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7巻
7-2
しおりを挟む第二話 『邪香猫』の船出
幽霊船騒動が終息してから、今日で二週間。
予定を大幅に延ばして、僕らはここ『チャウラ』に滞在していた。
騒動のせいで一時採集が中断された『蒼海鉱石』を取り尽くすため……ってのもあるけど、もうひとつ。
一応『お試し』ではあるけれど、新たに僕らのチームに加わることになったミュウちゃんの準備のため、時間が必要だったからだ。
漁師宿『マリアナ亭』の看板娘と言っていいミュウちゃんである。店を、この町を出るということを残念がる人も多かった。
けど結局は、娘を送り出す親の心境なのか。かわいい子には旅をさせよ的な思考を経て、快く送り出すことにしたようだった。
その際、「娘をよろしく頼む」だとか「うちの子を泣かせたら承知しないぞ」みたいなことを、結構な人数の漁師、海女さん達に言われた。ミュウちゃん、愛されてるなあ。
そんなわけで、かなり長めに準備期間があったので、通算一ヶ月ほどもチャウラに滞在していたわけだ。
……そしてその間、僕はただ時間を潰していたわけではない。色々と、好きなように動かせてもらった。
この一ヶ月弱の間にあったことは、僕の知的好奇心を刺激してしょうがなかったんだよ……ふっふっふ……。
☆☆☆
『ウォルカ』への帰還をいよいよ翌日に控えたある日のこと。
『特訓』の場には、数日前からミュウちゃんも参加していた。
といっても、ミュウちゃんは本人の希望通り、基礎的……つまりまともな魔法の訓練を行っており、僕の『否常識魔法』(エルク命名)の練習はしてない。
してないけど、隣で見てる。見学してる。
「……えーとですね」
「何?」
「エルクさんが、私をお兄さんの仲間にしたくないと考えた理由が、コレを見るとよーくわかります……手遅れですけど」
「ね、言った通りだったでしょ……手遅れよ」
心なしか遠い目をしたミュウちゃんと、全身から『だから言ったのに……』的な空気を漂わせるエルクとの会話である。
その視線の先には……。
高熱の砂を地面にぶつける魔法で人為的な『乾燥』を引き起こし、水分を根こそぎ奪い取って草木を枯らし、水溜まりを干上がらせるザリー。
斬撃と同時に、その切り口に幾重もの炎を薔薇のように燃え上がらせ、的にした木偶人形を爆破四散させるシェリーさん。
超高圧で連射した水の弾丸で、女性のウエストほどもある丸太を蜂の巣にして、最終的に『撃ち倒し』てしまうナナさん……といった面子がいたりする。
うんうん、順調だねみんな。僕発案の『否常識魔法』の訓練は。
こないだ、『蒼海鉱石』の品質チェックがてら様子を見に来たノエル姉さんが、この光景を前に「ちょっと目ぇ離した隙に……ナナは何しとったんや!」って、かすれた声で言いつつ膝から崩れ落ちてたことからも、それがわかる。
いや、もうね。この『否常識魔法』の特訓は王都の兄さん達から警戒されるレベルになっちゃってんだから、開き直っていけるとこまでいっちゃおうと思って。
近いうち、ミュウちゃんも多分ここに加わります。そこんとこよろしく。
「……さよなら、普通の冒険者人生」
エルクが切なげにつぶやいた言葉は、朝のさわやかな空気に溶けて消えた。
「ゆくゆくは私もああなるのかと思うと……って、お兄さん? 何してるんですか?」
遠い目で『特訓』を見ていたミュウちゃんだが、ふと、僕が持っているものに気付いたらしい。
隣のエルクが僕の手元を見て……納得した表情になる。僕が持っているものが何かと、僕が何を考えているかを理解して。
先に言っておくと、ネタ帳という名の魔改造ノートではない。
持っているのはふたつ。
ひとつは、この国『ネスティア王国』の地図。
王都『ネフリム』、冒険者ギルド本部がある大都市『ウォルカ』、今いる港町『チャウラ』、かつて行ったことがある『ミネット』や『トロン』、さらには『真紅の森』や『花の谷』などなど。
それらの地名がきっちり示された丁寧な地図だ。
もうひとつは、数日前にスウラさんからもらった、最近の船舶襲撃事件に関する軍の報告書。原本じゃなく写しだけど。
