魔拳のデイドリーマー

osho

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第21章 世界を壊す秘宝

第498話 ゼットVSアポカリプス

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すいません、さっき1回、投稿する順番間違えました……
そんなわけで今回、第497話と第498話の一気投稿になってます。合わせてごらんください。


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 腕や尻尾の一振りで岩が砕ける。
 噛みつきの一発で岩が、まるで抵抗ないようにすんなり食いちぎられ、移動のための踏み込みだけで地面が割れる。

 そんな力を、制御するつもりがまるでないままに暴れまわる『アポカリプス』。
 ……数万年前の時代、こんな怪物が『龍』と地上の覇権をかけて争っていたんだと思うと……とんでもない時代だったんだな、と思う。

 そして、それを相手に……回避が主体になってるとはいえ、十分渡り合ってるゼットの方も……また、とんでもないレベルに足を突っ込んでるってことだろうな。

 2匹が2匹とも、こっちをガン無視して戦ってる。不俱戴天の仇を前にしたかのように、目の前の龍と獣以外は目に入っていないかのように。

 アポカリプスは、昔からずっと戦っていた『神域の龍』とゼットを同一視しているんだろう。

 ……いや、案外ホントにそうなのかもしれない。
 個体としてはともかく、ゼットの種族である『ディアボロス』は、テラさんがその存在を知っていたくらいに、はるか昔から存在する龍だ。この種族も、『初代龍王』や『メテオドラゴン』といった、『神域の龍』と同じ種族だったとしても……おかしくはない。確かめるすべはないけど。

 実際、ゼットの方も……『アポカリプス』を見るや襲い掛かっていって、こんな死闘を演じてるくらいだもんな。
 本能的な衝動で、ってバイラスは言ってたけど……遺伝子の奥底に、ご先祖様が戦っていた仇敵の存在を覚えていてもおかしくないかもしれない。

 まあ、考察はこの辺にして……おっと危ない。

 中々捕まらないゼットに業を煮やした『アポカリプス』が、口腔内に魔力を練り上げて……ブレスらしき光をため込み始めた。
 チャージはものの一瞬で終わり、放射状に光のブレスが放たれる。ゼットがかわす隙間もないくらいの広範囲をカバーする攻撃だ。

 速すぎる上に的が小さくて当たらないから、範囲攻撃で攻めてきたわけか。

 しかし、その直線上には、シェリーやセレナ義姉さん、師匠もいる。

 ……まあ、師匠に限って心配はまず要らないだろうけど、それでもそのまま攻撃に巻き込ませるのは僕的にあり得ないので、その射線上に割り込んだ。

 そして勢いよく地面を踏み込み、同時に火と土の魔力を叩き込んで地面をドロドロに溶解させ、溶岩に変える。
 踏み込みの衝撃で立ち上った、火柱ならぬ溶岩柱。それが光のブレスを遮って、僕よりも後ろには一筋の光も通さなかった。

 そしてこの光のブレス、どうやらかえって『アポカリプス』の首を絞める結果になったようだ。

 自分の視界も狭まるほどの範囲と光量のブレスを放った結果、前が見えなくなり……ゼットを見失ってしまった。ブレスの向こうにいて、命中すれば多少なりダメージが入ったかもしれないゼットは……忽然と消えていたのだ。

 困惑するように周囲を見回す『アポカリプス』だが、その直後、その真下の地面を突き破ってゼットが現れた。

 まるでドリルのように回転して強襲し、『アポカリプス』のどてっぱらの毛皮と肉を盛大に抉りながら空中に舞い上がったゼット。
 その姿は……さっきまでとは違っていた。
 
 さっきまで3本、トリケラトプスのような配置で生えていた(ただし真ん中、鼻先の角が一番長くて鋭いが)角。
 それが、横の2本は、ヤギの角のように蛇行して前を向き、真ん中の1本はより太く、より鋭くなった。頭を覆う鎧のような甲殻や鱗ごと増量され、まるで兜でもつけているかのようだ。

