魔拳のデイドリーマー

osho

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第15章 極圏の金字塔

第280話 死者の力

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それを見ていた者達の一部は……その光景に見覚えがあった。

光に包まれ、その姿……というか服装を変える。
しかし着替えただけではもちろんなく……常識を投げ捨てた奇怪な能力、何より圧倒的な強さを発揮する……ミナトの『フォルムチェンジ』。

『邪香猫』の関係者は言うに及ばず、『ダイバーフォルム』を見ただけのクレヴィアらもまた、その魔法がもたらすものを把握していた。

あの魔力光の繭が破れた時、また新しい『否常識』が鎌首をもたげるのだろう、と。

そしてそれは……正解である。

「――ふぅー……!」

魔力光が晴れた時――その晴れ方自体も、まるでどろりと溶け落ちるかのように不気味なものだった――そこには、見た目一発、『ダイバーフォルム』以上に異形の存在と化したミナトがいた。

装備や服装の黒い部分が青く変わっていた『ダイバーフォルム』とは違い、今回は……装備の形状そのものが変わっている。

手の甲までを覆う形である手甲は、指の先までを覆う籠手のような形に。
脚甲も同じように足の先までを覆い、さらに指の部分が5本に割れている。
そして、その両方が……白く染まっていた。まるで爪……あるいは、骨格のように。

さらに、プロテクターを含む胴体部分の装備や服にも、いくつもの白いラインが入り、魔法金属らしき、骨を模しているかのような白いパーツがそこかしこについている。

そして、その周囲に魔法陣が3つ、ミナトを囲むように現れたかと思うと……その中から、人の頭蓋骨と背骨だけでできた、蛇のような形の異形が姿を見せた。
3匹のうち、2匹は全身が白骨。1匹は……黒と金で体が彩られていた。

白骨の2匹は、ミナトに寄り添うようにしてその体を合わせると……その瞬間、ドクロの部分が両肩の肩鎧に、背骨の部分が翼のような装飾に変わり、その2匹の間に幾重もの黒い布が顕現。

ミナトは、その2匹が合体・変化した、骨で飾られた漆黒のコート……否、法衣のような上着を身にまとっていた。法衣というには……いささかどころでなく禍々しいが。

そして、残りの1匹……黒と金のそれは、ミナトの手元で変化。
一瞬光に包まれたかと思うと……身の丈ほどの柄の長さと、それに見合った大きさの刃を持ち……漆黒の刃の付け根に金色のドクロが装飾としてあしらわれた、大きな鎌にその身を変えた。

とどめに、ミナトの顔の左半分を、人の頭蓋骨をモチーフにしつつ、より禍々しくしたような黒い仮面が装着され……その眼窩の部分に、ぎゅいん、と赤い光がともった。
向こう側にあるはずのミナトの黒い瞳の目は、見えない。

ミナトは鎌を手にして、手首の動きでひゅおん、と翻し、空を斬ってうならせる。

『変身完了……『ハーデスフォルム』……!』

そう、ぽつりとつぶやくように言ったミナトの声が聞こえたものが、はたして何人いたか。

それは定かではないが……その、死神か悪霊が取りついたかのような、あまりにも禍々しい容姿に、その場にいた者達があっけにとられる中、構わずに攻撃してくる者が1人……否、1体。

『おvふぃうがへぶいf;いhfvbぐ;いfh;おv;fzぃv:p―――!!!』

『クトゥルフ』は、その変化にもひるむことなく、再び自分が練り上げた魔力を魔法に変えて放ってくる。今度は……漆黒の魔力の槍を投擲する闇属性魔法『ダークジャベリン』だ。

