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第16章 摩天楼の聖女
第296話 情報確認と特殊部隊
しおりを挟む何かが起こるのは間違いない。
けど、今のところ何も起こらない。……それが逆に不気味。
なんかどうしようもないこと言ってる自覚はあるものの……焦らされてる気分になるというか、さっさと終わらせたいというか……いや、やっぱこういうのは焦ってもしかたないんだよな。
というか、何も起こらないのが最善だと言える。……望みないけど。
『シャルム・レル・ナーヴァ』も、日程上の折り返し地点を過ぎ、しかし未だに、先日の『テロリスト壊滅』以降の大きな動きはない。義賊も、『蒼炎』も。
そのせいか、『もう安全だ』っていう空気が順調に蔓延しだして、人々の……特に、お偉いさんたちの気が緩みつつあるようだ。式典に出席してると、日に日に調子に乗る奴が増えてきているのを空気で感じる。
もっとも、それに対して……繰り返すが、僕たちに何かできることがあるでもなし。
こうして、何かが実際に起こった時にそなえて英気を養っているくらいのことしかできない……という名目で、今僕は、リンスに御呼ばれして部屋でお茶とお菓子を御馳走になっています。
……ん、美味い。やっぱ高級な茶葉ってのは相応に美味いんだな。
あんまし紅茶好きじゃなかったんだけど……これは普通に行けるかも。食わず嫌いは損だな。
「そう言っていただけて私も嬉しいですわ。ミナト様は甘いお菓子が好きだとのことでしたから、それに合いそうなものを選んだんです。遠慮なく何倍でもお代わりしてくださいね」
と、リンスが言ったそばから、空になった僕のカップに、メイドの人が紅茶を注ぐ。
透き通った赤い色。湯気と一緒にいい香りが立ち上り、目にも鼻にも美味しい……って感じ。
「レジーナさんはどうなさいますか?」
「あたしも……じゃあ、もらおうかな。ありがとう」
と、別なソファに座っているレジーナも、同じメイドの人からお茶をもらっていた。
と同時に、別のメイドが、少なくなったお茶菓子の皿を新しいものに交換する。それも、さっきから食べてるけど美味しいのばっかりで……いやあ、幸せ。
「んー……こうしてると、色んな意味でアレな場所に来てるってのが嘘みたいにゆっくりできるよね。まあ、だからって油断すると危ないんだろうけど」
「ですが、今この時くらいは気を休めましょう。私たちもミナト様も、気を張ってばかりでは疲れてしまいますから。……ルビスさんたちも来られればよかったのですが」
と、このお茶会の主催者であるリンスが、残念そうに言う。
『大変な式典出席の合間に休息を』ってことで企画されたコレには、僕とレジーナ、リンスだけが参加している。
他の、同じような立場の人たち……エルビス王子、ルビス、オリビアちゃんは、仕事があってこれなかった。何でも、他の国の施設の人と外交絡みで話したりするんだって。
……仕事の最中に別の仕事してるわけか。王族貴族ってホントに政治家気質なんだな。
リンスとレジーナは、片や今まで長期療養中だった身、片や要人としては新米の元踊り子……って感じだから、そこまでみっちりスケジュールとかはつめていない。
それが幸いして、このお茶会を開催できたわけだけど。
ちなみに僕も、ただ単に暇だったからだ。
エルクも呼びたかったんだけど……あっちはあっちで予定があった。なんか、たまに女の子だけで買い物に行くとかで、シェリーとターニャちゃんに引っ張り出されてった。ちょっと疎外感。
「ホント、このまま何もなく終わってくれれば万々歳なんだけどなー……なんだってこんな時期に、テロなんて計画してくれてるんだか……」
「そうですね……ミナト様、厚かましいようですが、もしもの時は……よろしくお願いいたします。ドレーク達も全力を尽くすとは思いますが、それなりに私たちも、守られる側の人数が多いですし……テロは、いつ何が起こるかわからないのが一番怖い、と、お姉さまも言っていました」
「不意打ち、買収、篭絡、脅迫、暗殺……基本、何でもありの集団だからね……」
……最近まで似たような連中に付きまとわれていたからだろう、レジーナの表情に、ちょっとだけ影がさした。当時の気苦労その他を思い出してるのかもしれない。
僕もよーく覚えてる。僕もレジーナも……あんまり自覚はないけど、旧『ベイオリア』の王族の生き残りとして、何か色々押し付けられそうになったり、こっちの都合も考えずに色々と……あー、思い出したらちょっとイライラしてきた。やめよう、折角のお茶がまずくなる。
テロリストを自称してこそいなかったが、そんなもんが慰めにはならないくらいに、十分迷惑で身勝手な連中だったからな……だからこそ遠慮せず木端微塵にしたけど。
