魔拳のデイドリーマー

osho

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第16章 摩天楼の聖女

第291話 ダモクレスとの会談(後編)

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当然と言えば当然だけれども、その後、荒れた。そりゃもう荒れた。
具体的には、行政サイドやそれに近い立場の面々……フレデリカ姉さんとか、ナナとかが。

そんなことは認められないだの、常軌を逸しているだの、あれやこれや。とりあえず思いつく抗議の文言、罵詈雑言をひたすら並べましたって感じで、バイラスに言っていた。

まあ、聞いた内容が内容だし、無理もない。
さっき……おそらくは歴史上類を見ない規模かつ大胆さのテロ予告されたんだから。

大陸全体でとりあえず騒ぎを起こして、それを乗り越えられるか否かで生かしておく価値を決めます。弱肉強食なので犠牲者が出ても知りません……って。

……ホントに、迷惑この上ない。

けど、コレに関して文句を言うのは違うだろう。
いや、道義的には注意して非難して当然ではあるんだけども……そういう意味じゃなくて、言っても無駄だろう、って意味で。

こいつら、こうまで堂々と言ってきたってことは、ただ自慢しに来たわけじゃないんだろうし。

このことを僕らに話した以上、僕らがコレに対策するために色々動き出すことは確実。ドレーク兄さんっていう、国家中枢にいる軍権力者がいるんだから、なおさらだ。

国に帰ったら、いや今日もう終わったら、手紙出すなり何なりして準備を始めるだろう。何かが起こっても対応できるように……いやむしろ、何も起こさせないように。
テロ対策の厳戒態勢みたくなるんだろうか?

……そして、そんなことは少し考えればわかることで……なのにこうして僕らを呼んでわざわざ言った、ってことは……その理由は、おそらく1つ。
いや、さっき言っていたことからもうちょっと深く読み取れば、2つか。

1つは、こっちが動いても問題ないと確信しているから。
どう対策していても、問題なく計画を実行して、世界を大混乱にたたき落とすことができると確信していて、そしておそらくはその準備も済んでいるから、だろう。

そしてもう1つは……こいつがさっき言ってた『生き残る価値』云々だろう。

さっきの話からして、僕やドレーク兄さんあたりは、『生き残る価値』のある側の存在だ。そして、僕らが特に目をかけて守ろうとする者達もまた、そういう意味でその価値がある存在だ。

その僕らに、バイラスはこう言いたかったんだろう。『来るべきその時のために、自分が助けたい者達だけは救う準備をしておけ』と。

……ここまで僕の想像だけど、大体あってると思う。

そして、僕なんかが想像できたことを、政治という戦場で切磋琢磨してきた兄さんや姉さん達がわからないはずがない。フレデリカ姉さんなんかも、もちろん含めて。

……それなのに、言っても無駄だとわかっててああまで語気を荒げるってことは……言わなきゃ気が済まなかったのかもしれないな。
まあ、無理もないだろうけど。

バイラスはそれに対して、余裕な姿勢で相槌を打ちながら、適宜質問に答えつつ、最後まで笑みを浮かべたまま……むしろ微笑ましいものを見るような感じで対応していた。
暖簾に腕押し、糠に釘、を絵にかいたような光景だった。

そこで、話し疲れたのか、息が切れたフレデリカ姉さんが一拍置いて呼吸を整えているタイミングで……ふいに、こっちを見た。

「さて、このあたりでこちらからも、あといくつかお話させていただきましょうか。まずは……ミナト・キャドリーユさん、あなたに」

「? 何?」

「単刀直入に申し上げます。あなた……我々『ダモクレス財団』に来る気はありませんか?」

「え、絶対ヤダ」

即答。
自分でもびっくりするくらいに、あっさり、反射的に口から出た。

「そうですか、それは残念」

と、思ったら……予想してたんだろうか、向こうもあっさり引き下がった。理由も聞かずに。

「その技術力や開発力を、我々の元で生かしていただければ、お互いにとって有益かと思ったのですがね……まあ、予想はしていましたので、潔く諦めるとしましょう」

そう言いつつも、たいして残念がってなさそうなバイラス。

……ただし、その斜め前方に座っている、黒髪に目つきの悪い、僕と同い年くらいの少年が……さっきまでにましてにらむような感じでこっちを見ているのが気になった。

……気のせいじゃなけりゃ、ちょうど、バイラスが僕を勧誘した直後……僕が断る前から、既にさらにキツくなったような……?