1本でも大型の魔物をも消し飛ばせる威力の槍が、実に18本まとめて放たれる。
龍すら仕留められるであろうその攻撃に対し、ミナトは……手にしていた鎌を上段に掲げ、

「……いくよ、テラさん」

『おう。わしの力……うまく使いこなせよ?』

独り言かと思われたそれに……なんと、顔の左半分を覆う仮面から返事が返ってきた。
声に合わせて、ドクロの方の目が、ぎゅいん、と赤く光るエフェクト付きで。

直後……鎌が振るわれる。

「まずは軽く……『ヘルズハウリング』」

縦一線の軌道に沿って発生した黒い力場から、すさまじい衝撃波が放たれ……向かってきた槍18本を全て消し飛ばした上で、『クトゥルフ』に直撃してたたらを踏ませた。

そこから復帰しないうちに、ミナトはその法衣を翻して急降下し……ちょうど、クトゥルフの胸あたりまで下りてきたところで、大きく前に踏み込んだ。

それを迎撃せんと、クトゥルフは先程と同じように、大量のアンデッドを生み出して突撃させてくる。『ゴースト』が、『レイス』が……さらには『デス』やなどの、骨ではあるが実体を持つような魔物までも混じっている。

が、ミナトはそれらに向けて、鎌を持っていない方の手をばっと突き出して……ぱちん、と指を鳴らす。

その瞬間、眼前に迫っていたアンデッドたちのほとんどが……消えた。
幻だったかのように、霧散していなくなってしまったのである。

それでも、『デス』などの、比較的上位の一部のアンデッドたちは残っていたが……それらも、今度はミナトが、手にしていた鎌をぶおんっ、と振るった瞬間、やはりいなくなってしまった。

『おう、うまくやれとるじゃないか』

「いやあ……そーでもないって。テラさんの時の2割も力出せてないよ。練習不足だわ」

『そりゃお主……練習以前に、生きとる人間がアンデッドの力を十全に使えたら、そっちの方が問題じゃろうて。まあ、お主ならその辺も何とかしそうじゃけど』

「当然……中途半端で妥協するつもりはないよ。ま、今は……できる範囲でだけどね」

言いながら、ミナトは鎌を持っていない方の手を前に突き出し……そこから、瘴気にも似た禍々しさの魔力を放出。

その魔力は……なんと、先程クトゥルフがやったように、『ゴースト』や『レイス』の形を取り……逆にクトゥルフに襲い掛かって行った。

クトゥルフはそれを……ぎろり、とにらみつけるようにした後……濁った魔力の波動を放つ。

それは、攻撃力を持ったものではなく、それを受けたアンデッドたちは、一瞬その身をこわばらせたり、震わせたりしたが……その直後、すぐに最初と同じように、クトゥルフに突貫する。

今度はクトゥルフは、手の指を5本とも、まるで触手のように――いや、見た目や動きからして実際に触手だが――するすると伸ばし、それを5本とも、横一閃に薙ぎ払う。

仄暗い魔力をまとったそれらは、ぶぉん、と轟音を立てて振るわれ、アンデッドたちを一撃ですべて消滅させる。

しかしそれを見てもなお、ミナトの顔には笑みが浮かんでいた。

「んー……上々、って言っていいだろうな。あんだけのレベルのアンデッドを相手に、制御合戦で勝ててるし……『霊媒師(シャーマン)』の力があるせいか、何かよくなじむ」

『お主ホントに規格外じゃのぉ……まあ、そうでもなきゃ、装備ごしとはいえ、わしをわざと『取り憑かせて』戦うなんて滅茶苦茶もできんか。常人がやったら一瞬で発狂死じゃし』

「それ、どっちの意味で? 能力的に? 精神的に?」

『両方に決まっとろーが』


☆☆☆


再び黒く淀んだ魔力を練り上げるクトゥルフを警戒しつつ、僕は手に持った大鎌……一晩欠けて考えた末に『ヘルズゲート』と名付けたそれを構える。

この鎌、見た目に反して近距離戦用じゃないんだよね。

いや、まあ……見た目通りの使い方もできるっちゃできる。
僕の装甲と同じ『ダークマター』製の刃は、見た目相応に鋭いし頑丈だから、そこらの剣とか槍なんかよりよっぽど強いけど……この武器の真髄は、そういう使い方じゃないので。

というか、この『ハーデスフォルム』自体がそういう使い方というか、戦い方をするために作られてるんだけど……これは、テラさんこと『エターナルテラー』の……最強のアンデッドの力を、一部とはいえこの人の身で使うための武器なのだ。

