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第23章 幻の英雄
第564話 モノマネリサイタル・第2幕
しおりを挟むドゴォン! と、大きな音を立てて、僕の目の前の地面にクレーターができる。
僅か1歩の距離で飛びのいてその一撃をかわした僕だが、かわされるのを読んでいたのか、バスク(変身済み)は、その巨腕を素早く切り返して横向きに薙ぎ払う。
風圧……だけじゃなく、同時に衝撃波まで出してきたので、少し驚いた。
……こいつは、ええと、特徴からして……ドレーク兄さんが戦った、グナザイアとかいう『最高幹部』のコピーかな? 右腕だけ異様に大きい、鎧姿の男、っていう話だったし、たぶん間違いないと思うけど。そういえば、『シャラムスカ』の騒動の時にもいた、かも?
あの時はハイロックの相手で手いっぱいだったから、よく覚えてないな……。
とか考えてたら、巨腕を叩きつける……と見せかけて、一瞬でそのハイロックに姿を変えて飛び込んでくる。素早いけど比較的鈍重な一撃から、目にもとまらない速さの連撃にいきなり切り替わったけど、どうにかさばいて防ぐ。
かと思えば今度は……カムロかよ。こいつにもなれるのかよ。
ヤマト皇国で戦った、妖怪『ぬらりひょん』こと、最高幹部・カムロ。両腕が龍の腕に変化しているそいつの姿に変化したバスクは、両腕からそれぞれ違う魔法……いや、『陰陽術』由来の攻撃を放ってくる。
拘束用と思しき黒い縄はかわし、攻撃用であろう巨大な火球は叩き割る。そしたらかわしたと思った縄が追いかけてきたので、手刀でバラバラに切り裂く。
「こんだけ色々やってきて、よくこんがらがらないな……」
「いやいやそれはお互い様でしょ。何やってくるかわからないって意味では、ミナト君以上に怖い奴なんてそうそういないからね?」
言いながらウェスカーに変身。剣の切っ先から電撃を放ってくる。
このくらいの電撃なら、よける必要も防ぐ必要もない。むしろ吸収して充電できる。
攻撃吸収充電でむしろ回復しつつ、構わず突っ込んで飛び蹴り。
以前、効かなくて吸収できるからってそのまま棒立ちで見ていた結果、それを見越してた相手にまんまと準備する時間を与えてしまった、っていう苦い思い出があるもので、そのへんは抜かりなく、油断なく戦います。
短距離の転移で僕の飛び蹴りをかわしたバスクは、今度は『四代目酒吞童子』ことキリツナに姿を変えて、2本の刀に『邪気』をまとわせて襲ってきた。
それも見えるし、さばける。『邪気』も、あの時と違って解析が済んでいる今となっては、僕に対して有効な攻撃とは言えない。
さすがに吸収はできないけど、打ち消して散らすことくらいは余裕で可能だ。
しかし、邪気の浄化に注意を割いた分、ほんの少し対応が遅れた。
即座に姿を変えたバスクは、今度は―――
「ぐはっ!?」
「あ、手が勝手に」
……見覚えのあるド外道傲慢ハイエルフのジジイに姿が変わったのが見えた瞬間、ほとんど反射的に手加減ゼロの拳が飛び出してバスクを……『ギャナーガス』に変身したその体を吹き飛ばしていた。
結構深刻なダメージになったっぽい。血吐いてる。
けど、体に穴も開いてないし原型きちんと保ってる。骨は……肋骨何本かイった感触があったけど……あ、またキリツナに変身した。なるほど、『邪気』による再生で傷を治すつもりか。
いやしかし、まさかあいつにまで変身できるとは……というか、変身するとは。
そりゃ僕の理性が一瞬でプッツン行っても仕方ないってレベルである。……僕のハイエルフ嫌いの諸悪の根源だからな、あいつ。見せるなよいまさらあんな顔。気分悪いな。
今の一連の攻防で戦った相手以外にも、知ってるやつから知らない奴まで様々に姿を変えてきたけど……総じて問題にもなってないな。僕を倒すには程遠い、と言わざるを得ない。
……アレな言い方をすれば、
