魔拳のデイドリーマー

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第22章 双黒の魔拳

第527話 『サンセスタ島』の戦い

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 今現在の『サンセスタ島』は、控えめに言っても『地獄』と呼ぶしかないほどの危険地帯である。

 まずそもそも、『渡り星』とのラインが開通し、『神域の龍』が降り立つ場となっていることからして、普通の人間が生きていけるような場所ではない。視界に入ったが最後、餌として認識され、その牙にかかって食い殺される末路しか待ってはいない。

 それに加えて、ダモクレス財団最高幹部の1人であるウェスカーが、バスクをはじめとした幾人もの部下達や、強力な召喚獣を多数率いて、ラインを守るために布陣している。

 そして率いているのは、一山いくらの強さの雑兵などではない。
 彼らは、この時のために用意された『戦闘員』である。しかもしれは、単に精鋭であるという意味ではなく……別な意味でも『普通の人間』ではないということを意味している。

 かつてのアガト同様、財団の技術により『改造手術』を施され、外科的かつ強引な手段でもって人間の限界を突破した力を得た者達なのだ。

 通常の人間ではありえないような身体能力や肉体強度、反応速度や魔法耐性。さらにそれを使いこなすための厳しい戦闘訓練を積み、装備もその能力に見合った強力なものを身に着けている。
 さらには、様々な薬物によってさらに肉体を強化した上、戦闘、ないし任務の完遂に必要のないことを考えなくてよくなるよう、精神にも作用する薬物を服薬し、恐怖も迷いも捨てている。

 その戦闘能力は、熟練の冒険者や、精鋭と呼んで差し支えない騎士を上回る。

 そんな彼らが守る地。近づく者は、退去勧告に従わない場合は、即座に排除の対象となる。そうなった場合にどうなるかというのは……いちいち言うまでもないだろう。

 さらに、そんな『改造人間』達よりも強力な『召喚獣』達。ウェスカーが召喚し、使役しているそれらの中には、1体で小国を滅ぼすほどの戦闘能力を誇る魔物も含まれている。
 ともすれば、この島自体大きく地形が変わってしまってもおかしくないほどの戦力だ。

 そして、それら全てを束ねるウェスカーとバスク。
 『改造人間』や『召喚獣』を上回る危険度と言って差し支えない2人。

 彼らが守る地に足を踏み入れ、生きて帰れるはずなどない。
 どんな国の、どんなに精強な軍隊であったとしても、なすすべもなく蹂躙され、壊滅し……しかし、海の真ん中にある『孤島』であるというその立地ゆえに、逃げ場などない。

 ウェスカー達『財団』の者達の手にかかって死ぬか、『神域の龍』の餌になるか……あるいは、その両者から逃れて苛立っている他の魔物達の牙にかかるか。

 絶海の火山島『サンセスタ島』に足を踏み入れた者の末路は、それ以外にあり得ない。
 ここにできたラインを壊すことどころか、近づくことすらできる者などいないだろう。いるはずがない。

 自画自賛になるとは思いつつも、バスクはそう信じて疑わなかった。



 ……数分前までは。



(いや、ちょっと……お嬢ちゃん達、強くなりすぎじゃないの!?)

 神域の龍、改造人間、召喚獣、そして、統率しているわけではないが、その他の魔物達。
 自分達がそろえている、この島を守るための戦力は、大国の正規軍を相手にしてなお、ろくに戦いにもならないであろうレベルだ。
 弓を引いたが最後、圧倒的な暴力によって蹂躙され、何も残らない。
 
 むしろ、敵対した者達の方がかわいそうに思えてしまうような末路をたどる……はずだった。
 バスクは、そう思っていた。
 繰り返すが、数分前までは。

「はい、コレで、5匹目ェ―――!!」

 気合の入った掛け声と共に、手にした剣を横一文字に振り抜くシェリー。
 その背中には、以前までよりも大きさも輝きも段違いな『炎の翼』が羽ばたいており、手にした炎の魔剣からは、巨大な炎の刃が伸びている。
 灼熱の炎をそのまま剣の形に押し固め、鍛え上げたかのような『炎の大剣』だ。