さて、ここでいったん『ハーデスフォルム』そのものについての話になるんだけども……この姿は、単に属性を付与したり、戦闘力を上げるだけの変身じゃない。

水中戦特化の『ダイバーフォルム』と同じように、特殊な能力を使うための変身だ。

その能力とは、さっきも言ったように『アンデッドの力』。
具体的に言えば……何ていうか、それそのものの説明にもなるんだけども、魔法的・霊的な存在であるアンデッドには、普通の生身の生物よりも色々と独特?な理があるのだ。
行ってみれば、それが『能力』であると言える。

例えば……高位のアンデッドは、低位のアンデッドを支配したり……格の違いをそのままに、力を干渉させて強制的に消滅させたりできる。また、力を分け与えて強化したり、逆に奪ったり……相応に高位の存在ともなると、相手の力や体そのものを作り替えたり、自らの魔力その他を消費して、眷属という形でアンデッドを生み出したり、なんてことまで可能だ。

一応、この力は人間が使うことができないわけじゃない。『死霊術』とか、そのための術式は存在するわけだし……身近に1人、そのエキスパートがいるし。

しかし、所詮は畑違いの力であるために、表面上その真似事をするにとどまる。本物のアンデッドが使う力には、劣ってしまうのだ。

それを克服し、さらには『霊媒師』の力や、『虚数魔法』を組み合わせてアレンジまで加え、ほぼ完全にものにすることに成功した形……それこそが、この『ハーデスフォルム』である。

このフォルムは、僕が作った漆黒の法衣『プルートクローク』と、大鎌『ヘルズゲート』を装備し、さらに僕の体に、装備ごしにテラさんを憑依させ、それらが発する力を『エレメンタルブラッド』と『虚数魔法』と同調させることで、1つの力として安定させる。

モデルにしたのは……前世の変身ヒーローもので時々あった、味方の怪人とか怪物とか、あるいは魂やら幽霊を呼び出して、憑依させて戦う強化変身だ。
そうすることで、その怪人が使う武器を使えるようになったり、場合によってはその怪人そのものに意識を切り替えて、代わりに戦ってもらったり……って感じだったっけ。

比較的色物に分類されるタイプかもしれないけど、結構ああいうの好きだったし……それまでとは全く違う力を使って戦う、っていうのが面白かった。

しかしその色物変身、この異世界において、魔法的・あるいは霊的見地から組み立てると……非常に危険ではあるものの、素質さえあれば非常に強力な戦闘手段となる。

そのまんま、憑依させたものの力を使うことができるし……それを装備とか術式でブーストすれば、オリジナルと同等かそれ以上の出力・精度・性能で力を使えるからだ。

もっとも……僕の場合、オリジナルの力が桁外れすぎるせいで、現状、ブーストしてもそこにはまだ遠く及ばないんだけどもね。

さて、整理すると……僕は今、『ハーデスフォルム』の武装を媒介にして『エターナルテラー』のテラさんを憑依させ、合体している感じだ。精神でだけど。
『EB』で変質した肉体と、精神系統の魔法に適性のある『夢魔』の力、元々霊的な干渉に適性と耐性を持つ『霊媒師』の力、そして色々便利な『虚数』の力があってこそ可能な形態である。

今の僕は、テラさんの力を一部とはいえ使うことができる。それも、僕に使いやすいようにチューニングした上で。

魔力を使ってのアンデッド作成はもちろん、低位のアンデッドの支配、強化、強制消滅etc。
そしてそれにより……対アンデッド系の戦闘において、一気に戦局を有利にできる手段でもある……ちょうど今みたいに。

『びvrbぎvr;hbvぃrbヴぃrblるいこんこbrvbw!!』

三度、奇声を上げてアンデッドを作り出し、こっちに殺到させるクトゥルフ。

「悪霊退散!」

それを、鎌の一振りで僕は大半を消滅させる。

ごく一部とはいえ、さすがは最強のアンデッドの力……問答無用だな。
ただ、僕の未熟さゆえだろう。一部の高位の……見た感じ、ランクA以上のアンデッドは消滅させられてないな。動きが悪くなってるものも多いけど。

