上 下
19 / 22
第2章

第19話

しおりを挟む
 夜中にユキとセシリーを連れて街を出て、ランプの灯りを手に、森の中の指定された広場へと向かう。

 広場にたどり着くと、灯りの焚かれたその場には、三人のチンピラ冒険者のほかにもう一人、大柄なスキンヘッドの斧使いらしき男が待ち構えていた。

 そして──

「……あ、兄貴……来ちまったんすね……悪いっす……うちとしたことが……ちょっと、ドジっちまったっすよ……」

 そう言って力なく笑いかけてくる【プリースト】の少女は、ひどい姿をしていた。

 両手を頭上で組んだ形でロープに縛られて、ギリギリ足が地面につくぐらいに調整され、木に吊るされている。

 いつも彼女が身に着けている純白のローブはずたずたに引き裂かれ、肌や下着が大幅にあらわになっており、さらにその腹部には痛々しい青痣がいくつもできていた。

 彼女の足元の地面には、【破邪の戦鎚】と【ミスリルの鎖帷子】がご丁寧に揃えて置かれている。

 そして彼女の背後には、一人のチンピラ冒険者がついており、短剣を少女の首筋へと突き付けていた。

 現在のルシアは、おそらく「戦闘不能」の状態だ。
 あの短剣で首を切り裂かれれば、その一撃で絶命を余儀なくされるだろう。

 俺とユキ、セシリーが、男たちと対峙する位置まで行くと、腕を組んで立っていたスキンヘッドの大男が威嚇するように一歩前に出てくる。

「よう、優男。テメェがクリードって野郎だな。──おおっと、迂闊に動くなよ。この女の命が惜しければな」

 そんな露骨な悪党台詞を吐いてくるスキンヘッドの男。

 だが俺は、この男がそうそう侮れる相手でないことを、なんとなくだが察していた。
 少なくとも、第一迷宮クラスの冒険者ではないだろう。

 おそらくは斧使い系のパワー型職業【ウォーリア】──いや、その上級職である【ウォーロード】の可能性が高い。

 俺はスキンヘッドの男を警戒しながら、言葉を返す。

「メモには『リベンジマッチ』って書いてあったんだがな。人質を取って無抵抗の相手をなぶり殺しってのが、あんたたちの言うリベンジマッチか?」

「くくくっ、まあな。俺様にとってはリベンジも何もないが、なんにせよ勝つことがすべてよ。だが完全に無抵抗というのも面白くねぇ。だからこうしようぜ。──優男、テメェは装備している武器を全部捨てろ。素手で俺と戦って、それでテメェが俺に勝てたら、この女は返してやるよ。──もちろん、俺様はこの斧を使うがなぁ」

 スキンヘッドの男は、背中にくくり付けられていた大型の戦斧を手に取り、肩に担ぐ。

 どうやら俺を素手にさせたうえで、向こうさんは武器を使うつもりのようだ。
 なかなか見事な下衆っぷりだ。

「そうかい、そりゃあなんとも大盤振る舞いだな。ちなみにあんた、見た感じ【ウォーロード】だろ? レベルはいくつだよ」

「30だ。そう言うテメェはどうなんだ、【シーフ】の優男さんよぉ」

「こっちも30だ。互角だな」

「はっ、レベルだけならなぁ! だがこっちは戦闘の専門職で、テメェは探索職。そして俺は上級職で、テメェは下級職だ。互角なもんかよ」

「その上に武器まで捨てろってか。ずいぶんと臆病なこった」

「……チッ。口の利き方には気を付けろよ。こっちには人質がいるってことを忘れるな」

「はいはい、わかったよ。俺が悪かった」

 俺はお手上げというように両手を上げてから、腰に提げている四本の短剣を引き抜いて、一本ずつ近くの太い木の幹に投げつけていく。

 四本の短剣は、すべて木の幹に突き刺さり、俺の手元には一切の武器がなくなった。

「……本当にそれで全部だろうな?」

「疑り深いなやつだな。なんなら俺も裸にひん剥いて、身体チェックでもしてみるか?」

「いや、まあいい。仮に隠し持っていたとしても、その程度で俺様が負けるはずがないからな」

 先ほどの臆病発言が効いたのか、それ以上の要求はしてこなかった。
 まあ実際にも、ほかに「武器」は持っていないんだが。

「……あ、兄貴……ダメっすよ……うちのことは、どうなってもいいから……こいつらのこと、コテンパンにしてやってほしいっす……どうせこいつら、約束を守るつもりなんて……」

