魔拳のデイドリーマー

osho

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第22章 双黒の魔拳

第526話 1対1

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 振り返ってみれば、もう2年半ほど前になる。
 かつて、僕とこいつは……いや、こいつらは、この『サンセスタ島』で戦ったことがあった。

 ちょうど僕が『Sランク』に昇格した直後で、毎日のように面会にやってくる商人やら貴族やら冒険者やらにうんざりしてたところだったので、『しばらく追ってこられないところに逃げよう』ってことで、この絶海の火山島に来たんだった。

 しかしそこで、まあ毎度毎度のことではあるけど、とびっきりの面倒事に巻き込まれた上、厄介な敵と戦うことになったんだっけな。

 その片方の相手だったチラノースは、今もう国そのものが死に体だからまあいいとして……もう一方の敵だった、『ダモクレス財団』コレが今度は、全面的に僕らと敵対する形でここに陣を構えている。

 『最高幹部』であるウェスカーに加え、その部下(多分)であるバスクに、他の……多分、『その他大勢』でひとくくりにしていいんであろう、財団の戦闘員たち。それに、ウェスカーが召喚したらしい『召喚獣』が結構な数、強力なものがそろってるようだ。
 『ダモクレス財団』が幹部級の戦力を動員して、ラインを壊させないように見張って守るっていう可能性は、作戦会議で当然のように導き出された可能性ではあったので、そこには驚かない。

 ただまあ、こいつら揃いも揃ってかなり強いので、わかっていたところでどうしようかっていう話でもあるんだけどね。



 2年半越しにこの『サンセスタ島』で邂逅した僕らなわけだが……恐らく向こうは、僕らが何を言ったところで帰ってくれるわけがない、とわかってたんだろう。
 
 最初に形だけ、『何もせずに帰ってくれません?』『やだ』的なやり取りを交わした直後、ウェスカー本人に加え、召喚獣とか戦闘員とかの中で、遠距離の攻撃手段を持っていたらしい奴らからの一斉掃射が飛んできた。空中に浮遊してる『オルトヘイム号』目掛けて。

 しかし、あの時とは比べ物にならないくらいに強力なバリアを張ることができているこの船には通用せず、傷一つつけることはできず、全ての攻撃は阻まれて止まった。

 結構な歓迎をしてくれたじゃないの……なら、もうこっちも遠慮とかしなくていいよね。

「全速前進! 並びに全砲門展開! 片っ端からぶっ放せ!」

『了解ッ!』

 コントロールルームにいるクロエからそう返答が聞こえた直後、前進しだす『オルトヘイム号』。
 同時に、船体側面にいくつもの窓が開いて、中から大砲が姿を現す。さらに甲板が展開したり変形したりして、艦砲やランチャーポッドが出現。

 前進しながら、それら全てが一斉に火を噴いて、全方位に魔力砲弾をばらまき始める。

 直線的な軌道で飛んで前面を吹き飛ばす砲撃に、放物線を描く形で飛んで後ろの方に届く砲撃に加え、散弾みたいに周囲にばら撒かれて周囲を根こそぎ吹き飛ばす機雷や、連続して放たれ続けるビームが扇状に薙ぎ払ったりする。
 絨毯爆撃、というのも生ぬるいくらいの破壊がまき散らされる。

 この島には僕ら以外は敵しかいないことがわかり切ってるのに加えて、こないだの『サラマンダーアンデッド・ドラゴン』の大暴れでもともと島全体が滅茶苦茶になったばかりなので、そりゃもう遠慮なくやれるわけだ。面白いくらいの勢いで敵が吹き飛んでいく。

 数頼みの意味で召喚ないし配備されていた、ザコ戦闘員や弱めの召喚獣達は、たったこれだけで跡形もなく消し飛んでいった。

 よし、それじゃこの辺で……

「っ……わかってはいましたが、相変わらず無茶苦茶な……っ!?」

 用意した戦力があっという間に9割方消し飛ばされた現状に、眉間にしわを寄せて悪態をついていたウェスカーだったが、直後にその顔面目掛けて僕が飛び蹴りを叩き込んできたので、慌てて障壁を展開して防御していた。
 障壁はかなり危ない音を立ててきしんだものの、どうにか防ぐことに成功していた。

