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第23章 幻の英雄
第571話 1万2千年の宿願
しおりを挟む「今より数えること1万2千年前。この時、彼は……ダモクレス財団総裁・バイラス様は。理想の世界を作るべく戦ってきた。当時、リュセイア王国に限らず、人間の世界は、今よりも技術的に、魔法的に、肉体的に……あらゆる意味で大きく劣っていたわ。そのせいで、周辺に住む亜人達に常に脅かされていた。毎日のようにどこかの村は滅び、いくつもの国が地図から消えていった」
ドロシーさんが話している間に、さらに場面が変わる。
砂漠の国の宮殿から、見渡す限り広がる草原に。そして、そこでバイラスは……おそらくは別な国の軍隊であろう兵士達と一緒に、魔物と戦っていた。
「ある時は、過酷な運命に抗う人々に寄り添い、ともに戦った」
すると、また場面が変わる。
今度は、また別な人間の軍隊と共に戦い……しかし、魔物や亜人だけでなく、人間とも戦っていた。強い国家に反乱しようとする者達を、追い返しているようだった。
「ある時は、強い力を持った人間の国を助けて、より強い国を作り、それによって人々を守ろうとして、剣を振るった」
また場面が変わる。
今度は、人間だけではなく、亜人や、手なずけたと思しき魔物とも肩を並べて戦っていた。
「ある時は、種族にこだわらず多くの仲間を集めていた者達と共に、共存という新しい可能性を切り開くために戦場をかけた」
また場面が変わる。
今度は、バイラスは自分が玉座に座り、かしずいて従う人々を見下ろしていた。
「ある時は、彼自身が王となることで人々を一つにまとめ、数多の国を統一して導いた」
また場面が変わる。
今度は、着飾った僧侶のような装束の人達に周りを囲まれ、さらにその周囲を多くの……貧しい格好をした民たちに囲まれ、あがめられながら、剣を掲げて演説していた。
「ある時は、その力でもって崇拝の対象となり、民心をつかんで道を示した」
また場面が変わる。
今度は、独特な民族衣装……和装に似たそれをまとった者達と共に、妖怪達と戦っていた。
「ある時は、外界と隔絶され閉ざされた環境にできた国を導き、独自の文化を育てて……まずは小さなところから、安定した国を作ろうとした。……しかし……」
そこでドロシーさんが目を伏せると同時に、場面が切り替わり……しかし今度は、何も移すことなく、真っ暗な闇のような世界が広がった。
「……どれも、彼の望みをかなえるには至らなかった。力を持った国は堕落し慢心し、他国や他種族どころか、民をもないがしろにするようになった。導かれることに慣れてしまった民達は、自ら考えることをやめた。どれだけ大きな国を作っても、それこそ大陸を1つに統一しようとも、数十年、長くとも数百年もしないうちにまた引き裂かれて、いくつもの烏合の衆に分かれて荒れた」
「……随分とまあ、色々なことに手を出してたんだね」
「ええ。彼には寿命というものが存在せず、一人、孤独な長い時を生きることができたから……。何千年もの長きにわたって、彼は人の世界の未来を信じて抗い続けたの。しかし……歴史は、愚かな間違いを繰り返すばかり。どれだけ助けても、最後には自分達で足を引っ張り合って、愚かにも滅んでいく。考え得るあらゆる方法を試したけれど……無駄だった。そしてある時、彼は悟った」
―――だめだ。不可能だ。
―――今の彼らでは、足りなすぎる。頭も、力も、心も……何もかもが未熟すぎる。だからこうもたやすく人を傷つけ、自分一人の欲を満たそうなどと思えるのだ。
―――殻を破らねばならぬ。種族でも、国でも、宗教でも、人の世界そのものが、さらに上のステージへ進化しなければならぬ。
―――そうしなければ、母上が理想とした、永遠に平和な理想郷は生まれない。
―――育てなければ。人を、国を、世界を。これまでのやり方とは、全く違うやり方で……それこそ、小細工や悪知恵などではどうにかできない、真の進化を歩まざるを得ない形で。