「劣化コピーの再生怪人をどんだけ連れてきたところで、今更怖かないね」
「再生怪人、ねえ……上手いこと言ってくれるもんだ。別に、からかってるんでも何でもなく、俺は俺で本気というか必死なんだけどね」
「だったら素直にあきらめた方がいいよ。そんでさっさと帰……いや、どっちに帰ったらいいか僕に教えてから帰れ」
「……ああ、方向音痴はまだ治ってないんだね。それなら、うん……ここは潔く退散して、帰り道に関しては適当な情報を教えてかく乱した方がむしろ有効かな?」
おいやめろ。実際というか地味に有効そうなので困る。
「それか、僕が転移で送ってあげようか? ああでも、長距離転移には不慣れだから、失敗したらごめんね。火山とか、海の底とか、墜落死確定の高高度とかに出ちゃうかも」
「そしたら八つ当たりで火山噴火させて海を流氷の海に変えて異常気象引き起こすけどいい?」
「死ぬかもしれない点については最初から問題にもしないんだね」
そのくらいじゃ僕は殺せないからね。
ああでも、それやったらこいつらじゃなくてむしろこの星に住んでるドラゴンの皆さんが困るな……却下だ。
なんて話してる間に回復したらしいバスクは、またしても変身して姿を変えた。
今度は……え、マジで?
「お前……そんなこともできるの?」
「できるんだなこれが」
そういうバスクの顔は……さっきまでのキリツナのまま。鬼のシンボルである角が生えている。
しかし……キリツナのままなのは、『顔』というか『頭』だけ。
右腕はリュウベエのそれになり、大太刀を持っている。左腕はカムロの龍の腕になっており、陰陽術と思しき炎をまとっている。
胴体はグナザイアの鎧になり、両足はハイロックの軍服。背中にはプラセリエルの翼と尻尾。
部位ごとに違う人物をコピーすることまでできるのか。どんなキメラだよ。
しかし、油断はしない方がいいな。
リュウベエの剣、カムロの術、ハイロックの脚力、グナザイアの防御力、プラセリエルの飛行能力に、キリツナは……邪気による再生能力あたりかな? それら全てを一度に備えて発揮できるんであろうその姿。
そんなことを考えたか考えないかくらいのうちに、ハイロックの両足で地面を蹴って驚異的な加速を見せたバスクは、そのまま僕に突っ込んできて、首めがけて大太刀を振るい……
「……いやでも、それは余計にダメだろ」
「がっはぁ!?」
大太刀の一撃をひょい、とかわして……懐に飛び込んでみぞおちに一撃。
左手はこめられている述ごと、虫を追い払うようにぺしっ、とはらい、繰り出されようとした前蹴りを、先にその足を払うことで防ぎ、返す刀で振るわれようとした刀は裏拳で弾き飛ばして……そのまま一回転する勢いを載せた回し蹴りで蹴り飛ばす。
数メートル離れたところに転がる、再生怪人てんこ盛り状態のバスクを見て……自然とため息が出た。
……まあ、見た目はゴージャスで一見強そうに見えるけどさあ……別な人間の体をそれぞれ1つの体につなぎ合わせたところで、うまく戦えるはずないじゃないか。
単なる火力や防御力だけならともかく、1人1人適正も鍛え方も体のつくりも違うんだから……なんならプラセリエルに至っては性別すら違うしね。
そんな肉体構造をツギハギして合わせたところで、動きの精度も体のバランスも滅茶苦茶になるのは目に見えてるわけで……見事に見掛け倒しだったな。
絶対値的に見れば決して弱いわけじゃないだろうけどさ、これならむしろ、これまでの再生怪人単体での戦闘の方が強かった。
……けど……
(この程度のことに、こいつが気付かないとは思えないんだけど……ちょっと動いて戦ってみただけでも、うまく動けない、戦えないってことくらい気づけるはずだ。まさか、この場で初めてやってみたわけじゃないだろうし……それでも使いたかった? そんな、僕じゃあるまいし)
なんか微妙に心の中で自虐してしまったけど、まあそれはさておき。