もう関わりたくもない。
……けど今現在、もう1人……その『旧ベイオリア王家』の縁で関わってくるかもしれないのがいるんだよな……そっちの方も、ちょっとばかり面倒そうというか、何というか。
……まあ、いざとなれば……いや、でも多分大丈夫だとは思うんだけど。
亡国の王族なんて、あってないような肩書だし。少なくとも、絶対に必要に思うような、何が何でもほしいと思うようなもんでもない。むしろ邪魔……いかんいかん、また思考が。
ともあれ、結局はその都度その都度トラブルに対応していくしかないんだよな。
何だかんだで、一旦そっちに話題が行くと、意識して戻そうとしてもちらちらそういう話になってしまうもので……結局開き直って、もしもが起こった時にはどうするかとか、避難誘導計画の確認会議みたいなのを途中でやることになった。
それも、適宜雑談や冗談を挟みつつ、お茶とお菓子をつまみながら楽しくやれたのは幸いだったけど。
そしてしばらくした時のこと。
隣に控えていたメイドさんの1人……濃い藍色の髪と、背が高くグラマラスな体つきが特徴的な、大人の女……って感じのその人が、すすっ、とリンスのそばに寄って言った。
「リンスレット殿下。そろそろ次のご予定のお時間です、ご準備を……」
「! まあ、もうですか? はぁ……楽しい時間が過ぎるのは本当に早いですね……」
時間を確認して驚きつつ、残念そうにしていたリンスだが、さすがに仕事をないがしろにするわけにもいかないらしい。残念だけど、ここで中座することになった。
僕ら2人には、まだお菓子もあるし、どうぞ心行くまでごゆっくり……と、言い残して、メイドの人と一緒に出ていった。
部屋に残されたのは、僕とレジーナ。そして、もう1人のメイドのみ。
こちらも、さっき退出した人に負けず劣らず、女性として魅力的な体つきに……ストレートの長い金髪、整ったかわいらしい顔が特徴的だ。動作の1つ1つも、洗練されていて無駄がない。
……しかしまあ、お茶会の主催者が退出しちゃったわけだし、僕らだけ残っててもな……コレ飲んだら、ぼちぼち僕らも部屋に戻った方がいいだろう。
レジーナも同意見みたいだし、ささっと…………ああでも、その前に。
「ねえ、ちょっといいかな?」
「はい、何でしょうか?」
と、僕は……横に控えていた、部屋に残っている金髪のメイドさんに声をかけた。
微笑(営業スマイル)を浮かべたまま、ゆったりとした落ち着いた物腰で聞き返してくる。
「念のため、今この聖都、ないし僕らの周辺で起こってることについて、何か気になる、覚えておいた方がいいことがあれば聞きたいんだけど。ドレーク兄さんに許可はとってあるから」
「へ?」
何でメイドにそんなこと聞いてるの? とでも言いたげな、きょとんとした表情になるレジーナ。しかし当のメイドさんはというと、表情を全く変えず、
「防衛・警戒関係の情報開示でございますね、承知いたしました。書面の資料か、メモをご用意いたしますか?」
「いや、大丈夫。……っていうか、調子狂うからもっと楽な感じでいいよ……マリーベル」
そう僕が言うと、メイドさんは今度は……
「ホント? じゃあ……お言葉に甘えようかな」
営業スマイルを崩し……にかっ、と、自然な感じの笑みに変わった。
普通の女の子が、普通の友達とか顔見知りに向ける類の笑顔に。
……まあ、実際顔見知りで、友人って言ってもいいくらいの関係なんだけど。
とりあえず、ちょっと訳が分からず混乱しているレジーナにもきちんと説明するけど……今、僕らの目の前でメイド服を着て立っているこの少女の名は、マリーベル・パーシマン。
今回の旅に同行してきた、ネスティア王室付きのエリートメイド……ではなく、
ネスティア王国軍所属、特殊部隊『タランテラ』所属の、れっきとした軍人である。
以前、例によって第一王女様からの無茶ぶりで、ある依頼を受けた時に知り合った友人で……その依頼絡みで、模擬戦だけど一戦交えたこともあったりする。
それも込みで、あの第一王女様の差し金だったわけだけど。
訓練合宿みたいなのに参加したんだけど、そこで他の『士官候補生』達に発破かける意味での起爆剤と、同時に僕の実力を正確に測るためのバロメーターとして、彼女達『タランテラ』を動かし、模擬戦を通してぶつかり合わせた、って形だ。
ちょっと前のことになるんだが……そう、『ダモクレス』から招待状が来た時だ。
あの時、話に上がったと思うんだけど、ここでの生活において、リンスをはじめとした要人の安全を確保するため、下準備や事前調査とかを兼ねて、1か月以上前から、ネスティア軍の特殊部隊みたいなのがすでに現地入りしてた、って言ってたのを覚えているだろうか?
