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第21章 世界を壊す秘宝
第486話 モニカの情報
しおりを挟む時は少しさかのぼり……メガーヌが『オルトヘイム号』に到着して、まだ間もない時間。
まだ船内のメンバーが集まり始めというタイミングのうちに、既にサクヤは動いていた。
(これは、一体……!?)
聖都全域を『サテライト』でスキャンして確認した、モニカの居場所。
しかし、認識阻害や光学迷彩で隠密体勢を万全にして行ったサクヤの目に飛び込んできたのは……ごうごうと燃える屋敷と、逃げ惑う使用人らしき何人かの人影のみ。
館の大きさ、豪華さからして、貴族か豪商の類の邸宅だったと思われるが、既に外観は4割ほどが焼け落ちて炭になっている。
ここにモニカが閉じ込められているというのであれば、最早一刻の猶予もない。
サクヤは、指輪の機能も、自前の『陰陽術』も全て使い、熱耐性などを万全にした状態で中に入り……『サテライト』とは別な、近くにいる特定の魔力を探知するマジックアイテムでモニカの居場所を探知。牢獄の一室で拘束され、気を失っている彼女を発見した。
そして、そのまま彼女を抱え上げ、屋敷が焼け落ちる前に脱出し、『オルトヘイム号』にこうして戻ってきた……以上が、サクヤが今まで何をやっていたのか、その簡単な説明である、
☆☆☆
じゃあ、もうちょっと乗り込むのが遅かったら、モニカちゃん死んでたってことか……間一髪だったんだな。
「危っぶな……ご苦労様サクヤ、ありがと」
「いえ、間に合ってよかったです……それとメガーヌ殿、よろしいですか?」
「? 何だ?」
「ここに運んでくる途中……一度だけ、モニカさんは意識を取り戻しました。今一つ自体は飲み込めてはいないようでしたが、うわごとのように、小声で……」
『まだ、死ねない……』
『伝えなきゃ……情報……だけでも……』
『早く……でないと、手遅れに……』
「……と。察するにどうやら、何かしら情報をつかんだはいいものの、そこで捕まってしまったために伝達することができずにいたようです」
マジか……それじゃ下手したら、モニカちゃん、その重要そうな『情報』ごと死んでたかもしれないってことか……結果としてそうだったってだけで、その『情報』がどういうものだったのかもまだわからないけど、そうならなくてよかったな。
情報はもちろんだけど、モニカちゃん自身の命、っていう意味でも。
ちなみに今、モニカちゃんはこの部屋にはいない。
念のため診察するからって、ネリドラが医務室に連れて行った。運ぶのは、見た目のわりに怪力のメイドロボに任せて。
きっと今頃、まさに診察中、あるいは治療中だ。
そこまで酷いケガもなかったようだし、すぐに良くなるだろう。
そうしたら……その『情報』とやらも聞いて確認できるね。
勇み足で救出に動いちゃったのは、彼女達の立場を考えると悪かったと思うけど……結果的にこういう形になったのであれば、結果オーライってことにならない……かなあ。
メガーヌを見ると……うん、微妙な表情だな。
モニカが助かったのは嬉しいと思うし、その結果として何かしらの情報が手に入りそうではあるけど……やはり過程を考えると、素直に喜べないし認められない、って感じか。
なんてことを考えてたら、
『ミナト。私、ネリドラ。モニカさん、起きたよ』
指輪による念話の通信越しに、そんな声が聞こえた。さっそくか。
☆☆☆
「……一度ならず二度までも助けていただいたこと、感謝いたします。ミナト様」
ベッドの上で、上体を起こした状態でぺこりと頭を下げてくるモニカちゃん。
あちこちに処置の後があるけど、大したことはなさそうでよかった。これならすぐに動けるようになるだろう。
僕の横にはクロエも立っていて、同じことを思ったのか、ほっとした様子で息をついたのが聞こえて来たけど……同時にモニカちゃんの方から、キッと睨むような視線が向けられたため、ちょっと怯んで、それ以上は何も言えなかったようだった。
……ホント、過去にこの2人……というか、2人の実家にかな? 何があったんだ。
「まあ、大事ないみたいでよかったよ、うん。勝手に動いて助けておいてアレだけど」
『勝手に助けた』のところで、モニカちゃんの視線は、壁際に立っているメガーヌに行った。
それで大体のことは把握したらしい。情報保護のため、メガーヌは自分を助けないように言ったが、僕が独断で助けるために動いて……その結果ここにいるのだと。
