魔拳のデイドリーマー

osho

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第23章 幻の英雄

第566話 よい子も悪い子もマネしてはいけません

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 バスクが僕の姿を、魂をコピーしているカラクリについては理解できた。

 僕とウェスカーは一応双子の兄弟なので、魂の質も似ている。

 厳密に言えば、僕の魂は、アドリアナ母さんの『死者蘇生』の術に巻き込まれた転生者の魂なので、全く同じではないんだけど……同じ人のお腹の中で育まれ、生れ落ちたということもあって、やはり魂は似ているのだ。

 バスクはそれを利用した。
 戦っている最中に僕の魂を解析してトレース。もともと手にしていたウェスカーの魂(の、欠片)をベースに、僕の魂のレプリカを作り出した。
 そしてそれを使って、僕に化けたわけだ。

 結果、身体能力や使える技とかについてはコピーすることに成功。
 さらに、その状態でその他のコピー先の能力を使うこともできている。

 さすがに完全なコピーが可能ってわけじゃないようで、いくつか使えていない能力もあるようだ。

 例えば、『マジックダイナモセル』。細胞に発電機みたいな性質を持たせて、相手の魔法攻撃やら何やらに込められている魔力を吸収して自分の力に変えてしまう、僕の『否常識』技。
 またの名を『攻撃吸収充電』とか呼んでる技であり、これがあるおかげで僕に対して電撃や光系の攻撃は効果が薄い……どころか回復させる。

 同じ能力を持っていれば、バスクも電撃系の攻撃に対しては強く出られるはずなんだけど……バスクがそうする様子はないし。電撃をまとわせた僕の攻撃でも、普通にダメージ受けて、そのあと回復してる。

 まあ、そんな感じで、バスクのコピー能力も完全ではないってことについては……まあ一旦置いておく。

 重要なのは、ウェスカーの魂をベースにしてとはいえ、パワーアップの元になる僕の魂を模倣で作り上げた……そういうことができた、という点だ。
 色々と制限もある技ないし能力なんだろうけど……そういうことができる、というのは……うん、なんというかね、非常にその……そそられるわけだよ。

 『魂』をデータ元にした、能力その他の模倣ないし発現。
 データ元になる『魂』の、それ自体の加工ないし模倣による作成。

 それはもう興味を惹かれるこれらの仕組みというか、詳しいメカニズムについて、どうしても知りたかったんだよねえ……

 だから……
 
「っ……今までは、手加減してたってわけか……俺が使ってるそれらについて、戦いながら解析して調べるために。なるほどね、こちらをなめてたわけでも、余裕こいてたわけでもないと」

「そういうこと。まあ、実際多少なり余裕な部分もあったから、全く的外れな予想ってわけでもないんだけどね。まあでも本命は、その力の解析の方だった」

「…………過去形?」

「そう、過去形」

 そう、本命『だった』。今は違う。
 なぜか? 決まってるだろう……もう済んだからだ。

「さてまあ、そんなわけで……敵に何を遠慮する必要もないし? 堂々と真似させてもらおうか」

「……真似するって……自分で言うのもなんだけど、これそんなに単純な技じゃないんだけど? いくらミナト君でも、そんな簡……単、に……」

 最後まで言い切らずに、尻すぼみで消えていくバスクの声。
 口はぽかんとして開いたままで、こっちに向けられているその目は、まるで信じられないものを見たかのように驚愕に染まっている。……いや、実際見てるんだろうけど。

 今現在、僕自身がちょうど……その『信じられないもの』的な状態になってるはずだから。

 具体的には、バスクの見ている目の前で……僕の体の左半分が、黒髪黒目・黒服黒装備から……白髪白目・白服白装備に変わっていったから。

 ちょうど、今バスクが変身している白い僕と、元々の僕との中間みたいな感じになってる。左右できれいに2分されてる感じ。

「……何で?」

「今さっき君が言ったんだろ? 僕とウェスカーの魂は似てるから、ウェスカーの魂をベースにすれば僕の魂をコピーできるって。だったら……その逆ができない道理はないよね?」

 その言葉で、バスクも今、僕が何をやった結果……こんな風に白黒ツートンカラーになったのかを理解したんだろう。
 驚きとは別な理由で茫然としていた。……冷や汗もかいてるかな?