その、潜入して色々やっていた部隊の1つが、このマリーベルが所属する『タランテラ』だ。
構成員全員が、様々な工作活動に必要なあらゆる技能や知識を修めている。単純な戦闘はもちろん、事務作業、衛生兵、潜入、隠密、サバイバル、拷問、暗殺、ハニートラップ……その他色々、とにかく何でもできる、高い戦闘能力と無類の汎用性を誇る最強の特殊部隊……だそうだ。
その最強部隊の面々に、騙されたり襲われたり色々あったわけだけど――無論、模擬戦や演習の枠内で、だけど――その時に一番仲良くなったのが、このマリーベルだったりする。
演技とか入っていなくても、もともと明るくて開放的な、細かいことは気にしない感じの性格……うちのメンバーで言えば、シェリーに近い感じだ。それもあって……また向こうも、模擬戦やら何やらを通してこっちを気に入ってくれたこともあって、仲良くなった。
『夢魔』という種族のお家芸っていうのもあってか、やたら『誘って』くるような所まで似ている……今のところ、乗ってはいないけど。……本気かどうかわからないし。
うん、そう。今さらっと言ったけども、マリーベルの種族は『夢魔』だ。
僕の母さんと同じ――体質的には僕も同じ、と言えるけど――種族ということもあって、若干親近感を抱いたことも、仲良くなれた一因かもしれない。
で、そのマリーベル……及び、その同僚である『タランテラ』の皆さんが、ここに潜入して下準備その他を行っていた。
否、正確には……今も行っている。リンスや他の要人たちに危害が及ぶような事態にならないかを常に警戒し、情報を集めたり、周囲に気を配ったりしている。こうして、侍従に紛れ込んで。
ちなみに、さっきリンスと一緒に出ていった方のメイドも、同じ『タランテラ』の1人だ。
そして、僕はドレーク兄さんから、必要であれば現地に居るネスティアの戦力を適宜使ったりしていい、って言われてたので、こうして情報提供をお願いした……ってわけだ。
なお、リンスがいなくなってから言い出したのは……せっかく彼女が企画してくれたお茶会の場に、そういう話題を振るのはどうかと思ったから。
直接の主である彼女は、ドレーク兄さん経由でその手の情報はいつでも聞けるだろうし。
「そ、そうだったんだ……特殊部隊か……すごいね。あ、知ってると思うけど、私レジーナね? 私も基本、かたっ苦しいの嫌いだから、普通にしてもらっていいから」
「そう? ありがと、じゃお言葉に甘えて。私はマリーベル。『夢魔族』だよ。よろしく」
そう、軽い感じで話す2人。
どっちも社交的で壁を作らない性格だからだろうな、早くも打ち解けたみたいだ。
「で……ごめんごめん、頼んどいて脱線したけど、情報よろしく」
「はいはーい。えっと……じゃ、この辺の最近の裏市場の動きとかから話そっか」
ソファに腰かけると、膨大な情報の中から、有用そうなのを1つ1つ選んで、マリーベルは話してくれた。レジーナに配慮して、わかりにくい専門用語なんかは極力使わずに。
「現状、武器とか薬品を取り扱う裏市場に大きな動きはないね。ただ、ある程度の伝手をもつ組織なら、そういう動きを極力表に出さないように、業者を抱き込んで直接買い付けたりするから、あんまり参考にはならないけど……逆に、貴金属とか、換金が容易な……蓄財につながるようなものを扱う市場が活性化してるみたい。その理由まではわからないけどね。何か、大きな取引ないし、裏でのお金のやり取りが今後起こるのを察してる……とかかもね、大まかに予想だけど」
「裏組織でヤバそうなのは……いやまあ、そういう組織に大丈夫そうも何もないんだけど、あんまり零細なのとか、小物だったりするのはそれこそ……この国はね、枚挙にいとまがないから。今の時期じゃなくても……年がら年中、不満を持ってる人は多いし。ただ、ミナト君やドレーク総帥が危惧してる『蒼炎』については……さすがに構成員全員、きちんと律してるんだろうね、うかつに情報を漏らしたりするようなこともないみたいで、正直尻尾はつかめてないんだ」