エルクは僕が眉間にしわを寄せている理由を、数日前、エルクも一緒に行った『検分』の記憶と結び付けて、きっちり理解した。
「……ミナト。やっぱ、気になる?」
「そりゃあね。もう多分この辺にいないってのはわかってるけど……それでも、さ」
ぱらぱらと資料をめくる僕は、その中の一節に再度目を通す。
スウラさんが『幽霊船は複数いる』と推測するきっかけになった、襲撃状況をまとめた部分。
僕が気になっているのは、魔物の襲撃が疑われる、とされた報告だ。
『乗組員は全滅していたが、捕虜と思しき女性数名が生存しており、話を聞くことに成功。
襲撃は夜間だったためよく見えなかったが、襲撃者は大柄な黒い体で、黄色または金色の刃物のようなもので海賊達を切り刻んだ。
噛みつき痕が死体や船内の損壊部分に認められたことや、尻尾の生えたトカゲのように見えたという証言もあるため、襲撃は魔物の類によるものではないかと考えられる』
黒い大きなトカゲ。人間と見間違う二足歩行。
黄色または金色の刃物……おそらく爪だ。
この時点で、僕の頭に浮かぶ魔物はひとつだけだ。
さらに最近、僕はこの予想を決定的に裏付ける経験をした。
あの晩……そう、アクィラ姉さんが訪ねてきて色々と話したとき、帰り際の姉さんがさりげなく、しかしとんでもなく気になることを言ったのだ。
最近『ある魔物』が付近で目撃された。そして、その魔物が一時期棲み処にしていたらしい洞窟も見つかった、と。
それを聞いた僕は、翌日の早朝、姉さんから聞いた場所に行ってみた。
少し町から離れた、海岸沿いにある洞窟だ。
おそらく、海から潮風が吹き付けるからだろう。洞窟に残っていた『匂い』は、ひどく希薄なものだった。
が、それは間違いなく、記憶にあるものと一致する。
……僕の中で生まれた『嫌な予感』は、確信となった。
「……やっぱ生きてたか、あのトカゲ」
『ディアボロス亜種』。
忘れもしない、『花の谷』で戦った推定ランクAAAの怪物。僕が生まれ育った樹海を出て最初に出会った、超のつくくらい『強敵』の魔物だ。
『ダークジョーカー』を発動した後は、一方的な戦いで勝利したとはいえ、そこまではほぼ互角だった。
大型の魔物も一撃で殺せる僕の拳を受けて、平然と立ち上がって反撃してくるわ。
剣が刺さらない僕の体でも、直撃したらタダじゃすまない威力の攻撃を、平然と、しかも機械みたいな精密さで繰り出すわ。
フェイントなんてものを使い、さらには戦闘中に僕が使った格闘技能を即座に学習して体得する知能があるわで……とにかくとんでもない敵だった。
何度かヒヤッとさせられたし、手を抜いて戦える魔物でなかったのは間違いない。
そんな怪物が、この近くで最近目撃されたのだ。
地図を見るに、あの『花の谷』を流れる川の河口が、ここからかなり東にある。
おそらく僕との戦いに敗れたあのトカゲは、川に流され沿岸部までやって来て、動けるくらいに傷が回復するのを待ち、あの洞窟に棲み着いたんだろう。
船を襲撃したのは、多分その滞在中だ。海を散歩中に遭遇して、興味本位で乗り込んだら攻撃されたので、遠慮なく全滅させたのかもしれない。
乗組員がアンデッドにならなかったのも、幽霊船ではなく、こいつに殺られたからだろう。
そして、体が万全、もしくはそれに近い状態になるのを待って、この地を去った。
洞窟の匂いの度合いや、姉さんに聞いた目撃情報の分布からして、去ってからおそらく一ヶ月ちょいってとこか。
ニアミスしてたのか……あの化け物と。おっそろしいな。
僕は地図片手に、あの化け物がどこに行ったのかと考えてたんだけど、行動パターンも知らないのに、そんなことわかるわけもない。
正確な地理知識や方向感覚があるとは限らないし、そもそも、どこに現れたところで厄介なのは変わりない。
もしまた僕らの目の前に現れたなら、戦闘は避けられないだろう。
「出くわしたら厄介よね……ミナト、何とかできそう?」
「まあ……多分」
ノエル姉さんとの修業で、僕は強くなった。けど、油断なんてもんは絶対にできない。
忘れちゃだめだ。あの時のあいつは、まだ子供だったってことを。
何年も親の庇護がなければ生きられない人間とは違う。野生動物や魔物の成長速度ってのは、想像を超えて凄まじいものだ。