メガーヌは何も言わない。見捨てようとしたことに対する謝罪も、釈明も。
「……正体が露見したことは、ひとえに私の力不足ゆえです。その結果どのようなことになったとしても文句は言えませんし、失敗した者に対する処遇としてどのような決定がなされたところで、私から何も言うことはございません」
そしてモニカちゃんもこれだしな……ホント、この娘たち、覚悟完了しすぎだろう。
マリーベルとか、普段はフランクであんまりそういう感じしない面々が多いけど……正真正銘、闇に生きる『特殊部隊』なんだなって思うよ、こういうの見てると。
ですが、と話を続けるモニカちゃん。
「こうして生き延びることができた以上、職責を全うしなければなりません。……ミナト様、この上さらに申し訳ないのですが……船の通信設備をお貸しいただけないでしょうか? たしか、ミナト様は『のーとぱそこん』なるマジックアイテムで、イーサ大将相手に直通の連絡ラインをお持ちだったと記憶しているのですが……」
「待てモニカ、情報の報告なら連絡手段は選べ」
割り込んできて止めるメガーヌ。
あ、これは聞いたことある。特殊部隊とか隠密部隊が情報をやり取りする時は、その重要度に応じて連絡手段も変えるんだって。
一般的な情報のやり取りって言うと、冒険者でも商人でも、軍人でも仕事の内容とかによっては、普通に手紙とかを使う。急ぎのものだと、近くにいれば念話とか……特殊なところで、狼煙とか、暗号の類を使ったりもするけど。
けど、超がつくレベルの機密情報をやり取りする特殊部隊の場合、そういった……伝達途中に何かあって、外部に情報が漏れる可能性のある手段は使わないらしい。
口頭で伝えて頭に入れ、メモや手紙の類は、後から誰かに見られて証拠になるので残さない。
あるいは、情報量が多くてどうしても書類にしたためる必要がある場合なんかは……関係者や、その特殊部隊のだれかが連絡・伝令担当の立場になり、自分の足で運んで届ける。そういう形で、情報が確実に届くように、他者にもれないようにセキュリティをかけるんだそうだ。
メガーヌもそれを言ってるんだろう。協力者とはいえ、僕は『タランテラ』の任務からしたら部外者だし、超長距離を念話の要領でやり取りするわけだから、機密性に不安があるとも考えたんだろう。
けど、それを聞いてなお、提案した本人であるモニカちゃんは首を横に振った。
「いえ、副隊長……ご懸念は承知ですが、それを押してお願いします。……私が入手した情報にも関わってくるのですが……率直に言って、一刻を争う事態です」
「……! そこまでか」
「はい。最悪の場合……ここ数日以内に自体が大きく動く可能性もあるかと。一刻も早く本国へ情報を伝達し、指示を仰ぎ、対処に当たる必要があります」
真剣な表情で言ってくるモニカちゃん。
それを聞いてメガーヌは……しばし考えた後で、結論を出した。
「……まずはその内容を聞かせてくれ。その上で……ミナト殿、申し訳ないが、内容如何では」
「ああ、うん。通信設備なら貸すよ」
今回は、勝手に動いちゃった部分の負い目も多少はあるしね……仕事の手伝いくらいならさせてもらおう。深入りはしないけど。
☆☆☆
そしてその数十分後。
……何か今回場面展開激しいなとか思いつつ、今度は僕達は、コントロールルームに集まっていた。
目の前にあるメインモニター(大画面)には、ここから遠く離れたネスティア王国王都にいる、イーサさんの顔が映っている。彼女に渡しているノーパソと、この船の設備をつないでいるのだ。
室内には、僕やエルクの他、『邪香猫』からはナナと義姉さん、それにクロエと師匠が来ている。
もちろん、連絡する当人であるモニカちゃんとメガーヌもいるが、それだけでなく……ミスティさんとムース、マリーベルまで、『タランテラ』が勢ぞろいしていた。
一方画面の向こうにも、イーサさんだけではなく……第一王女様とアクィラ姉さんもいた。
それともう1人……会ったことない人も1人いるな。
恐らく人間、だとは思うけど……白髪でしわの深い老人、といった感じの見た目の人。しかし、体つきは服の上からでもわかる程度にはがっしりしていて……てか、服が軍服だ、軍人っぽい。
……気のせいでなければ、胸についてる階級章が、イーサさんより豪華なような……まさか……
……なんだ、これ? 何で僕ら、こんな場に呼ばれてるんだ?