何だろ? 断ったから『生意気な』とか『気に入らない』って思ってるんじゃなくて……もしかして、僕がバイラスに勧誘されたこと自体が気に入らない?
……よくわかんないけど、別にいいか。もともと仲良くする気もない連中だし。

そもそも、今まで散々衝突してきたんだから、デフォルトで敵意持たれててもむしろ当然だし。

「……ちなみに、さっぱり思いつかないんだけど……あんたらのとこに行って僕に有益な点って何なわけ?」

「資金……には困っていないでしょうが、整備された環境下で思う存分に研究を行っていただけますし、その検証から実用、必要ならば量産までのサポート、その成果を狙ってくるよからぬ連中のシャットアウトまで全面的にサポートさせていただくつもりでした。また、いずれ来る『試練』の時、その内容をより効果的なものにすると同時に、より確実かつ精密に制御し、狙った場所、狙った範囲内で狙った通りの効果を出すことができると思っていました。やりすぎてしまわないようにコントロールしたり、その後の復興のバックアップにも使えると見ていましたね」

「……それ自体に賛成できてない以上、有益以前に不毛な……捕らぬ狸の皮算用だけどね。というか、今まさにその『よからぬ連中』が目の前にいるんだけど」

「これは手厳しい。まあ、それはともかく……ミナトさん、あなたにもう1つ、知らせておくことがあります」

? 続けて、僕に? 何だろ。

そう思ったら、今度はウェスカーが小さく手を上げて、

「そこからは私が。ミナト殿……『エータ』という少女を覚えていますか?」

ああ、あの子ね。覚えてるよ。『ブルーベル』と、『ローザンパーク』で会った女の子。確か2回目にあった時は、セイランさんに連れられてきたんだっけ。

なぜか、ゼット……『ディアボロス亜種』と話すことができるという、不思議な能力を持つ女の子だった。何でも、ウェスカー達が『保護』したんだっけか?
そのへんについては、何も聞かされてなかったけども……ひょっとして、今教えてくれるとか?

「ええ……彼女は今も、我々の勢力下にある集落でかくまっているのですが……その彼女の身に起こっていることについて、あなたに教えておこうかと」

そう言ってウェスカーは、ぱちん、と指を鳴らす。
すると、壁際に待機していたボーイの1人がやってきて、ウェスカーから、紙束……資料か何かと思しきものを受け取って、こっちに持ってきた。

「口頭で説明するには少し複雑なので、資料にまとめました。そのままお持ちください」

どうやら、伝えたいことはコレに書かれてるらしい。
僕はそれを受け取ると、ぱらぱらとめくってみて………………

………………思わず、眉間にしわが寄るのがわかった。

「……これ、マジなわけ?」

「ええ、もちろん。こんなことで嘘はつきませんし……これをあなたに公開したのは……」

「僕にもコレを調べてみてほしい、ってわけか」

……なるほど、こりゃ話そうとすると長くなるわ。ややこしいし。

隣でフレデリカ姉さん達が『何だ?』って視線で問いかけてくるものの、今ウェスカーが言ってた通り、口で伝えようとしても難し……くはないけど、ややこしい。
しばし、僕の方でも理解する時間をもらいたい。その後、かみ砕いて説明しよう。

