魔拳のデイドリーマー

osho

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12巻

12-3

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 早速、この『否常識』なトレーニング器具を見て、少しの間、唖然としていた母さん。
 しかし、すぐに気を取り直して、私もやってみたい! と言い出した。まるで子供みたいだ。
 とりあえず空いているランニングマシンまで母さんを案内する。
 そして操作方法なんかを説明しながらコースを設定して、母さんに体験してもらうことにした。

「初めてだけど、母さんだし……そうだな……速さと傾斜と地面の状態はけっこうキツめでも問題ないよね。他にオプションで障害物とか設定できるけど、どうする?」
「任せるわ」
「りょーかい」

 じゃ、僕がいつもやってるコースでいくとするか。
 走行時速四十キロメートル、傾斜が変化する登り・下り複合コース。
 オプションの障害物として、向かい風と落石と落とし穴と地雷トラップ。
 擬似的な高温多湿環境と高重力、それに低酸素も設定しておこう。
 まあ、母さんだし、大丈夫だろう……多分。
 ちょっとだけ不安に思いつつ設定してみた結果。
 当たり前のように大丈夫だった。
 最初のうちは、さすがの母さんもびっくりして戸惑っていたけれど、要領を掴んでからは随分と楽しそうに走っていた。
 常人なら間違いなく一秒と耐えられないであろう過酷な環境下なのに……さすがである。


 ☆☆☆


 今紹介したランニングマシンの他にも、このトレーニングルームには身体能力の鍛錬を目的とした、色々なトレーニング器具が設置してある。
 もれなく『否常識』な仕様だけど。
 さらに、誰もが共通してやるような基本的な設備だけでなく、各自の能力や目的に合わせたメニューをこなすための設備も備え付けてあるのだ。
 まあ、『邪香猫』メンバーのバトルスタイルをかなり大雑把に分類しても、接近戦か遠距離戦かでスタイルが分かれるし。
 さらに厳密に分ければ、同じ接近戦スタイルでもその中身は違ったりする。
 例えば、ヒットアンドアウェイのエルク、遊撃・奇襲・奇策メインのザリー、力わざで全部押し切るセレナ義姉さん、そしてそれら全部ができるシェリーって感じ。
 こういう風に戦い方が違えば、必要なトレーニングの内容も変わるのは当然だ。
 なんてことを簡単に母さんに説明していると、エルク達が基礎鍛錬を終えて各自のメニューに移っていった。
 ちょうどいいので、さっきと同じくそれぞれのトレーニングを見ていこう。
 エルクがいるのは、師匠の家にあったスライムタイルが設置された大きな運動場の一角。
 この部屋は接近戦スタイルを得意とするメンバーもよく使っている。
 主にエルクやザリー、そしてたまにシェリーも。
 部屋の区画は、約十メートル四方くらい。
 決して広いとはいえないが、このトレーニングは動き回る訳ではないので充分なサイズ。
 この部屋のトレーニング内容は、床から湧いて出てくる球型のターゲットを素早く発見して壊すというもの。かなり短いスパンで複数のターゲットが発生し、それぞれに適した方法で攻撃しないと壊せない仕様だ。
 例えば、近寄ると壊す前に消えちゃうものや、魔法が効かないもの、体当たりや魔力弾で向こうから攻撃してくるものがある。
 さらには物理攻撃じゃないと壊せないとか、魔法じゃないとダメみたいな感じでターゲットの耐性も様々。
 こういった違いを瞬時に見極めて対応するのが、このトレーニングでは肝要と言える。
 単純にターゲットを発見して攻撃するだけでなく、どのような手段が最適なのかを選択する判断力も養われる。
 つまり体と思考、それぞれの瞬発力を鍛えることができる訓練なのだ。
 次にシェリーを探してみると、彼女はエルクが訓練している部屋から少し離れた場所でトレーニングをしていた。
 この部屋の特徴は、スライムタイルの真骨頂である『擬態モンスター製造』の機能が使える点にある。
 床に敷き詰められたスライムタイルは、師匠に材料を分けてもらって作ったんだけど、師匠の家にあったものとは、魔物の生み出し方が微妙に違う。
 師匠の家にあるスライムタイルは、エサと呼ばれるゲル状の物質を使って、魔物を生み出す。
 このエサとタイルの生体機能が組み合わさって、魔物を生み出す仕組みになっているのだ。
 ただ、面倒なことに魔物ごとに必要とするエサが違うので、生み出したい魔物の種類に合わせてエサを調合する必要がある。
 一方、この船に貼られているスライムタイルは、モンスターを生み出す上でエサを準備する必要がない。
 部屋の壁に設置してあるコントロールパネルを操作して魔物を選び、床のタイルに指令を出すことによって、魔物を作り出す。
 このパネルには魔物のデータがあらかじめ登録されており、今のところ、師匠のところで戦った魔物と師匠の家の周りに棲息している魔物、『黄泉の柱』にいた魔物、そしてミシェル兄さんが製造できるアンデッドを敵として呼び出せる。
 ここを操作して選択すれば、わざわざ種類別の『エサ』を作る必要もない訳だ。
 ちなみに製造のためのエネルギーは、別室にある反応炉から供給されている。
 反応炉に特殊な魔法薬と触媒を大量に入れて反応・燃焼させることで、スライムタイルに与えるエネルギーができるのだ。
 また、依頼で狩った魔物の死骸しがいや加工した素材の余りなんかをぶち込んでおくと、それも全部煮溶かしてエネルギーを抽出してくれる。
 この死骸や余った素材は、魔法薬よりもちょっと効率は悪いけど不要物の有効利用になるので、よくお世話になっている。
 つまり、この船と師匠の家に設置してあるスライムタイルの一番の違いは、エネルギーと魔物の情報を別口で用意・供給している点なのだ。
 ついでに、エネルギーは普段からたくわえられるので、好きな時に魔物の種類を選ぶだけですぐに使える。


