魔拳のデイドリーマー

osho

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第23章 幻の英雄

第561話 歓迎と、防げない罠

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 さて。
 準備完了、いよいよ出発! ということになったわけなんだが……

「入ろうとしたとたんにコレかあ」

「まあ、敵の本拠地なわけだし……ある程度の歓迎が待ってるのは予想できてたけどね」

 もうここまで来たら、僕らの襲撃は完全に気づかれてると思っていい。
 というか、こんだけ堂々と正面からやってきて……、結界ぶっ壊して、浮遊戦艦で乗り付けて来てるわけなんだから、そりゃ気づかれてない方がおかしいってもんだ。

 だから、忍び込むとかそのあたりはいっそ考えないことにして、正面から堂々と『お邪魔しまーす』と入っていこうとしたわけなんだが……門から一歩入ったところで、即座に迎撃用のトラップが発動した。

 真正面にあった扉がいきなり開いたかと思うと、極太のビーム砲みたいなのがまっすぐこっちに向けて飛んできたのである。
 しかも、結構な……ドラゴンとか余裕で消し飛ばせるであろう威力だった。一発目から殺意高いな。

 まあ、僕が片手で受け止めてそのまま握りつぶしたけど。
 体感的には、ちょっと熱かったかな程度。この程度の火力じゃ、もう僕には火傷どころか日焼け程度にもなりません。

 そして二歩目を踏み出したら、今度はドラゴンが何匹も飛来して襲ってきた。
 しかも見た感じ、さっきまで相手にしてたクローンドラゴンのさらに強化版みたいな感じの連中だった。

 種族は同じ、あるいは近縁種だと思うんだけど、見た目からしてなんかこう……とげとげしい外見になってて、いかにも攻撃力高そうな感じ。お得意の改造手術で強化したのかな。
 身体能力はもちろん、吐き出すブレスの威力も強化されていたので、さっきまでの連中とはレベルが違う強さだった。見た目以上の違いだったと言っていいかも。

 ただそれらも、鎧袖一触って感じで、シェリーやテーガンさん、エレノアさんが迎え撃って一蹴してくれた。こちらもほぼほぼ相手にはなってない。
 クローンドラゴンより強いとは言っても、この面子の前じゃ誤差同然である。

 そんでそれらを駆逐し終えたかどうかってタイミングで、こんどは入り口付近の庭一体が毒ガスで覆われた。
 しかもコレ、吸い込んだら効くタイプの毒じゃないな……皮膚やその他、体のどこからでも吸収されるタイプの凶悪な奴だ。

 さらにそれと合わせて、酸性の霧みたいなものまで。
 これだけでも普通の冒険者や魔物には致命的ってくらいに威力が高い上に、さっきの毒ガスと組み合わさるとさらに殺意が高いコンボになる。酸で皮膚が焼けただれたところから、毒ガスが入り込んでそのまま殺す、みたいな感じで。

 もっとも、どちらもあらかじめ『指輪』に防御機構を組み込んで対策してたし、回し蹴りの爆風で速攻どっちも消し飛ばした。
 発生装置になってる部分も、即座に師匠とエレノアさんが出所を看破して破壊してくれたので、問題なし。

 そして毒と酸が無効化されたと思ったら、今度は上空から爆弾っぽいのが大量に降り注……ぐ前に、アイリーンさんとテレサさん、それにナナとサクヤが遠距離で弾幕を張って全て撃ち落としたので問題なし。

「いや、まだ城に入ってもいないのにどんだけ殺意高い迎撃かましてくるんだろコレ」

「それだけ城に入ってほしくねーんだろうよ。どうあってもこの庭にいる間に俺達を仕留めたい、あるいはうんざりさせて追い返したいと見た」

 周りに広がるドラゴンやら爆弾やらの残骸を、手に持った大きな鎌を振り回した勢いの衝撃波で吹き飛ばしながら、師匠がそんなことを言っていた。ついでザリーとアイリーンさんも、

「ここまで露骨だとわかりやすいね。あの城の中に、よっぽど重要な設備とかが入ってて、暴れられたら困るってことかな?」

「あるいは、そもそもあの城、迎撃設備や侵入者対策の罠みたいなのが、もしかしたらないのかもしれないよ? 連中、多分こんなところにまでやってくる奴がいるとは思ってなかったのかも」

「ああ、それはありそうだニャ……普通に考えて、あの、何だっけ……『宇宙空間』?とかいうのを超えて、とんでもない距離を飛んでここまで来る手段なんてないわけだし。ここに逃げ込んでしまえば、『ダモクレス』を追う各国の追っ手からも完全に隠れられると思ってたのかも」

