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最終章 エピソード・オブ・デイドリーマーズ
第580話 時を超える方法
しおりを挟む「そういうわけで……多分だけど、バイラスのせいで歴史が変わって、母さん達のことを皆忘れちゃってるみたいなんだよ」
「なるほどね……さっきまでのミナトの変な行動の理由は、そういうことか」
拠点に戻り、皆を集めて報告。
冒険者ギルドの資料を基にして僕が立てた推測を、簡潔に皆に説明した。
僕の引き起こす『否常識』の数々に慣れた皆でも、さすがに『タイムスリップ』なんてのは信じられなそうな感じだったけどね。
僕がまだ手を出していない……あるいは、出せていない数少ない分野のうちの1つが、『時間』関係だったから。
そこに既に切り込んでいる奴がいるなんて、想像もつかなかっただろうし、いざ聞かされても信じることはできないだろう。
現に、今こうして僕に向けられている皆の視線も……さすがに僕を疑わずにはいられない、って感じのそれである。
シェリーやナナも『ちょっとそれはいくらなんでも……』って感じの目になっているし、エルクやネリドラは……疑ってるっていうよりは、検証のしようがないから困ってる感じ。サクヤは……疑ってるのと同時に、『どこかお体の具合でも……』って心配してくれてるな、これは。
まあ、これも予想できていた。
さすがに僕も……時間を超えた移動なんてもんができるのかって言われたら、言葉を濁す。
転生前の現代では、理論的には可能かもしれない1つの技術とされてはいたものの、様々な理由で『実現・実用化につなげることはできない』とされていたからな。
結局は、フィクションの中だけの存在として人々に認識されていた。
もし大真面目に『タイムマシン作った!』なんて言った日にゃ、嘘つき呼ばわりされて終わりだろう。
ただ僕としては……時間移動による歴史改変が起こったとしか思えない状況なのも事実。
僕の中の記憶と、世界がたどったであろう歴史が明らかにかみ合っていないんだから……そうとしか思えない。ぼくの中にあるこの思い出の方が偽物だなんてこと、思いたくない。
……皆からすれば、そっちの、信じたくない可能性の方が真実だと思われてるんだろうが。
(そもそも、なんで僕だけこうして記憶が残ってるんだろうな……歴史の改変なんて、それこそ僕でもどうにもできなさそうなトンデモ手段なのに、その影響を1人だけ受けないなんて……)
考えられるとしたら『ザ・デイドリーマー』だ。あれは、あらゆる不可能を可能にする。
もしかしたら、逃れようがない『歴史改変』の影響すら弾いてしまえるのかもしれない。……試したことがある人なんかいないだろうから、わかりようがないけど。
それが理由なら……僕と同時に、アドリアナ母さんが無事だった理由も想像がつく。
アドリアナ母さんの魂は、僕の魂と融合しているから……精神的な部分で、僕と同様の守護が働いてもおかしくないからな。
けど、だとすればもう1つ……特大の疑問点が生じる。
(何で、僕が無事で……母さんが消えちゃってるんだよ)
現時点で、ではあるものの……戦闘能力でも『ザ・デイドリーマー』でも、母さんは明らかに僕よりも上だったはず。
だったら、僕が無事だったんだから、母さんも当然無事でないとおかしい。
けど、他の『ザ・デイドリーマー』を持っていない人たちと同じように、母さんも消えていて、誰の記憶にも残っていないときた。
……だめだ、考えてもわからない……とりあえず、この問題は置いておこう
「まあ……確かめようがないから、仮にあんたのその話を真実として……あんたはどうしたいの?」
同時に、エルクも『これ以上は考えても無駄』だと思ったのか、ため息とともに僕にそう問いかけてきた。
「そりゃもちろん、歴史を元に戻して……母さん達を助けたい。っていうか、助ける」
「まあ、話を聞く限り、あんたならそう言うと思ってたし……あんたのやりたいことなら、私達も手伝ってあげたいけど……」
「いまいち実感がわかないというか、もやもやした感じなのよね・私達、そのリリンさんとかいう人達のことを知らないからさ……いや、覚えてない、って言うべきなのか……」
「そうですね。気を悪くしないでいただきたいんですが……誰かもわからない人のために戦う、って感じに思えてしまって……しかも、ミナトさんがその方々に入れ込んでいるみたいに思えて……」
「……なんか、夫が悪い女に騙されていろいろしようとしているのを見るような気分」
「ね、ネリドラさん! それはさすがにミナト殿に対しても、そのリリン殿達に対しても失礼……」