 それを一直線に振り抜くと、炎に対して強力な大勢を持つはずの岩の巨兵『グランドゴーレム』が、その体を上下真っ二つに溶断される。
 さらにその次の瞬間、叩き込まれた魔力と高熱が内部で暴走し、木っ端微塵に爆散した。

 シェリーの攻撃はそれで終わらない。魔力を叩き込んだことで若干小さくなったようにも見える炎の大剣を腰だめに構え、目の前にいる『召喚獣』の群れに突っ込んでいく。

 常人ならば死地も死地。自殺行為でしかないだろうが、シェリーはそこに嬉々として飛び込み、敵陣の真ん中で大きく一回転しながら剣を振るった。

 周囲360度にいる敵をことごとく切り払い、先程のゴーレムと同じように爆炎を噴き上げて消し飛んだ。燃え上がるその火柱の中から、炎を纏ってシェリーは飛び出し(当然無傷である)、さらに次の獲物を探して駆け抜けていく。

 丁度その向こう側では、やり方はだいぶ違うが、同じようにナナが無双している所だった。

 手に持っているのは、いつもの『ワルサー』ではない。一回り大きい拳銃――型の、ミナトの新作マジックウェポンだ。
 それを、両手に。二丁拳銃である。

 どちらかと言えばこじんまりした形にまとまっている『ワルサー』と違い、今手に持っているのは、長く太い銃身と、武骨なリボルバーの機構が目を引く、拳銃としてはかなり大型のそれ。
 それでいて、見た目通り、あるいはそれ以上の性能と、見た目に似合わない軽さ、取り回しの良さを実現している所に、ミナトの技術者としての腕が光っている。

 暫定的に『ツェリスカ』と名付けられているそれらを放てば、大型の魔物の体に風穴があく。
 それも、反対側がよく見えるようなサイズの大穴が、それはもう豪快に開く。

 砲撃魔法も真っ青な威力と貫通力の魔力弾が、ナナという達人の手により、拳銃の取り回しで、連射に近いペースでまき散らされる。

 敵の戦闘員や召喚獣の攻撃を軽やかにかわしながら、あるいは放つ魔力弾で攻撃をことごとく撃ち落としながら、針の穴を通すような正確さとタイミングで急所を撃ち抜き――ぶっちゃけ急所に当たらなくとも十分死ぬ威力なのだが――ほぼ一撃一殺で相手を仕留めていく。

 時折、単なる魔力弾ではなく、エネルギーをためて撃つ、正真正銘の『砲撃魔法』や、その場にとどまって、あるいはゆっくりと動いて接触した相手を吹き飛ばす『魔力機雷』がまじる。
 速度や速射性においては劣る分、威力がさらに凶悪なものに仕上がっているそれらにかかれば、巨体であるがゆえに動きの鈍い大型の魔物すら容易く屠られてしまう。

 有効射程内にいる魔物や戦闘員を一掃し、ふぅ、と息をつくナナ。

「この大きくもない島に、よくもまあこれだけ集めたものですね……仮に軍隊なんかで乗り込んだ日には、まさしく地獄絵図になるところでしたよ。ある程度でも強くないと餌にしかなりません」

「まあ、私らにとっては、ほぼ周り全部敵だし、手加減とかも特別しなくていいから楽なもんだけど……ねッ!」

 その近くでは、身の丈ほどもある巨大な剣と盾を構えて大暴れするセレナの姿があった。

 小細工など無用とばかりに、真正面から向かってくる魔物達を叩き潰す。

 突進してくる巨大な半人半牛の魔物『ミノタウロス』。その巨大な、刃渡りだけでセレナの身長以上ある斧を盾で受け止める。
 女性にしてはやや大柄とは言っても、体重差を考えれば容易く吹き飛ばされてしまいそうなものだが、セレナは微動だにしない。それどころか、そのまま盾を押し出して斧を押し返すようにし、斧を押し戻しすらする。

