異世界でレア職業「魔法少女」になった俺がそれでもめげずに世界最強のヒーローを目指す話

いかぽん

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第1話

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 幼い頃は、特撮モノや少年漫画のヒーローに憧れていた。

 悪いやつらをバッタバッタとなぎ倒し、虐げられた人々を救い出す。
 大きくなったらそういうものになりたいと、子供時分の俺は本気でそう思っていたようだ。

 しかし年齢を重ね、高校二年生にもなろうという今では、さすがの俺にも現実が見えていた。

 この世には正義のヒーローなんてものはいないし、必要もない。

 悪が存在するとすれば、それはブラック企業の経営者だったり、悪徳政治家だったりして。
 そんなものをバッタバッタとなぎ倒しても、刑務所に入れられるだけだ。

 バッタバッタと悪党をなぎ倒すバッタの力を宿したバイク乗りヒーローが現実に存在したとしても、彼が活躍する余地は現実世界には存在しないだろう。

 学校に提出する進路希望の用紙に、シャープペンシルで「ヒーロー」などと戯れに書いてみて、自分で「バカじゃねぇの」と突っ込んで消しゴムで消す、そんな日々。

 進学か、就職か。
 どちらにせよ、サラリーマンとして社会に使い潰されて一生を終える人生に、俺はあまり興味を持てなかった。

 大人にそう言うと、お前はまだ世の中を知らないだけだとか、サラリーマンを舐めるなとかいろいろ言われるのだけど、そういうことじゃないのだ。

 そうして俺は、ゲームや漫画やアニメなどを雑に消費しながら、ただなんとなく高校二年目の初夏を過ごしていた。

 ──だが、そんなある日。
 俺の人生に、大きな転機が訪れた。

 俺が学校帰りの道端を歩いていると、ボール遊びをしていた幼稚園児ぐらいの子供が、不用意に道路に飛び出すのを目撃した。

 そしてそこに、暴走トラックが向かってくる。

 運転手はうつらうつらと居眠りしそうになりながらトラックを運転しているようで、速度を緩める気配もない。

 俺は考える間もなく動いていた。
 子供をかばって、俺はトラックに撥ねられた。

 俺の体はコンクリートの地面に打ちつけられ、口の中では血の味がして──

 どこかから聞こえてくる悲鳴や、救急車のサイレンの音をぼんやりと聞きながら、やがて俺は意識を失った。


 ***


 気が付くと、俺はどこか真っ白な空間にいた。

 壁も空も天井も、いっそ地面すらも存在しない、何もないふわふわとした世界。
 そこに俺はたった一人、浮かんでいた。

 ああ、これが死後の世界というやつなのか──

 漠然とそんなことを思っていると、次には不意に、俺の目の前に神々しいドレスを着た美女が現れた。

 まるで女神のような存在。
 その女神のような何かが、頭の中に直接響くような声で、俺に向かって語り掛けてきた。

神成かみしげ有斗あるとさん、残念ながらあなたは、あなたの世界で命を落としました』

 女神は残酷な事実を突きつけてきた。

 でも俺は、やっぱりそうかと思ったぐらいで、特にショックは受けなかった。
 むしろ最後に子供を救って人生を終えられた分だけ、清々しい気持ちなぐらいだった。

 どっち道、生きていたって、鬱屈とした灰色の人生を送るだけだったのだ。
 最後にヒーローの真似事をできたのだから、上出来だろう。

 俺はそんなことを思っていたのだが──

 次いで女神は、とんでもないことを言ってきた。

『ところで有斗さん、天界規約にはこう記されています。──「暴走トラックから誰かを救って死んだ魂には、チート能力を与えて異世界で第二の人生を送らせること」』

 ……は?
 俺は目が点になった。

「なんすかそれ」

『えーっと、私も下っ端なのでよく分からないですけど、そう書いてあるんです。どうも伝統みたいですねー』

「はあ……。ていうか、女神様にも下っ端とかあるんですか」

『そりゃありますよぅ。上司のハゲの愚痴愚痴言う小言に日々悩まされてるんですから』

「…………」

 よく分からないが、天界とかいう場所もずいぶん世知辛いようだ。
 どこもかしこもだなぁ……。

「で、何でしたっけ。……『異世界』? 『チート能力』?」

『ああ、そうそう。それですよそれ。ちょっと待っててくださいね、今クジを用意しますので』

「クジ」

『はい。チート能力を決めるためのクジ引きです。現代日本で暮らしていた人にいきなり異世界で生きろって言っても無理ゲーなので、ボーナスで特殊能力を与えることになってるんですよ』

 女神の手の中に突如、抱えるほどの大きさの白い箱が現れた。
 箱の横の一面には、手を突っ込めるような大きさの丸い穴が空いている。

『中にボールが入っているので、一個だけ引いてくださいね』

「はあ……」

 俺はなんだか勢いに押されるまま、箱に手を突っ込んだ。
 もうどうとでもなーれ。

 箱の中にはボールがたくさん入っているような感触。
 俺はその中から、一つをつかんで取り出した。

 取り出したボールはキラキラと輝いていて、見ると「魔法少女」という文字が書かれていた。

 ……え、魔法少女?