「取り繕っても仕方ないから率直に言うけど、僕らとしても、いくらミナト君のいうことでも、突拍子がなさ過ぎて信じられてない部分があるかな。まあもちろん、信じる信じないは別にして、リーダーの指示ならきちんと従うつもりではあるけど……」
もっともな言い分だよなあ……皆。ネリドラのちょっとアレな例えはともかく。
さっきも思ったけど、皆からすれば、おかしくなってるのは僕の方なんだ。
まあでも、僕が色々な理由でおかしな目で見られるのは、ある意味いつものことだ。
浮遊戦艦を作った時も、荷電粒子砲を作った時も、人工モンスターを作った時も、国を2つばかり滅ぼした時も、縮退炉を作った時も、既存の食材や素材を品種改良した時も、拠点の周辺を環境改変した時も、対消滅魔力炉を作った時も、『オルトヘイム号』を宇宙戦艦に改造した時も……
いつも『マジかよこいつ』みたいな目で見られてきた。だから、慣れてる。
その前段階、『こういうことをするつもりだ』と説明した時だって、さすがにそれは……みたいな視線を向けられることばかりだった。
そしてそれを実現した時に、前述の『マジかよこいつ』な視線になるのだ。
今回もそうなると、僕は確信している。
「うちの旦那がまたアホなことを考えてる気がする」
そして嫁の鋭さもいつも通りである。
こっちに向けられるジト目のかわいさも相まって、落ち着く。
まあそれはそれとして、今後のことを考えたいんだが……
やっぱり今の状況……僕とアドリアナ母さん以外に、『歴史が変わってる』ってことを認識している人が1人もいないっていうのはちょっと不便だな。
状況的に『慣れてる』とはいったものの、それについての対策とかで建設的な話し合いをするためには、やはり皆にも同様に記憶がきちんとあってもらいたい。じゃないと。さすがに話にならないだろうから。
特に、普段こういう場で参謀的なポジションになってくれてる、エルクやナナ、ザリーあたりには。
どうにかして皆の記憶を取り戻せないかな……?
「普通の記憶喪失なら、投薬でどうにかする方法がないわけじゃない。確実ではないけど」
「でも、今回の場合は理由が理由だからね。病気とか外傷によるものじゃない記憶喪失を直すには……ちょっと効果があるとは思えないわね」
ネリドラとリュドネラの医学的見地からのコメント。
だよね……歴史改変に効く薬なんてないよね、普通に考えて。
「他に記憶を取り戻す方法となると……思い出に関連した行動をとる、とか? ほら、以前行ったことがある場所に行くと、その時の記憶がよみがえってきたりするでしょ? そんな感じでさ」
「でもそれだと、私達とリリンさん達との記憶がある場所、っていうことになるわよね……具体的にどこよ、それ?」
「選択肢少ないですよね……『アトランティス』や『渡り星』くらいでしょうか? まあ、『アトランティス』ならすぐに行けないこともないですけど」
「でもそれなら、割と長い期間一緒に過ごしたこの『拠点』もその1つなんじゃない? ここで何も思い出せない、心当たりすら頭に浮かばないとなると……」
「……いっそ、思いっきり頭を殴ってみるとか? ほら、ショックで記憶が戻るかも」
「シェリーあんたそれ、記憶消す方の方法じゃないの?」
「というか、ミナトさんに殴られたら、記憶云々以前に死ぬと思います~……特に私みたいな貧弱なのは」
「………………試してみるか」
「「「え!?」」」
と、僕が呟くように言ったことを聞いて、皆ぎょっとしてこっちを見た。
まさか実際にやる気になるとは思わなかったんだろうな……提案したシェリー自身も含めて。
しかし、割とそれ、なんとかできそうな気がしなくもないのである。
当てずっぽうとかではなく、きちんと根拠も一応あるし。
もちろん、僕の予想が当たっていればではあるけど……
とりあえず、これを実行するには、単に殴るよりも、僕の気分的なところをもっとどうにかしたほうがいい気がするから……そうだな……よし。
「エルク」
「な……何? 私から?」
そんな怯えないで。
「ハリセン、貸して」
☆☆☆
で、結果。
「何とかなるもんだね」
「何とかなっちゃったわね……」
はい、何とかなりました。
エルクから借りたハリセン(オリハルコン、ミスリル、その他希少金属製)によってスパァン! と子気味よく皆の頭をひっぱたくと、そのショックで皆の……母さん達に関する記憶が戻った。
というか、きちんと元通りの記憶になったようだ。
「あーうん、そうだ、思い出した思い出した。リリンさんにクローナさん……うん、いたわ。この拠点で一緒に暮らしてたし、修行も見てもらった」
「ミナトさんと一緒になって色々暴走してましたね、リリンさんは全体的に、クローナさんは研究方面で……」
「エレノアさんとテレサさんは割とセーブしてくれる側で、テーガンさんやアイリーンさんはそれを見て面白がってる側だったね。というか……本当にギルドマスターとしてのアイリーンさんのことまで忘れちゃってたな……」