 逆にたたらを踏むこととなったミノタウロスの懐に飛び込み、振り上げるように逆袈裟に剣を一閃させる。その腕力に加え、刀身から発生した衝撃波により、その巨体は断ち切られ……というよりは、あまりに大きな力に引きちぎれたかのような形になった。

 セレナの武器に関しては、その有り余る腕力を存分に生かすため、ミナトにより『力を最高効率で伝えて敵にぶつける』ことができるように加工されている。

 通常ならば、いかに大きな力で殴ったり斬りつけたりしようとも、その一部は分散したり流れてしまって、力として有効活用はされない。しかし、今使っている武器は、セレナの力を、その攻撃の直線上にほぼ100%収束させて放つ。
 強大極まりない凝縮された『力』は、サイズも体重もはるかに上回る相手の防御を容易く食いちぎり、衝撃波すら発生させてその餌食にする。

 本来ならば、どれだけ力が強くとも、サイズや重量で劣るがゆえに存在する『破壊』というものの限界を容易く突破する。
 それがもたらすものは、非常にシンプルだ……逃れようのない破壊、そして死である。

 だがそれでも、人間個人がその力で行っている分、それでも範囲は制限されている。
 それを考えれば、更に向こう側に見える光景よりはましなのかもしれない。

「いやー……我ながら随分なところまで来てしまったものですねー……。私、元々小さな港町で占いとかしてのんびりやってた、か弱い少女だったんですけど……」

「今じゃ『邪香猫』メンバーの中で、範囲攻撃最強の一角だものね」

「私自身じゃなくて、『召喚獣』頼りですけどね」

 開戦からずっと、周囲に魔力砲撃をまき散らし続けている『オルトヘイム号』。その、甲板の上。

 安楽椅子のようなデザインの、座り心地のよさそうなイスに座って、のんびりとそんな風に話しているのは、ミュウだった。なんでもない午後の昼下がりにお茶を飲みながら雑談するような、とても軽い口調でのほほんとしている。
 その口調に反して、眼下で巻き起こっているのは……控えめに言って地獄絵図だが。

 今現在、ミュウが召喚して操っている『召喚獣』は、たったの1体。
 しかし、その1体の性能が凶悪極まりない。

 それは、巨大な漆黒の翼で空を飛び、鷹のように鋭い目と、3本ある足が特徴的な巨鳥だった。

 そう……『ヤマト皇国』で起こった『妖怪大戦争』でも大暴れした、『八咫烏』である。

 戦場に落ちていた翼や、アルバと戦った時にまき散らされた血や肉片といったサンプルを回収したミナトが、クローンのような形でよみがえらせ、さらにお得意の改造を加えて復活させた個体であり……『せっかくだしミュウにあげる』と、渡されたものだ。

 手作りのお菓子をおすそ分けするかのごとき気軽さで、小国を簡単に滅ぼし得る大怪獣を渡されたミュウは、懸命に表情筋を制御して笑顔を作り、それを受け取った。
 直後に、彼女の心の内を代弁するかのようにエルクのハリセンが唸ったため、ちょっとスカッとしたらしい。

 そんな経緯でミュウの『召喚獣』リストに加わった『八咫烏』は、オリジナルのそれと同様に、超高温・超破壊力の熱光線をまき散らし、あたり一面を火の海に変えて、敵側の『召喚獣』を片っ端から消し飛ばしている。
 最早、爆撃機による絨毯爆撃……が、可愛く見えるほどの光景だった。漆黒の羽毛から十重二十重の光線・光弾が降り注ぎ、着弾地点を中心に周囲に爆炎と衝撃波、さらには雷までもが迸る。

 しかも、炎熱系に耐性のある種族ですら大ダメージを受けている。
 それだけ攻撃が強力なためか、あるいはそういった耐性を貫通する能力もあるのか……一番ありそうなのは両方だろう。

