魔拳のデイドリーマー

osho

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第23章 幻の英雄

第546話 『女楼蜘蛛』、復活

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 冒険者チーム『女楼蜘蛛』。
 今から150年ほど前に存在したチームであり、6人いたメンバーの全員が、ギルド史上最高である『SS』のランクを有していたという、空前絶後の存在。

 様々な伝説が語り継がれてはいるものの……彼女達について知られていることは多くはない。
 解散から経った時間による失伝も相まって、今では謎の多いチームとしても知られている。

 そんな少ない情報の中でも、特によく知られているものは……今言った通り、メンバー全員が女性であったことや、まばゆいばかりの探求心や正義感を持っていたこと。その力でもって、多くの国を危機から救い、多くの人々を助けてきたこと。
 そして、そのメンバーのうち……アイリーンさんを除く全員が、既に逝去していることなどだ。

 ……まあ、ほとんど大嘘なんだけどね。

 だってほら……



「いやー、久々に来たわねここ! やっぱり100年も経つと色々変わっちゃってるなー」

「そうか? もう昔のことなんぞとんと覚えとらんから、いまいち違いもわからんな」

「いやリリン、君最近来たろここ……2年くらい前にさ、ほら、夜中にさあ」

「はい手続きしゅーりょー! 皆ー、ギルドカードもらってきたニャ!」

「ありがとうエレノア。……あら、SSランクのカードってこんなデザインだったかしら?」

「150年ぶりだからデザインもろくに伝わってねーんだろ。ま、使えりゃ問題ねーさ」



 そこで6人とも、超元気そうにしてるもん。

 アイリーンさんの『爆弾発言』からほどなくして……あらかじめ決めて置いた通り、母さんを含む残りの『女楼蜘蛛』メンバーがギルドに集合。
 そのまま、状況がわからず唖然としている野次馬達他をきれいにスルーして、リィンさん(事前に打ち合わせ済み)のいる窓口で、ギルド復帰の手続きを行った。

 そんで、無事に6人ともギルドカードを再取得して、『SSランク』の冒険者として復帰。
 さらに同時にチームの再登録も済ませて……最強のチーム『女楼蜘蛛』は復活した。

 なお、今ここにいる皆さんの服装であるが……他の5人はいつも通りの服装だけど、テレサさんだけは違う。いつもの修道服じゃなく……軽装ながらも、冒険者らしい旅装っぽい服に身を包んでいる。おそらく、現役時代はああいう感じの服装だったんだろうな。

 そして、ギルドカードが全員に渡ったあたりでようやく、クレヴィアさんをはじめとした他の冒険者達も再起動し……おそるおそる、といった感じで、

「ぎ、ギルドマスター? その……聞いてもよろしいでしょうか?」

「うん、何だい? まあ、予想はつくけどね……あと、もうボクはギルマスじゃないよ? 新しいギルマスが決まるまで、代行はバラックスだから」

「で、ではその、アイリーン殿……ええと……こちらの方々が、かの『女楼蜘蛛』のメンバーだというのは……本当のことで?」

「うん、そうだよ?」

「新しく結成した新たな『女楼蜘蛛』ということではなく……」

「うん。150年前、ボクが現役だった頃からの付き合いだよ、こいつらとは」

「じょ、『女楼蜘蛛』のメンバーは、『先祖返り』であるアイリーン殿を含め、全員、種族的には人間だったと聞いていたのですが……あと、アイリーン殿以外はすでに鬼籍に入っている、とも」

「うん、それ、大嘘。まあほら、あんまり過去をほじくられて騒ぎ立てられるのが好きな連中じゃないから、そう言ってただけ。正真正銘、皆、本物だよ? 人間じゃないけどね」

 しれっとそんなことを言うアイリーンさんに、クレヴィアさん、開いた口が塞がらない様子。

 周りの野次馬達も、ざわつきながらも大体同じ感じの反応である。

 しかし中には、アイリーンさんの説明を聞いて『なるほど』と納得してる様子の人もいた。
 
 引退した後に、あれやこれやと騒がれたくなくて、世捨て人みたいにひっそりと身を隠して老後を過ごすって言うのは、有名な冒険者や軍人の余生としては結構ありがちではあるし。

 ……実際はそれ以上に、へたにつついて刺激すると危ない、っていう理由もあるんだけどね。

 いや、人を危険物みたいに言うのはアレだし、そもそも皆さん、そこまで分別ないような人達じゃ決してないんだけど……逆に、分別がない相手に対してとなると、一切遠慮するような人達でもないからな……。
 100年前……師匠がネスティアを滅ぼしかけた時とかもそうだったように。