「そして彼は、自分……後にこの『ダモクレス財団』の前身となる組織を作り上げた、そして、彼自身も組織も、名を変え顔を変え形を変え……さらに何百年もの間、歴史の中で暗躍し続けた。幸いと言っていいのか、彼が以前に手を出した国家の中で、奇跡的にもその後の独立や自治が上手くいって、滅ぶことなくあり続けた国家があった。その国々を、時に支援し、時に刺激し……その国々はさらに大きくなり、後にこのアルマンド大陸において……『6大国』と呼ばれるようになったわ」
「……マジで?」
「マジよ。人間も亜人も区別なく全てを受け入れ、手を取り合った国は、いつしか彼の手を離れて以降も平和を保ち、同じ志を持つ者達によって統一され、『ネスティア王国』になった。力で全てを支配し、他国を侵略し民を抑えつけてより大きな力をつけた国は、『チラノース帝国』に。周囲の国を束ねて彼が自ら王となって建国した『ジャスニア王国』、彼を神の使いと崇める信仰によって民を縛り、しかし結果的により強く国をまとめ上げた、6大国最古の『シャラムスカ皇国』、過酷な環境ゆえに人々が争っている余裕などなく、1つにまとまることで強くなった『フロギュリア連邦』、そして……亜人という共通の敵に対して、滅んだ国の者達が身を寄せ合って戦うことで、いつしか国の形を成した……『ベイオリア王国』」
……そのうちのいくつかは、滅んだり吸収合併したりされたりで、今はもう名前変わっちゃってるけどね。
僕自身が滅ぼしたベイオリアはともかくとして、確か、『チラノース帝国』も……ほんの数十年前に、どこかの国が別の国を滅ぼして吸収合併してできた、新しい国だったはず。
言ってる内容を聞くに、その『滅ぼした国』の方が、そのかつての国の流れを汲んでるんだろう。
「彼はそれらの国を、長い時間をかけて観察・研究し……結論を出した。最も効率よく人間を進化させるには、どうすればいいか。『共通の敵』『極限的な状況』『種族の融和』……この3つこそ、世界を1歩前に進ませるのに必要な要素だと」
そして……前に聞いた、『ダモクレス財団』の掲げる目標である、『ショック療法』の話につながるってわけか。
一部の強い人間がどう頑張ったところでどうにもならない、人間が皆で進化するしかない状況を作り出し、強制的に成長させる。そうしなければ生き残れない状況で、人間を、亜人を、まとめてふるいにかけ……生き残る強さを持った者、あるいは、その者に守ってもらえた者のみを残す。
それが、『極限的な状況』。
その為に、何かしらの災害を『試練』として用意する。要するにそれが『共通の敵』であり……今回は『神域の龍』がそうだったわけだけど、他にもバイラスはいろいろと用意してたみたいだ。
けど、最後の1つ……『種族の融和』ってのはどういう意味だろ?
連中のやってること、戦いをあおるばっかりで、むしろ種族間の争いを助長してるようにしか見えないんだが……ああもしかして、争って滅ぼして滅ぼされて、最後には、仲良くなれる種族同士が残る、あるいは、生き残るために仲良くせざるを得なくなる……的な?
「それもなくはない。けれどそれ以上に……種族としての壁を超えることで、新たな種族、新たな人類が現れ、その人類が新たな時代の先駆けとなってくれることを、総裁は期待したのよ」
「……ごめん、さすがに推察できない。解説頼む」
「いいわよ。……少し長くなるけど、時間はあるし」
今もう十分に長いこと付き合わされてるけど、とは言わない。
聞いてて色々、裏事情みたいなものが見えて助かるしね。文句はないし、飽きたわけでもない。
仕様なのかドロシーさんがそうしてるのかは知らないけど、ドキュメンタリー映画見てるみたいでわかりやすくていい。
そのドロシーさんは、顎に手を当てて少し考えこんでいる様子。
どこからどんな順番で話せばいいか、とか考えてるのかな?
数十秒後、どうやら考えはまとまったらしい。
ドロシーさんは再び僕の方を向くと……その瞬間、彼女の手に、古びた本みたいなものが突然現れた。そして彼女は、それをぱらぱらとめくりながら……
(……ってあれ? その本、どこかで……?)