「っていうかあの魔物、前回戦ったときすでに推定AAAだったんでしょ? どっちみちミナト以外は相手できないのよね……」
「まあ、遭遇したら僕が戦うつもりだけどさ」
できれば、出会いたくないけどもね……。
その後しばらく『訓練』を続けた後、少し休憩を挟んだとき、ふとザリーが尋ねてきた。
「そういえばさ、ミナト君。昨日の夜、シェーンちゃんとミュウちゃんと一緒に出かけたよね? あれ、どこ行ってたの?」
その会話が聞こえたのか、汗を拭いていた他のメンバーも興味深そうに集まってくる。特に、シェリーさん。
「え、何々? もしかして逢い引き? 私達というものがいながら」
いつものようにエルクがため息をついた。
「あんたの思考はすぐそれか……で、どこ行ってたの?」
「んー、ちょっと海まで……ミュウちゃんを甘やかしに」
「は?」
その瞬間、眉間にしわを寄せたエルクは、おそらく悟ったのだろう。『あ、コイツ早速何かやらかしたんじゃね?』と。
……結論から言おう、当たりである。
『召喚術』。
繰り返しになるが、今現在、僕が最も興味をそそられている不思議魔法である。
事前に『ネクロノミコン』で予習したところ、その概要はこんな感じ。
契約によって魔物や精霊を使役し、戦わせたり移動用に使ったりする、行使そのものに特殊な才能が必要な、極めて特殊かつレアな魔法。
その『契約』には、二通りの方法がある。
まずひとつは、瀕死の魔物に魔力を与えたり、魔力で仮の魂を作るなどして死んだばかりの魔物を蘇生させ、自分の僕として使役する絶対服従の方法。
知能の低い魔物を使役するときや、単に戦闘用の僕と契約するときによく用いられるほか、偶然死にかけの魔物を見つけたときにも使える。
欠点としては、魔物のポテンシャルにもよるけども、高い知能を保つことが難しく、複雑な作戦を理解できない。
そしてもうひとつは、魔物や精霊に了承を得た上で協力関係を結ぶ、友好的な契約。
ある程度の知性を持つ魔物にしか使えないものの、戦闘用にせよそれ以外の場合にせよ、高い知能を保持したまま使役できる。
欠点としては、自我を保ったままであるがゆえに、前者の場合ほど絶対的に服従させられないってことだ。実質、仲良くなって言うことを聞いてもらうしかない。
どちらも一長一短。使い勝手の良さの種類が違う。
さて、なぜこんな話をしたかというと、さっきの「ミュウちゃんを甘やかしに」という発言に関係がある。
甘やかす前の時点で、ミュウちゃんが使える召喚獣は二種類だった。
ひとつは小鳥型の魔物を四匹。戦闘能力は皆無。
で、もうひとつは犬型の魔物……中型犬くらいの大きさが一匹。
たまたま見つけた死にかけの小鳥型魔物と、シェーンが仕留めた直後の犬型魔物と『契約』して、召喚獣にしたらしい。どちらも、絶対服従タイプの方法で。
そんなミュウちゃんを、昨日、一昨日と僕は連れ出した。
そして、エルクの予想というか懸念どおり、僕はやりすぎたらしい。
……そういや、前にエルクに言われたことあったっけ。自作の、すごいレベル(エルク談)の魔法を、仲間とはいえ他人にぽんぽん譲り渡すのはどうなのか、と。
その時にエルクが、僕に対して述べた評価が、次のようなもの。
『敵に厳しく、他人に適当。味方に優しく、身内に甘い』
うん、まさに至言だと思う。
そしてその例に漏れず、今回僕がミュウちゃんを甘やかした結果どうなったかと言うと……。
「えーと、『ネクロフィッシュ』に『スクウィード』、それに『アーマードクラム』……こいつらをどうしたって?」
「えっと、ちょっくら海に行ってハントして、召喚獣としてプレゼントしました」
「あんた……」
額に手を添えて呆れるエルク。
僕らの目の前には、新たに契約したそれら(いずれも絶対服従型の契約)の召喚獣を従えたミュウちゃんがいた。
彼女の右隣には、全長三メートルになろうかという巨大な二枚貝。楕円形で、ぱっと見途轍もない強度、硬度だと思える甲殻をしている。
名前は『アーマードクラム』。移動はひどく鈍重だけども、土石流にさらされても割れない殻を持つ鉄壁の魔物だ。
……うん、戦ったらホント硬かった。てかClamって……ハマグリかな?