 ルシアがそう訴えかけてくるが、そんなわけにもいかない。
 俺はルシアに向かって首を横に振る。

「大丈夫だ、ルシア。素手でもこいつに勝って、すぐにお前を助けてやるから。大船に乗ったつもりで待ってろ」

「あ、兄貴……そんな格好つけてる場合じゃ……」

 俺はなおも食い下がってくるルシアに、優しく微笑みかけてやる。

 それを見たスキンヘッドは、ペッと地面に唾を吐いた。

「おう、優男。そこまで言うんだったら見せてくれよ。テメェが素手でも俺様に勝てるってところをよ?」

「ああいいぜ。いつでも見せてやるから、さっさとかかってこいよ」

 俺は普段通りに二本の短剣を構えるような姿勢でこぶしを握り、身を低くしてスキンヘッドの男の前に立つ。

 スキンヘッドの男は、再び不愉快そうに唾を吐く。

「ちっ、どこまでもスカした野郎だ。──おい、テメェら二人は、そっちの女二人を捕まえとけ。駆け出し冒険者の相手ができねぇとは言わせねぇぞ」

「「も、もちろんです、ゴンザレスさん!」」

 チンピラ冒険者たちのうち、ルシアに短剣を突き付けているのと別の二人が、ユキとセシリー、二人の少女たちの前に立つ。

 俺は二人の連れに声をかける。

「ユキ、セシリー。さすがに援護には行くのは難しい。そっちはそっちで何とかしてくれ」

「はい、先輩! ──ボクたちも、こいつらには借りがありますから」

「ええ。クリードさえうまくやってくれれば、こっちはどうにかしてみせるわ」

 ユキとセシリーは、精悍な顔つきで敵のほうを向いて、構えを取る。

 セシリーが言うとおり、彼女たちのほうはおそらくどうにかなるだろう。

 向こうさんはそんなことは知らないだろうが、今やユキもセシリーも11レベルまでレベルアップしている。

 それに加えて、強力な武具の力もある。
 特にセシリーの【アイスジャベリン】の攻撃力は、11レベル【ウィザード】の水準からは大きくかけ離れているほどだ。

 純粋な実力勝負なら、あのチンピラ冒険者たちを相手にして、負けることはまずないはずだ。

 問題は──人質に取られているルシア。
 あれをどうにかすることが、最大の課題だ。

 俺は木の幹に投げつけた短剣を、敵に気付かれないよう視界に収める。
 加えて、ルシアの首に短剣を当てている、チンピラ冒険者の動き。

(60%……いや、50%だな)

 俺は方針を固めると、スキンヘッドの男を待ち構える。

 スキンヘッドの男は、大斧を頭上で一回軽々と振り回してから、俺に向かって悠然と歩み寄ってくる。

「さあ、パーティを始めるとしようぜ、優男。──少しは楽しませてくれよなあっ!」

 男は武器の間合いに入った途端、暴風のような勢いで斧を振り下ろしてきた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

異世界をスキルブックと共に生きていく

大森 万丈
ファンタジー
神様に頼まれてユニークスキル「スキルブック」と「神の幸運」を持ち異世界に転移したのだが転移した先は海辺だった。見渡しても海と森しかない。「最初からサバイバルなんて難易度高すぎだろ・・今着てる服以外何も持ってないし絶対幸運働いてないよこれ、これからどうしよう・・・」これは地球で平凡に暮らしていた佐藤 健吾が死後神様の依頼により異世界に転生し神より授かったユニークスキル「スキルブック」を駆使し、仲間を増やしながら気ままに異世界で暮らしていく話です。神様に貰った幸運は相変わらず仕事をしません。のんびり書いていきます。読んで頂けると幸いです。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...