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9巻
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しおりを挟む第一話 『邪香猫』魔改造計画・前編
「……どういうつもりだい、クローナ?」
「ん? 何がだよ、アイリーン」
時刻は昼前。
暗黒山脈にあるクローナ邸、その私室。
ミナトとクローナとの模擬戦、及び『勧誘』の後、アイリーンとクローナはどちらから言い出すでもなく、この部屋に集まった。
そして、クローナの開けたとっておきのワインを酌み交わしている。
「わかってるくせに聞き返すものじゃないよ……ミナト君を弟子に取るなんて、一体どういう風の吹き回しだ、って聞いてんのさ」
「くくっ、それこそ聞く必要ねーんじゃねーか? 俺の性格を考えればよ」
「……君の性格を知ってるからこそ戸惑ってるんだよ。昔っから面倒なことや興味の無いことはとことん無視して、自分のやりたいことだけを全力でやって来た君が弟子を取るなんて、天地がひっくり返ってもありえないと思ってたからね」
アイリーンが知る限り、クローナ――天才的な研究者である彼女が、誰かのために自身の力や知識を使うことは、ほぼなかった。
かつて同じ冒険者チーム『女楼蜘蛛』に所属し、ともに大陸中で暴れまわった数十年間でも、数えるほどしかなかったはずだ。
ミナトにした説教の通り……慈善も偽善も嫌い、否定し、自分のためにだけ、その力を発揮してきたのである。
龍をねじ伏せる力も、あらゆる分野に精通した知識も、多種多様なマジックアイテムを作り出す手腕も、他者のために使われることはなかった。
その力を欲する者は多く……戦力として、頭脳として、国家や巨大組織は何度も勧誘した。
弟子入りを志願された回数も数えきれない。
それら全てを『面倒』の一言でバッサリと切って捨てていた彼女が、自分から弟子を取り育てるなど、アイリーンは想像もしていなかった。
その話を聞いたクローナが獰猛な笑みを浮かべる。
「なァに、大したこっちゃねーさ。おめーやテーガンが昔言ってたみてーに、次の世代ってやつを、ちと育ててみたくなっただけだよ。マジで、純粋にな」
「ふーん……そんなに気に入ったの? ミナト君のこと」
「ああ、気に入ったね、絶対逃がしたくねえ、って思うくらいにな。あんだけの才能を持っていながら変な妄想もせず、肝も据わってる奴なんざ……五世紀以上生きてて初めて見た。ありゃぜひとも鍛えてみてえ。鍛え上げて、研ぎ澄ませて……」
そこでクローナはワインを飲み干し、グラスを叩きつけるように置いた。
「その果てに一体、どういう化け物が出来上がるのか……この目で見たい」
口から覗く牙をギラッと光らせ、満面の笑みで言い切った。
対するアイリーンはいつもの笑顔だが、目だけは笑っていなかった。
「苛烈な物言いはいつものことだけど……一応確認しておくよ。あくまで、育て甲斐のある弟子として、彼を気に入ったんだよね?」
「くくっ、実験動物として見初めたとでも心配してたか? 安心しろ、んなこたねえよ。むしろそんなふうに使い捨てられる奴なら、最初から興味なんざ持ってねえさ」
クローナは嬉々として話す。
グラスをスッと掲げ、メイドに二杯目のワインを注がせながら。
「昨日お前から聞いたとおりだったよ……あいつはリリンに似てる。けど見た感じ、むしろリリン以上に、俺に近い気がしたね」
図らずもこの屋敷に来る直前、アイリーンがミナトに対して言ったことを、クローナ本人もまた口にした。
「あいつの考え方は俺に近いし、才能もある。それこそ、魔法の開発や研究の分野なら、明らかに現時点でもリリンを凌ぐ。ああ、これは客観的な分析で、色眼鏡とか全然入ってねーぞ?」
「わかってるよ。正直、ボクも同意見だ」
「ならもうわかるだろ? 俺があのガキに心惹かれた理由ってもんがよ」
一拍置いて続ける。
