっていないのか、そんな無遠慮な話し声がユニスたちの耳に入ってくる。

 それを聞いたラヴィニアが、はぁとため息をついた。

「ボクたち注目されているみたいだね、ユニス」

「嬉しくない注目のされ方ね。私、ああいう下品なのは好きじゃないわ」

「同感。無視してギルドの職員さんに話を聞きにいこう」

 二人の少女は、クエスト関連スペースのほう、冒険者用の受付カウンターへと向かう。

 その際、ユニスが酒場スペースをちらと睨みつけると、酒場の方からはヒュウと口笛が上がった。

 酒場の男たちは「ハハハッ、しっかり聞こえてたみたいだぜ」「怖ぁい、俺ちゃん睨まれちゃったぁ」などと茶化しはじめる。

 ユニスは大きくため息をついて、それを聞かなかったことにした。
 そこにラヴィニアが声をかける。

「無視が一番だよ、ユニス。それにしても、こういう文化の違いは想定してなかったよ」

「同じく。聖騎士見習いの男どもとか、あんなのでもまだ品は良かったのね」

 ともあれ二人は、受付の前にたどり着いた。
 受付カウンターの向こうから、受付嬢が声をかけてくる。

「冒険者ギルドへようこそ。えぇっと、仕事の依頼をご希望ですか? それとも──」

「冒険者を始めようと思っています。ただ初めてで右も左も分からないから、いろいろと教えてもらえると嬉しいです」

 ユニスがそう答えると、受付嬢は笑顔で返事をしてきた。

「はい、かしこまりました。冒険者志願の方ですね。それでしたら、まずこちらにお名前などの記帳をお願いします。当ギルドに冒険者として登録をしていただきます」

 良かった、受付の人はまともだ。
 ユニスはホッと安心しつつ、渡されたペンで羊皮紙に必要事項を記入していく。

 ついでラヴィニアも記入を終えると、ペンと記入用紙を受付嬢に返却する。

 受付嬢はひと通り記入事項に目を通すと、次にはこう伝えてきた。

「はい、確認いたしました。それではこれで、ユニスさんとラヴィニアさんのお二人は、当ギルドのFランク冒険者として登録が完了しました。お望みであれば、すぐにクエストを受けることもできますよ」

「えっと……Fランク、というのは?」

 ユニスが質問する。
 冒険者に「ランク」なるものがあることは、彼女にとっては初耳だった。

 そんなユニスの質問に対し、受付嬢は淀みない説明を返してくる。

「各冒険者には、その能力や実績に応じてランク付けがされているんです。最初は全員Fランクで、経験を積んでいくことで冒険者ランクを上げることができます。冒険者ランクが上がると、より報酬の高い上位のクエストが受けられるようになるなどの特典があります。詳しいことはあちらのボードに記されていますので、よければ確認してください」

 矢継ぎ早に説明する受付嬢。
 ユニスはそれにどうにかついていきながら、次の疑問点を口にする。

「すぐにクエストを受けるにはどうしたら?」

「はい。あちらの掲示板に今受けることができるクエストが貼り出されていますので、引き受けたいクエストがあったら貼り紙を剥がして、クエスト受付窓口まで持っていって手続きをしてください。──それではユニスさん、ラヴィニアさん、良い冒険者生活を」

 受付嬢はそう言って、笑顔でユニスたちを見送った。

 ユニスとラヴィニアの二人は次に、受付嬢から案内されたボードや掲示板のほうへ行って、そこにある情報を拾っていった。

 ラヴィニアが掲示板に貼られたクエストを眺めてつぶやく。

「ふむふむ……クエスト:薬草採取、Fランク、報酬は金貨五枚。クエスト:ゴブリン退治、Eランク、報酬は金貨二十枚。クエスト:商隊護衛、Dランク、報酬は金貨五十枚。……なるほど確かに、ランクの高いクエストのほうが報酬額も大きいね。でもボクたちの冒険者ランクはFだから──」

 一方でユニスが、冒険者ギルドのランク制度について書かれたボードを見ながら返事をする。

「私とニアの二人だと、Fランクのクエストしか受けられないみたいね。Fランク冒険者二人のパーティだと、クエストランクFまでって書いてある。もっとパーティ人数がいれば、Eランクのクエストも受けられるみたいだけど」

「パーティ人数ねぇ……」

 そうラヴィニアがつぶやいた、そのときだった。

 二人の少女の背後へと、三人の粗野な中年の男性冒険者たちが歩み寄ってきた。
 彼らは少女たちに向かって、こう声をかける。

「よう、可愛らしいお嬢ちゃんたち。冒険者は初めてか?」

「パーティメンバーが必要なら、俺たちのパーティに入れてやってもいいぜ」

「へっへっへ……冒険者について手取り足取り、いろいろと教えてやるよ」

 へらへらと笑ってそう詰め寄ってくる中年冒険者たち。

 それを見たユニスとラヴィニアは、互いに顔を見合わせ、露骨に嫌そうな顔をした。
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