「……そういえば、今回の騒乱……アイリーン殿と同様に、大陸各地に所属不明の援軍が現れて、件の『龍』や、『ダモクレス財団』なる者達を蹴散らしたと聞いている。我も直接見たわけではないが……よもや……?」

「あーうん、それこいつらだよ。ちょっと久々だから、復帰前の肩慣らし代わりにね」

 今回の騒乱で各所の『ライン』で大暴れしていたのが皆さんであることに、ノウザーさんが気付いてそう言った。
 アイリーンさんも特に隠すつもりも何もなかったので、あっさり肯定して返す。

 それを聞いて周囲の冒険者達は、復帰後早速に(いや厳密には復帰前のことなんだけど)偉業を聞かされて、おぉ~、って興奮ないし感心した様子の声が上がっていた。
 『さすがは『女楼蜘蛛』……』『伝説は本当だったのか』とか、彼女達の実力を認識して誉める声も聞こえる。

「そ、それはその……お見事です……。し、してアイリーン殿? なぜ、その……今になって現役に復帰するような……もし差し支えなければ、教えていただくことは?」

「何じゃおぬし、さっきからやたら突っかかって来るのう? まるで取り調べのように根掘り葉掘り……何ぞわしらに文句でもあるのか?」
 
 と、その横にいて気になったらしいテーガンさんの言葉に、クレヴィアさんはびくっ、と肩を震わせて反応する。

「い、いえその、それはっ、滅相もない……で、ですがその……」

「こらこらテーガン、いきなり喧嘩腰になるなって……クレヴィアちゃんがびっくりしちゃってるだろ?」

「む……いや、別に喧嘩腰なつもりなどないぞ? ただ、あまりにしつこく聞いてくるから、少し気になって聞き返しただけじゃろう」

「それでも君の場合は元々荒っぽい質なんだから……まあいいや。それでねクレヴィアちゃん、ボクらが復帰する理由だっけ? そりゃ決まってるじゃない……また『冒険』したくなったからだよ」

 テーガンさんを軽く諫めつつ、アイリーンさんは、にっこり笑ってそう言う。

「冒険……ですか?」

「うん。世界にはまだまだ、ボクらの知らない場所があって、知らない生き物や人が住んでるんだっていうことがわかったからね」

 それに続けてアイリーンさんが言うことには、

 ここ最近、大陸各地でいくつもの未知の遺跡やダンジョンが見つかっており、その中には、伝説とされていた古代文明……『龍神文明』のものなども含まれていた。中から発見された数々の史跡から、歴史的に重要な事実が明らかになったという例もある。

 加えて、海の向こうに発見された未知の大地『ヤマト皇国』の存在。
 以前から存在が予見されてはいたものの、ここにきてその存在がついに確かなものとなり……今既に一部の国家は、交易のようなやり取りも進めている。

 そして、ヤマト皇国が存在した以上……同じように、海を隔てて、まだ見ぬ未開の大陸が世界のどこかにあるかもしれない。自分達が今まで知らなかっただけで……『アルマンド大陸』以外の、もしかしたらここよりも大きいかもしれない、未踏の大地が。

 その他にも、海底都市『アトランティス』や、異空間のダンジョンである『双月の霊廟』、異質な技術と文化を持つ謎の都市『ルルイエ』など、この大陸の周辺にも、いくつも……『女楼蜘蛛』が知らなかった、ワクワクするような『冒険』の部隊があった。
 そしてそこには、見たことも聞いたこともないような魔物が住んでいて、想像もしなかったような魔法や技術が眠っていた。

 きっとそういうのは、これからどんどん見つかっていく。
 だったら、それをただ眺めているだけの人生なんて……もったいない。

 もともと、各々の好奇心や冒険心が原動力となって結成されたのが『女楼蜘蛛』だ。
 彼女達にとって、今のこの大陸の、冒険の場の拡大という大波に乗ろうとするのは、半ば当然と言ってもいい流れだった。

「さっき言った通りだよ。隠居なんかして引きこもってないで、この目で見て、この手で触れて、この足で行って……そういうのを直に体験したいと思った。冒険者が動く理由なんてのはさ……それで十分だろ?」

「そうそう、自由にやりたいことやってこその『冒険者』だもんね。そういうわけで、私達これから、色々好きなようにあちこち行ってみる予定なわけ」

 それに続く形で母さんも。

 そんな言葉を聞いて、野次馬の中には、唖然としている人や、感心している様子の人まで、様々混じっているようだった。
 ひょっとしたらあの中には、『伝説の冒険者って言われるくらいだし、自分達には想像もつかないような崇高な目的や使命があるに違いない』とか思ってる人もいたかもしれないな。