「あれは磨けば光る。鍛えれば伸びる。しかもあいつ夢魔だろ? 見たとこまだ『覚醒』もしてねえようだし、伸び代どんだけだっつー話だよ。まだまだ、どこまでも、いくらでも化けるぜ? そして……」
「そして?」
「きっといつか、俺達と同じステージまで上ってくる。そう遠くない未来に、な」
「……そんな、将来有望な超新星の中の超新星に、五百年の人生で学んできた全てを伝えてやりたい、と思ったわけ?」
「ああそうさ。あいつなら俺の全てを受け継いだ上で、それを超える化け物になる。何でか知らねーが、そう確信できるからな。くくくっ、初めてだよ。初めてだし、考えもしなかった。俺を超える可能性を持った奴に出会うなんて……そしてそれが楽しみだってのも」
言い切って、注がれたワインをまたしても一気に呷り、グラスを空にすると、ぷはぁっ、と気分よさそうに息をつく。
アイリーンは目の前の友人の笑顔が、酒で気分が高揚したからか、それともこれから始まる、ミナト風に言えば『魔改造』プランに夢を膨らませているからか、判断できなかった。
(……まさか、ミナト君自身が『魔改造』されることになるとはね)
「止めてもムダだぜ、アイリーン? 俺はあのガキを、満足するまで、あらゆる方法で鍛え上げる。魔法やマジックアイテムの共同研究なんかもしてみてーな……くくっ、どうせなら本気で世界最強とか目指してみるかな! あー楽しみだ!」
「はぁ……今になって思うんだけど、よく考えたら君とミナト君って、いわゆる『混ぜるな危険』って奴だったのかもね……手遅れだけど」
仕事の都合で、まもなく帰らなければならないアイリーンは、ミナト以下『邪香猫』メンバーの今後を思って、ため息をついた。
そして、自分もグラスに口をつけ、ぐいっと半分ほど飲み下す。
(しかし、クローナがここまでやる気となると……ミナト君、次にウォルカの街に帰ってくるときには、一層アレなことになってるんだろうな。となれば……もう、AAAランクでも、彼の実力には足りないかもなあ……)
同時に、自分はこれからどう動くべきなのか。
そう考えたアイリーンは、呆れとも諦めともつかぬ息を、もう一度ついたのだった。
☆☆☆
「……おーい、ミナトー?」
「…………」
「ミ・ナ・トー?」
「…………」
「…………ったく」
――ゴッ!!
「あがっ!?」
痛った!?
「え、何、今の百科事典で殴られたみたいな感じの鈍器インパクト!?」
「そりゃまあ、実際にそれくらい大きい本で殴ったからね」
「ああ、エルクか」
「ったく……相変わらず集中すると何も聞こえなくなるわね、あんたは」
「ははは……ごめんごめん。いや、あまりにも面白い本だったもんでさ」
僕ことミナト・キャドリーユは、体の検査を含む色々な用事を済ませるため、王都ネフリムを出てここ……母さんの旧友であり元『女楼蜘蛛』メンバー、クローナさんが住む邸宅にやって来た。
そして、流れでクローナさんに実力を見てもらうことになり、模擬戦という形で彼女――生ける伝説たる『冥王』クローナに挑むこととなった。
結果はまあ、当然のごとく完敗。
というか、勝負になってたかすらちょっとわからない。
まあ、この結果はいい。
母さんと同じレベルの実力者相手に、勝てるとは思ってなかったし。
問題はその後。
なぜかすっごく嬉しそうに笑っていたクローナさんに……こう言われた。
「ミナト・キャドリーユ。お前……俺の弟子になれ!」
その誘いを受諾した僕は今、精霊種『シルキー』のメイドさんに案内してもらい、城の書庫にいた。
クローナさんとアイリーンさんの話が終わるのを待つ間、面白そうな本を片っ端から読みふけっていたのだ。
クローナさんの『弟子になれ』発言に、当然ながら僕はかなり驚いた。
一応ちょっと時間をもらってエルク達と相談した。
その結果、最終的に、こんな機会は滅多にないってことで、受けることにした。
「僕と一緒に、他の『邪香猫』メンバーの訓練も、気が向いたら見てもらえないか」って尋ねたら、了承してくれたしね。