しかしまあ、だったら今度は力ずくで対処するだけである。
悪霊退散(物理)。うん、シンプルでいいな、こっちの方が得意だし。

というわけで、鎌の刃でたたっきる、あるいは魔力を込めて振るうことで斬撃を飛ばしたり、

「じゃ、今度は……『ブラッドエンシスレイズ』!!」

再び振るった鎌。の刃が、僕の目の前にあった空間を切り裂いて、空間そのものに円弧の傷をつけ……そこからあふれ出した何条もの真紅の光が、アンデッドの軍団に直撃。
当たった端から全てが吹き飛ばされていき……後には、よくわからない残骸?だけが残った。

広範囲を一気に薙ぎ払う闇属性のレーザー、って感じの技だ。発動が早い上に威力が高いので、重宝する攻撃手段である。まるで加減が効かないっていう欠点はあるけど。

空間の傷がふさがると同時に、光も収まり……さて、じゃ、今度はこっちがお返しするか。

鎌に意識を集中させ……さっきと同じように、『アンデッド作成』を発動。
しかし今度は、数を揃えるんじゃなくて力をより集中させ……より強い個体を、少しだけ作る。

魔力を使って『存在』を形成……『虚数空間』を作成し、そこに干渉してそこを作業場に……プログラミング……エンチャント……刻印……実数事象に干渉、魔力を用いて疑似物質化……マテリアライズ……最後に疑似魂魄を……うし、こんなもんだろう。

鎌を振るい、さっきと同じように空間を切って切れ目を作る。
そこから出てくるのは、数体の……体が骨でできた騎士。しかも、乗っているのは馬ではなく骨の龍という……その名も『デスドラグーン』だ。

現在、僕が『死霊術』で作り出せる最高のアンデッドの1つである。

しかし、せいぜいランクB程度の存在であり、これ以上の存在をクトゥルーは作り出せる以上、戦力として数えるのは難しい…………が、それはここで終わった場合だ。
出てきた『デスドラグーン』に……すぐさま、僕が施した追加の強化が発動する。

その足元に魔法陣が現れ……そこから具現化して現れた、金属の破片のようなものが寄り集まって……鎧になる。それも、ただの鎧ではなく……何というかこう、機械的な見た目のそれに。
……ぶっちゃけて言うと、ヒーローものの変身装甲的なのが、うん、出てきている。

で、それらが次の瞬間……ガシャンガシャンガシャン! と、『デスドラグーン』の全身に装着され……というかいかにも『変身』した的な演出がなされた。
数秒後、そこには……近未来的な装甲で、人と騎龍の両方を包んだ騎士がいた。

ただの鎧ではなく、『機械的な』という文言のとおり、マジで機械兵器込みである。
構えてる槍は、回転するドリル槍になってるし、『雷』と『光』の属性のエンチャントでアンデッド相手に効果抜群。鎧は周囲にエネルギーフィールドを発生させていて、防御力は一級品。さらに、肩には魔力式の機関銃が搭載されているし……いざとなれば自爆装置までついている。

さらに、鎧に隠れてて見えないけど……魔力で作った人工筋肉なんかもあるし、骨そのものも強化してるので……戦闘力は爆発的に上がっている。
『CPUM』の『デストライダー』くらいはあるだろう。ランクBが、一気にAAへ大躍進だ。

名付けて『アーマードデスドラグーン』。
魔法と科学、その他、禁術含めて色んなものをまぜこぜにした結果誕生した、機械化アンデッドモンスターである。オーバーテクノロジー万歳。

それが、突貫する。迎え撃つは……クトゥルフの作ったアンデッドたち。
ザコ共の掃除はこいつらに任せて……僕も突っ込む。
狙いはもちろん……

『jkばいえbflrvhv;hvぞ;おbv;bろvsf!!』

自身も迎え撃つ気満々のこいつだ。

クトゥルフの両腕が……なんか、めきめきと音を立てて大きくなっていき……指? 爪? が伸びて、いかにも接近戦に適した感じの形状に変形した。こいつ、色々できるな。

それを振り上げて、僕を叩き潰し、あるいは切り裂こうとしてくるが……僕は、それを空を蹴って回避し、逆に足蹴にする形で跳躍。
懐に飛び込み……飛び蹴りを一発。

――ズドォォオオン!!