「っていうか、なんで衝撃波や雷まで起こってんの? 『ヤマト』で見た時にはそんなのなかった気がしたけど……」

「ミナトさんが改造して火力上げたらしいです。本家本元みたいに、ほぼ無尽蔵かつ純度の高いエネルギーを持たせることは難しいけど、代わりにさらに範囲攻撃を凶悪にしたそうで」

「………………」

 無言で頭を抱えるエルク。

「……まあ、今回に限って言えば好都合なのか……うん……そう思うことにする」

 どうにか割り切ってそう呟きつつ、エルクは頭の中に浮かんでいる『マジックサテライト』の地図を確認する。
 戦闘開始当初よりも大分敵の数が減ったことがそれで確認できた。

 下では思い切りドンパチやっていて、炎やら水やら雷やら光やらが入り乱れて、とても目視での状況確認などできたものではないのだが、この伝家の宝刀なら、即座に頭の中で敵味方の状況把握が可能だ。

 それと同時に、水面下で着々と進んでいる作戦の方も、順調であることが確認できた。



 遠めにそれらの光景を見ていたバスクは、常の余裕ぶった態度がすでになくなっている。
 どうにか張り付けたような笑みを浮かべ続けるので精いっぱいといった様子だった。

「ミナト君以外は、数でどうにかなる見込みだったんだけどな……まさかここまでとは、流石に予想外どころじゃないって」

 先にも述べた通り、『数』といっても彼らがそろえた戦力は、一定以上の『質』を保ったうえでのことだ。
 決してミナト達を甘く見ていたわけではない。むしろ、過剰な警戒、ないし戦力投入ではないかと言えるほどの量と質を用意していた。

 戦闘開始直後にウェスカーがミナトに連れられて離脱してしまったのは痛いが、それでもどうにかなる計算だった。もともとミナトはウェスカーが相手をする予定だったのだから、場所が変わっただけ、連携が取れなくなっただけと言ってもいい。

 しかし、残る『邪香猫』メンバー各員の成長度合いが予想外どころではない。

 今までの見立てでは、強さにおいてSランクに届いているのは、シェリーとナナ、そしてセレナ、ややそれを追う形でサクヤがそうだった。
 火力だけならばアルバもそうだし、参戦してくるならばミシェルもだが。
 
 それが今は、SSランクとまでは言わないまでも(あのランクは実質『女楼蜘蛛』級専用なので)……普通のSランクよりも頭一つ突き抜けた実力を、シェリー、ナナ、セレナは振るっている。
 
 呼吸をするように斬り捨てたり撃ち抜いた魔物や、戦闘員たる『改造人間』の中には、Sランクの実力を持つものも当然のように混じっていた。

 鎧以上に強靭な甲殻を持ち、生半可な火力では傷一つつけることもできないはずのもの。
 力自慢の亜人種だろうと受け止めることなどできないであろう馬力を振るうもの。
 あまりの素早さに攻撃を当てることすら困難なものがいた。

 しかし、それらはほぼ全て……『AAもAAAもSも同じだ』と言わんばかりに蹴散らされ、空に溶けるように消滅していった。

 攻撃力、防御力、機動力……全てがこちらの想定を大きく超えていた。

 何か奇抜な戦略を用いたり、戦闘力の不足を別な要素で補っているということがない。ただただ単純に、強くなっている。全ての能力が、これ以上ないくらい真っ当に『成長』しているのだ。
 そして、その成長幅が、期間的に、そして絶対値的に……ありえない。

「シャラムスカでの『アポカリプス』の一件の時には、まだこちらの想定通りの戦力だったはずだってのに……この1ヶ月くらいの間にここまで強くなった? いやいや、流石にありえないだろ……ああでも、ありえないといえば……」

 ありえないといえばもう1つ、バスク達の想定を超えた事態が起こっていた。

 超火力の炎の剣と炎熱の魔法を振り回すシェリー、

 冗談のような貫通力と速射性の魔力弾で全てを撃ち抜くナナ、

 体格で勝るどころではない巨獣を馬力で圧倒し撃ち滅ぼすセレナ、

 『八咫烏』を操って熱光線で周囲を焼き払うミュウ。
 そのミュウ自身は『オルトヘイム号』の甲板にいて、多重展開している強固な魔法障壁や、司令塔兼護衛としてそこに立っているエルクやザリーに守られている。