繰り返すけど、伝説と言ってもいい『女楼蜘蛛』のメンバーに稽古をつけてもらえるなんて、そうそうあるもんじゃない。
基本的に向上心が高いうちのメンバーは、戸惑ってはいたけど、それぞれやる気を滲ませていた。
本格的な修業は明日から始めるらしいので、手始めとしてこの『書庫』で、クローナさん秘蔵の文献を片っ端から読ませてもらってるんだけど……これがもう宝の山。
クローナさんの性格なのか、はたまたシルキーメイドさん達が優秀なのか、ジャンル別にきちんと整頓されている。
ここには……僕の主観も混じるけど、興味深い本が目白押し。
面白い魔法書物や、古代の珍しい魔物の記録。
さらには亜人の古代種族に関する記録や、どこで手に入れたのか、いろんな国の重要機密書類まで……なんなんだこの魔窟は。
亜人関連の本にはミュウちゃんが、機密書類にはザリーが興味を示し、手に取っていた。
ザリーがそれらに接した結果、何が起こるかは……精神衛生上よろしくないので、あまり考えないでおこう。
ナナさんとエルクは持ち前の勤勉さを発揮し、役に立ちそうな本を探して読んでいるが……活字が苦手なシェリーさんだけは早々にリタイアしていた。
今? 机に突っ伏して寝てるよ。
……で、僕が読んでるのは、その中でも極めて特殊なもの。
クローナさんが若い頃に手がけた、魔法関連の研究内容を記録した論文である。
ナナさんやザリー曰く、学者でもない限り読む者がいないらしいそれらは、どれも僕の興味を非ッ常~~にそそるものだった。
斬新な術式、思いがけない発想、そして僕の目から見て、まだ改良の余地がある魔法の数々。
それらを目にして、何とも言えない高揚感を覚えた。
また、クローナさん以外の研究者が手がけた論文もたくさんあった。
クローナさんのよりめんどくさい言い回しが多く読みにくかったけど、やっぱり興味深い。
研究段階で判明した、新事実や新法則なんかがいくつかあったものの、僕が前世の学校で普通に習ったことだったりしたので、理解に困ることはなかった。
この短時間で読めた本は、氷山のほんの一角だ。
ぶっちゃけ今の本音は……ここにある論文を全部読みたい、なのである。
「あのややこしい長文をよくもまあ……あんたってもしかして、学者に向いてるのかしら?」
目が疲れたのか、隣で本を閉じて休憩しているエルクが、六編目の論文に手を伸ばす僕を見て、ため息混じりにそんなことを言ってきた。
「いや、多分そんなことはないけどね……クローナさんがさっき言ってたように、ただ面白いからやってるだけだし」
「そういう所が『天才』って奴なんでしょうね……はぁ、そんなんだから私達は……」
「うん? 何?」
最後のほう、声が小さくてちょっと聞こえなかったんだけど……何か言った?
「何でもないわよ。さて、休憩終わり……っと」
エルクは眼鏡をハンカチで拭いた後、手近にあった本の、しおりが挟んであるページを開き、再び読み始めた。
……別に大したことでも無さそうだったし……いいか。
そう思って再び論文に目を落とした僕は、このとき気づかなかった。
エルクと似たような視線が、ナナさんやミュウちゃん、さらにはシェリーさんからも向けられていたことに。
☆☆☆
明けて翌日、いよいよクローナさんの稽古が始まった。
前の晩に配られた稽古着――見た目はほぼジャージ――に着替えてから、前日も使った『運動場』に集合する。
昨日あれだけクローナさんが暴れて破壊された部屋。しかしその痕跡はどこにも見当たらず、キレイに修復されていた。
聞けばこの部屋は、破損してもすぐに自己修復するらしい。
ある種のスライムを解析して作った、クローナさんオリジナルの生体金属で、壁や床のタイルが出来ているからだとか。
僕が自分でもわかるくらいに目を輝かせていたら、「早めに修業が終わって余裕があったら、そのあたりの授業をしてやってもいいぞ?」ってクローナさんに言われたので、頑張ろうと思う。
便利なマジックアイテム作り……オリジナルの……うん、心躍る。
え、隣でエルクがジト目で睨んでるって?