 もともと装甲のように分厚くなっていた胸の部分が、重厚さは残しつつも、鋭く鋭角なデザインに研ぎ澄まされていき、甲羅の各部から琥珀色の光が漏れ出している。

 手足にも、手甲脚甲のように鱗が重厚に生えてそろっていたが……もっと露骨に、ガントレットとレガースのように手足を覆った。こちらもあちこちから琥珀色の光が漏れている。
 手の指は、指ぬきグローブみたいにそこだけ琥珀色になっていたが、そこも黒いうろこでおおわれた。しかし、先端部の爪だけは琥珀色の刃が伸びていて、鋭くとがっている。

 背中からは琥珀色の、刃のような突起が無数に生えており、尻尾までそれが続いている。
 そしてその尻尾は、以前よりも細くなったようだが、感じ取れる力強さはむしろ上がっている。しかも、背中から続いていた琥珀の刃が、尻尾では密集してのこぎりの歯のように生え揃っている。『びっしり』っていうよりも『ぎっしり』って感じ。

 一番大きく変わったのは翼だ。
 蝙蝠のように骨組みと翼膜で形作られていたはずの翼は、翼膜部分がなくなっていて……骨組みの部分は、さらに上から鱗や甲殻に覆われたように重厚になっていた。
 そして、骨組みと骨組みの間。翼膜のあったはずの個所に……琥珀色の魔力光でできた、『光翼』とでも呼ぶべきものができていた。それを使って空中に飛翔・滞空しているようだ。

「え、ちょっと……あれってさっきまでの黒いトカゲちゃん? な、何かあの姿……」

「ミナト……あんたの『強化変身』に似てない!? ちょっと前まで最強モードだった奴!」

 うん、そう。今ちょうどセレナ義姉さんが言った通り……ゼットの変化を総合すると……かつての僕の『強化変身』の1つであり、『アルティメット』に覚醒するまでの最強形態だった……『アメイジングジョーカー』に似ているのだ。

 手足と胸、頭に装着された黒と金の装甲に、非実体の光の翼。装備各所にある、どこか機械的なというか、メカメカしさを感じるデザイン。
 所々、奴なりにアレンジされてはいるけど……まず間違いないだろう。

 もともとゼットは、戦いの中で敵の使う技術を学び取り、自分のものにして強くなっていくという……バトル漫画の主人公みたいな真似ができてしまうほどに、知能が高く、器用な魔物だ。

 加えて、それに合わせて体の形状……鱗や甲殻の分布や厚さが変化したり、角が新しく生えてきたりといった、自己進化じみた変容を遂げながら成長する性質をも持っている。

 普通の生き物なら、数世代にわたって、何十年も何百年もかかって、徐々に遺伝子レベルで姿を変えて『進化』していくのであろうところを、こいつは単一個体でやってのける。しかも、数週間や数か月というアホみたいな速さで。

 しかも技術に関しては、形だけ真似するんじゃなく、きちんとそれを『使いこなす』レベルにまで持って行き、実戦で使いこなしてしまうんだからおっかない。

 今までもあいつは、僕の使った格闘技はもちろん、遠距離攻撃技までもいくつもコピーし、自分なりのやり方で再現して使ってみせた。

 そしてついには、『強化変身』までコピーしてみせたということだ。

 まあ、こいつが『強化変身』を使えるようになったのは……だいぶ前に『ローザンパーク』で戦った時に見てたから知ってるんだ。その時僕も、当時の最強形態だった『アメイジング』で応戦して……何とか勝ったわけで。

 そして、その時に学んだことを生かして自己進化した結果が、これなんだろうな……さっきまでのゼットと比べてなお、段違いの威圧感を感じる。

 そんなことにもお構いなしに、『アポカリプス』は、抉られた腹の痛みすら怒りに変えるような勢いで突っ込んでいき、ハエたたきよろしく空中のゼットを叩き落そうと腕を振るうが……それが直撃するかと思われた瞬間……消えたかと思うほど早く、ゼットが動いた。

