魔拳のデイドリーマー

osho

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第22章 双黒の魔拳

第544話 後処理と、それぞれの今後

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「えーっと……何、今の?」

「知らないけど……たぶんミナトでしょ」

「まあ、それは間違いなさそうねー」

 アルマンド大陸は、ネスティア王国の領空を飛んでいた、邪香猫の旗艦『オルトヘイム号』。
 その甲板の上で……突如として空が『黒く輝き』、その瞬間、上空を覆っていた雲に大穴が開いて吹き飛んだ……という、わけのわからない光景を目にしたエルク達。

 しかし彼女達は、自分達のリーダーの無茶苦茶さ加減を正確に理解していたがゆえに、その異常事態にも動揺することはなく……むしろ『またか』という気持ちになっていた。

 ミナトが、ゼット同様、そのあまりの威力ゆえに『地球上では使わない方がよさげ』と判断するレベルの武器、ないしは必殺技を身に着けたことは、彼女たちも把握していた。
 恐らくは、今の大爆発はそれを使ったのだろうと、想像はついたのだ。

 そんな微妙な空気になっていた甲板に、船内にあるコントロールルームから声が届く。

『ミナト……は、まだ戻ってきてないか』

「もうすぐ来るとは思うけどね。何かあった、クロエ?」

『今、各地に散らばってる『女楼蜘蛛』の皆さんから長距離念話で連絡が入ったの。無事に『ライン』は全部破壊できたってさ。ダモクレスの最高幹部達は、ほとんどは倒したけど、何人かは逃げられちゃったみたい。あと……1人は生け捕りにしたって』

「あらそう。……あの人達から逃げるのに成功するってのもすごいわね……それで、生け捕りにしたのは誰?」

『テレサさん。でもなんか、その生け捕った1人についてちょっと気になることがあるらしくて。後で『キャッツコロニー』に行くからってさ』

「そう。まあ、もともとそこに集合するつもりだったからいいけどね……じゃ、私達もミナトが……」

 ―――ひゅるるる……シュタッ

「ただいまー……? どうかしたエルク」

「……たった今戻ってきたから、行くわよ」

『了解。じゃ、船出しまーす』


 ☆☆☆


 さて……時間にしてみればわずか1日のことだったはず。
 しかし、あちこち行って色々やって……随分長いこと時間かかったように感じるな。

 それでもまあ、どうにか今回の災害……って言ってもいいであろう騒動は、最小限の被害で鎮圧することができたわけで。
 
 もちろん、まったく被害が出ていないわけじゃない。各国の軍隊や、募った傭兵、各町で防衛にあたった冒険者達は、『神域の龍』や、それによって追い立てられた魔物のスタンピード、それに、混乱を助長させるべく動いていた『ダモクレス』の連中との戦いで、決して少なくない犠牲を出したそうだし。

 それでも、主要な国も街もどこも落とされることなく今回の騒動を乗り切れたらしい。第一王女様から、そう連絡をさっきもらった。

 その時ついでに、こっちで把握している戦果についても報告しておいた。

 大陸に出現した6本+1本のラインについては、母さん達『女楼蜘蛛』のメンバーが動いたことによって、一気に鎮圧……というか、破壊に成功。
 それを守っていた財団の兵隊や、現れた『神域の龍』も全滅させて、ライン自体もぶっ壊した。

 そしてその際、各ポイントで『最高幹部』連中との戦い――に、なっていたかどうかはともかくとして――を経て、それらを撃破。

 ヤマト皇国に出現したプラセリエルは、アイリーンさんが圧倒して瞬殺。

 ネスティアの『リトラス山』に現れたグナザイアは、ここにはエレノアさんが行ったんだけど、こいつにとどめを刺したのはドレーク兄さんだったそうだ。エレノアさんは、周囲の魔物や『神域の龍』の掃討。

 ジャスニア北部の『ヴィラドー湿原』にはリュウベエが現れたそうだけど、ここは母さんが言ったので……まあ、お察し。

 同じくジャスニアの洋上、『アトランティス』の近くに現れたラインに関しては、テレサさんが行き……しかもその途中でテラさんと合流したっていうから……まあ、財団もひとたまりもなかっただろう。
 そして、ここに現れた1人についてのみ、生け捕りに成功しているんだが……詳しくは後で。

 フロギュリア連邦の洋上に現れたラインでは、テーガンさんが無双して龍も魔物も兵隊も蹴散らした。ただし、ここを守っていた、サロンダースとかいう幹部には逃げられてしまったそう。

 そして、どこの国にも属さない『サンセスタ島』に現れたウェスカーは、僕が討伐した。ラインも師匠が破壊した。
 ただし、ウェスカーは討ち取ったものの、バスクには逃げられてしまった。