わかってるよ、そんなことは。
そんな僕を面白そうに眺めるクローナさんは、何の変哲も無さそうな黒のワンピースに身を包んでいた。
動きやすそうではあるけど、あの服装で稽古をつけてくれるのかな? てことは……。
「よし、いいかお前ら? まず最初に言っておく。いつも通り俺は下着なんざ面倒くせえからつけてねーが、俺が訓練に参加するのはまだ先だ。だから……動いた拍子にスカートの中が見えそうだの何だの、期待とか心配とかしてるマセガキは安心しろ」
開始前の訓示とばかりに、クローナさんが僕ら六人を見渡して言った。
みんなの視線が痛い。
「さて、注目! 俺に言わせれば、強くなるためにやることなんざ三つだけだ。東洋の国には、何かを窮めるに当たって『心技体』っていう概念があるそうだが……そんな感じでな」
すっと手を突き出し……三本指を立てたクローナさん。
「まず『腹を決める』、次に『技を覚えて窮める』、んでもひとつ『地力を上げる』……これだけだ。俺の弟子になる以上、中途半端なんぞ認めん。徹底的にやるから覚悟してついて来い。じゃ、始める」
相変わらずかなり苛烈な激励というか発破をかけた後、クローナさんは腰のポーチから、握りこぶし大のガラス瓶を取り出した。
その中には透明な、しかし明らかに水じゃないとわかる、どろっとしたゲル状の何かが入っていた。
クローナさんは瓶の蓋を開けると、中身をドバッと床にぶちまける。
ゲル状の何かはすぐに、床に染みこんで見えなくなった。
それを確認すると、クローナさんが蓋を閉めながら、説明を始めた。
「さて、この訓練場に使われている生体金属にはいろんな特殊能力があってな。俺がこうして『エサ』を与えてやることで、異なる能力が発動する。そのひとつに『擬態能力』ってのがあるんだが……おっ、きたきた」
何かに気づいたように、足下に視線を落とすクローナさん。
見ると、クローナさんが瓶の中身をぶちまけた部分の床が、なんだか波打っているようだった。
クローナさんが二歩後ろに下がる。
すると数秒後、床からなんと……白骨の魔物が這い出てきた。
人間の骨のようだけど、その構造は明らかに異形。
頭蓋骨はふたつ、足は三本ある。
腕は四本で、それぞれ剣を持っている……ってコイツ、見覚えあるな。
そうだ。細部は違うけど、幽霊船オルトヘイム号の中で見た、『オーバースケルトン』って奴じゃない?