左斜め後ろには、それより巨大なイカの魔物。
名前は『スクウィード』。大きさは五メートルにもなり、触手は伸縮性がある。
これまた戦ったら厄介だった。リーチの長い手足が十本もある上に、イカ墨に魔力を混ぜ込んだ砲弾を飛ばしてきたし。
そしてミュウちゃんの周囲には、骨だけの魚がふよふよと数匹浮かんでいた。大きさはアロワナくらいで、その口元から鋭い牙を何本も覗かせている。
名前は『ネクロフィッシュ』。
瘴気に当てられたりして死んだ肉食魚の魔物がアンデッド化した存在だ。凶暴かつ雑食で何でも食べ、水中に限らず空中も泳げる。
「……あんたはこいつらを、仲間になった記念にって、ミュウにプレゼントしたわけね?」
エルクがジト目を僕に向けてきた。
「うん。あの、ほら。自衛手段は多いほうがいいしさ。安全面からしても」
「うそつけ。面白くなって調子に乗ったんでしょどーせ」
「えっと……ちなみに補足しますと、三種類ともランクBの魔物ですね。このあたりの海域で見られる魔物ではトップクラスの危険度じゃないかと。『ネクロフィッシュ』はこのあたりにはいないはずですので、おそらく……」
と、ナナさんが説明してくれた。
「『幽霊船』の副産物、ってとこか……」
強力かつ殺傷力抜群の召喚獣を前に、唖然として固まるエルク達。ぼそぼそ交わされる会話に力がないのが哀れだ。まあ、僕のせいなんだけど。
冒険者である僕らの『仲間』となる以上、危険なこともあるだろう。
なので、きっちり自分の身を守れるように、エルクやザリー、シェリーさんやナナさんは『特訓』を重ねて実力をつけ、僕オリジナルの魔法でパワーアップしている。
ミュウちゃんにもそれが必要だ。
模擬戦を交えて検証したところ、ミュウちゃんは意外に体力があった。持久力も瞬発力も、下手な成人男性より上のレベル。体が小さく身軽だからかも。
けど、冒険者としてやっていくには不安が多々あった。魔法も多少使えるけど実戦レベルには程遠い。知識、経験の不足もあって……出会った当初のエルクより評価は低くなってしまう。
もちろん、地道な訓練をこの先も続けていくことで、基礎的な部分から魔法の地力を高め、いつかはオリジナル魔法も進呈するつもりである。
兄さん達に睨まれようとも、だ。もう割り切ったというか、開き直った。
しかし、当面の力不足はどうにかしなきゃいけない。
なので、いざってときに備えるため、この辺で手に入る強力かつ使い勝手のよさそうな魔物をプレゼントしたわけ。
選んだのは、防御力の高い壁役『アーマードクラム』、中~遠距離もお任せの攻防一体の援護係『スクウィード』、攻撃役の肉食アンデッド魚『ネクロフィッシュ』の三種類。
ちなみに『ネクロフィッシュ』は四匹契約した。
まあ、最終的にはミュウちゃん自身、こいつらの助けがほぼ必要なくなるくらいには強くなると思うけどね。当てずっぽうじゃなく、ホントに。
『ネクロノミコン』でさらに調べた結果わかったんだけど、『ケルビム族』は優秀な種族であり、魔法が得意な代わりに肉体がひ弱なんてこともない。
魔力適性が最強ランクなのだから、前途有望なことこの上ないだろう。
ちなみにケルビム族は、その独特で神秘的な魔法を特別視され、地域によっては『呪術師』『巫女』『仙人』なんて呼ばれてたりもするそうだ。
このロリ仙人……もといちっちゃな新メンバーが、これからどういう風に成長するかは想像できないけども、とにかく楽しみである。
……と、ここで終われたらまだ平和だったんだけど、実はもうひとつ、ミュウちゃんにプレゼントした『召喚獣』がいた。
ただこいつはミュウちゃんの護衛用ではなく、僕の完全な興味本位。ミュウちゃんに頼み込んで契約してもらっただけだ。
