魔拳のデイドリーマー

osho

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第21章 世界を壊す秘宝

第499話 各国の動き、今後の動向

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「……大変なことになったな」

「はい……件の『血晶』……予想を超えて厄介な代物だった、というしかないかと」

 ここは、『ネスティア王国』が王都『ネフリム』。
 その中心にそびえたつ王城の一室。

 上がってきた報告を聞いた、第一王女ことメルディアナは、その報告を持ってきたイーサ共々、頭を抱えていた。

 かの国……『シャラムスカ皇国』で、『血晶』の捜索を進めさせていた『タランテラ』から、偶然ミナト達とはちあってしまったと聞いた時は、本当にあの男はどこにでも現れてトラブルに首を突っ込むな、と呆れたものだった。
 あえてミナト達には、『タランテラ』があの国にいることを教えていなかったし、彼らの力なしで必要な情報の収集、そして、場合によっては『血晶』そのものの回収を行うつもりだった。それに関する協力自体は、聖女・アエルイルシャリウスを相手に、秘密裏にとりつけていた。

 しかし、最終的には……そんな当初の見通しがどこまでも甘いものだったという結果が今、こうして眼前につきつけられている。

 『血晶』回収のための仕掛けが、義賊・フーリーまでも巻き込んだ多少大掛かりなものになってしまったのは、別に問題ない。必要であればそれ相応の手段を用いる。王族にとっては、時に非常に徹してでもその姿勢を貫くのは、必要とされる覚悟の1つだ。

 しかし、問題はその『血晶』が……イーサが言った通り、予想をはるかに超えてろくでもない代物だったこと。
 そしてそのろくでもない代物が、これまたろくでもない国に渡ってしまうことが、ほぼ確定しているというこの現状。

 おまけに、それによってろくでもない計画が進められ、それを手引きしているのは、現在この大陸でもっともろくでもないと言っても過言ではない、悪の秘密結社だ。

 ここまでろくでもないものがそろってことが動こうとしている現状に、理解すると改めてメルディアナは頭痛が酷くなっていくのを感じた。

 『血晶』を守り切れなかったことについて、律儀にもミナトからは謝罪が入ったが、最早そんなことはどうでもよかった。
 いや、大ごとではあるのだし、冒険者である彼からすれば、非公式のものとはいえ『依頼』が達成できなかったことになるのだから、きちんと謝罪は必要だと思ったのだろう。

 が、メルディアナからしてみれば、前提となる条件が何もかも違っていたのだから、責める気になどならないし、むしろそんな暇があったら、この未曽有の大問題に対応する時間に充てたい、というのが本心だった。
 彼としても思う所があるようだし、ならばいっそ今後の事態への対処にその力を貸してもらうのもありではないだろうか、などと考える。

「……いや、そんな善意を利用するようなことを考えずとも、どの道奴には力を貸してもらわざるを得んだろう。今回上がってきた報告……それらがすべて真実であれば、事態はもう、あの北の国がわーわー騒いでいるというレベルのものではない。アレを除く『6大国』全てで協力して対応に当たらなくては……本気で大陸が、この世界が滅び兼ねんぞ」

「やれやれ……また、数十年前の戦乱の時代の再来、あるいはそれよりもひどいことになりますかな、これは……」

「顛末を大至急報告書にまとめさせてくれ、イーサ大将。私は、もうすぐ戻る親父殿にこのことを報告する準備をする。それと……なるべく早い段階で、他国に事情を話して協力を仰がねば」

「しかし、物的証拠までは現状ありませんが……外交の場で他国を動かすのは難しいのでは?」

「ああ、わかっている。だが、この件に関して『誰の目にも明らか』な証拠が現れた時には、恐らく事態は取り返しのつかないところまで至ってしまっているだろう。『神域の龍』とやらがどの程度の数がいて、どの程度の脅威になるのかもわから……いや、それについては当てがあるな」

 ふと思い出したメルディアナは、執務机の上に常備している赤い縁取りの便せんを1つ取り、さらさらと何かを書き込んでいく。

 書き終えると、その便せんは一瞬にして小さな鳥に姿を変え、窓から飛んでいった。

 ミナトが発明し、ノエルの商会に販売を委託しているマジックアイテム……便箋が取りに変身して宛先に直接飛んでいく『リビングメール』だ。その中でも、売る相手を限定して取り扱っている特別製の品である。超音速で飛ぶ鳥は、すぐに空の果てに見えなくなった。