驚き戸惑う僕らを、満足そうに見ていたクローナさんが口を開く。
「とまあこんな風に、『エサ』に応じた魔物に擬態するんだ。その強さや動きもトレースしてな。そしてコイツは、攻撃されるか、創造主である俺が合図すると、凶暴化して襲いかかる……さて、俺が言いたいことがわかったか?」
「えっと……コレを相手にバトれと?」
「そういうことだ。ちなみにコイツは……そこのピアス、お前の相手だ」
「えっ、僕?」
いきなり、しかもかなり雑に指名されたからか、ザリーが驚いて声を上げた。
「そうだ。基本的に一対一。本気でやれば勝てる強さの魔物をチョイスする。種類は別々。じゃ、他のも出すぞ」
クローナさんは、ザリー以外はついてくるように言って歩き出した。
数十メートル離れると、また別の瓶を取り出して床にこぼし……生体金属の擬態である魔物を作り出す。
それを六回繰り返し、訓練場に六体の魔物を作り出した。
ザリーの相手は、さっき言ったとおり『オーバースケルトン』。
エルクの相手は、体が砂や小石に覆われた大きなサル『サンドエイプ』。
ミュウちゃんの相手は、ただの『スライム』。
ミュウちゃんが『ケルビム族』だと看破して、召喚獣は使わず自分の魔法だけで倒すこと、という条件付きだ。
ナナさんの相手は、ドラゴンの骨が魔物化した強敵『スケルトンドラゴン』。
シェリーさんの相手は、なんとなつかしの植物怪獣『トロピカルタイラント』。
そして、他の五人からだいぶ離れた場所に現れた僕の相手。
大きな翼と長い首を持ち四本足で立つそいつは……ダンプカーぐらいの巨体で、獰猛な目をぎらつかせていた。
これって……。
「……あの、僕いきなりドラゴン系なんですか? てか、めっちゃ強そうなんですけど」
「『ファフニール』な、そいつの名前。ランクはAAAだから、油断しなきゃ勝てるだろ」
当然のようにさらりと言ってくれたクローナさんは、近所の猫でも見るような目で、凶悪この上ないビジュアルのドラゴンを見ていた。
「訓練の間、持っといてやるよ」と、僕のペット、アルバを手に乗せて。
クローナさん曰く、『ネヴァーリデス』の生態はある程度なら把握しているが、専用の訓練メニューを用意できるほどではないという。
なので、アルバはまだ待機だ。
……ってか、アルバも鍛えるんだ? そいつ、これ以上強くなるの?
六人全員が、やや顔を引きつらせているのを確認してから、安全圏のベンチに戻ったクローナさん。
「じゃ、始め」
ぱちん、と指を鳴らす。
広い訓練場によく響いた音を合図に、魔物達が凶暴化して、戦闘開始となった。
どうやら何らかの処置、設定が施されていたらしく、魔物は自分の相手以外に襲いかかったりはしない。
しかも開始と同時に半透明の壁が出現し、バトルフィールドが明確に分けられた。
そのおかげで、巻き込む、または巻き込まれる心配がなくなり、一対一で戦えるようになった。
最終的には、十五分ほどで全員が討伐に成功。
一番早かったのは、きちんと魔法を練習していて、Fランク程度なら相手じゃなかったミュウちゃん。
『ファイアボール』で簡単にスライムを蒸発させた。
それに対して、一番てこずったのは僕だ。
擬態といってもさすがに『龍族』だけあり、当然のように空を飛ぶし炎まで吐いてきて、かなり手ごわかった。
翼と足四本を全部潰した上で、『ダークネスキック』で首の骨を、脊髄ごときっちり粉砕すると、ようやく倒れてくれた。
魔物の体はドロドロに溶けて床に染みこみ、痕跡を残さず消滅した。
いや、さすがというか、正直言ってドラゴン系を舐めてたな……。
ディアボロスもそうだったけど、頑丈さが他の魔物とは全然違う。
ちょっとのダメージならすぐ回復してしまうし、こりゃもっと本格的に鍛えないとな。
とか思いつつ、休憩しようと床に座ろうとした絶妙なタイミングで、声が掛かる。
「よーし、じゃ、次いくぞー」
え……『次』?
視線を上げると、いつの間に近づいてきたのか、当然のように『エサ』という名のゲル状物質を床に垂らすクローナさんがいた。
「ん、何だその顔は? 言っとくが俺の方針は『一に実戦、二に実戦、三、四がなくて五に実戦。最低でも実戦、最高でも実戦、兎にも角にもとりあえず実戦』だからな。訓練すべき事柄は戦闘の中に盛り込んで、予習も復習も、戦いの中で全部やる。そのつもりでいろ」
「……マジですか」
「情けねー声を出すな。おら、開始までにきっちり観察して、戦うプランでも考えてろ。それも必要な技能のうちだぞ?」
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