仮にも機密情報の報告だから、最初僕らは……通信設備を貸すだけで、話の内容については聞かないつもりだったはずだ。
船の適当な個室を用意して、そこで僕のノートパソコン型マジックアイテムで、イーサさんに連絡を取った。そこで事情を話した後、モニカちゃんとメガーヌだけを残して一旦退出。そのまま、報告を終えた後で呼び戻してもらって、後始末をする……という手順のはずだった。
なのに、何でこんな……こっちもあっちも重要人物総出演みたいな場面になってんの? 秘匿性最重視のアレだったよね?
『揃ったようだな……では、このような形で悪いが、緊急の会議を執り行う。各員、忌憚のない意見を期待する』
「あの、王女様? 会議って……思いっきり部外者も混じってるんですけど」
繰り返しになるけど、扱うの機密情報だよね? いいの僕らいて?
『問題ない、このあと思いっきり当事者になるというか、巻き込まれるからな』
「……あの……また厄介事ですか」
……確かに今回のことはさ、僕らとしても、メガーヌ達の意向を無視して『勝手に助けた』っていう部分が多少負い目だからさ、こういう形で協力できる部分はさせてもらうつもりだったよ?
でも、だからって……かどうかはわからないけど、いつもの調子で面倒事を持ち込まれるのは……それが常態化しそうでちょっと抵抗あるんですけど。
仲がいい相手とはいえ、いいように使われるのは好きじゃないぞ、僕は。
そして、僕以上に師匠が。横でちょっと眉間のしわが深くなった。
しかし、それを伝えるまでもなく、この目の前の慧眼王女様は、僕の考えはお見通しだったようで……先手を打つ形で、付け加えて言って来た。
『別に、私達が意図して巻き込むわけではない。いや、結果的にそうなるかもしれんが……今回のことに限って言えば、お前達も当事者だ。遠からず巻き込まれることになる案件だし、それ以前に勝手に首を突っ込む可能性も高い。ならば最初から教えておいた方がいいと判断したまでだ』
? 僕らも当事者?