 それを見ていたイーサは、

「送り先は、ミナト殿ですかな?」

「ああ、奴のところには……ちょうど、保護したばかりの『神域の龍』がいたはずだからな。事情を詳しく聞くには適任だろう……もっとも、私が言うまでもなく、奴ならもうすでに、話を聞いている可能性が高いがな。その間にイーサ、私達は、各国首脳への取次を行うぞ」

「承知しました。正規の外交ルートでは難しいのであれば、個人的につながりがあるルートから内々に……ということになりますか」

「当事者であるシャラムスカはいいだろう。今後の話し合いはともかく、わざわざ事情を説明する手間はない。ジャスニアはエルビスとルビスがいるし、フロギュリアはウィレンスタット家の令嬢がいる。こちらに関してはミナトの方から話をしていい旨、さっきの便せんに書いた。ニアキュドラは、誰にどう話せばいいのかちと悩むな……レジーナは正規の外交官ではないし……」

「それと、フロギュリア経由でヤマト皇国にも話が必要でしょうな……かの災いが、この大陸のみでおさまってくれる保証はどこにもありません」

「そうだな……全く、頭が痛いよ……ひとまずは、バカな真似はやめるように、即刻危険物を手放すようにかの国に外交ルートで伝えるとするか。……無意味だろうが」


 ☆☆☆


 場面は変わって、

「よくやったぞ! ようやく手に入ったか……我が国の宿願を達成する切り札が!」

「はっ……おほめいただき恐縮至極にございます、皇帝陛下」

 荘厳に飾り立てられた『玉座の間』。
 その中心に据えられた玉座に腰かける1人の初老の男が、今しがた、家臣が持ってきた『血晶』を手に取って、興奮を隠しきれない様子で狂喜していた。

 ここは、『チラノース帝国』の帝都:アルジャヤにある宮殿。
 そして、玉座に座っているこの男こそ、この国の現・皇帝であった。

 数十年前、周辺の小国をいくつも併呑し、『大国』と呼べるまでの力を手に入れて大陸北部に誕生した新興国『チラノース帝国』。

 2年前に『ニアキュドラ共和国』が誕生したため、『6大国』の中で最も新参、という肩書でこそなくなったものの、そのような歴史から、まだ他の大国にあるような安定した基盤が築かれてはいないのがこの国である。

 いやむしろ、今の状態での安定など、もともと求めてはいないのだろう。

 この大陸において、軍事力にものを言わせた覇権主義的なやり方で勢力を拡大してきたチラノース帝国は、まだまだ国土を広げていくことを微塵も諦めてなどいない。

 しかしながら、この大陸に残る他の国は、『6大国』をはじめ、どこも簡単には手を出すことができない規模の国ばかり。簡単に軍事行動を起こすことはできず……それゆえに、ここ半世紀ほどはつかの間の平和が訪れていた。
 昔からの拡大派・過激派にとっては、何とも不本意なものでしかない平和が。

 もちろん、何もやることがなかったわけではない。侵略戦争で大きくなってきた国にはつきものである、国内における不穏分子の蠢動、クーデターの勃発と鎮圧、国土から逃れようとする難民の回収・粛清……肥大した国家を掌握するためにやることは多かった。

 中でも、一番最近吸収したとある国の関係の革命行動を鎮圧するのは特に骨だったのだが、それも今は下火になっている。王族は赤子まで含めて皆殺しにしたはずにもかかわらず、往生際の悪いことだと、皇帝は心底呆れていた。

 そして今、この停滞の時代に一石を投じる妙手足りうる『秘密兵器』が手のうちにある。

 この『血晶』自体も、往生際の悪かったかの国……『リャン王国』の生き残りたちがもっと強力的な態度を見せていれば、もっと早く手に入ったはずのものだと考えると、今もまだ苛立ちがこみあげてくるが、今となってはそれも些事でしかない。