 翼から琥珀色の魔力をロケットエンジンみたいに噴射して急加速し、『アポカリプス』の背後に回り込む。
 そして、手甲のようになっている拳をぐっと握り込み……背中を思い切りぶんなぐった。

 その拳が直撃する瞬間、肘のところにもついていたらしいブースターからまた魔力が噴射され、勢いが倍増しになり……さらに、腕の周りに渦潮のように魔力が渦を巻いていた。さらに、それに呼応してか……握り込んだ拳と同じ右側の翼、光翼がひときわ強く輝いた。

 拳の直撃と同時に、ミサイルでも着弾したかのような大爆発が起こり……数十mクラスの大きさを誇る『アポカリプス』の巨体が吹っ飛んだ。何ちゅう威力だ……。

 というか今の魔力を充填した拳といい、翼が光ってさらに攻撃の威力が増す仕組みといい……つくづくまあ、僕の技を忠実にコピーしやがってあんにゃろ……。
 細部は違うし、仕組みとか理屈もアイツなりな部分が多分にあるけど……なんか悔しい。

 しかも、『アポカリプス』が空中にいる間に、飛んだ先に回り込んでまた殴って打ちあげる。今度はアッパーカットで、真上に飛んでいった。

 さらに追撃をかけようと飛ぶゼット。それをしかし、アポカリプスは見下ろす形でぎろりと睨みつけ……迎え撃つように腕を振り下ろした。

 が……その直後、『アポカリプス』の腕は肘の先から切断されて宙を舞っていた。

 直進しながらすさまじい勢いで縦回転したゼットが、背中と尻尾についた突起を使い、電動のこぎりのように切り裂いてしまったからだ。

 それに驚く暇すら与えず、ゼットは上空にいる『アポカリプス』の横をすり抜けるようにしてその上に回り込み……上から振り下ろす軌道のエルボーで、地面に叩き落した。

 腕を失い、自分よりもはるかに小さな相手に好き勝手にどつき回され……怒り狂った『アポカリプス』は、どうやら切り札を使うことにしたようだ。

 さっきと同じように、すぅぅう……と大きく息を吸い込む。
 しかし、口腔内に光はたまっておらず、魔力の高まりもほとんど感じない。代わりに……口の端から、煙のようなものが立ち上りはじめ……同時に、しゅうぅぅ……と、空気の抜けるような音が聞こえ始めた。

 そして次の瞬間、霧状になった毒のブレスが、ゼット目掛けて吐き出された。

 一目見て……いや、見るより先、発射直前に直感的にそれが『食らったらまずい』と悟ったらしいゼットは、急加速して即座にそこから離脱。しかし、それを追って『アポカリプス』は毒ブレスを吐き出し続ける。吐き続けながら追うので、あたりに毒の霧が立ち込めていく。

 毒だとわかった瞬間、アルバに合図をして風の結界を張ってもらい、シェリー達は保護した。
 僕にはもともと効かない。効かないけど……鬱陶しいなコレ、流石に。

 なんかここら一体を毒霧でいっぱいにするつもりのようで、絶え間なく大量の毒を吐き出し続けているので、視界がもう霧でいっぱいになってきた……。

 ……ゼットの戦いに横から割り込むのもどうかと思って見てたけど、こっちに流れ弾(どころじゃない規模で)が飛んでくるなら遠慮はいらんよね。

「―――シッ!!」

 その場で、暴風を纏った回転回し蹴りを放って霧を吹き飛ばす。

 それでこっちの存在に目を向けた(それまでは気にしていなかった)『アポカリプス』。何だコイツ、とでも言いたげな視線は無視して、素早く懐に入り……あいさつ代わりに飛び蹴りを1発。

 さっきのエルボーと同等かそれ以上の勢いで横に吹っ飛んで転がる、毛むくじゃらの巨体。結構いい位置に入ったらしく、毛皮と肉の向こうで骨が折れる感触がした。

 倒れてる間に、もう2~3発というか、2~3回転というか、回し蹴りを放って霧を完全に吹き飛ばした後……ようやく『アポカリプス』が起き上がり、こっちを睨んでくる。

 あと、その上空にいるゼットもこっちを睨んでくるけど……見た感じ、敵意は感じない。
 『余計なことしやがって、俺の獲物だぞ』的な感じではあるものの、こっちとしてもこのまま暴れさせとくのはNGなのは……あいつも理解してるんだろう。頭いいからな。