ますますわからなくなったな……この国で、一体モニカちゃん達は、何について調べていて……どんな情報を持ち帰ったんだろう。
『会議の前に一応、紹介しておくか。初対面だったはずだからな……ザック』
第一王女様に呼ばれる形で、モニターの中にいた、さっき僕が『見たことないな』とちょうど思ったおじいさんが1歩前に出た。
鋭く力強い目つきのままで、会釈程度に一礼する。
『お初にお目にかかる、ミナト・キャドリーユ殿。私は、ゲイルザック・デュラン。ネスティア王国軍において、『元帥』の位を拝命している老骨だ。以後、見知りおきを』
それを聞いて、こっち側サイドはそれでも驚かされることになった。
マジか……どうやら、予想が当たっていたらしい。
『元帥』って……軍隊で一番偉い人だよね。今まで会ったことも、名前聞いたこともなかったけど……この人がそうなのか。
義姉さんは……動じてないことからすると、知ってたっぽいな。
同じく動じてない面々……『タランテラ』の皆も同様。
師匠も……いや、こっちは多分、単に興味ないだけか。相手が貴族だろうが国王だろうが、平気で謁見中にあくびとかする人だし。
しかし、そんなめっちゃ偉い人まで参加する会議とは一体……ちょっと怖くなってきたんだが。
でも、第一王女様の話が本当なら、僕らにとっても他人事じゃない話題を扱うらしいし……何となく、聞いておいた方がいい話の気がするんだよな。
『さて、紹介もすんだところで本題だ……モニカ・フランク。まずは全体で情報を共有するため、貴様の口から、今回の任務の概要及び、入手した情報、そして入手に至った経緯について説明を』
「はい。では皆様、しばしご清聴願います」
……そこそこ長い話だったが、まとめるとこうだ。
今回の『タランテラ』の任務は、このシャラムスカにある可能性がある、『血晶』なるアイテムを探し出して確保することが目的だったらしい。
その『血晶』というのは、詳しくはわかっていないけど……どうやらあの問題児国家・チラノース帝国が血眼になって探しているものらしい。
そのために各地のダンジョンに人員を派遣して、成果品の買い取りや、あまり大声では言えない後ろ暗い手段まで、手段を択ばずに捜索を進めているんだとか。
……ひょっとしてこないだ、『双月の霊廟』をクリアした後に、僕らに声をかけてきた連中も……それが目当てだったのかな?
『血晶』か……それらしきアイテムは、僕らが持ち帰った中にはなかったと思う。
どうやらその『血晶』とやらは、詳細はわからないけど……チラノース帝国の連中は、まるで秘密兵器みたいな扱いをしているらしく、ネスティア王国のみならず、ジャスニアやフロギュリア、ニアキュドラなんかも含めた同盟国が警戒しているものらしい。
……正体もわからないうちから警戒するって、相当だよな。
で、それっぽいものがあると目された候補地の1つが、ここ『シャラムスカ皇国』だった。『タランテラ』の皆が潜入して、あるかどうかも含めて調べていたのはそれだったわけだ。
そしてここからが重要なんだが……『血晶』の所在について、潜入していたモニカはつかむことに成功した。
しかし、同時に相手に存在を……密偵として内部を探っていることを気取られてしまい、逃げる暇もなく捕縛されてしまったとのこと。
牢屋に入れられ、近く尋問が始められる予定だったらしいが……それよりもさらに早く(ほとんど捕まった直後だったらしい)、屋敷が何者かによって襲撃された。もちろん、その下手人は『タランテラ』の関係者ではない。
よりによって火を放たれてしまったため……屋敷もろとも、モニカが発見した数々の証拠は全て燃えて灰になってしまっただろう、とのこと。
……彼女が自力で覚えて、頭の中に残しているもの以外は。
そして、その情報って言うのが……
「ほぼ間違いなく、『血晶』はこの国に……それも、この『聖都』にあります」
『そう判断した根拠は? 調べさせておいてなんだが、『血晶』とやらについては、我々もどんなアイテムなのかすら把握できていなかったのだが……それを含めて調べがついたのか?』
「いえ、詳細はまだ……ただ、殿下のお見立て通り、何らかの『秘密兵器』の類のようです。判断するに至った根拠ですが……シャラムスカ中枢の要人の1人が、チラノース帝国との取引の準備を進めているとの情報を入手しました。その取引品目のリストの中に……おかしなものが1つ」