何かさっきから違和感があるんだよな。バスクの奴、手を変え品を変え、まるで僕を飽きさせないために見世物でもしてるみたいな……
戦闘能力があきらかに……それこそ、バスクのこのモノマネ能力を加味したとしても勝率がまるでなさげなのに、あきらめ悪く向かってくるし……
なんて思ってたら、蹴り飛ばされた先でバスクが起き上がり……その返信を解除した。もとのバスク自身の姿に戻る。
その顔には……まるで『してやったり』とでも言いたげなような笑みが浮かんでいた。
「油断大敵、って言葉知ってるかい、ミナト君」
「もちろん知ってるよ。ついでに言うなら……母さんや師匠からしょっちゅう言われてることでもある。どれだけ強くなっても足元をすくわれることだって起こるんだから、って」
「教えられてはいたけど、実践はできてなかったみたいだねえ……まあ、俺にとっちゃ、都合がよかったわけだけどさ」
そう言いながら、バスクは再び変身。今度は、さっきみたいなキメラじゃなく……ウェスカーの姿になった。
……もちろん、キメラをやめてその姿になったところで、僕に勝てる道理はないわけだけど……
そして、それをバスクももちろんわかっているだろう。……何を企んでる……?
「警戒してたのか、それとも俺をおちょくってたのか……あるいは、帰り道とか、色々聞きだした地ことがあったから手加減してくれてたのかな? まあ、何でもいいけど……ミナト君、助かったよ。本気出せば簡単だっただろうに……瞬殺せずにここまで引っ張ってくれて」
言っている最中も、バスクの体からは謎なエネルギーみたいなものが揺らめいて立ち上っていて……徐々にその色が黒く濁るように染まっていく。まるで煙幕みたいな形になって、ウェスカーに変化した体を隠していく。
……何を狙ってる? コレに紛れて逃げるとかじゃなさそうだけど……。
「まだ慣れてない上に、この技を使うのは難しくてね……戦いながらずっと『観察』して『解析』してたんだ。随分時間かかっちゃったし、正直賭けだった。君が僕を甘く見て、それまでとどめを刺さないでくれるかどうか……時間稼ぎのための手は、一応他にもいくつか用意してはいたんだけどね。それでもまあ、どうにかこうして……間に合わせることができたよ」
「回りくどいな……もったいぶってないでさっさと言えよ。まだ何か隠し玉があるの?」
「ああ、とびっきり強力な切り札がね……確かにまあ、想定してしかるべきだったよ。ウェスカーも、ハイロックも、カムロも……皆、既にミナト君に負けた連中だ。その体を再現して……けど、本人達よりも扱いに劣る俺が使ったところで、勝つのはまあ、難しいってね……けどそれなら……」
その瞬間、黒く染まったオーラを突き抜けて……
「ミナト君自身の力ならどうかな……!」
とっさに体の前で腕を『×』の字にしてガードし……しかし、その上からでも届くくらいの衝撃がぶつかってきた。
「なん……っ……!?」
踏ん張り切れずに吹き飛ばされ……どうにか受け身と同時に起き上がる僕。
すぐさま、バスクの方に目をやる。
そこには……さっき一瞬だけ見えたけど、さすがに見間違いだろうと思っていた光景が……そのままそこにあった。
……いや。おい……おい。
「お前、それ……どういうことなの」
「さあ、どういうことだろうね……当ててごらんよ」
そこには……僕がいた。
僕の姿そのものをコピーして変身しているバスクがいた。
ただしなぜか、黒髪に黒い服や装備のはずの僕の体は……白髪に白い装備、という、まるで色違いのコピペモンスターか、ゲームの2Pキャラか何かかと思うような見た目になって。
けれど、今の巨大な衝撃をぶつけてきたのが誰かかということがこの上なくわかりやすい……右の拳を振りぬいた状態でそこに立っていた。
おいおいおい……今度はどんな手品だよ?
応援ありがとうございます!
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