この姿でなら、あの非実体化による回避も突破できるようだ。やはり、アンデッド系の技能だったか。

飛び蹴りの一撃で数歩分後ずさったクトゥルフは、すぐに翼を羽ばたかせて体勢を立て直したかと思うと……今度はその翼が変形する。
蝙蝠のそれのような形の羽の、骨の入っているであろう部分が伸びて……おいまた触手かよ。

闇魔力をまとったそれが、僕を串刺し、あるいは八つ裂きにしようと殺到する中、僕はそれを受け流したり切り払って防御……あ、切って肉片にしたら速攻再生した上に、肉片がアンデッドモンスターになったよ、マジか。

それも消し飛ばしつつ、一旦距離を取ったら……待ってましたとばかりに、いくつもの高位魔法が弾幕よろしく放たれてきた。

お構いなしに巻き添えにされ、僕の作った『アーマードデスドラグーン』も、自分で作ったアンデッドたちも巻き込まれて……消滅する。さすがにあのレベルの攻撃魔法は耐えきれなかったか……まあ、無理もない。

その弾幕に僕は……さっき回収して持っていた、クトゥルフのブレスを圧縮した『怨念』の塊を取り出して……それを『ヘルズゲート』でほぐすようにいじくりまわし……再び炎状になったそれを、鎌にまとわせる。

そしてそれを……一瞬で2回、十字を切るように振りぬいた。

『怨念』に僕の闇の魔力を足して、さらに『ハーデスフォルム』の力でブーストして放ったそれは、弾幕を切り裂いて、その向こうにいるクトゥルフに直撃し……それにひるんだ隙に、僕はその弾幕をすり抜けて、黒い刃を追いかけるように突貫。

しかし相手もさるもので、黒い刃を握りつぶし……体勢を立て直して、僕を迎え撃とうと手を振り上げて迎撃する構えを取る。

その、振り下ろされる爪の一撃と、同じく振り下ろした鎌の一撃が交差しようとした瞬間……僕は、体をひねってそれを回避し、懐に潜り込……まずに、そのまま背中の方へ抜ける。

そして、鎌に思いっきり、大量の魔力を込めて……クトゥルフ背中に突き立てる。
そのまま、一気に下まで降りぬいて……縦一線の大傷を刻み込んだ。

その瞬間、傷から流し込まれた僕の魔力が爆発し……背中から生えていた羽が両方ちぎれ落ち、さらにはクトゥルフの体から、その身を構成する負のエネルギーが漏れ出てくる。

『じゃfbkひflヴぉ;うvhりgひうlhkg5973ご;あrvの;―――!!』

再びの絶叫。あるいは……悲鳴か。
今の一撃はそれなりに効いたのか、ぐらりと体勢を崩して墜落しそうになるクトゥルフだが、どうにか持ち直して、こっちに向き直る。

(しかしさっきから、絶叫するたびに地上の魔物たちが狂乱するから、シェリー達の負担が増えてしゃーない。やっぱ、さっさと消えてもらうのが一番いいな)

そう結論付けた僕は、『ヘルズゲート』を元の頭蓋骨と骨のモンスターの姿に一度戻し……それを、僕の両足に絡みつかせた。
そして、再び変形させると……そこには、僕の両足の脚甲と一体化した『ヘルズゲート』が。

1つだったはずの鎌の刃は2つになり、それぞれが両足の甲から上に……膝のあたりに向かって生えるような形になっている。脛か膝で打つような蹴りでも放てば……蹴りより先に刃が当たって、相手は斬れるだろう。そんな装着のされ方である。