 さて、長々と説明してしまったが、実際のトレーニングを見てみると……。
 今まさに、シェリーがこの機能を使って『デスジェネラル』を作り出して戦っている。
 しかも、訓練用に僕が作った『持っているだけでガンガン魔力を消費する特殊な剣』を使って。
 シェリーはその状態でも危なげなく立ち回り、『デスジェネラル』相手にトレーニング開始から今に至るまでずっと優勢を保っている。
 さほど時間もかけず、最後の一太刀で『デスジェネラル』を横一文字にぎ払い、腰から上を切り飛ばした。
 そしておまけとばかりに、空中に舞った上半身に魔力をがっつり込めた刃でトドメの一撃を入れ、粉々にする。
 一応補足しておくと、『デスジェネラル』は戦闘能力AAA。熟練の騎士レベルの技量とアンデッド系屈指のりょりょく・魔力を持つ魔物だ。
 いつもトレーニングで戦っているので、ある程度慣れているのだろうが、オリジナルに限りなく近いレベルで擬態・再現したはずのAAAクラスを軽々と倒している。
 ……こりゃあもしかすると、近いうちにシェリーもSランクに上がるかもしれない。
 ちなみに、この擬態モンスターを使った戦闘訓練には、もうちょっとするとエルクも加わる。
 エルクの場合はさっきの『ターゲット』で肩慣らししてから、こっちに来るっていうステップで訓練を進めているようだ。
 最後にナナを見てみよう。
 彼女は、このスライムタイルが貼られている場所の隣にある部屋にいる。
 今日に限らずナナが訓練でいつも利用するこの部屋は、空間歪曲を使っているのでかなり広い。
 というか、縦に長い。奥行きが凄いことになっている。
 この部屋でできるトレーニングは狙撃訓練である。
 いつもナナが使っている『ワルサー』や、こないだ師匠の家で作った――ショットガン型、マグナム型、スナイパーライフル型、ロケットランチャー型などの魔法発動体を用いて、中距離から遠距離のトレーニングを行うためのスペース。
 トレーニングの内容はいわゆるクレー射撃みたいな感じで、部屋の奥に出現するターゲットを撃ち抜くというもの。
 もちろん、そのターゲットの性質も変えられる。
 動いて避けるタイプとか打ち返してくるタイプみたいに、訓練したい内容に合わせて選べるのだ。