 自分で言うのもなんだけど、よく防いだな。
 威力もそうだけど、僕今、甲板に展開したカタパルト使って人間ミサイルばりに『発射』されて飛んできたから、かるく音速超えてたんだけど。よく気付けて、反応間に合ったもんだ……いや、ひょっとして攻撃が来たら自動で展開するようにしてたのかも。

 しかし、破られはしなかったものの、そのまま数十mほど、前線から大きく離れた場所に障壁ごと押し込まれた。

 それをさらに蹴っ飛ばして、障壁を粉砕しながらウェスカーをさらに奥へ押し込み……その瞬間、ウェスカーが受け身を取って着地する前に、あらかじめ用意しておいたマジックアイテムを起動。
 『ヤマト皇国』で模擬戦や、ハイエルフの残党を駆除する時にも使った、『隔離結界』を発動させるそれだ。僕とウェスカーの2人だけを、異空間に飛ばして閉じ込め、隔離した。

 その上でさらにいくつもマジックアイテムを使い、転移魔法やら何やら、ここから脱出するための手段をことごとく封じる。……これでよし。
 どれも今回のために特に気合入れて作った特別製だ。これで、時間切れで効果がなくなるか、僕が解除するまでは、こいつはここから出られなくなった。

「……なるほど、一対一で、というわけですか。……よろしいので? 向こうには、あの船とあなたのお仲間達を置き去りにしていますが……こちらにも、まだまだそれなりの戦力は残っているのですよ?」

「その辺は皆を信頼して任せるよ。この時に備えて皆で特訓してきたんだからね。そう簡単にやられるようなメンバーじゃない」

 ……とはいえ、物事に絶対はない。

 こないだ、アクィラ姉さんがチラノースの皇帝をとっ捕まえようとした時、展開していた転移妨害の結界をぶち抜いて、『麒麟』の能力で離脱されてしまっていたように……対策していても、それを力ずくで、あるいは裏をかかれて振り切られてしまう可能性は大いにある。

 だから、『隔離したから安心だ』とか、『後はゆっくり』とかは考えずに……速攻で倒す。

 恐らく、こいつとも『財団』とも最後になるであろう戦いで、仮にも実の兄であるこいつを、何か雑に扱うようなことになりつつあるけど……それはもう仕方ないってことで。

 ウェスカーが態勢を立て直す前に、左手首に腕時計――『エンドカウンター』を出現させ、それを起動……

 
 ……しようとした瞬間に、四方八方から突然出現した魔力弾丸が僕目掛けて殺到した。


「……は!?」

 感じ取れる魔力量から、流石に無防備に受けていいものじゃないと察した僕は、防御する態勢をとってそれらを防いだ。
 どうにかそれは間に合ったけど……結構な衝撃だな、これ。1発だけでも、城壁に風穴開けるくらいはできそうな威力だったぞ。常人が受けたら……いや、結構な実力者でも、防御すら意味なく消し飛ばされるだろう、ってほどだ。

 しかも、ただ強力なだけじゃなく、何か妙な……っ!

 はっとして僕は、左手首を確認する。

 すると、そこに装着されている『エンドカウンター』は……今の攻撃に巻き込まれたからだろうか、壊れてしまったらしかった。
 見た目はそうは見えない、ちょっと汚れたり傷がついた程度だけど、中身……マジックアイテムとしての機構や、刻み込んである術式がおかしくなってる。

 今の魔力弾に関じた妙な感じは、それか……マジックアイテムを狂わせる効果が乗ってたんだ。
 ジャミング……いや、精密機械をを壊す電磁パルスみたいなもんか。修理できないことはないと思うけど……この闘いの間はちょっと使えそうになくなっちゃったな。