「仮にあたりつけられても、どうやっても来れない場所にいるんだから、襲撃の心配をそもそもしていなかった、ってことですか? 言われてみれば……今の迎撃機構は、外部に対してのものだけ……野生のドラゴンその他の襲撃に関しては警戒してたけど、冒険者みたいな連中がダンジョン扱いで攻略しようとしてくることに関しては無警戒だったと」

「……いや、普通に考えてそういう扱いでやって来れるのなんてそもそもいないと思って当然なんだけどね……ただ単に私達が例外中の例外なだけで」

 エレノアさん、セレナ義姉さんと続き……最後に言ったエルクはちょっと疲れた感じになっていた。

 うん、まあ、確かに……言葉にすると結構ひどいな。
 宇宙空間挟んだ別な惑星にある敵の本拠地を、その惑星含めてダンジョン扱いで攻略しに来る冒険者……そんなぶっとんだ発送する奴なんて、普通に考えているとは思わないだろう。

 ……まあ、残念ながらここにいるわけだけど。
 それも、デフォでそういう考え方をしてしまうような、もう今更だけど『否常識』極まりない面々がさ。

 なんてことを考えて思わず苦笑いしていると、

「わかってるんならさっさと帰ってほしいもんだけどねえ」

 そんな、聞き覚えのある声が聞こえたかと思うと……また正面玄関が開いた。
 しかし、今度はビーム砲は飛んでこず……代わりに出てきたのは、テンガロンハットと派手な服、そして腰に差したサーベル型の剣が特徴的な優男だった。

「バスクか、お前ここにいたんだ」

 『サンセスタ島』で、ウェスカーと一緒に僕らの前に立ちはだかった、ダモクレス財団の『幹部』の1人……バスク・ジョローア。
 もっともこの名前、偽名らしいけど……まあそれはいいか。

 しかし。こう言っちゃなんだけど……こいつが僕らの相手をするつもりだろうか?

 自画自賛みたいな感じになることは承知で言うけど……いくらなんでも無理じゃね?

 バスクだって、まあ、決して弱くはないと思うけど……それにしたって、今の僕らを相手に戦うとか、無謀どころの話じゃないよ。

 単純に考えて、『幹部』であるバスクよりも、『最高幹部』であるウェスカーの方が実力は上だった。そしてそのウェスカーはというと、『サンセスタ島』での戦いで、ドーピングまがいの強化までして、全力以上の力を発揮してなお、僕に敗れている。
 ましてや今、僕らの方には、僕を含めて『邪香猫』の戦闘要員ほぼ全員に加え、僕より強い『女楼蜘蛛』のメンバー6人が揃ってるんだから……

 ……いや、うん。無理じゃね?(震え声)
 自分で言っててこの状況、バスクから見てどんだけ絶望的なのかに気づいてちょっと背筋が寒くなってきたんだけど。

 そこんとこに行きついたのは、もちろん僕だけじゃない。

「悪いことは言わん、さっさとそこをどいてどこへでも逃げい、若造。この状況で貴様に勝ち目がないことぐらいわかるじゃ老子、勝ち目がないとわかって自分から虎口に飛び込むこともあるまい」

 半分呆れを声音ににじませた感じで、テーガンさんがそう、諭すように言う。
 僕も含め、大体皆言いたいことは同じである。

 しかしバスクは、そのいつもどおりの挑発的な笑みを崩すことはなかった。

「気を使ってもらってるとこ悪いけど、遠慮させてもらうよ。これでも俺、総裁からここの守りを任されてるわけだしね。職務放棄はちょっといただけない」

「……なら、死ぬとわかって特攻でも挑んでみるか? 言っておくが……貴様程度では亡骸が残るかどうかも怪しいもんじゃぞ」

「だろうね。まあ俺も、さすがにこんだけのメンバーを相手にして、真正面から戦ってどうにかできるとは思っちゃいないよ。けど……」

「絡め手でならやりようはあるって? それにしたってちょっと自信過剰じゃないのかい? 何をするつもりなのかはわかんないけど……多少の小細工はボクらは気にも留めるつもりないけど」

「普通の小細工ならね。でも……」

 一拍、

「……『コレ』は、あなた達でも防げないことは……実証済みだ」



 ―――ガツン
 


 その瞬間聞こえてきたのは……馬か牛のような、しかしもっと力強い……蹄の音だった。

 それと同時に、僕……と、おそらくは母さんの背筋に、ぞくっとした感覚が走る。
 忘れたくても忘れられない感覚に、僕は即座に、こいつが何をしようとしているのかを理解した。

 しかも、これは……!