「こりゃ……すごいわ」

 三者三様のトレーニングを見学していた母さんは、随分と感心していた。
 恐らく三人の磨き上げられた技量とこの船のシステムの両方に、だろう。

「よくできているわね……AAAランクまでの魔物なら何でも生み出せるの?」
「登録した魔物に限るけどね。でもどっちみち、母さんの訓練には向かないと思うよ」

 母さんにとって、AAAランクなんてワンパンで倒せるレベルだし。

「ま、それはそうね。見ている分には面白いけど」

 そんなことを言いつつ、母さんはスライムタイルの生み出したモンスターといつもの感じで戦うことになった。
 けれどその前に、他のトレーニング設備も体験してみたいそうなので、設置してあるものを一通り説明しつつ、試してもらうことにした。
 ここにある筋トレ器具各種は、あくまで身体機能を鍛えるためのもの。
 体を動かして負荷をかけるだけっていう作業に近いから、母さんでもやる意義はあるだろう。
 一方、戦闘式のトレーニングとなれば、百五十年以上もの膨大ぼうだいな戦闘経験を有している――しかもその間ずっと名実ともに世界最強の座に君臨してきた――この人では、今更AAA程度の魔物なんて相手にならないだろう。
 なりえない……なるはずがない、なってたまるか。
 母さんが戦闘式のトレーニングなんてやろうとしたら、それこそ『女楼蜘蛛』のメンバーあたりに頼むくらいしか方法はなさそうな気がする。
 ……今思えば、洋館にいた頃から母さんが自分のための訓練をしている風景は見たことがないなあ。
 やっぱりあれだろうか? 全てを極限まで突き詰めた結果、もはや、鍛える必要や余地すらなくなった、みたいな?
 いや、でも……戦闘スキルとか魔法の知識ならともかく、筋力はどれだけ強くなっていても、継続して使わなきゃ落ちていくもんだろうし……そのへんは多分、この『否常識』のかたまりたる母でも、一般人と違いはないはず……だと、思いたい……。
 繰り返しになるが、母さんについては僕と一緒にやっていたトレーニング以外では……それこそ、筋トレですら、しているのを見た記憶がない。
 母さんの体には、無駄な脂肪なんぞ全く付いておらず――胸部は例外だけど――しなやかで引き締まった魅力的なスタイルである。
 むしろ、全体的に線が細く、一見するとはかなげで、強く握れば折れてしまいそうにすら思える。
 少なくとも、見た目だけで判断すれば運動神経は良さそうに見えても、力強いって印象は皆無かいむだ。
 しかしその実態は、超が五~六個くらいつくほどに高性能な筋肉を持っており、魔力を使って身体能力を強化せずとも、上位の魔物を軽くほふれるレベルである。
 筋力、びんしょう性、持久力、耐久力……全てが規格外のはがね……いや超合金の肉体と言えよう。
 こうした諸々の『否常識』は、何かの技能による産物ではない。
 嘘偽りなく母さん自身の素の能力であり、たゆまぬ研鑽けんさんつちかわれてきた純粋な身体能力なのだ。
 しかし母さんが一体どうやって体を維持しているのかってのは、長年の疑問の一つである。
 まあ『エレメンタルブラッド』を開発して完成させた今だから、ある程度の推測はできる。
『エレメンタルブラッド』には、魔力を使って筋肉に刺激を与えることで擬似的に負荷を与えて、筋肉その他の肉体機能を衰えにくくする作用がある。
 つまり、トレーニングの代わりに、魔力を用いて継続的に肉体に負荷をかけ、衰えを防いできたのではないかと。
 とはいえ完全に防ぐのは不可能だろうし、そもそも僕が『エレメンタルブラッド』を作る前から、母さんの体は完成されていた。
 もしかして、特殊なトレーニングのやり方でもあるんだろうか。
 聞いてみようかな……と思ったその時、トレーニングルームの入り口から、カァァーンという甲高い音とともに大きな声が響き渡った。

「トレーニングに熱が入っているところ悪いが、そろそろ切り上げてくれ。朝飯ができた。冷めるぞ」

 視線を向けるとそこには、中華鍋っぽいものと鉄製のおたまを打ち付けて鳴らしている、エプロン姿のシェーンが立っていた。
 ああ、もう朝食の時間か。
 しゃーない……後で聞こ。