 そういうこと。今僕がやったのは……言った通り、バスクの『真似』だ。
 魂を使った力の発現も……魂を使った別人の魂の模倣も。

 僕自身の魂をベースに、その一部を使って、ウェスカーの魂を模倣した。
 そして、その力を引き出して表側に発現させた結果が……今こうして『白黒の姿』になって表れている、ということである。……後で名前考えないとな、この新フォーム。

 僕が何をやったのか、そしてその結果、僕が何をできるようになったのかも、おそらくバスクは理解したことだろう。さっきまでにも増して、その表情から余裕がなくなっていった。
 ……もっとも、その表情、っていうか顔は、相変わらず僕のそれのままなんだけど……まあいいや。

 それでも退く様子はなく、構え直して機をうかがってくるバスクに対し、僕も同じように構えて……次の瞬間、同時に踏み出す。

 バスクは『リニアラン』で超加速して一気に懐に飛び込みつつ、その勢いも載せた拳を突き出してきて……僕はそれを、真正面から同じように拳で迎え撃つ。

 結果、クロスカウンターみたいになり、お互いの拳がお互いの顔にめり込む形に……は、ならなかった。
 なぜなら、僕が放った一撃はバスクに届いたのに対し、バスクの拳は、僕が体表面ギリギリに発生させた不可視の障壁を破ることができず、その上を滑って外れてしまったからだ。

 『サンセスタ島』で戦ったとき、ウェスカーがそうしたように。
 僕の攻撃を真正面から受け止めることはせず――威力的に不可能なので――斜目に反らして防ぐような形で障壁を多用して防御してきた。だから、このやり方の有用さはよくわかってる。

 直撃した拳の威力に若干ふらつきながらも、バスクはいったん飛び退って距離を取り……しかしその瞬間、

「逃がさん」

「なっ!?」

 その真後ろに僕が、ウェスカーの転移魔法で一瞬で現れて退路を塞ぐ。
 飛びのいた直後で勢いを殺しきれないバスクめがけて、そのまま飛び蹴り。ビデオの逆回しに元来た位置まで蹴り飛ばす。

 ただ、こっちもあまり体勢が整った蹴りじゃなかったので、ダメージはそんなでもなかったらしく、バスクはすぐに体勢を立て直す。そして、今度は自分から飛び込んできて拳を振るう。
 が、まっすぐ飛び込んでくると思いきや、直前で急減速+急加速を組み合わせて側面に回り込み、僕の視界の外から一撃入れてこようとして……しかし、失敗。

 そっちに目を向けないままに僕が突き出した拳に見事にカウンターを取られた。
 自分の拳は紙一重でかわされ、みぞおちに僕の拳がヒット。

 それで息が詰まって一瞬動きが止まったところに、今度は僕の攻撃。

 真下から顎に蹴り上げ。
 そのまま返す刀でかかと落とし。
 さらに横向きに急加速して回転、後ろ回し蹴り。
 蹴り飛ばされて飛んでいくところに追いついて胸ぐらをつかむ。

 さすがにこれ以上何かされるのは防ごうと考えたのか、つかんでいる僕の腕をつかみ返してくるバスク。しかしその瞬間、割と本気で放った超高電圧の電撃が僕の腕から迸り、感電して動きが止まる。
 ……やっぱ僕の体、使いこなせてないな。本来のスペックなら、この程度の電撃は一瞬の硬直もなしに反撃できるはずなのに。

 そのまま、ごくわずかな時間とはいえ無抵抗になったバスクを、僕は思い切り振り回して、遠心力を載せて……ついでに暴風も載せて勢いを増したうえで地面にたたきつける。

 ドン!! と、まるで大型車両同士が全速力で正面衝突したみたいな、腹に響く轟音。
 衝撃が強すぎてバスクの体はバウンドせずに地面にめり込んだ。

 が、次の瞬間、僕が白く染まったほうの足先で、こつん、と地面をたたくと……地面から光の杭みたいなものが何本も飛び出してバスクを貫いた。

 ……あ、いや、貫けてはいないな。僕の体がさすがに頑丈すぎるらしい。
 でも、杭同士で挟み込んだりするような形で拘束には成功している。

 バスクは何とか逃れようとするが、ダメージが思いのほか大きくてうまく体を動かせない様子。

 その間に、僕の右足に……毎度おなじみ『闇』の魔力が収束していく。あいからわず、右足がブラックホールをそのまま纏っているような見た目に。
 しかし今回はそれだけじゃなく……白くなっている左半身から、『光』の魔力が吹き上がって……それも合わさって右足にまとわりついていく。

 通常、『光』と『闇』は相反する属性であり、衝突すると互いに打ち消し合って消滅してしまう。
 そのため、元の世界で言えば中学二年生あたりが大喜びしそうな闇と光、相反する2つの力を宿した(略)』なんてものは普通はできない。

 ……普通は、ね。

 しかし、今僕の右足では……光と闇、両方の力が宿っていながらも、打ち消し合うことなく、むしろ互いに力を高めあって渦を巻いている。黒と白の輝きが普通にきれいである。

 できるんだなーこれが。『陰陽術』を応用して使えば。
 あれってそもそもが、相反する2つの属性を生かしてより大きな力を得る、が骨子にある術だからさ。キリツナやカムロも同じようなことやってたじゃん?