「……ミナト・キャドリーユ。あなたは知っているかしら? この世界の人間は元々……『魔法』なんて使えなかったのよ」
ドロシーさんの話はそれなりに長かったので、かいつまんで話す。
かつて、人間は武器と、己の肉体だけで戦っていた時期があった。
『魔法』と言えば、魔物や一部の亜人だけが使うことのできる超常的な現象であり、人間には縁遠いものでしかなかった。故に、危機に陥った時に助かることができない悲劇が今より圧倒的に多かったし、魔法を使えている亜人や魔物に怯えることしかできなかった。
しかし、ある時突然、人間も魔法を使えるようになった。
その突然の変化が起こったのは、バイラスが誕生した1万2千年前よりもさらに昔のことらしく……当時の資料などはろくに残っていない。そのため、正確な出来事まではわからない。
そのため、起源は様々に噂されている。人間と亜人との間に生まれたハーフが始まりだとか、突然変異で魔法を使える人間が生まれてきたとか。
中には、奇跡が起こってある時突然、多くの人が何の前触れもなく魔法に目覚めた、なんて話もあるそうだ。
そのあたりの細かいところはわからないけど、その魔法を使えるようになった人類……それまでの魔法を使えない人類と比較して『新人類』と呼ばれるそれは、すぐさま繫栄していった。
逆に、魔法を使えない『旧人類』は、衰退の一途をたどっていった。その中には、『魔法は亜人や魔物が使う技だから』と忌避して断固として『新人類』との交流を拒み、時には敵対すらした者達もいたらしい。
しかし、結果的に彼らは残らず滅ぶことになった。周りが強くなっていくのに、自分達だけいつもと変わらないままでいれば……まあ、そりゃ当然の話だ。
僕はこの話を聞いて、『ダーウィンの進化論』ってものについて思い出していた。
この理論は要するに、『生存に有利な個体がより多く生き残っていくことで、種族全体がその方向に進化していくことでより反映していき、逆に生存に不利な個体はあっという間に淘汰され、その遺伝子を残すことができない』というものだ。
有名な例だと、首が長くて草や木の葉っぱを食べる草食動物がいるとする。
その動物に、突然変異でごくまれに、通常よりもさらに首が長い個体が生まれることがある。
その個体は、首が長いからより高いところにある葉っぱを食べることができて、他の個体よりも食料を確保するうえで有利だ。
また、高い所から見渡せて視野が広くなるから、肉食動物なんかの外敵も見つけやすい。
逆に、通常よりも首が短い個体が生まれてくることもある。
当然その個体は、他の個体よりも低い位置にある葉っぱしか食べられないので、食料確保で不利になるし、さらには視野が狭いから外敵の接近に気づきにくく、生存競争的に超不利なわけだ。
結果、首が長い個体は生存競争に生き残って子孫を作り、どんどんその数を増やしていく。
首が短い個体は、生存競争に生き残れないのでさっさと淘汰される。
そうしてやがて、遺伝子的にも『首が長い』という点がメジャーになって種族全体に普及していき……最後にはその種族全体が『首が長い=より生存競争に有利』という進化を遂げる、というわけだ。
話は戻るけど、当時の人間においても、『魔法を使えるか使えないか』という点で、これと同じようなことが起こったんだろう。
魔法という強力な武器を手に入れた『新人類』は発展し繁栄、いつしか『人間も魔法が使える』ことが当然と言えるまでにその繁栄の範囲を広げた。
逆に、『旧人類』は……おそらく絶滅したんだろう。かつて人間が、もともと魔法を使えなかったなんてことすら忘れ去られてしまうほどに。
で、だ。
このタイミングでこういう話を持ち出すってことは、つまり……そう。バイラスもそれを狙っているのである。
過酷な『試練』の中で、人間の中でもより生存競争に有利な力を持つ者が生き残り、逆に無能な愚者は死ぬ。
そして、生き残った者のその力が、多くの人に広まっていき、いつしか人間は、あらたな『力』を手に入れて、次のステージへと進化する。
バイラスは、このブレイクスルーのことを『創生』と呼び、これを起こす最初の存在を『創世級生命体』と呼んだ。
そして、その筆頭候補として注目されていたのが……
「……僕!?」
「そう、あなたよ、ミナト・キャドリーユ……総裁はあなたに、いずれ訪れる新たな時代を引っ張っていくために、その力を振るってほしいと思っていたの。あなたにはそのための力がある、その資格がある、と」
「また勝手なことを……僕に人の上に……まあ、少数のチームとかならともかく、国だの何だののトップに立って何かするような趣味はないよ。それとも。ぼくが持ってる技術力や知識を広めろ、とか? あるいは、ジャスニアの建国時の王様……ああ、それもバイラスだったんだっけ。その時みたいに、何人も奥さん貰って子供作れとか言うつもりだったの?」