 そして最後に、『双月の霊廟』にもともとあった、しかし封印したはずだったラインを通って降りてきた『ジャバウォック』と、そこを守るために派遣されたらしいハイロック。
 これについては、復活&超進化したゼットがジャバウォックを、少し遅れて駆け付けた僕がハイロックをそれぞれ討ち取った。

 幹部4人を討伐、1人逃走、1人捕獲。
 幹部相当1人討伐、1人逃走。

 ダモクレス財団の『最高幹部』は、全部で8人だって、尋問の時にセイランさんに聞いた。
 今回の戦いと……ヤマト皇国の『妖怪大戦争』の時に僕が倒したのを合わせて……すでに5人を討伐済みということになる。そして、殺してはいないけど1人捕獲してある。

 残り2人……そして、その面子も割れている。
 1人は、今回逃したサロンダースで……もう1人は……ドロシーさんだ。

 ジャスニア王国政府の高官で、僕らも何度かあったことがあった……しかしその実態は、ダモクレス財団のスパイとして暗躍していたわけだ。

 なお、セイランさん曰く、あの人は唯一『最高幹部』の中で戦闘能力を持たない幹部らしい。

 まあ、それはさておいて……ひとまず今回の厄災は乗り越えられたわけだ。

 現在、ネスティア億国をはじめとする各国では、今後の対応とか後処理について、大急ぎで政府の高官達が話し合っているらしい。
 嬉しい誤算ではあるけど、予定より早く騒乱が収束したから、直ちに復興に取り掛からなければー、って。

 ……それに加えて、『次』があるならそれに備えなければならない、っていう考えもあるみたい。

 今回のこれは、『神域の龍』やら『渡り星』っていう、トンデモ要因が関係しているとはいえ……『ダモクレス財団』という黒幕が存在し、意図的に引き起こされたことだ。

 そして『財団』は、その方針として、この世界の人類に『成長せざるを得ないほどの試練』を与え、痛みを伴って強制的に成長させる……という目的を持っている。
 となれば、『神域の龍』を使ったそれが失敗した以上、次の手を打ってくる可能性は大いにある。

 もちろん、さっき言った通り、『最高幹部』の4分の3をすでに討伐あるいは捕縛してるわけだから、連中としても戦力は激減しているけど……総大将であるバイラスがまだ健在である以上は、油断できない。
 ……というか、この大騒動の中……あいつ一体どこにいたんだろうな……? 一応、観測できた範囲では、どの戦場にも姿を現さなかったらしいけど……。

 まあ、考えても仕方ないので、それはいいことにしよう。

 さて、そんなわけで今は、各国が大忙しなわけだが……そのおかげで僕ら冒険者はやることがなくて、逆に暇である。

 低レベルの冒険者向けの、土木作業の手伝いとか、復興工事現場の護衛、資材運搬の護衛や、必要な素材の調達みたいなのなら、各地のギルドにいくらでも依頼が届いてるんだけど……僕らレベルの冒険者が駆り出されるような依頼は、今のところ、ない。

 ああそうだ、冒険者で思い出した。

 今のところは暇な僕らだけど……近々、ちょっとばかり大きな予定が入ってて……その関係で、あとで『ウォルカ』に行くことになってるんだよね。

 そしてそこで……ちょっとした大騒ぎになる『予定』が入っている。それらの関係の準備があるので、まあ、忙しいと言えば忙しい……かな?

「……大騒ぎの『予定』って、不自然な言葉の使い方よね……」

「でも、間違ってないでしょ? 間違いなく大騒ぎになるわけだし……」

「そうなのよね……」

 さて、今僕らは、既に『邪香猫』の拠点に帰ってきて、リビングで一息ついているところだ。
 僕とエルクは、楽な服装でソファに並んで座っていて……しかしエルクは、肉体的にはともかく、精神的にはまだ若干疲れているような様子で……ちらっ、と、リビングの他のソファに目をやっている。

 いや、正確には……ソファに腰かけている他の面々に、だな。

 そこに座ってるのは、他の『邪香猫』のメンバー……ではなく、

「というわけでさ、あの連中のボスも何か、普通の攻撃じゃ死なないようなカラクリっぽいのがある可能性があるんじゃないかなーって思うのよね。あの人斬りがそれっぽいこと言ってたし」

「なるほど……わしがいくら斬っても斬っても涼しい顔をしておったのはそういうわけか……もうちょっと気合入れて斬ったらどうにかならんかったかのう?」

「いや、さすがにテーガンでも気合でそういうのをどうにかするのは無理だと……それでどうにでもできるのは、リリン……と、ミナト君くらいのもんニャよ」

「というか、あなたが気合入れすぎたせいで聖都が物理的に崩落する寸前までいったんでしょう……まあ、あなたに協力を頼んだ私も私だけれど」

「やれやれ、100年経ってもその、手加減が下手というか、すぐ熱くなって吹っ切れる癖は直ってないってわけね……こんなんじゃ先が思いやられるよ」

 そんな風に、お菓子をぱくつきながら、軽い感じで雑談している……しかし、その戦闘能力たるや、間違いなく世界最強であるといっていい5人。
 『女楼蜘蛛』のメンバーのうち、師匠を除く5人がこうしてここに一堂に会していた。