 ☆☆☆


 朝食を済ませると『邪香猫』は自由時間となる。
 この自由時間は『邪香猫』としてチームで動く予定がなければ、メンバー各自がやりたいこと、もしくはやらないといけないことを進める時間だ。
 これまでのメンバーの過ごし方を簡単に説明しておこう。
 まず、エルクはこの時間に副リーダーや会計係としての事務作業をやっていた。
 経費の精算とか、受けた依頼の収益、あるいは今後の予算の見立ても進めていたかな。
 そんでコレっていう仕事がなければ、読書とか武器・道具の手入れをしたり、部屋でゆったりくつろいだり、僕と一緒になっていちゃついたり――例えば、膝枕とか――していた。
 ザリーは大抵、船から姿を消してしまう。情報屋としての調査活動とかあるんだろう。
 たまに残っていたりもするんだけど、そういう時は大概、メンバーに用があるか、情報屋稼業で仕入れた情報を皆に報告するか、だ。
 シェリーはこれといって決まり事みたいなものはないみたい。買い物や散歩に行くこともあれば、体を動かし足りず、またトレーニングルームに行くこともある。あるいは、僕とエルクと一緒になって、いちゃついたりダラダラしたり。
 最近はターニャちゃんとガールズトークに花を咲かせたり、一緒に町に繰り出したりしているようだ。
 ナナはこの時間を主に仕事にてている。『邪香猫』の事務担当っていうか、なんか最近は僕の秘書みたいな感じの立ち位置になっている彼女には、スケジュール管理や様々な事務手続きをお願いしていた。もちろん、合間合間に休憩は取ってもらっている。
 あと最近忘れがちだけど、あくまで彼女の所属は『マルラス商会』なので、そっちの仕事に向かうこともあれば、監視対象である僕の最近の様子についてノエル姉さんに報告に行っているみたい。
 もっともこれは、ウォルカやその周辺にいる時だけだけどね。
 ミュウはだいたい本を読んでいるか、のんびり寝ているかのどちらか。
 前者の場合は、自身の使える魔法についての勉強を進めたり、『ケルビム族』という種族そのものについての知識を深めたりしている。根が勤勉な彼女らしい。
 後者の場合、普通に部屋のベッドやハンモックで寝てることもあれば、猫に変身してその辺で日向ひなたぼっこをしながら寝ていることもある。たまに、その姿で座っている僕のひざの上に乗っかったりもする。
 ターニャちゃんとシェーンは、それぞれの仕事をしている。
 朝食後の食器洗いやら船内の各部屋の掃除やら。
 二人はそうした雑務をこなして、終わり次第、休みになる。
 そのまま休憩に移ることもあれば、足りない食材や必要な日用品なんかを買い出しに行くこともある。
 最後に僕は、買い物や散歩に行ったり姉さんの商会に顔を出したりすることもあるけど、大抵の場合、二つのパターンになる。
 一つは、ゆったりくつろいで休憩して、時々エルクといちゃつくパターン。
 そしてもう一つ……最近楽しくて仕方ない研究です、はい。
 まあ、ここのところはもっぱら研究しているかな。


 さて、僕と母さんは居住スペースから行くことのできる、僕専用の研究・開発用の部屋ことラボへと続く扉の前にいる。
 この先は、たとえ『邪香猫』のメンバーであっても立ち入り禁止の区域だ。
 理由は簡単……素材はもちろん、薬品とか武器とか、色々と触ると危険な物が沢山あるから。
 このラボ、どうせ僕以外は使わないからって理由で、安全面については全く考慮されていない。
 すぐに思いつくだけでも、うっかり触ると爆発するものがいくつか置いてある。
 しかも……それは安全な方で、部屋によっては有毒物質やら何やらが充満していたり、魔力で汚染されていたりするので、僕以外が入ったら即死する可能性すらある。
『エレメンタルブラッド』のおかげで、僕には毒とか効かないから大丈夫なんだけどね。
 その危ないラボに通じている道の真ん中には、大きな金色のドクロのエンブレムが刻まれたシャッター型の重厚な扉を設置している。
 このドクロ、単なる趣味で付けた飾りではなく、開閉用の仕掛けなのだ。
 ドクロの頭の部分にポンと手を置くと、そこに設置されたセンサーが僕の魔力パターンを読み取る。
 そして、ピカッと一瞬ドクロの目が光るとともに電子音が鳴り響き、第一ロックが解除される。
 続いて、第二ロックでは光っているドクロの目の部分に手首の内側を近づけてかざす。
 この第二ロックに付けられた装置は、僕の血液に流れている魔粒子を調べる。
 血中の魔粒子の魔力パターンが第一ロックで感知したものと同じであれば、第二ロックが解除される。
 魔力パターンだけだと何かの方法で真似されるかもしれないので、ここまで厳重にしてあるのだ。
 最後の第三ロック。ドクロの口が下にスライドし、その中から暗証番号入力用の0から9までのキーボタンが現れる。
 これを使ってパスワードを入力、ちなみに正解は僕の前世の誕生日。
 さらにキーは滅茶苦茶固くしてあり、相当な力を指に込めなければ押すこともままならない。
 しかも制限時間を設定してあるので、時間内に押し終えないと第一ロックからやり直しという鬼畜仕様だ。
 ここまでやって、ようやく全部のロックが解除完了となる。
 後ろから付いて来ている母さんに、ラボへの道のりの厳重さを説明したら、随分と呆れていたけど、この先は本当に僕以外が入ると危ないのでしゃーない。
 それに余計なところや、触られたら本当にまずいものも多々ある。
 なので今やっている母さんの見学ツアーでも、ラボ内では当たりさわりのない場所に限定したコースにする予定だ。