「死神っぽさ半減しちゃうんだけど……やっぱこっちのが僕としては戦いやすいんだよね」

『ま、戦いやすいようにやるのが一番じゃろ。間違いなくわしの力は使えとるし、よかろ』

直後に前に飛び出す僕。
クトゥルフの懐に入り……超高速で足を横一文字に薙ぎ払う。

当然、刃で切り裂かれるクトゥルフの体。
しかも、さっきと同じように魔力で追加ダメージが入る。

その上……さっき背中に着けた傷も同じなんだけども……傷が、中々ふさがらない。
触手を切り落とした時や、頭を切り落としたり叩き割っても即座に再生したにも関わらず。

アンデッドの力で、クトゥルフのそれに干渉して、再生……というか、再構築をしづらくしているためだ。この刃でつけられた傷は、中々治らない。

困惑しているのか、動きの鈍いクトゥルフに、10発20発と蹴りを叩き込んでいく僕。斬撃だったり、普通に踵とかを使った打撃の蹴りだったりする。

クトゥルフも何度も迎え撃とうとするわけだけど、いかんせんサイズ差ゆえに小回りが利く僕をとらえられない。傷ばかりが増えていく。無論、時間をかけて治った傷もあるが、それよりも傷つくスピードが勝っている。

しばらくそれを続けて……とうとう我慢の限界に来たらしいクトゥルフ。
後ろ回し蹴りの一撃で大きく後退させたその直後……全身に魔力をまとって突っ込んできた。

その両手は再び接近先仕様。しかも、相当に高密度に魔力を凝縮しているためか……手首までが真っ黒に染まっていて、硬質な光沢すら見える。

硬いだけじゃなく……あれだけの密度で闇魔力や瘴気を込めているとなれば、常人なら触れただけで、いや近づいただけでも死ぬな。

その手で僕に一撃を叩きつけんと突進してくるクトゥルフを……僕は、真っ向から迎え撃つ。

こちらも、両足に思いっきり魔力を込めて……装着している鎌の刃が光る。
負けず劣らず、近づくだけでヤバそうな感じの光をまき散らして『イィィイィイイィ……!!』と擬音を立てるそれは、魔力の余波で暴風を発生させ、僕の着ている『プルートクローク』がそれでバサバサとはためいている。

ジャキン、と音を立てて、両足の甲から生えていた鎌の刃が反転……つま先の先に向けてその切っ先が伸びる感じになる。それを黒い闇のオーラが包み込み……2振りの巨大な刃を幻視させる。

まるで、両足にそれぞれ死神が憑いて大鎌を構えてるような状態で、赤と黒が入り混じった禍々しいオーラをまき散らしながら……僕は空中で、右足を大きく振り上げる。ほぼ垂直にまで。

「――っしぇああぁぁああァァアア!!」

そして、クトゥルフが突っ込んできたのに合わせて、急降下。
その勢いに乗せて振り下ろし……魔力が形作った大鎌は、踵落としに合わせてクトゥルフの脳天を切り裂いた。

その一撃で、深手を負った上に、突進の勢いが完全に殺され……その上、余波でその体を覆っていた魔力も大部分が消し散らされてしまった状態。
そのクトゥルフに……ここで逃がすまいと、追撃。というか、とどめ。

「『デススパイラルキック』!!」

叩き込んだ足を軸にして横に思いっきり回転しつつ、回し蹴りを叩き込み……それに合わせて魔力の刃が追撃を加えて、
その勢いのままさらに回転して、今軸足にしていた足でもう一発蹴る。
さらに回転してもう片方の足で、その次はまたもう片方の足を……

「はぁぁああぁあ――――っ!!」

超高速で回転しながら、黒い魔力の刃をまとった両足で連続で回し蹴りを叩き込んでいく。
格闘ゲームとかだと、旋風脚、とか名付けられることの多い、連続飛び回し蹴り。

黒い魔力の刃に、アンデッド特効までついたその連続攻撃にさらされ……黒い竜巻にさらされているかのような状態になったクトゥルフは……逃れられないその暴虐の嵐に、到底再生が追いつかない破壊に、なすすべもなくその身を散らして消滅させていき……ついには、その黒風の中にその存在全てを飲み込まれて……断末魔の悲鳴を最後に、この世から消えた。

黒い竜巻が晴れて消え、その中心で両足から刃を生やしたままで残心した後……終わった、と確信できてから、僕は構えを解いた。



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