 ただ……これが『できる』理由、たぶんもう1つあるんだけどね……。

 すごい勢いで渦巻き始めたエネルギーを前にして、さすがにバスクも食らうのはまずいと感じたか、全身からエネルギーを放出して無理やり拘束を脱出。

 そして、すぐさま転移でその場から脱出しようとして……失敗。
 残念、このへん一体に転移妨害してあるんだ。ウェスカーの能力と、僕のマジックアイテムの相乗効果で強化して。

 回避は間に合わないと判断して、全身に魔力をまわして防御力を限界まで上げ、なおかつ張れるだけの障壁を張り巡らせて防御の構えをとるバスク。さらに、防御力が高そうな召喚獣を呼び出して僕との間に挟み、盾にする姿勢をとる。
 そこめがけて、上段回し蹴りの要領で……僕は、黒白の竜巻をまとった右足を振りぬいた。

 盾になって自らも防御の構えをとる、鎧の騎士のような召喚獣――『ゲリュオーン』だっけ? なんか前にも見たことあるような……――に僕の右足が触れた瞬間、ミサイルが数十発まとめて直撃したかのような爆発・衝撃が巻き起こり、僕の前方数十mの地面が余波でめくれ上がった。
 音が大きすぎて逆に世界から音が消え、巻き起こった土埃はそれと同時に衝撃波や暴風で吹き飛ばされていった。

 『ゲリュオーン』はコンマ1秒で地理になって消滅し、何枚もの障壁も、千枚通しで濡れた和紙を突いたかのようにあっさりと破られ、僕の蹴りは無事に(?)バスクに直撃。その体を盛大に吹き飛ばした。
 もっとも……さすがにそれまでの壁で多少なり威力が減衰してしまったのか、骨2、3本折った程度の感触であり、原型残したまま吹き飛んでいったけど。さすがに頑丈だなー、僕の体。

 しかし……やはりというか、想定より威力出たな。
 単に、『陰陽術』の応用で光と闇を混ぜた程度なら、これよりももっと威力は低いはずだった。きっと、召喚獣と障壁を消し飛ばせても、バスクの体に損傷を与えることは難しかっただろう。

 けど実際には、ああしてバスクは盛大に吹き飛び、すぐに体勢を立て直すのが難しいレベルの傷を負って、今もまだなかなか立ち上がれないでいる。

 こうなった理由は……さっきもちらっと言ったが、見当はついている。

 おそらく、僕とウェスカー、双子の兄弟の力が合わさったことによる相乗効果か何かだろう。

 以前、シャラムスカ皇国で怪人化したアガトと戦った際に、似たような現象を見た。
 僕の黒い蹴りの衝撃波と、ウェスカーの白い光の刃が同時に放たれた際、予想を大きく上回る威力をたたき出し、アガトを跡形もなく消滅させた……ということがあった。

 もともと僕とウェスカーは、1人の子供が2人に分かれてしまったために誕生した双子であり、1つの体に収まるはずだった力が半分ずつ分かれてしまっていた。
 そのため、僕は肉体的には頑丈だけど魔法の才能がなく、逆にウェスカーは魔法の才能はあったけど肉体的には虚弱だった。

 であれば、その2つを1つに戻して力を発揮すれば、それはすさまじい力になるんじゃないか……いや、あの時実際にそうなったんじゃないか、と思ったわけだ。
 現に、ウェスカーは先の『サンセスタ島』での戦いの際、一時的にその『半分になってしまった欠損』を補う薬品を使うことで超パワーアップしてた。

 それと同じことを僕もやったわけだ。薬品じゃなく、魂を使って、しかも疑似的にではあるけどね。
 単に光と闇を混ぜるんじゃなく、ウェスカー由来の『光』と僕由来の『闇』を混ぜた。

 その結果がこの威力だ。……さっきも言ったけど、正直、予想以上である。
 これが、僕の……僕とウェスカーの、本来の力か。

 ……本来の、か……うん、よし、コレだ。名前決まった。
 次からは『コレ』で名乗るとして……

「じゃ、そろそろ終わりにしようか」

「……言って、くれるね……もう、勝ったつもりでいるのかい?」

 どうにか動ける程度にまでダメージは回復したらしいバスク。
 まだちょっと足腰が危ないというか不安定な感じはするものの、未だ繊維の衰えない目でこちらをにらみつけ、構えなおしてくる。

「……技と手を抜いて時間稼ぎをして、こっちの技を盗んで見せたのはさすがだよ……けどね、時間が味方するのは、何もミナト君だけじゃない。……さっきまでも、僕が時間稼ぎに成功した結果、ミナト君の魂を模倣できたのを忘れたわけじゃないだろ?」

「? まだ、何か切り札でもあるの?」

「隠して持ってる系の奴じゃないけどね。……気づいてると思うけど、僕じゃあこの肉体のスペックを10割引きだして使うことはとてもできない。もっともそれは、時間をかけて解析したり、鳴らしたりすることができればまた違ってくるんだよ」

 言いながらバスクは、体の中で魔力を練り上げ始め…………え、ちょっと待って?
 おい、それ……おい!?