「んー……何か入った途端、あちらこちらに面白そうなもの……もしくはよくわからないものが散乱してるわね。……これって触ったらマズいんでしょ?」
「うん、マジでやめてね。勝手に触って何か壊したら多分……僕キレるから。およそ身内に対してするもんじゃないレベルのキレ方をすると思うよ」
「そ、そう……」

 真顔で母さんにそう告げると、ちょっと冷や汗を流しつつわかってくれた様子。
 よかった……母さんのノリだと、触るなってのは前フリみたいなもんだし、マジで何かいじられたら、どーしようかとちょっとだけ悩んでいた。
 ていうか、おかしな仕草を見せたらかかと落としでも決めて、止めるつもりだったよ。


 そんなこんなで母さんに言い聞かせたので、案内スタート。
 今、僕たちのいるこのラボは、いくつかの部屋に分かれている。
『研究用の部屋』では薬品とかを使って、素材やら何やらの実験・解析を進める。
 ここには多種多様な素材はもちろん、ヤバイ薬品なんかがわんさか置いてある。
『開発用部屋その一』では、簡単なマジックアイテムとかを製作する。
 薬品の入った戸棚や専門的な装置なんかもあるにはあるんだけど、そこまでヤバイものは置いていない。
 やや広い理科準備室みたいな感じだと思ってくれればいい。
 部屋の真ん中には作業用の大きなテーブルが設置してあり、ここでマジックアイテムを作ったり、いじったりする。
 さらに研究日誌とかも同時進行で作成することができるくらいには、安全……とは言い切れないけれど、さっきの『研究用の部屋』よりは随分とマシな部屋である。
『資料部屋』は、読んで字のごとく、資料が積み上げられている。
 それと、師匠の家でコピーさせてもらった魔物やマジックアイテムに関する資料諸々もここに。
 この部屋では日誌の仕上げなんかもできるので、デスクワーク専用の部屋って感じかな。
 ここには薬品や素材、実験器具もないので、ラボの中では最も安全なスペース。
 今回、母さんに見せるのはここまで。
 その他にある二つの部屋は……マジでヤバイので無理。
 二つのうち一つである『保管庫』は、これまで集めてきた素材や薬品なんかが仕舞しまわれている。
 一応、危なくないものと危ないもの、みたいな感じで整理はされているけど、扱い方をきっちり熟知している人間じゃないと危険なのは間違いない。
 そして、もう一つが……『開発用部屋その二』。
 この部屋はさらにいくつかの小部屋に分かれていて、開発のジャンルによって使い分けてるんだけど……どの部屋も絶対に僕以外には入らせることはできないし、部屋の中の様子についても人を選ばなければ、話すことすらできない状態である。
 端的に言えば、僕でも『ヤバい』と言わざるをえないレベルの『否常識』な何かを作り出す場所。
 それは魔法なり、武器なり、マジックアイテムなり。
 今まさに検討している魔法技術は、ちょっと情報を漏洩させるだけで大都市……下手したら国レベルが混乱に巻き込まれる可能性がある。
 部屋のすみに置いてあるマジックアイテムは、外に出したらたちまち経済を混乱させるだろうし、最悪の場合、小国くらいならまたたく間に機能不全に陥らせて、間接的に滅ぼせるかもってレベル。
 奥の方に半分封印されているような感じの魔法兵器は、地球で言うところの大量破壊兵器と同等、もしくはそれ以上の大破壊・大量殺戮さつりくを可能にしてしまう最凶最悪レベルのもの。
 とまぁ僕ですらヤバすぎると思う代物が、ここにはゴロゴロ置いてあるのだ。
 完成しているもの、未完成のもの、そして理論だけ構築してまだ開発に着手していないものが混在しているんだけど……まあ危険度は大差ないだろう。
 こんな状況なので、ここに入ることを許可できるのは……そう、師匠だけ。

「どーしてもダメ? じゃ見なくてもいいから、何をしているかだけでも聞かせてくんない?」

 みたいな感じで母さんはちょっと不満というか、かなり残念そうに僕におねだりしていた。
 だけど、ダメなものはやはりダメなので、比較的安全な三つの部屋の見学、及び僕が作業している様子の見学、そして簡単な質疑応答で我慢してもらうことにした。
 それでも、そんじょそこらじゃお目にかかれないような愉快なアイテムや現象はたっぷりと見せることができるから……まあそれなりに満足はしてもらえるだろう。

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