「これさえあれば、『龍神文明』の時代に存在した龍達を再臨させ、使役することができるのだな……ふふふ、地上で最も強力な魔物である『龍族』……それらを従えることができれば、我が国はこの大陸に覇を唱えることすら可能となろう! 一刻も早くこの研究を、そして『儀式』の準備を進めるのだ!」

「かしこまりました。して、かの『財団』の者達に対してはいかがなさいましょう?」

「望む褒美を与えてやるがよい。ああ、その際には……この先の未来を生き残りたいのであれば、我々に対する接し方をきちんと考えるよう伝えるのだぞ?」

「ははっ!」

 『血晶』を手に入れたことが、イコールでこの大陸の覇権を握ることに他ならないと信じて疑わない皇帝。既に彼の中では、今回協力者だった『ダモクレス財団』もまた、将来的には自分達の国に頭を垂れて忠誠を誓うものだというのが確定の未来になっていた。

 財団だけではない。今現在中立を保っている数々の組織や、むしろて期待している立場にある者達であっても、最終的には自分達に跪いて許しを請うしかない。
 国と国のいさかいには基本的に関与しない冒険者ギルドや、いくつもの国を滅ぼして政権を転覆させているテロリストもだ。

(だからこそ、奴らが最後に我らに牙をむくとすれば、今のこのタイミングだろう……そうはさせん、我らの栄光の未来を、薄汚い反逆者共が邪魔するなどあってはならんことなのだ!)

「サロンダース! サロンダースはいるか!」

「はっ、陛下……ここに」

 そう言って進み出たのは、1人の軍人だった。

 若い男だ。体の線も細く、背もさほど高くない。せいぜい160cm代後半であろう。
 顔にはしわもなく、髭も生えていないため、かなり若いとわかる。前髪が長く、目がほぼ隠れてしまっているため、どんな目つきや瞳の色をしているのかをうかがい知ることは出来ない。

 その男が前に進み出たと同時に、玉座への赤じゅうたんの両脇に並ぶ貴族や軍高官達の顔には、嘲笑に似た笑みが浮かんでいた。

「サロンダースよ、貴様に任務を与える。国内、特に帝都周辺の警戒網を改めて見直し、不穏分子を徹底的に廃滅するのだ。この大事な時期に、愚かなことを考える阿呆をのさばらせてはならん」

「かしこまりました。国内外の愚か者ともを一掃してご覧に入れます」

「ふん……以前、『ローザンパーク』の攻略に失敗して逃げ帰ってきた時のような無様は晒してくれるなよ。貴様の力は確かだが、あくまで貴様がその地位にいるのは、先代皇帝と私の恩情であることを忘れるな」

「はっ……肝に銘じております」

「ならば、行け」

 一礼して立ち去っていくその男……サロンダースに対し、工程はふん、とまた鼻を鳴らす。

(滅ぼした国から取り立てた兵力としては拾いものだったが、相変わらず感情を表に出さん、薄気味の悪い奴よ。まあいい……やることさえきちんとやれば、それで構わん)

「リチョウ。奴にはいつも通り、監視をつけろ。必要に応じては『督戦隊』もな」

「ははっ、かしこまりましてございます、陛下!」

 平服せんが勢いでペコペコと頭を下げる家臣。

 肯定は、腰を低くして自分を敬う姿勢をきちんと見せる、このような部下が好きだった。自分こそがこの国の頂点であることを実感させてくれる。
 ゆえに、感情をあまり表に出さない、サロンダースのような者は好きではなかった。

 それでも彼を使っているのは、単純に使えるからだ。

 サロンダース中将。かつての戦乱の時代、当時はまだ『チラノース』という名前ではなかったこの国が制圧し、吸収したとある国から取り立てた軍人。
 自身の武力はもちろん、戦略や兵站、用兵など様々な分野において才覚を示し、その力を認められたことで『中将』の地位にまで上り詰めた俊英。

 しかし、かつての敵対国の出身者というバックグラウンドもあり、また皇帝にあまり好かれてもいないことから、これ以上の出世は見込めないと言われている男でもある。

 種族は『獣人』であるため、老化が遅く、未だに若々しい姿を保っている。

 純粋な人間であるがゆえに、日々自分の体が老いていくことを痛感し、嘆いている皇帝からすれば、その意味でも面白くない男だった。

(私が命あるうちに、なんとしても大陸の統一を……そのために馬車馬のように働くのだ、サロンダースよ。宿願叶ったならば、その時は貴様のことも認めてやろうではないか)