 また、白兵戦能力で彼女達に一歩劣る面々は、『オルトヘイム号』の甲板もしくは船内にいる。
 その船は障壁に守られており、万が一破られたとしても即座に再展開することが可能であり、その再展開までの一瞬に敵が入り込んできたとしても大丈夫なように、甲板にはエルクやザリーが残っている。恐らく船内には残りの戦力……サクヤやシェーンがいるだろう。

 そのオルトヘイム号自体も、開戦当初から変わらず、魔力砲撃やら半実体ミサイルやらをまき散らして順調に地形を変え……もとい、敵戦力を駆逐していっている。
 あの船の中では、メインオペレーターであるクロエや、その補佐を務めるネリドラやリュドネラが、各種の魔法兵装を操る形で奮戦しているのだろう。

 しかし、それら全てを比較対象として挙げてなお、圧倒的と言っていいほどの『力』が……『サンセスタ島』の中心部で大暴れしていた。

 バスクはそれを、遠目に指をくわえて見ていることしかできない。


(……まさか、クローナ女史が出てくるとは。しかも……ここまで積極的に)


 ☆☆☆


 島の中心部には、当然ながら、『渡り星』から降ろされたラインがある。
 その周囲には、空から降りてきたばかりの『神域の龍』達がいた。

 絶海の孤島『サンセスタ島』には、もともと現地の魔物や動物がそう多くない。
 数年前であればそうでもなかったのだが、それでも度重なる噴火などの火山活動や火山灰により、生き物が暮らせる環境がそもそも限られていたためだ。
 加えてそこに、約3年前の噴火と、数か月前に起こった『サラマンダーアンデッド・ドラゴン』の一件で、さらに生き物は減った。

 その数少ない生き物たちを、『神域の龍』は無慈悲に食いつぶしていた。

「だめだ……足りぬな、全く足りぬ」

「ああ、量もないし質も悪い。全く、これは『はずれ』の出口に行き着いてしまったか」

「仕方がない。島にいる魔物を食いつくしたら、その後は海を渡るとしよう。生き物がいる陸地の方角なら、連中……『ダモクレス』とか言ったか、そいつらから聞いている」

「周囲にいて『ライン』を守っている奴らか……あいつらを食うのではダメなのか?」

「ジャバウォック様との間に協力関係を結んでいるそうだ。ふん、下等種族共が生意気な……まあいずれにせよ……ん?」

 そこで龍達は、自分達の方に近づいてくる気配を感じ取った。

 見ると、1人の人間……いや、人間にしては気配がおかしいが、それでも見た目にはさほど差はない、小さな体躯のそれが、こちらに歩いてくるところだった。
 手には……どう形容していいかは微妙ではあるが、とりあえず武器と思しきものを持っている。

 自分達を出迎えた『ダモクレス財団』の者達の中にはなかった顔である。
 さらに、『ライン』に誰かが近づく時には事前に連絡を入れるという申し出にもかかわらず、今はまだ『ダモクレス財団』からは何も言われていない。
 つまり、自分達の仲間ないし協力者ではなく、それでいて武装してラインに近づく不届き者。

 すなわち、食ってしまっても問題ない。龍達はそう結論付けた。

 しかし、いかんせん量が少ない。感じ取れる力も、さほど大きくはないように思える。
 早い者勝ちとばかりに、1匹の龍が顎を開いて襲い掛かり……



 次の瞬間、その女……クローナの手がブレたように動いたかと思うと、その龍が一瞬で輪切りになった。



「「「…………!?」」」

「よし、テメーらだな『神域の龍』とかいうのは。そうでなくとも敵だな、襲って来たってことは」

 龍達が、今の一瞬で同胞の1体が殺されてしまったことに驚き……しかしその後に怒りがこみあげてくるよりも早く、そうクローナは早口で言い切った。
 そして当然、龍達の反応を待つこともなく……食事中だった彼らのど真ん中に飛び込んで……