『おかしなもの、とは? 具体的に』
「中央大聖堂に安置されている、『賢者の石』と呼ばれている『聖遺物』の1つです。調べによると、『龍神文明』時代のもののようで……ここでは単純に、宗教遺産としての扱いのみのようですが、チラノース帝国が破格の条件で、極秘裏の売り渡しを要請していました」
聞いてみると、確かに何かあると勘繰らずにはいられない内容だった。
宗教上の遺物と勝手、宗教家や歴史家にとっては垂涎ものの価値だろうけど、その分野に興味がない人にとっては……言っちゃ悪いがガラクタだからなあ。
あの国がそんなものに興味を持つとも思えない。
にもかかわらず、とんでもない大金を提示して、『可能な限り早くよこせ』って取引を推し進めていたらしい。
そしてトドメに、それを売り渡す側のシャラムスカの要人とやらが、こう話していたそうだ。
よくわからんが、チラノース帝国の連中は一度、あれを『血晶』と呼んでいた……と。
『なるほど。ならば……実際に確認したわけではないようだが、その『賢者の石』イコール『血晶』で間違いなさそうだな。取引相手のチラノースの連中が間違えていなければ、だが』
「あれだけの金額を提示していた以上、何らかの根拠があって断定しているのだと思われます。それについても、そして『血晶』なるものの正体についても調べようとしたのですが……その直後、不覚を取ってしまいました」
なるほど……捕まったのはそのタイミングか。
こう言っちゃなんだけど、割と重要そうな情報がギリギリ手に入らなかったんだな……惜しい。
しかし、そのことを残念そうにするよりも先に、第一王女様は話の続きを促した。
『情報の内容、及び入手の経緯についてはこれでわかった。だが、まだ重要な情報が残っていたな?』
「はい。……恐らくこの一件、裏で動いているのはチラノースだけではありません……『ダモクレス財団』、かの秘密結社が関与していると思われます」
その言葉に、画面の内外でほとんど全員が驚きを隠せなかった。
よりによってあいつらがここで出てくるのか……しかも、チラノースの秘密兵器(推定)の裏取引なんかで、どうして関わってくる?
いやまあ、あいつら死の商人としての側面もあるから、そういう商売の一環としてかもしれないけど……それにしては話の規模が大きい気がしなくもない。
動いてる金額的にも、それを中止している国の数や規模的にも……
しかも、続けざまに驚くべき情報がまだまだぶっこまれてくる。
『そう推察する根拠は?』
「私の存在に気付いて、捕らえた者が……元AAAランク冒険者のシン・セイランでした。かつてのサンセスタ島の一件で、財団の関係者であることが露見し、ギルドを追放されているあの女です」
『そ奴が、ここの要人……シャラムスカ側の取引当事者の戦力として配置されていたのか。なるほど……可能性は高いな。加えて、あの連中が関わっているとなると……一気に警戒レベルも上がる』
『大陸規模での騒乱を目的としている秘密結社ですからね……ともすると、『血晶』の使用用途も、それに関わってくるものなのかもしれません』
……知ってる名前が出て来たな。セイランさん、ここにいたのか。
しかし、話がどんどん大きくなっていくな……
ただ気持ち悪いのは、『血晶とは一体何なのか』『それを使って誰が何をしようとしているのか』っていう、肝心な部分がわかっていない点だ。
しかし、そこがわかっていなくても、放置しておくのが明らかにまずいということはわかるので……何かしら動かないわけにはいかないんだろうな、コレ。
『ダモクレス』の目的……世界規模でのクラッシュアンドビルドのことを考えれば、文字通り何かあってからでは遅い。何かする前に潰す必要がある。
『ヤマト皇国』で起こった、国家を二分する規模の戦乱のことを思えば、決して大げさな警戒だなんて言うことはできない。アレだって、8人いるっていう『最高幹部』の1人であるカムロが、ほぼ独断で進めた計画に過ぎなかったんだから。
財団そのものが関わって進むレベルとなれば、一体何が起こるか……想像するのもちょっと。
その他にも1つ2つ、細かい部分を報告に付け加えて、『以上です』とモニカちゃんは引っ込んだ。