「まあ、何とか記憶戻ったけど」
「うん……でもまさか、こんなギャグみたいな方法で思い出せるとはね……さすがミナト」
「むしろ、ギャグみたいな方法だからこそ取り戻せたんでしょうね~」
ミュウはそう言って、僕がまだ手にもってぺしんぺしんと叩いているハリセンを見る。
今回、コレを使って僕が皆の記憶を取り戻したのは……当たり前だが、脳にショックを与えて云々なんていう、物理的な方法でじゃない。
恐らくだが、僕が記憶を失っていないのと同様の……『ザ・デイドリーマー』を使ったのだ。
ギャグマンガ的な展開として、頭に強い衝撃が加わった結果として記憶が飛んだり、逆に戻ったりというのがよくある。だから、そういう感じになるのを期待した。
僕がやれば、ワンチャンそういうことが起こるだろうと思って……より確立を高めるために、よりギャグマンガに見えるようにシチュエーションも整えた。
ハリセンを使って派手に音が出る(しかしさほど痛くない)ようにして、『なんでやねーん!』とか『目を覚ませー!』とか掛け声付きで思いっきりスパァン! とやって……そして僕は、賭けに勝った。
エルク達全員、無事に記憶が元に戻ったのである。アルバ含む。
いや、ほんと便利だな『ザ・デイドリーマー』。
さて、記憶が戻ったところで……あらためて皆に、この事態を解決するための協力を要請すると、皆、快くOKしてくれた。
自分達にとっても、母さん達はもう他人じゃないんだからって。それを『なかったこと』にされたなんてのは、絶対に許せないからって。
「けど……実際どうするつもりなの、ミナト君? 世界というか、歴史を元に戻すって……」
「普通に考えたら……ミナトさん、いえ、私達も過去に飛んで、リリンさん達がその……バイラスの手にかかるのを防ぐ、ってことですよね? タイムスリップする方法……あるんですか?」
「そんなの、さすがにまだ作ってないというか、研究もできてなかったと思うけど……今から研究して、作るの?」
うん、そこなんだ問題は。
確かに、さすがの僕でも時間跳躍なんていう技術は、まだ作り上げるどころか理論すらほとんどできていない。
……ぶっちゃけ、いつかはやるつもりでいたので、ちょいちょい理論構築レベルでの研究だけは進めてたんだけど……とても実用化までは至っていない。
これからそれを実用化までもっていくとなると、検証やら何やら含めて……10年はかかる。
他の活動……冒険者とかその他の分野の研究を一切合切放り投げて、コレだけに注力すれば、もうちょっと短縮できるかもしれないが……それでも数年は確実にかかる。
数年の研究で時間跳躍に手が届くと思えば、全然短い方なのかもしれないが……。
ただ、理論部分はいくつかもうすでに出来上がっているので、それを応用すれば……
「一応、あては……ある」
「「「!?」」」
「僕自身がタイムマシンを作るには、相当の時間が必要だけど……今既にある装置ないし設備を流用できれば、早めにどうにかなるかもしれない。使えそうな装置に、1つ心当たりがある」
ここ数日、色々と調べて回っているうちに気づいたというか、思い出したものがある。
『それ』は確かに、どこかにつなげるために作られ、使われていたんであろう装置なんだけど……忘れ去られ、整備もされなくなって久しく、今ではほぼ完全に機能を停止している。
以前僕が調べようとした時に、一瞬だけ奇妙な反応を見せたことがあったんだけど……それだけだ。
まだ何もわからない状態だった僕も、テラさんも、その時はちょっとばかり驚いたっけ。
けど、その後に調べて分かったことなんだけど、あれはとんでもなく高度なマジックアイテムで……超が付くほどの長距離のみならず、空間や、下手すれば時間や因果を超えたところにまでつないでしまえそうな逸品だった。
さっきも言ったように、力が失われた今となっては、当時の人達が――『人』が作ったかどうかもわからないものではあるが――何を思ってアレを作り、何のために使っていたのかは、もう知るすべもない。
けど、かつてあったものだ。装置自体の劣化もさほどないし、こっちで色々修繕とかしてやれば……どうにかできるかもしれない。
それこそ、あれを利用させてもらって……望む場所に行くことだって。
「ミナト……その、設備って?」
「『アトランティス』のカタコンベの中にある……『龍の門』」
超古代……おそらくは、龍神文明時代かそれに近い時代の遺産と思われる、巨大な遺構。
かつて、僕の目の前で、テラさんも見たことのなかった反応を一瞬だけ見せた、巨大な扉。
アレを使って……過去に飛べる、と思う。
まずは、調査だな。
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