「要注意人物、か……今言った『蒼炎』や、ミナト達が会った『ダモクレス』を除けば、あからさまに犯罪者、っていうのは今のところないかな。まあ、グレーゾーンなのは、貴族やら何やらが私兵として抱え込んでたりするけど。その他だと……変な話、この国の宗教のトップ……『教皇』とか、その1コ下の『枢機卿』とかかな。周辺で黒い噂が絶えないみたいで……奴隷売買の裏業者とつながりがあるとか、若い女の使用人がたびたび行方不明になるとか……ね」
そんな感じで、使えそうな情報から『一応覚えておくか』程度の情報まで、色々。
この他にもいろいろ聞いて、頭に叩き込んで……やっぱりメモもとった。忘れないように。
……つか、最後の話……やっぱりこの国、坊主どもが俗物なんだな。
いや、それ通り越して犯罪に手を染めてる可能性もあるっぽいし……。
隣を見ると、レジーナも呆れていた。
「それと、こないだから話題になってる『義賊』だけど……こちらも動きはないみたいだね。裏でそれらしい金の動きがないから、どこぞの貴族の館に『残り』を回収しに行った、ってこともないみたい。あの一件から、ずっと潜伏してる状態だね」
「そうなのか……まあ、そっちは正直どっちでもいいんだけど」
「あれ、ムカついてたんじゃなかったの?」
と、レジーナ。いつだったかの愚痴を覚えてたらしい。
「まあ、多少ね。でも、さすがに本業の方より優先したり、仕事があるのに横道にそれてまでどうこうしたいってほどじゃないし。もうだいぶ気にしなくなってきてるよ。むしろ、さっさと割り切って仕事に集中するつもりだし。ただ……」
「ただ?」
……今までの経験上、こういう風に考えてる時に限って、向こうの方から積極的に面倒ごとが絡んでくるんだよな……自分から首突っ込まなくても。
気が付いたら巻き込まれてると言うか、一直線に向こうが突っ込んでくるというか。
花の谷の時や、トロンの正義バカ、第一王女様全般、火山島の三つ巴戦争、ブルーベルのルビス暗殺未遂、ローザンパークでの北の国襲来……そして、リアロストピア。
特に最後のがめんどうだったな……なんか知らんけど、僕の出生の秘密とか絡んできて。
「ああー……あれは、うん、確かに……私も当事者だったけど、面倒だったわ……」
「ああ、そっか……それ私も聞いてる。ミナトが王子様だったとはねー、びっくりしたよ」
と、軽い感じで言って来たマリーベルだが、ふと何か思いついたように、
「そういえばさ……何か今、ミナトの生き別れのお兄さん疑惑かかってるって奴が、敵にいるんだよね?」
「ああ、うん……よく知ってるね」
知らされてるんだ? 自分で言うのもなんだけど、結構機密事項っぽい内容だと思うんだけど。
「そりゃ、色々ヤバい場面含めて現場で動く身ですから? 何かそういう場面に出くわした時、とっさの判断とか重要になるじゃん? そこで、情報を隠してたせいで対応を間違えました、とかいう事態を防ぐために、知っておくべき情報はむしろ周知を徹底してるんだよ」
「へえ……そうなんだ。特殊部隊って、情報漏洩対策に、むしろそういう情報とか、知らされてないんじゃないかなー、って思ってたけど」
と、レジーナ。それにマリーベルは、ちっちっちっ、と、『甘いね』とでも言うように笑う。
「そういう面とか懸念、対策も確かに必要だけどね。むしろそういうのに対しては、『話さない』ように徹底的に訓練することで対応するんだよ」
「対尋問訓練、って奴?」
「そうそう。ぶっちゃけ、私や『タランテラ』の同僚なら、軍関係の機密事項は、何されようが死んでも喋らない自信あるよ。苦痛でも、辱めでも、薬でも、魔法でも。訓練したり、耐性つけたりしておいて、いざ敵に捕まった時でも耐え抜いて、ってね。あ、ミナト試してみる?」