その魔物にはちょっと問題があって、よっぽどエルク達に怒られるんじゃないかと、僕は恐々としているのである。
正直にそう話したら、エルク達は不安そうな顔をしつつも、確認しないわけにはいかないので、ミュウちゃんに召喚するよう頼む。
その際、僕はミュウちゃんと手を繋ぎ『他者強化』の応用で魔力を分け与える。大量に。
実はこの魔物、契約できたはいいけど、いざ喚び出すとなるとミュウちゃん単体の魔力だけじゃ足りないのだ。
なので、こうして僕が協力しないといけない。
なんじゃそりゃ、って話だけども、彼女一人で『コレ』を喚び出すシチュエーションはそうそうないと思うので、まあいいとしよう。
僕の魔力も大量に使ってミュウちゃんが作り出した、直径数十メートルはありそうな魔法陣の中から、魔物がその姿を徐々に見せ始める。
「……ミナト」
エルクの声は少し震えていた。
「何?」
「これなの? 契約した『魔物』って」
「うん。一応分類は『魔物』だからね」
「……そういや、そうだったわね」
「『契約』しとくと便利でしょ? 戦力にはならないけど、使い方次第では足代わりにもなるかもしれないし。あと、なんとなくかっこいいし」
「なるほど、確かにそうね。あんたのセンスが多分に反映された『かっこいい』って評価についてはコメントを避けるけど、契約理由には確かに一理あるかもしれないわ。でも……」
そこでエルクは一拍置いて、額に青筋を浮かべた。
「だからって……だからって『幽霊船』そのものと契約して使役するバカがいるかぁぁあああ!!」
一応魔物として『瀕死』状態だった『オルトヘイム号』。
沈没地点まで行ってミュウちゃんに契約してもらった結果、大量の魔力消費によって喚び出せるようになったその船体を視界の端に捉えながら……僕はエルク渾身の鉄拳で宙を舞った。
ちなみに、相続権を持ってそうなシェーンの許可は、ちゃんと取ってある。
あと、船内にあった人骨その他は、きちんと埋葬して弔いました。
シェーンの希望で、海がよく見える丘に、手作りだけど墓標も立てて。
☆☆☆
ひとしきりエルクに怒られ、「むやみに喚び出さないように!」と釘を刺されたところで、僕らはチャウラの冒険者ギルドに寄った。
今まで忙しかったり忘れてたりしてできていなかった、『チーム登録』のためである。
ちょうど新メンバー(暫定)も入ったところなので、今のうちにやっちゃおうってことで、メンバー全員でやって来たのだ。
受付のお姉さんに事情を説明し、申込用紙をもらう。
必要事項を記入……つっても、三つしかないけど。
まずは、メンバー全員の名前ね。冒険者じゃないけど、外部協力者ってことで、ナナさんとミュウちゃんも加えてきっちり六人分、と。
なお、一番上の『リーダー』欄には、だいぶ前に決まった通り僕の名前。
次、どんな依頼を専門に受けるかは……特に決まってないから書かなくていいな。
そして最後に『チーム名』。これが一番迷った。
どんな名前がいいか、ここ一ヶ月くらいずっと考えてたんだけど、いいのが思い浮かばない。
候補を皆から出してもらいもしたけど、それぞれセンスが違うし、全然決まらなかった。
エルクやザリーは無難な名前を提案するし、シェリーさんは遊び心満点のもの、ナナさんは軍人時代の感覚が抜けないのか堅苦しい感じ。
僕は前世で、ゲームの主人公キャラの名前を決めるのに三十分くらいかかってた人間だ。優柔不断さはハンパじゃない。
結果、案の定全然決まらなかった。
そんなある日のこと。僕は、僕ら六人の『共通点』に気付いた。
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