そう伝えて、一応この場は納得してもらう。

「資料はありがたくもらうよ。しかし……何で今日、このタイミングでこれを僕に教えた?」

「このあと必要になるから……とだけ言っておきましょう。もっとも、そのデータをあなたがどう使い、どう生かすかは……あなた次第ですが」

「また意味深なことを……遠回しな物言いじゃなくて、なるたけシンプルにはっきりと、わかりやすく言ってもらいたいもんだよ」

「性分なもので、申し訳ありませんね。それに……先程申し上げました、我々の組織の方針にも関わることですので」

「……なるほど。それに関わってくるわけだ?」

肩をすくめてみせるウェスカー。
やれやれ、これ以上は何も聞き出せなさそうだな。

僕がもらった資料をしまうと、それを待っていたかのようなタイミングで、バイラスが再び口を開いた。

「さて、では最後に私からもう1つ連絡をさせていただきましょう。本日もこの席にご出席いただいておりますが……このたび、こちらのアザー・イルキュラーさんが、我々『ダモクレス財団』のサポートのもと、この国でテロ活動を行うそうですので、あらかじめ連絡しておきます」

そう、あっさりと告げた。まるで、『明日は雨が降るかもしれないから傘を忘れないように』とでも業務連絡するような、軽い感じで。

その内容ももちろんだが……さっきこいつが言っていた『試練』のことがあるので、否応なしにそれに結び付けて考えてしまい、こっちサイドのメンバーの眉間にしわが寄る。

さっそく始める気か、と。

「……それを我々に伝えて、どうしろと言うのだ、アザー?」

「どうしろとも言わんさ。ただ……邪魔をしないでくれれば助かる。何もせず、お前たちが守るべき者たちだけを守って、あとはただ見ていろ」

ドレーク兄さんの問いに、そう返すアザー。
こちらも内容の苛烈さに反して、淡々と、用件だけ告げる感じだ。

「この中で私と戦えるのは、おそらくお前と、次点でそこにいるお前の弟2人だけだろう。だが、いくらお前たちとて、護衛対象を守りながら私と戦えるとは思っていまい?」

「あら、優しいのね……心配するふりして脅してくれるなんて」

と、嫌味を混ぜつつ返すセレナ義姉さん。
しかし、アザーはそれにも特にこたえた様子はなく、

「まさか……先に言っておくが、そんなつもりはない。無関係の者達を……少なくとも、意図して巻き込んだり、人質にするようなまねはな。ただ、そのために過剰に配慮するつもりもないだけだ。具体的に言えば……お前達がこちらに構わず、職務に専念すれば、守りたい者達を無事に守ることは可能だろう」

なるほど、余計な手出しはしないで、王族たちだけ守ってろ、と。

話はここまで、と言わんばかりに、言いたいことを言って沈黙してしまったアザー。
ドレーク兄さんは静かに睨みつけるものの、それでどうにかなるようすもない。

結局これ以上この場が動くことはなく、その日はもうお開きに……なるかと思われた、その時。


――――ジリリリリ……!


「「「!」」」

突然、そんな音が鳴り響いて……ってあれ? 僕のスマホか?

「あー、ちょっと電話失礼」

そう断って――言ってから『電話とか言ってもわかんないだろうな』って気づいたけど――画面を確認すると、師匠だった。

「はいもしもし? …………え、マジすか? はい、はい……わかりました。すぐ戻ります。じゃあ、はい、失礼します」

ピッ、と通話を切ると同時に、ドレーク兄さんが訪ねて来た。
通話中の僕の態度や、最後の『すぐ帰る』言葉から、何かあったと見たんだろう。……実際そうだし。

「うん、ごめんだけど今日もうこれで僕おいとまするから。急用入った……っていうか、ひょっとしてこれも、おたくらが何かやったの?」

「はい?」

そう聞き返してくるバイラスは、何というか……本気で不思議がっているように見えた。あれ、違うの?

……じゃあ、これ、ホントに別件?

「ちょっとミナト、何かあったの? クローナさん、何て?」

「あー、うん。いや、何かさ……」

一拍。



「式典会場に襲撃があったらしくて……例の『義賊』が現れたって」



「「「は?」」」



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