 どこまでも傲慢不遜な考えのまま、皇帝は手の中にある『血晶』をめでるように撫でまわし、明るい未来を思い描く妄想に戻るのだった。


 ☆☆☆


「というわけで、ちょっと修行の旅に出たいと思います」

「「「ちょっと待て」」」

 リビングで今後の予定について話をしたら、我が嫁を含む全員から総力ツッコミで止められ……というか、説明を要求されました。
 
 うん、いや、するけどもね。唐突過ぎること言った自覚もあるしね。

 いやほら、今回僕……ハイロック相手にちょっと手も足も出なかったじゃん。

 あいつは『ダモクレス財団』の最高幹部……8人いるうちの1人だ。
 カムロは倒したから、残りは7人……しかし、それはつまり……ハイロックやグナザイア、そしてウェスカー級の力を持った敵が、もう7人いることを意味している。

 ……いやまあ、戦闘能力で選ばれてない最高幹部もいるかもしれないから、断定はできんけども。

 それでも楽観もまたできないし……あとこういうのって、名前を変えて色んな立場の幹部とか出てきたりするじゃん? それも不安。
 最高幹部を倒したら四天王が出てきて、四天王を倒したら親衛隊が出てきて、さらにそのまた別な……みたいに何人も出てきそうで……いや、流石にないかな。

 まあ、上にはいなくてもしたにはまだまだいるだろうし。それこそ、最高幹部じゃなくても強い戦力……バスクやセイランさん、それに、もう死んだけど、アガトみたいなのも警戒しなきゃだ。
 特に最後の奴に関しては、改造手術で限界を超えた戦闘能力を持たされて、悪の怪人みたいな感じになってたわけだし……そういう感じである程度の戦力を量産できるのって厄介だよなあ。

 ともあれ、そういうことを考えると、僕自身ももっと強くならなきゃいけないと思うんだ。

「……あんたこれ以上強くなってどうすんのよ、っていつもなら言うんだけど……確かに今回の場合、必要に迫られてってところもあるしね……」

 事情を聴いてエルクは、ため息をつきつつも、僕の言い分も一理あると考えてくれたようだ。

「今のあんたや私達なら、たいていの相手はどうにでもできるでしょうけど……その『たいてい』に含まれない部分が問題になる場面なのよね、今回の場合」

「そうね……今回は私もちょっと不甲斐なかったし、鍛え直すなら私もやるわ」

 と、今度はシェリー。彼女は確か……グナザイアを相手にしてたんだっけ、途中まで。
 けど、あの巨体で結構素早い上に、攻撃力・防御直共にけた違いだったから、抑え込むので精いっぱいで満足に戦えなかった、って悔しそうにしてた。

 戦闘狂である彼女だけど、こういう、本当に必要なことに関してはきちんと反省して次につなげることもできる人です。

 もちろん、コレを機に鍛え直したいって人に対しても、協力するつもりだ。みんなで頑張ろう。

 まあもっとも……すぐに取り掛かることはできないけどね。まだ、色々やることあるし。

 ネフィちゃん達に、依頼遂行できなくてごめん、って謝るのは終わった。
 その際に、色々と新たに依頼?を請け負ったり、相談したりしたけど……まあ、その辺はまた後で詳しく。

 ソニアや、『タランテラ』の皆の手当も終わった。あとは各自、元の所属のところに帰るだけである。……ソニアはもうちょっとこの国に残っててもいいか。友達同士の語らいもしたいだろうし。

 それと……この国にいるうちに、済まさなきゃいけない用事がもう1つ。

 あ、そうそう、今更だけど……僕達が今いるのは、オルトヘイム号のリビングである。
 ここでちょっと、ある報告を待っている状態なんだが……お、来たかな?

 僕の懐のスマホが鳴った。

「はい、もしもし」

『もしもしミナト? 私。マリーベル。捕虜の尋問……準備できたよ』



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