 そういう人からしたら、アイリーンさんが行った、冒険者としてはあまりにも『当たり前』な言葉は、逆に驚きだったかもしれないが……彼女達にとっては、それがもう全てといっても過言じゃないからな。
 自由に、やりたいようにやる。それが『女楼蜘蛛』だ。

 しかし、それを聞いて納得した(というか、せざるを得ない)クレヴィアさん達と違って……色々な意味で残念な人達がここにはいました。

「い、いやいやこれは驚かされましたな……まさか、ギルドマスターのご同輩がいらっしゃるとは」

「まさかあの伝説の冒険者チームが復活とは……その様な瞬間に立ち会えて光栄ですぞ」

「それに皆さま、古老とは思えないほどの美しい方々ですなあ」

 と、同じように唖然としてことの推移を見守っていた貴族の皆さん。
 その中でも、さっきから何かと調子よくぺらぺらしゃべっている人達が、そんな風に言いながらアイリーンさん達に近づいてきた。

 なお、最後の1人が行った『古老』という言葉に、約1名ぴくっと反応しかけてた人がいたものの……どうにかこらえたようである。……心臓に悪い。
 ……テレサさん、その『ピストル』を作った手を元に戻しなさい。速やかに。

 そんなことは知らない貴族たちは、よせばいいのに変な欲を出して……

「しかしどうでしょう? 復活早々そう急がずとも……それよりもまずは、あなた方の復活を喜ぶ多くの者達と語らいの場を設けるというのは? 伝説の冒険者たちの帰還となれば、皆こぞって祝いに駆けつけることでしょう。よろしければぜひ、我々にその場を整えさせていただけませんか?」

「左様、左様! 未開もダンジョンも逃げません。であれば先に、今を生きる者達との交流を経た後に、これからのことを考えるというのもいいと思いますぞ?」

「そうだ、皆様さえよろしければ、我々がこれより先の皆様の活動を支援する立場になるというのはいかがでしょうか? その方が皆様も心置きなく、何の不安もなく冒険者活動に専念でき、またいくつもの有用なつながりができるというもの。うむ、それがいい、それがいい!」

 そんな風に熱弁している貴族達だが……肝心の『女楼蜘蛛』の皆さんはというと、見事に全然気にしていないというか……興味の欠片も示してないな。
 むしろ『ああ、またこういう手合いか』みたいに、呆れたようなうんざりしたような空気すら感じられる。……まあ、現役時代もそういうのたくさんあっただろうしな。

 話し続ける貴族達は、全然気づいてないけど。

 それでも一応、アイリーンさんは一応きちんと営業スマイルを顔に張り付けて、大人の対応を……

「ああ皆さん、せっかくの申し出ですけど、お気持ちだけいただいておきますから。ボクらは自由にやりたいたちなので、そういうのは別に……」

「いやいやそうおっしゃらずに! 決してあなた達にとってもそんな申し出にはならないはずですぞ! 今の時代を生き、冒険者として活動するのならなおさらです!」

「そうですとも! 何でしたら……どうですか? この後皆さま、一緒に食事でも? なかなかいい店を知っているのですよ、今から貸し切りで予約させますから、そこで今後の……」

「だからそういうのいらねーって言ってんだろーが一回言ったら分かれよこのボンクラ共」

 大人の対応、終了。
 ……早かったな。

 ノーブレスで一気に吐き出された突然の率直な言葉(というか暴言)に、しばし『は?』とあっけにとられる貴族達。

 さっきとはまた違う意味で、今言われたことを理解できていない様子。

 しかし、アイリーンさん達……待つ様子、なし。

「さて、じゃこれからどうする? 早速どっか行く?」

「いやリリン、さすがに今からはいきなりすぎだニャ……計画も何も立ててないし。まあ今日1日はきちんと準備に費やして……明日出発でいいんじゃないかニャ?」

「というかぼちぼち腹が減ってきたんじゃが……のうアイリーン、どこぞ美味い店でも知らんか?」

「この面子、この人数で、予約なしで飛び込みでとなると……うーん、どうだろうねえ?」

 そんなことを話しながら、すたすたとその場から歩き去ろうとする皆さん。
 それをあわてて貴族達が呼び止める。……よせばいいのに(2回目)