「やり方はどうでも構わない。いや、何なら何かしようと思って動く必要すらないのよ。あなたのような存在は……ただそこにいるだけ、ただ好きなように生きているだけで、周囲にとてつもなく大きな影響を与え続けるものだから。……自覚はあるんじゃないかしら?」
「…………」
「一介の、それも二流三流の冒険者に過ぎなかったエルク・カークスは、あなたと共に歩むことで、今や超一流とも言うべきランクにまでのし上がった。名前だけでなく、実力も伴って。冥王クローナと道を交えたあなたは、彼女から数多の技術や知識を伝授され、あなた自身の発想力でもって、驚異的なマジックアイテムの数々を作り出した。人工的に新たな魔物を生み出し、環境すら容易く書き換え、星々の海を越える船すら作り出した。さらにはいくつもの不治の病を過去のものにし、国を救い、あるいは滅ぼし、いくつも歴史を作った……これら全て、あなたが1人でやったこと」
「僕1人じゃない。皆の力でやったことだよ……なんならそのうちのいくつかは、あんたらも関わってるだろ」
「詭弁はいいのよ。そもそも、仮にどれだけの支援を他者から受けることができたとしても、このうちの1つだけだって成し遂げることができる者なんていない。どれか1つだけでも英雄と称えられるような所業を、あなたは呼吸するように生み出せる。これが特別でなくて何だというの?」
「…………」
「血筋、知識、思考、技術力……どれをとってもあなたは十分に、世界を変える最初の1人……すなわち『創世級生命体』足りうる力を持っている。そして何よりあなたは……『特異点』でもある」
「……特異点?」
また何か新しい単語が出てきたな。
「これも総裁が使っていた……おそらくは造語の1つよ。総裁曰く、『現実と虚構の境界を乗り越える力を持つ者』のことをそう呼ぶのだそうよ」
「……! 『ザ・デイドリーマー』の使い手のことか」
「より正確に言うならば、それを使ってなお命を落とすことがない、使いこなすことができるであろう者、でしょうね。今までその力を発現させてきた者の多くは、その一時の輝きと引き換えに、その身にかかる負荷に耐え切れず命を落としてきた。ジャスニアの『エルドーラ遺跡』の異空間を作り上げた者や、ヤマト皇国の『凪の海』を作り上げた者……さらには、歴史上起きた人類の進化におけるブレイクスルーのいくつかも、もしかすると『ザ・デイドリーマー』によって引き起こされたものかもしれない、と総裁は見ているわ。人類への、唐突な魔法の発現も含めてね」
「……そして、バイラス自身の誕生も……か?」
「………………」
ドロシーさんは無言で、答えない。
すっとぼけてるのか、彼女も知らないのか……あるいは、知ってるけどあえて答えないのか。
けど、さっきのドキュメンタリー映像を見て……僕は、直感的にそう思っていた。
あの『聖女様』と呼ばれていた、リュセイア王国の王女様……彼女、おそらく、『夢魔』だ。
おそらくあの時、バイラスを生み出した奇跡……あれが『ザ・デイドリーマー』だと直感的に分かった。
国を救ってくれる救世主が欲しい、と願って、それを形にしたのがバイラスなんだろう。いつも見ていたであろう、玉座の間の天井の絵……そこに描かれている古代の英雄の姿で。
しかし、聖女様……リリスさん自身はそれに耐えきることができず、命を落とした、と。
つまり、バイラスの正体は……『ザ・デイドリーマー』によって作られた、被創造物。
おそらくだけど、テーガンさんの攻撃をどれだけ食らっても消滅することはなかったっていうその不死身さは、彼がそもそも、生き物と呼べる存在じゃなかったからなんだろう。
あの城を隠していた『結界』みたいに、『ダモクレス財団』の設備その他の一部に、『ザ・デイドリーマー』を応用した技術が使われていたのも、きっとそのせい。
そして……
(僕と母さんを最も警戒しているのは……僕らが『ザ・デイドリーマー』によって作られた奇跡を壊せるから、か)
『ザ・デイドリーマー』は『ザ・デイドリーマー』でしか破れない。
しかし裏を返せば、『ザ・デイドリーマー』を使うことができれば、破れる。
ゆえにこそあの結界は完ぺきにしろを隠していたし、テーガンさんの猛攻の前にもバイラスは涼しい顔をして立っていることができた。
しかし、相手が僕や母さんであれば……その優位性は消滅する。
僕と母さんなら、あいつを殺せる。
……ただ、それとは別に気になったことが2つほどある。
1つは、リリスさんの種族について。
『ザ・デイドリーマー』を使った以上は『夢魔族』であるはずだけど、彼女は人間の国家の、しかも王族に生まれた人だ。なら、人間であるはず。
それに、映像の中でリリスさんの耳が、母さんみたいなエルフ耳じゃなく、普通の人間の耳だったのも見えたし……。
……もしかして彼女自身、『突然変異』だったんだろうか?