「気付いたみたいだね……戦ってる最中もずっと、こっちは君のことを解析し続けてたんだよ。この肉体の力をより大きく引き出すために、君が使っている魔法やら何やらを1つでも多く解析するためにね。そしてその反応……どうやら今やろうとしているこれが、君の強さの秘訣、あるいは、それに限りなく近い『何か』ってことで間違いなさそうだ……!」

 僕の反応から、バスクは、今自分がやろうとしている『あること』によって、自分の体……つまりは僕の体を大幅に強化できるのだと確信したらしい。ためらわず、胸の中で魔力を練り上げていき……いや待て! ちょっと待て!

 確かに、確かにその予想一応合ってるけども……でもホントに待て!

「バスク! お前それ今すぐやめろ! でないと……」

「お断りだよ……これで、もっ……っ……!?」

 そして、ひときわ強く魔力が練り上げられ、それが全身に広がろうとした……次の瞬間。



 ―――ドッ、パァンッ!!



「……え゛、っ……?」

「あ、あーあーあー……」



 バスクが、爆発した。
 全身の血管が内側からはじけ飛んで、血を噴き出した。

 腕、脚、胸、肩、腹、頭……目からも耳からも鼻からも口からも……
 体中いたるところから血を流して……そのまま、どしゃり、と倒れこんだ。

「なん、で……」

(……だからやめろって言ったのに……)

 こいつ……よりにもよって『エレメンタルブラッド』を真似しようとしたな。

 心臓の中で魔力を練り上げ、粒子レベルの小さな『魔粒子』を作り上げて、それを全身の細胞に届けることで、細胞レベルで肉体を強化する技。

 僕の『否常識』の原点との呼べる技の1つであり……自分で言うのもなんだけど、この理不尽なまでの身体能力や肉体強度の源泉と言っていい技である。これを使っているからこそ、僕は素肌でドラゴンのブレスにも耐えることができ、刃物は刺さらないし毒や酸も効かない……という、異常なまでのタフネスをものにしている。

 もしこれをバスクが使うことができれば、確かに相当手ごわかっただろう…………しかしそれは、使うことができれば、の話だ。

 この技、出力その他の調整がものすごく難しいんだよ……

 加減間違う、体の内側から破裂するような感じになってむしろ大ダメージを負うことになる。血管内部に魔力の圧がとんでもないレベルでかかるわけだからな……高血圧の魔力版、みたいな例えでいいんだろうか?
 
 今でこそ僕は、呼吸をするような感覚で簡単に使えるようにはなったけど……そこに至るまでに年単位での修行が必要だったんだぞ。開発したのも僕だから、模索しながら。

 ……昔、僕もミスして腕が吹っ飛びかけたことあったっけな……そしてその時には、心配して母さんに泣かれたし……。

(あーもー、嫌なこと思い出させやがって……こんにゃろう)

 今回のバスクはもっとひどいなこれは……いきなり全身を強化するつもりで使ったんだろう。体中の血管が破裂したな。
 下手したら、『魔粒子』の生産元である心臓も、か? さっきから、出血量は多いけど、体から血が噴き出してくる勢いはそんなにない気がする。心臓がポンプの役割を果たしていないのかも。

 しかも、『エレメンタルブラッド』は加減を間違うと、逆に身体機能を大幅にダウンさせる。自己治癒力や、魔力の使用・回復速度さえも。
 さっきまで見たいに、キリツナやリュウベエの能力で肉体の再生をしようとしてるみたいだが、うまくいっていないのはそのためだろう……。

 ……これはもう、だめだな。

「……バスク」

「……っ……ミ゛、ナ゛……」

「もう、おとなしく終わっとけ」

 言うと同時に、僕は左手に闇を集中させ……ウェスカーの力を利用して魔力を精密に制御しながら、魔法を発動させていく。
 使う魔法は……『ブラックホール』。

 僕の手のひらにできた、小さな黒い球……ごく省の重力崩壊を、バスクに向ける。
 体がろくに動かず、抵抗することもできないバスクは……そのままそれに吸い込まれて……この世から完全に消滅した。

 やれやれ……何というか、微妙な終わり方だったな。気分的に。



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