 『アポカリプス』はいよいよブチ切れて、僕とゼットを両方とも叩き潰そうと、滅茶苦茶に腕や尾を振るったり、噛みつきを繰り出して攻撃してくるけど……全く通じてはいない。

 振り下ろされた腕は、僕が蹴りではじいたし、追撃で放たれた噛みつきは、かわした上で牙を2~3本叩き折らせてもらった。

 尻尾が振るわれた瞬間、ゼットの尻尾も一閃して、さっきの腕の時と同じように切り落とす。怒って噛みついてきたところに、ゼットが口の中にブレスをぶちこんでいた。うわぁ、痛そう……舌火傷した、じゃ済まないだろうなアレ。

 苦しんで滅茶苦茶に暴れるので、さっき斬られた尻尾の残った部分をつかみ、ぶん投げて向こうに行ってもらった。
 落下する姿勢が悪かったというか、背中からドカッと落ちたため、自重がそのままダメージになって更に苦しんでいる。
 
 そろそろ満身創痍だな、と僕が思った瞬間……ゼットがちらりとこっちに視線を寄こしてきた。

 その一瞬でなんとなく意図を察した僕は、『どうぞ』とジェスチャーで示し……その瞬間、ゼットは天高く飛翔して、斜め下に『アポカリプス』を見下ろす位置に来た。

 指先、装甲(鱗)の各部の隙間、光翼、そして鼻先の角……全身の琥珀色をしている箇所から、おなじ琥珀色の魔力があふれ出し……それをゼットは全身にまとっていく。膨大な魔力の高まりに加え、それが高密度に凝縮されていくのを、離れたここから出も感じる。

 渦を巻いて、絞るように。
 角を切っ先として、螺旋……ないし、ドリルのように形取っていく。

(マジかよ。色は違うけど、あれは……)

 そして、『アポカリプス』が……怒りと苦痛の入り混じった咆哮を上げて立ち上がったその瞬間、

 ゼットは自らの体を弾丸にし、音を置き去りにするほどの速さで、弾丸のような勢いで射出……『アポカリプス』の胸のど真ん中に着弾した。

 その瞬間、凝縮された魔力全てが炸裂して大爆発が起こり……一瞬遅れて、巨体を貫通し、背中側からゼットが飛び出してきた。
 その際に空いた穴にも、魔力の爆発が入り込んで、その圧倒的な破壊エネルギーが内部から『アポカリプス』の体を蹂躙する。体の中をズタズタにし、それでも減衰しきらない魔力が、内側からの圧で牙を吹き飛ばし、噴火のように口からあふれ出すほどだった。

(……ゼットの奴。やっぱり僕の必殺技も真似してたか……)

 膨大な魔力を練り上げて、超圧縮して一転に集中させる。僕の場合は足で、魔力の色は黒と紫(闇属性)だから、ブラックホールみたいな見た目になって……それを蹴りで叩き込む技。
 ゼットはそれを、角に魔力を集中させての、全身を使った串刺し軌道の突撃でやってのけたわけだ。打撃じゃなくて刺突になってるぶん、貫通力と、その副次効果での内部破壊がえぐいことになってたな。

 『アポカリプス』が倒れ、動かなくなる。
 それと同時に再び飛翔するゼット。既にこと切れた獣の巨体を見下ろし……勝利の咆哮を上げる。

 ひょっとしたら、あの技でこいつにとどめを刺したのは……さっき、僕に『トドメは俺が刺す』って目で言ってきて、それを僕が譲ったことに対する、ある種の義理とか礼節みたいなものなのかもしれない、と、なんとなく思った。

 やれやれ、今回僕……大していいとこなしのまま終わっちゃったな。



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