 ふと気配を感じてみると、ウェスカーが懐から何か、マジックアイテムであろう水晶玉みたいなものを取り出して、放り捨てるところだった。
 ……多分、今の魔力弾を発動させたのがあれだな。使い捨て、1発限りだったのか。

「伊達にこれまで何度もあなた達と戦って来たわけではありませんからね……対策くらいしていましたよ」

 ぱんぱん、と服についたホコリを払うようにしながら、ウェスカーが言う。

「あなたとの戦闘で特に警戒しなければいけないのは、『強化変身』と『ザ・デイドリーマー』の2つ。どちらも協力無比で厄介な力ですが……弱点がある」

「…………」

「その腕輪……『強化変身』を使うのに必要なものなのでしょう? それも、機能以上に……あなたの『気分的に』」

 ……腕輪じゃなくて腕時計なんだけど、そんなことはまあ、些細なことだから黙ってるとして。

「『トロン』や『狩場』で使っていたような旧型の『強化変身』はともかく、最近使っている改良されたそれらは、腕輪なしには変身できない。もちろん、最も危険な、カムロを倒したあの姿も、ね」

 そして、と続ける。

「『ザ・デイドリーマー』の発動に最も必要なのは、簡単に言えば、あなたの『気分が乗っている』こと……その腕輪を使って変身する、という手順を踏むこと自体が、あなたの気分を乗らせるのに必要なことなのでしょう? そこを封じてしまうだけで、あなたはあの、最も危険な姿に変身できなくなってしまう。残る手札は、せいぜい、元々それなしで使えたものに限られる」

 ……正解。

 僕の強化変身こと『フォルムチェンジ』に『エンドカウンター』が必要なのはもちろんだけど……それ以上の強力な『ジョーカー』シリーズを使うには、僕のテンションが重要になる。

 ウェスカーの言う通り、『ザ・デイドリーマー』の発動及び制御に必要なのは、僕の気合、ないし気分が最大限乗ってることだ。そんな不安定なもので、発動そのものや精度が左右されてしまう。

 『アルティメット』や『エクリプス』は、元をたどれば僕が作った強化変身じゃない。土壇場に追い込まれた時に、今まで作り上げたものを材料にして、『ザ・デイドリーマー』の力で作り出したというか、誕生させた力だ。その時の、最高に乗っていた僕の気分を基準にして。
 だから、再びそれを僕が再現するのに、『エンドカウンター』を使って……気分と言うか、テンションを上げながらやる必要がある。 

 前世、特撮ヒーローが大好きだった僕にとっては、まさしくヒーローの『変身シーン』みたいに道具を使ってポーズをとって、っていう手順を踏むことが、それに当たる。
 雑な言い方をすれば、ヒーローごっこみたいなもんなんだけどさ。

 それでも、僕自身がそう思っている以上、テンションを上げて『ザ・デイドリーマー』を上手く使うために、有効なことだし、必要なことなのだ。

 だから、それが使えないとなると……

 そしてウェスカーは今度は、懐から何やら……カプセルみたいなものを取り出して、口に入れて……ごくりと飲み込んだ。

 ……今、この場面で飲む薬(らしきもの)って時点で、嫌な予感しかしないな。

 案の定と言うべきか、ウェスカーの体から感じ取れる魔力が膨れ上がっていく。
 見た目には特に変化はないけど、これは……ちょっと強化幅ヤバいんじゃないか。一体何飲んだんだよ……いや、聞く暇も意味もないか。

 にしても……『エンドカウンター』が使えなくなって、すなわち『アルティメットジョーカー』と『エクリプスジョーカー』は使用不能。その他にも、『プルートフォルム』をはじめとした新型の強化変身も軒並み使えない。
 使えそうなのは、それ以前に使えていたものだけ……その縛り付きで、なんかいつもよりかなり強化されたらしいウェスカーを相手取ることになるわけだ。

 これは……流石に、やばいかもしれないな…………








 ………………少し前までの僕なら、だけど。



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