「母さんそっち!」

「わかった!」

「「「え?」」」

 やはり、僕と母さん以外はわかっていないらしい。
 周囲からそんな声が聞こえる中で、僕と母さんは、それぞれ逆方向に跳躍しつつ、何もない空間を殴りつける。

 すると、さっき『結界』をぶっ壊した時と同じように、空間そのものがひび割れて壊れ……その向こうから、『麒麟』が姿を現した。

 しかも……2匹も。

 『ヤマト皇国』での時と同じように、異空間を走って『麒麟』が近寄ってくる気配。しかも、2方向から同時に。
 それを感じ取った僕と母さんは……まさかとは思いつつも空間を殴ってぶっ壊したわけだ。迎撃のために。そしたら案の定、挟み撃ちにするような形で、2匹の『麒麟』がこっちに向かってきていた。

 まだ小さい。どうやら幼体のようだけど……それでも安心はできない。

 こいつの能力にあてられると、強制的にその場から転移させられる。
 成体のそれほどじゃないだろうけど……たぶんこればかりは、『指輪』の防御機構でも防げない。何せ、現に今、『女楼蜘蛛』の面々でも、母さん以外は察知すらできていなかった。空間系の能力に関しては、本当にこの種族はぶっ飛んでいる。

 強制的に飛ばされるのを防ぐために、母さんと僕は、それぞれ麒麟を殴りつけたり、短剣で切り裂いて一撃で仕留め…………仕留め、られない?

 首から上が粉砕されて、あるいは首と胴体が泣き別れになったのに、キリンは残った体だけでそのまま走ってきて……



 ……飛ばされる、感覚。



 ☆☆☆



「……やられたね、こりゃ」

 目の前に広がる光景を前にして……アイリーンはため息をついた。

 他の面々も、大体同じような感じになっているか……あるいは、まだ状況を把握できずに困惑している。
 主に、彼女と同じように年の功を持っている面々が全社で、まだ年若い面々が後者である。

「消え、た……?」

 思わずといった感じで、そう呟くエルク。
 彼女の目の前では……たった今、ミナトとリリンが、忽然と姿を消したところだった。

 そして、もう1つ。
 まさにこれから突入するはずだった、『城』も。

 今、彼女達の目の前には……だだっ広い、そして穏やかな草原地帯だけが広がっている。……ここに、最初に来た時と同じように。

 そう、ミナトとリリンがその存在を察知し……『結界』を破壊するまで、何の存在も感じ取ることができなかった……あの時と同じように、だ。

「狙いは最初から、リリンとミナト君だったわけね……」

「あの……『麒麟』だったっけ? アレが『飛ばす』対象というか標的は、最初からあの2人だけだったわけだニャ。そしてその後、即座に……『結界』を張りなおされた」

「そうか……『結界』を壊せるのも、『麒麟』の襲撃を察知できるのも、ミナトさんとリリンさんだけ……なら、あの2人さえ隔離してしまえば、あとは『結界』を張りなおすだけで……」

「私達はあの城に、手出しできなくなる、ってわけね。そこに確かにあるとわかってても」

 言いながら、シェリーは炎を凝縮して、鳥をかたどったそれを何匹も放つ。
 しかし、前方に向かって飛んでいったそれは……何に命中することもなく、悠々と飛び続け……そのまま消滅した。

「わかっちゃいたけど、単に見えなくしてるだけじゃなく、空間ごと上書きして隠してるかんじだね……こりゃ重力魔法でも干渉するのは無理だな。また、ミナト君かリリンに壊してもらわないと」

「何、奴らなら大丈夫じゃろう。飛ばされた先に何が待っていたとしても、やすやすと食い破って戻ってくるじゃろうて」

「でも、もし……いきなり火山の火口とか、海の底とかに飛ばされたりしたら? さすがにまずいんじゃ……」

「いや、多分、ミナトとお義母さんなら……そのくらいの場所なら普通に戻って来れるわ。前に、もう宇宙空間にでも生身で出られるって言ってたし……ホントとんでもないわよね、あの2人」

「ああ、うん、確かにそうかも。……むしろ、ただ単純に遠い、距離がある場所に飛ばされたとかの方が大変そうね……ていうか、ミナト君確か方向音痴じゃなかった?」

「……そっちの方が深刻かもね。ていうか、あいつらこうやって時間稼ぎしてる間に逃げる気なんじゃ……」

「うげ、あり得る……」



 ☆☆☆


 エルク達がそんなことを話している頃、
 その、ミナト達はというと……



「…………どういう状況だよ、これ!?」



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