 ……そこから始まったのが、見ている方が哀れに思えてくるほどの蹂躙である。


「くそぉ、何なのだこの人間は!?」

「攻撃が当たらん……どころか、我らの炎を切り裂いただとぉ!?」

「下等種族の分際で、我ら龍に盾突くべっ!?」

「貴様ぁァアア!! 生きれ帰れるとバギャッ!?」

「……なんだ、あんまし地上のドラゴン系と変わんねーのな、攻撃とか急所とか」

「何だと!? 貴様、我らを地上の下等な龍族と同ジュブゴォ!?」

 いつか、ミナト達と共に『ネガの神殿』、そしてその向こうにある『アトランティス』に潜った時に持っていた武装。槍と斧が一体になった『ハルバード』に加え、斧の反対側に大鎌が、柄の石突部分にメイスがとりつけられ、柄自体も一部分が金棒、ないし狼牙棒のようになっている。
 ミナト曰く『ほぼどこ当たってもケガする、殺傷力の権化みたいな武器』。それを今回、クローナは持ちだしていた。

 特別なギミックなどがない代わりに、全体がひたすら頑丈に作られているため、力に任せて振り回し、その殺傷力を振るうだけが利用法となる、シンプルな武器だ。見た目はともかく。

 その『殺傷力の権化』から繰り出される一撃一撃により、この『サンセスタ島』のラインで地上に降り立った『神域の龍』達は、早くも壊滅状態になっていた。

 槍の一突きで龍の胴体に大穴が空き、

 斧の一撃で龍の頭蓋が縦に真っ二つになり、

 鎌の一閃で龍の首と胴体が泣き別れになり、

 メイスの一発で龍の背骨が粉砕され、それだけでは収まらず内臓もすべて潰れ、

 それら全てを使ってただ力いっぱい振り回しながら大回転するという、子供の遊びのような攻撃で、何匹もの龍が消し飛ばされて血霧になった。

 龍達は終始、怒りの中に困惑を滲ませながら戦っていた。
 ……戦いになっていたかどうかは疑問であると言わざるを得ないが、そこはそれ。

 地上にいる生き物は、すべからく自分達よりも矮小で、弱く、驚異度など考慮するに値しないような存在ばかりだと。
 演説でジャバウォックが言っていたように、あそこは『餌場』でしかないのだと。

 無論、ごく一部にそうでない者もいるかもしれないとは聞いてはいたが、さすがに降り立った直前に、このような相手に出くわすとは思ってもいなかった。
 それにそもそも、『だとしてもたかが人間だろう』という、相手を下に見る思考が最初から根付いてしまっていた。それがかえって、彼らの脳に理解を拒ませた。

 目の前にいる存在が、どうあがいても自分達に勝ち目のない存在だなどと。
 自負が、経験が、プライドが……今まで生きて培って来た全てが理解を拒ませ……そして、ついに理解することなく、彼らは全滅することとなった。

 『魔物のスタンピード』以上に危険視されていた、『神域の龍』そのものの襲撃。
 ここ『サンセスタ島』を起点にこれから起ころうとしていたそれは、『神域の龍』など比較にならない、形容するのが難しいほどの強者たった1人によって、未然に防がれることとなったのである。

 そしてそれは、ここに限った話ではなかった。

 クローナは、生き残っている龍がいないことを、あたりを見回して確認すると……装備している『指輪』を起動する。
 そして、



「おっし……聞こえるかおめーら。その、なんだ……思ったより大したことなかったけど、まあ運動不足解消にはいいんじゃねーかな、ってレベルだったわ。数とか質とかはまあ、場所によっては違うかもしれねーけど、そのへんはミナトのかーちゃん……ああ、リリンじゃねー方な? そっちに聞け。データ全部あそこに集まるようになってっから。そんじゃまあ……各自、好きに暴れろ」

『よっしゃー!!』

『はいはーい』

『うふふっ』

『よォし!!』

『にゃ!』



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