「ちょ、ちょっと待っていただきたい!? アイリーン殿!」

「うん? まだ何かあるの?」

「何かではないでしょう! 我々がまだ話を……というか、い、今のは一体どういう意味か!?」

「ですから、そういうのはいいですって断っただろ? 僕らはいち冒険者として自由にやるつもりだから、そういうしがらみはノーサンキューです。以上、終わり、もういいよね?」

「何だその口の利き方は、我々が誰だかわかって言っているのか!?」

 よせばいいのに(3回目)。
 いや、そのセリフ……あんたらこそわかってるのか、目の前の面子が何者なのかを……

 アイリーンさんの、ビジネスマナーを地平線の彼方に馬鹿にしたような物言いに、プライドばかり無駄に高い彼らは、すっかり頭に血が上った様子で。
 ……まあ、それにしたってちょっとアイリーンさん喧嘩腰な部分もあった気がするけどね……普段から色々、言いたいこと我慢してたのかな? やっぱり公人の立場って大変なんだな。

 アイリーンさん達がまだ穏便に、言葉で対応しているのをいいことに、貴族達はわめきたてる。

「いかに冒険者として有名といえど、わきまえるべき礼節というものをわきまえていないと見えるな……呆れたものだ。人の世の社会の生き方というものをご存じないか? これだから荒事しか知らない冒険者は……」

「知と人脈によって都市や国の運営を担っているのは、我々のような立場の者達であり……その我々がよかれと思って声をかけているというのに、それを理解できないというのか! いかに高名な冒険者といえど、ましてギルドマスターの地位も引退したとなっては、後ろ盾もないいち市民でしかないであろうに……なんたる無礼! 撤回と謝罪を要求しますぞ!」

「やれやれ、噂に聞いた伝説の冒険者が、なんと粗暴なことを……SSランクの冒険者がそんなことでは、その下に続く他の冒険者達にも示しがつきますまい? もう見た目ほど若くもないでしょうに、もっと先達として、下の者達の手本となるような在り方を心得てもらわねば困りま……」



「「「あ゛?」」」



 その瞬間……ギルド内部の気温が、一気に10度くらい下がった気がした。

 ドスの利いた声と共に、彼女達を中心に広がったその……かなりやばいレベルの殺気。

 それにあてられて、ギルド内部にいた人達のうち、3割くらいが一瞬で意識を刈り取られ、その場に気絶した。
 残りの人達も、ほとんどが顔を青くして立ち尽くしたり、滝のような汗を流したり……腰が抜けてへたり込んでしまったりしている。

 中には、とっさに武器に手を伸ばしたり、臨戦態勢に移った人もいた。……このあたりはまだマシな方だな……。
 クレヴィアさんやノウザーさんなんかの、一部の実力者だけみたいだが。

 なお、僕ら『邪香猫』は……人にもよるけど、一応全員きちんと意識も姿勢も保ってます。

(……人里で出していい殺気超えてます、お三方……)

 出元は……さっきから応対していたアイリーンさんと、権力嫌いの師匠。
 そして……おそらくさっきの『古老』に続いて、『もう若くない』が見事に逆鱗に触れた、テレサさんだろう。……多分、彼女の殺気が一番やばかった。

 そして肝心の貴族達はというと……意外や意外、3人中2人が意識を保っていた。
 残り1人は、泡吹いて気絶してるけど。

「なっ、なっ、なん……なん……」

「あっ、あ……あう……」

 そして残った2人も言語中枢が仕事してない。顔色真っ青。

 ……あと、なんか師匠やテレサさんと、エレノアさんとの間に何かしらのアイコンタクトでやり取りがなされてるようなんだが……
 『殺っていい?』『やめとけ』とかそういう内容じゃないことを祈る。

「わ、我々に対してこのような……自分達がどれほど無礼なことをしたかわかって……」

「そ、そうだ……た、ただでは済まさ……」

「へえ~……なら教えてくれるかい? どのくらい無礼で、ボクらはどうなっちゃうのかな?」
 
 ずい、と笑顔のまま前のめりになって問いかけるアイリーンさん。
 それに、すっかりおびえてしまっている貴族は『ひぃ!?』と、半ば裏返った声の悲鳴を上げながら、のけぞって離れようとする。

「まー予想通り、色々勘違いしてるみたいだから教えておこうか。ボクらは別にね、君らに対して喧嘩売ろうってわけじゃないんだよ? ただ、そっちが喧嘩売るなら買うぞ、ってだけ」

「なっ……なっ……」

「何考えてボクらに近づこうとしてるかなんてのは、150年前もそうだったし、大体予想はつくよ? 君達ってば、自分達の利益になるようなことが大好きで、色々どん欲につながりを持とうとか、あわよくば召し抱えようとするからねえ……そういうの、ボクらは大嫌いなんだけどね」