血筋に夢魔がいたか何かで、種族的には人間だけど、夢魔の力を使えるようになったとか……ほかならぬ、この僕みたいに。
そしてもう1つは……どうして『ザ・デイドリーマー』の力を、ドロシーさんも使うことができたのか、という点だ。
彼女もひょっとしたら、同じく突然変異の人間にして夢魔な存在なのかと思ったけど……雰囲気的には違いそうなんだよなあ。
そもそも、他人の『ザ・デイドリーマー』の力に干渉するなんて、僕や母さんでも難しい。
単純に壊すだけならともかく、それを思い通りに書き換えて利用するなんてことは……いや、それなら……
(……他人の、じゃなかったとすれば……?)
「……ドロシーさん、あなた……リリスさんのクローンか何か?」
「残念だけどハズレよ。まあ、当たらずとも遠からず、といったところだけどね……私は、当時の聖女リリスの遺伝子の一部を組み込まれる改造手術を受けて、後天的に『ザ・デイドリーマー』に干渉する能力を身に着けたの。適合できたのは、完全な偶然。ただ私に、その才能があったというだけ……成功したのは幸運だったから、その私をさらにベースにして、戦闘に特化させたクローンを作ったり、私自身が母体として子供を作って生んでみたり、色々試してはみたけど……どれも、大した成果にはならなかった。クローンにも子供にも、力は受け継がれず……何より私自身の『ザ・デイドリーマー』の力自体も、先天的に才能を備えていたあなた達に比べれば雲泥の差……」
「…………」
「拠点を隠して守り切ることもできず、あなた達を止めることもできず……結局私は、あなた達を止めることはできなかった。中途半端にしか、総裁のお役に立つことはできなかった。せめてもの悪あがきに、偶然投影されたこの記憶を見せて、あなたの決心が鈍らないかどうか試してみたけれど……無駄だったようね」
ドロシーさんが言い終わるかどうかとうタイミングで……真っ暗になっていた世界が崩れ始めた。
「……どうやら、そろそろ限界みたいね」
「この空間の、ってことですか?」
「それと、私の命や魂の、ね。未熟な身の上で、限界を超えて『ザ・デイドリーマー』の力を使いすぎ、ついには暴走させた……私も、かつてその負担に耐え切れず、命を落とした諸先輩方の後を追うことになるのでしょう」
「…………」
「……申し訳ありません、総裁閣下。どうか、そのお望みを……きっと……!」
そんな言葉を最後に、ドロシーさんの声がか細く、遠くなって消えて……同時に、闇に包まれていた空間が一瞬にして、全く逆の、眩い光に包まれた。
そして、気が付けば、
「……ミナト? ミナト?」
目の前で僕の顔を覗き込む、わが嫁のかわいらしい顔がそこに。
「どうしたのミナト? なんか、ぼーっとして全然反応帰ってこなかったんだけど……寝てた?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……ぼーとしてたって、僕、どれくらいそうしてた?」
「いやまあ、10秒とかそこらだと思うけど。しかしまあ……派手にやったわねこりゃ」
そう言いながら立ち上がり、あたりを見回すエルク。
僕もつられて周りを見ると……周囲には、見事なまでの瓦礫の山が転がっていた。
石材や金属の建材、高級そうな絨毯……だったものであろう布の破片や、金ぴかに輝く装飾品や調度品の数々。
それらが一緒くたになってシェイクされて、何ともまあ凄惨な状態になっていた。
どうやら、僕の一撃は本当に城ごとぶっ壊したらしい。
よくよく見れば、視界の端の方に見える地面がちょっと高い気も……あ、ぶっ壊した上にクレーターまで作ったのか。
我ながらよくもまあ……核ミサイルでもこんだけの破壊になるかどうか。魔力的に強化されて保護とかもされてた施設なのになあ。
幸い、エルクをはじめ、仲間達は皆、母さん達が張ってくれたバリアのおかげで無事のようだ。
またすげーことやったな、っていう、感心と呆れの混じった人数分の視線が突き刺さってくる。
さて……じゃあひとまず、今見て知ったことを報告して、全員で情報をシェアしますか。
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