「おい」
「あはは、冗談冗談。まあ、冗談じゃなくてもいいんだけど……けどまあぶっちゃけ、そういう時の一番手っ取り早い方法は自決することだけどね。死人に口なし、って言うし。持って帰らなきゃいけないような報告事項でも握ってない限りは、いよいよヤバくなったらそうするかな」
……重いわ、話が。仲のいい奴が自決だの何だの、聞いてて気持ちのいい話じゃないんですけど……レジーナもドン引きしちゃってんじゃん。
しかし、彼女たちの仕事を考えると、全く的外れってわけでもない仮定なんだよな……
……遠隔地からでも、特定の人物を強制的に呼び出せる、呼び戻せるような魔法、あるいはマジックアイテム……作れるか? そうすりゃ、捕虜になってもすぐ取り戻せるし。
それに、今の聞いて逆に考えれば、チラノースからそういう工作員とかが来た時に、自決させる前に口を割らせて情報を取り出すようなもの……ああ、でも自白剤ならもうすでに何種類かあるか。他には、夢魔の能力で頭の中を覗き見るか、あるいは、シャーマンの能力で死者の霊魂から情報を抜き出したりできれば……ははは、『死人に口なし』の格言が消し飛ぶな。
「み、ミナト、出てる。声に出てる」
「あ、あはは……軍事戦略が大規模に書き換わるような提案とか構想をさらっとしないでもらえると、その最前線で働く身としては助かるかなー……」
レジーナとマリーベルが冷汗を流していた。ありゃ、またやっちゃったか。
「ていうか、話がずれちゃってるよ……ええっと、何の話だっけ……ああそうだ。ミナトの生き別れの兄弟(疑惑)が敵に居るって話! だよねマリーベル?」
「そ、そうそう。それ……えっと、真面目な話、どう対応したらいいかな? 一応、今は亡国の王子なわけだし、実質の権力とかはないし、それどころか犯罪組織に所属してるわけだから、普通に犯罪者として対応していいとは思うけど……ミナトとレジーナの親戚でもあるんだよね? 気にしない? 他にも……亡国とはいえ、血筋で後々面倒なことになりそうな懸念とかあるかな?」
と、マリーベルは確認してきた。
もしもって時に……例えば、アレを任務中に捕縛したり、死なせた後に、どこかと国際問題か何かが勃発しないかどうか、可能性を潰しておきたいのか。
「大丈夫……じゃないかな? 利用しそうなのは、あの一件でミナト達が完全に潰しちゃったし……それ以降、私たち『旧ベイオリア』の血筋を狙ってる奴にも心当たりはないよ」
「そうだね……まあ、もし出てきても、その時は今度こそ僕が跡形もなく消し飛ばしてもいいし……ぶっちゃけ、そういう火種になりそうなのはこちらから出向いて消しときたいくらいだし」
「あ、そう……ならいいんだけど、いちおうコレ、渡しとくね」
そう言ってマリーベルがポケットから取り出して渡してきたのは……何だ、笛?
「それ吹くと、普通の人間の可聴域外の、けどすっごく遠くまで届く音が鳴って、私たち『タランテラ』への合図になるんだ。何か用事があったらそれ吹いてくれれば、最寄りの隊員が駆け付けるから。追加で注文とか連絡事項がある時に使って」
なるほど、そりゃ助かる。ありがと。
その後、簡単に情報をまとめた上で、今度こそお茶会は解散になった。
さて、明日はまた、僕らも参加する『式典』だ……残り半分、何事もなく終わって……は、くれないんだろうなあ……。
―――――――――――――――
蛇足を一言。
今回出て来た『マリーベル』及び『特殊部隊タランテラ』は、以前の更新でもちらっとは触れてますが……書籍版で登場させたオリジナルキャラクターになります。
WEB版だけの方にも楽しんでいただけるよう、説明込みで書いてみました。違和感のないように仕上がっていればいいのですが。
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