『……なるほどな、概要はわかった。確かに、これは一刻を争う事態と言っていいだろう……目的不明のままではあるが、チラノースとダモクレス、この両者が絡んで、こうまで急いで取引を進めているというのであれば……間違いなくろくなことにはならん』
『そして、あの国は自国の利益にならぬことには興味を示しませぬ。それがここまで大きく動いているというのであれば……恐らくは軍事面で、相当な『国益』に繋がる事態が進行しているのでしょう……無論、あの国以外にとっては、迷惑以外の何物でもない形でしょうが』
王女様に続いて、元帥さんがそう付け足すように言った。
落ち着いていながらも力強い語り口は……その推察が、長いのであろう軍人人生の中で、身に染みて知っている知識と経験由来のものであろうことを察することができた。
『それを手にしたあの国が何をするか……想像したくはありませぬが、容易く想像できてしまいますな。恐らく、かつての戦乱の時代よろしく、また周辺国家に攻め込んで覇を唱えるのでしょう。我が国も、同盟各国も……それに巻き込まれることになるやもしれませぬ』
『現在、この大陸に置いて潜在的に進行している問題がいくつもある中で、新たに特大の問題が巻き起こるのを容認するわけにはいかん。早急に対処する必要があるが……これに関しては、恐らく我々の対応も後手に回ってしまっている』
モニカちゃんが捕まった後に起こった襲撃……アレは多分、襲撃じゃなくて証拠隠滅だったんだろうというのが、第一王女様の見立てだ。
裏取引の黒幕は、ああすることで自分に繋がる証拠の一切を消した。
黒幕本人も、表の権力でも相当なものを持っているので……正攻法で捜査して摘発するのは難しい。かといって、潜入捜査は今回のことで警戒されてるだろうしな。
のらりくらりとかわされている間に、取引を完遂されてしまうだろう。その意味でも、一刻を争う事態というわけなんだが……さて、どうしたものか。
しばしの沈黙の後、イーサさんが挙手して言った。
『今回の潜入と同様に、聖女殿に事情を話して協力してもらうわけにはいきませぬか? 相手が明確にわかっているのであれば、多少強権を発動してでも身柄などを抑えるか、あるいは、取引対象になっている『賢者の石』とやらだけでも押収できれば……』
『いや、難しいだろう。聖女アエルイルシャリウスは、宗教上の権威としては比類ないが……政治における影響力となると、まだまだその周辺の有力者達のそれが大きい。それに、『賢者の石』についても……こちらは宗教上重要なものだからこそ、安易に動かすことはできないだろう』
『黒幕とやらの方は、そんなことは知らずに、偽物と置き換えるか何かして売り渡すつもりなんでしょうけどね……全く、理不尽な話ですよね』
呆れたようにため息をこぼすアクィラ姉さん。
その通りだよなあ……こっちはあくまで、まあ宗教上重要なものだってことは承知しつつも、ヤバいことが起こらないように何とかしようとしてるのに……よこしまな目的で、んなもん知るかとばかりに私利私欲に動こうとしてる奴がいて。
しかも周辺への配慮を考えると、そっちの邪な方の思惑が通っちゃいそうだって言うんだから……ホント、理不尽だよ。
すると、しばし無言で考えていた王女様が、
『そうだな。それならば……目には目を、理不尽には理不尽で対抗するしかあるまい』
「? どういう意味です?」
『小細工しても意味がないなら、小細工はなしだ。『賢者の石』……もとい、『血晶』は力ずくでぶんどって押収する』
「……流石に冗談ですよね? 大ごとになりますよ」
一応それ『聖遺物』なんでしょ? 最悪戦争だよ、宗教国家に対してそんなことしたら……
『わかっているとも。だが、それは他国や公の立場があるものがそうした場合だ。大問題にはなるだろうが、国際的にどこに迷惑をかけない形で決着させる方法なら問題はあるまい?』
「……具体的には?」
『公権力とは一切関係ない、元から問題ある立場のものを使えばいい。そうすれば、迷惑は及ばないばかりか、『別な立場』で関与する口実にもなる、そこでだ……ミナト・キャドリーユ』
「はい?」
「義賊『フーリー』に連絡を取ってくれ。標的は『賢者の石』。奴にそれを強奪させる。そして我々は……それを阻止するためという体で、聖女の依頼ないし要請を受けて介入する」
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