 そのまま、淡々と語るアイリーンさん。

 自分達『女楼蜘蛛』は、冒険者として好きなように生き、好きなように冒険し、好きなように戦い、好きなようにやっていく。

 権力なんかに興味はないし、媚びを売るつもりも、顔色を窺って忖度するつもりもない。
 特に敵視したりもしないけど、鬱陶しかったり、強引に迫ってきたりするようなら……はっきり拒絶するし、それでも引き下がらなかったり、こっちに突っかかってくるようなら……容赦はしない。相手が誰だろうが、きっちり落とし前をつけさせる。貴族だろうが、国だろうが。

 要するに、『自分達は自由にやる。邪魔をするな』……シンプルにまとめれば、それだけだ。

 身分や立場、階級というものが……絶対ではないにしても、社会の中で大きな意味を持つ、この世界において……真っ向からそんな風に貴族相手に喧嘩を売るような人は、なかなかいない。

 ゆえに、貴族達はもちろん……見ていた冒険者達も驚いていたみたいだ。
 『女楼蜘蛛』って、こんな感じの人たちだったのか、と。

 それが、好意的に受け止められてるのか……はたまた、否定的な感想を抱かれているのか。
 そこはわからない……というか、人それぞれだろうな。……まあ、どうだったとしても……彼女達がそんなことを気にすることは一切ないんだろうが。

 お近づきになりたい思惑をきっぱりと拒絶させられた挙句、こんな風に恥まで欠かされた貴族達は、悔しそうにしつつも……目の前の彼女たちがわかりやすく『危険』であると理解させられているため、既に反撃する余裕もなさそうだ。
 ……かえって懸命というか、幸運ではあるんだけどね。……これ以上何か言った日にゃ、本当にどうなるかわからんし。

 師匠は当然容赦なんてしないだろうし、それに次いで過激派?なテーガンさんや、鬱憤が溜まっていたであろうアイリーンさんも同様。
 一応の穏健派?である、エレノアさんや母さんも止めはしないだろうし……テレサさんは今、NGワード連発で過激派以上に気が立ってるので余計に危険。

 そんな時、ふと貴族の1人がこっちに気づいたように視線をやってきた。
 
 ……え、何? アイリーンさん達に振られたから、こっちに何か話振ってくるつもり?
 いやちょっと、そういうのやめてほしいんだけど……どういうやり方で巻き込もうとしてるのかしらないけど、人をダシに……

「あ、そうだちょっとミナト?」

「え、何? 母さん」



「「「…………母さん!?」」」



 あ、普通に返事しちゃった。
 ……まあ、いいか。別に隠すつもりもないし。

 クレヴィアさんや貴族達も含め、ほとんどの人から、驚愕した感じの視線が向けられる。喧噪の中で、『え、親子!?』『そういえば、苗字……』『お母さん若すぎね!?』とか聞こえてくる。

 けど、特に気にせず、母さんの『ちょっとこっち来てー?』の手招きジェスチャーに従って、そばに行く。はいはい何ー?
 
「なんか今受付で聞いたら、チーム同士『同盟』を組んでギルドに登録することもできるんだって。これからしばらく一緒にいるわけだし、ミナトのところ……『邪香猫』と『女楼蜘蛛』、同盟で登録しといた方がいいかなって思ったんだけど、どうする?」

「いや、そんないきなり言われても……普通に協力する関係なのとは何が違うの?」

「あんまり違わないみたい。でも、合同で受ける以来の時とかに色々配慮してもらえたり、手続きの一部が省略できたりするんだって。んーでも、私達今後、基本的に誰かの依頼で動くことってしばらくないだろうしね……いっか別に」

「まあ、必要になったらその時に考えようよ。……ところで僕らもご飯まだなんだけど、一緒に行っていい?」

「いいわよー? でもそうするとさらに大人数になるわね……どっかいい場所知らない?」

「あー、それならあそこなんてどうだろ? 会員制なんだけど、個室もあって……」

 そんな感じで、ほぼほぼ緊張感とは無縁な感じの会話を交わしながら……僕らは母さん達と一緒に、普通にギルドから出ていった。

 ……後になってから聞いたんだけど、その後しばらくしてギルドにいた人達は再起動。
 伝説の冒険者チームの復活に加え、新旧2つの『SSランク』のチームが、事実上同盟を組んで動くことになったってことで……内外、大騒ぎになったそうだ。

 へー、大変だね(他人事)。



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