 もっとも、師匠もここにはきちんと来ていて……しかし別の場所に行ってるってだけなんだけどね。そもそも師匠、普段からここに住んでるし。

 その気になれば国一つ散歩のついでに滅ぼせるであろう方々が、なぜこんな昼下がりのマダムむたいなのんびりな時間を過ごしている……というか、ひとところに集まっているのかと言えば。

 さっき僕がちらっと言った、これから始まる『大騒ぎの予定』というものにかかわりがあるからだ。
 ……というか、主にこの人達が、その騒ぎを起こすんだが。
 そして、それに僕らも協力するんだが。

「ん? 何ミナト、エルクちゃんも、どうかした?」

 どことなく疲れた様子になっているエルクと僕の視線に気づいたのか、母さんがにこやかに笑ってそう尋ねてきた。

 エルクはそれを受けて、ちょっと考えるようにした後……

「あの……ですね。もうすでに聞いた話ではあるんですけど……皆さん、本気なんですか。その……皆さんが―――」

 その先に続けて、僕の嫁が訪ねた疑問に対して、『女楼蜘蛛』の皆さんは、

「「「もちろん!」」」

 すごくいい笑顔で、そう返した。

 それを受/けて、エルクは、はぁぁ~……と、隠しもしない大きなため息をついて、

「そうですか……コレ、どんだけ多方面に迷惑かけるのかしら……この、ただでさえ各国が忙しくて天手古舞になってるであろう時に……」

「まあまあ、しかたないって……母さん達って基本こういう人達だし、僕らだって割と似たようなもんじゃん」

「それはわかってるけどさあ…………はぁ、うん、もういいわ。私程度が悩んでもどうしようもないしね、うん。それならそうね……一緒になって自由に騒いで、主一機入り楽しんじゃう方がいいわよね、うん! そうよね!」

 若干のやけくそが混じっているであろう笑顔で、そう元気そうに笑ったのだった。

 うんうん、人生ってのは楽しんでなんぼだよ。
 そしてどうしようもない、どうにもならないことに関しては諦めが肝心だよ。

「……何か、私にもああいう時期があったニャー……って思った」

「ああ、エレノアって私たちの中だとツッコミ担当だったもんね。そりゃエルクちゃんに親近感の一つもわくわね」

「わかってんならもうちょっと己の行いを……ってコレ似たようなこと前にもやったっけニャ」


 ☆☆☆


 一方その頃、
 『アルマンド大陸』の、どことも知れない場所にて。

「ふむ……なるほど。今回の作戦は、失敗ですね」

「……申し訳ございません、総裁」

「謝る必要はありませんよ。さすがに、『女楼蜘蛛』がここまで大々的に参戦して来るというのは……私も想定外でした。出てくるにしても、もう少し後だと思っていましたからね」

 ダモクレス財団総裁・バイラスは、常と変わらぬ穏やかな口調と表情で、最高幹部・ドロシーからの報告を受け取っていた。

「現状、『最高幹部』クラスを含めて、財団の戦力は壊滅状態としか言えない状況です……生産や研究部門は無事ではありますが、『最高幹部』6名の喪失はあまりにも大きく……唯一生還したサロンダースも、回復にはしばし時間を要する見込みです」

 包み隠さず、自軍の損害状況をつらつらと述べていくドロシー。
 それをバイラスは、やはり表情を変えずに聞いていく。

「そういえば、『ヘンゼル』もやられた……いえ、彼女は真だのではなく、捕まったのでしたか?」

「ええ……ですが、ご存じの通りあれは特殊ですので……あれから情報が漏洩するというような可能性は考えなくともよろしいかと。……性能は少し劣りますが、まだ『予備』もございます」

「それならば結構。さて……今回は我々の負けでしたね。であれば……次の手に移らなくては」

「はい。ですが、それには相応に長い期間をかけて準備を進める必要があるかと」

「かまいませんよ。どの道、今のままの体勢では、同じように対応されてしまい……世界に対して『試練』を与えることなどできないのは明らかですからね」

 言いながらバイラスは席を立って背後を向き……そこにある窓から外を見る。

 時刻はまもなく夕方。暗くなり始めたそらには、うっすらと月が見え始めている。

 しかしバイラスの視線は、その月ではなく……それとは違う方角の、何もない空に向けられていた。
 何もないそこを、まるで、そこに何かがあるかのように……彼自身はそれを知っているかのように見ながら、呟くように言う。

「時間は我々の味方です。そして、絶対に誰も手出しすることかなわない場所もある……じっくり時間をかけて、次の作戦の準備を進めるとしましょう」



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