 何それ。
 ひょっとして俺、残酷物語の世界に送られちゃうの?

 ていうかそれ以前に俺、男子なんだけど。

 低身長で童顔で、女装したら似合いそうって言われるぐらいの中性的な容姿ではあるけど、実際の性別は断固として男だ。

 まあ、あのクジ引きは男女共用で、女性専用のボールとかも入ってたってことなんだろう。
 やっぱり引き直しかな、などと俺が思っていると──

 カランカランと、女神がどこから取り出したのか、金色のベルを鳴らしていた。

「おめでとうございまーす! レア度MAXのSSレア職業『魔法少女』ですよ! 良かったですね、有斗さん!」

 え……?

 待って、何そのノリ。
 クジの引き直しは?

 などと戸惑っていると、今度は俺の手の中のキラキラボールが形状を変えた。
 縦横がスマホサイズの、大きめのトレーディングカードのような形になる。

 ちなみにカードを見ると、小さくて可愛らしい女の子のイラストが描かれていた。

 そのイラストの女の子は、ピンク色の髪を持ち、フリル満載ヒラヒラ衣装を身につけている。

 女の子の顔立ちはそこはかとなく、ほんのちょびっとだけど俺と似ている……かもしれない?

 そしてカードの上部には「魔法少女アルト」と記されていた。

 俺はその名称を見て、少しゾクッとした。

 魔法少女アルト。
 俺の名前は、神成かみしげ有斗あると……。

 っていうことは、この姿は──

 ──いやいやいや、待て待て待て待て!

「おかしいだろ! 俺は男だぞ!」

『んー、大丈夫みたいですよ。魔法少女に変身すると、自動的に女の子の姿に変わるみたいですね』

 女神はまたどこから取り出したのか、一枚の紙を見ていたのだが、それを俺に渡してきた。
 俺はそれをひったくるようにして奪って睨む。

 その紙には、このように記されていた。


 ***


職業「魔法少女」(レア度:★★★★★)

 通常は最弱職「一般人」だが、「変身」をすることによって「魔法少女」になり絶大な力を発揮できる最上級職業。

 具体的には、変身中はMP以外の全能力値が元の値の五倍、強力な専用防具「魔法少女衣装」を標準装備、さらにシークレットスキル【ヒロインズミラクル】を持つ。

 また、デバイス「魔法少女カード」にモンスターを倒して得られる「魔石」を投入することで、【固有武器召喚】【魔法攻撃】【必殺技】【コスチュームチェンジ】などの強力なスキルを購入することができるようになる。

 ただし変身にはMPを1ポイント消費する必要があり、さらに変身した状態で六百秒(十分)が経過するごとに1ポイントのMPを消費する。
 変身状態継続に必要なMPが支払えなくなった場合には、変身状態は自動的に解除される。

 なお変身中は、元の性別に関わりなく可憐な美少女の姿となる。

 弱点:触手。


 ***


 ……待ってほしい。
 ツッコミどころが色々と多すぎる。

 職業とかレア度とかを置いておくとしても、まず「能力値」だの「MP」だの「スキル」だのって何なんだ。

 異世界っていうのはゲーム世界なのか?
 いや最近のアニメとかでは、ゲームっぽくステータスだのなんだのがあるファンタジー異世界モノも多い気はするが……。

 あとデバイス「魔法少女カード」っていうのは、このキラキラボールが変化してできたトレーディングカードみたいなののこと?

 でもって「弱点:触手」ってなんだ。
 嫌な予感しかしない。

 ほかにももうなんか、もうなんかいろいろとおかしい。
 おかしいのだが──

『じゃ、チート能力も決まったところで、異世界に飛ばしますね。あと何か分からないこととかあったら、そのデバイス「魔法少女カード」がスマホみたいに操作できるようになってて、それを見ればいろいろ分かるようになってますから』

「いやいやいや、待って! ちょっと待って! ていうか扱いが雑すぎません!?」

「あ、言語の心配なら不要ですよ。自動翻訳機能が働きますので♪」

「そういうこと言ってんじゃねぇえええええっ!!!」

「……チッ、めんどくさいなぁ。天界も人手不足であとがつかえてるんですよぉ。んじゃいきますね。異世界転移、てーい♪」

「待てやこらぁああああっ! ていうかお前今舌打ちしたろ!? めんどくさいって言ったろ!? 人の人生かかってんだぞ! 真面目にやれ──」

 俺がみなまで抗議し終えるよりも早く。
 俺は女神が放った光に包み込まれて、異世界へとふっ飛ばされた。

 チート能力は大当たりと言っていたが、担当した女神は大外れだったということか。
 ちくしょう、訴えてやる。
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