484 / 611
第21章 世界を壊す秘宝
第484話 意外な再会
しおりを挟む久しぶりに会ったネフィちゃんは、前よりもちょっとだけ背が伸びたように見えた。
その隣には、変わらない様子のソフィーさんも一緒にいる。あの事件以来ずっと、彼女の側近兼護衛として、一番近くで支えになって上げている様だ。それができない、ソニアの分も。
彼女達は責任感が強い上に、あの事件でかなり国内が不安定になってしまっていたことについても憂慮していたから……無茶してないかどうか、少し心配だったんだよな。
……俗物で、国そのものや信者たち、そして『聖女』候補たちを食い物にしていた、生臭坊主連中の分まで、いらん苦労とか背負い込んでないか、とか。
どうやらその辺の心配はないようで安心した。
今は、きちんとクリーンな国家運営に戻った『シャラムスカ皇国』を、一生懸命回している最中なんだそうだ。
あの一件の後は、一時的に他国の手を借りて国政を回していた時期もあったわけだけど、徐々に自力での運営に戻りつつあるようだし。復興としては順調と言えるみたいだ。
俗物連中がバカやってた頃とは違う、真っ当な政権運営のシステムが出来上がりつつあるようで……ある種のクラッシュアンドビルド、と言えるのかな、これも。
ただし、やはり人手不足その他による問題はいくつもあり……どうしようもない場合は、今も適宜外部の手を借りながらやってるそうだ。
他国からの援助や……荒事とかに関しては、冒険者ギルドを通して、依頼を出したりして。
今回の僕への依頼も、その一環ってことか。
しかし、わざわざ……自分で言うのもなんだけど、冒険者としては最上級である僕らに依頼するほどの事態なんだろうか? 確か、魔物の討伐なんだよね?
詳しく話を聞いてみるため、談話室に皆で移動することに。
あ、ちなみに今回ここに一緒に来たのは、いつものメンバーに加えて、ギーナも一緒である。
公私混同はよくないかもだけど……折角まあ、告白してもらって、受け入れて、ああいう関係に慣れたわけなので……その後すぐ仕事で離ればなれ、ってのもどうかと思って。
それに彼女、なんかしばらくがっつり休みを取ってここに来たらしい。なので、仕事外なのでどこにどう行こうと問題はないようだ。
なら一緒に行こうかってことで連れてきたわけである。
ただ、流石にこっちの仕事の中身に関わる話し合いの場に同席させるのはどうなんだろうと思って、今は船で留守番してもらってるけど。オペレーターとして来てるクロエとかと一緒に。
で、話を聞いてみると、
「……なるほど、こりゃ確かに、僕らに依頼したくなる内容だわ」
ここ数日の間に、ネフィちゃん達の方で調べ上げていた、そのターゲットである獣に関する話が資料としてまとめられていた。
それを読みつつ話を聞いた感想が、さっきのセリフである。
というのも、最近このあたりに出没している魔物っていうのがね……
「全身を茶色の体毛に覆われていて、鋭い爪と牙を持つ、4足歩行にも2足歩行にもなる、獣型の魔物……そして、爪や牙には、食らった者を酩酊・昏睡状態にさせる特殊な毒を持つ……しかし、その毒自体に致死性はない、ですか」
そう読み上げたサクヤは……『変わった魔物もいるのですね』くらいの認識である。
が……それ以外のメンバーはというと、この特徴を聞いて、1年ほど前のことを思い出していた。
まあ、それも当たり前だけどね。
何せこの特徴……『シャルム・レル・ナーヴァ』の時に、この『聖都』の地下から出て来た魔物……『アバドン』のそれとまるっと一致するんだもんよ。
獣型で、爪焼き場に毒を持つ。祖の毒ってのがまたちょっと特殊なそれで……傷口なんかからわずかでも体内に入ると、獲物をまるで酒に酔ったような状態に陥らせて、意識を奪う。
しかし、その毒自体には……今サクヤが言った通り、致死性はない。そのままほっといても数十分から数時間で分解され、無害化される。
ただし、その毒のせいで動けなくなっている間に食い殺される……というか、食い殺すために毒で動けなくするんだけどねこいつら。
それに、毒なしでも結構戦闘能力あるしね、こいつら。だから、危険なのに変わりはない。
そして、このメンバーのなかでは、サクヤだけが『シャルム・レル・ナーヴァ』の時には一緒じゃなかったので、この魔物について知らない。ゆえに、ただ1人リアクションがなかったわけだ。
無論、ネフィちゃんやソフィーさんも、こいつのことははっきり覚えているので、苦々し気な表情になっている。
「つまり……あの時の生き残りがまだいたってこと?」
「いえ、それが……そう考えると少しおかしいんです。辻褄が合わないというか……」
「? どういうこと?」
「目撃情報や、襲撃されたという報告をつなぎ合わせてみたのですが……あー、仮に『アバドン』と呼びますが、今回出没している『アバドン』は、明らかに聖都から離れたところに突然出現しているのです。そして、徐々に生徒に向かってきているような動きを見せているんですよ」
「それに、細かく特徴を聞いてみると……あの時のそれとは少し異なる部分があるようなんです。見た目とか、毛の色とか……些細な部分かもしれませんが……」
……なるほど、そりゃおかしい。
ネフィちゃんが言った『微妙に異なる』ってのももちろんだが、その前にソフィーさんが言った、『聖都』から離れたところから云々、って部分が特に変だ。
1年前のあの時は、地下に無数に眠っていた『アバドン』が、色々あって叩き起こされ、バイオハザード的に地上で大暴れした。
しかしその全ては、この聖都の中心部、『摩天楼』の下にあった地底湖や、その周辺の空間に眠っていた、という出自だったはずで……外部から持ち込まれたものじゃなかったはず。
……まあもちろん、同種の、しかし地底湖に閉じ込められていない野生の『アバドン』が生息していて、それが今になって現れたって可能性もなくはないけども……少なくとも神殿の地底湖の奴は、太古の昔から封じられてきたって話だし……今更、このタイミングで姿を現すもんなのか?
しかも、何でか聖都に向かってるらしいし……
(しかし……『このタイミングで』か……種類は違えど、この大陸で、あっちでもこっちでも色んな事が一斉に起こってる気がするな……偶然か?)
そんなことをふと考えつつも、僕らは続けてネフィちゃん達の話を聞いたわけだが……相手が『アバドン』らしいってこと以外は、さほど情報は得られなかったな。
ただその『アバドン』……らしき魔物、なんだけど……資料を見る限り、僕らがかつてここで戦った連中とは、微妙に異なるようなのが、またひとつ気になるな。
その後僕らは、聖都の冒険者ギルドに行った。
ネフィちゃん達から依頼を受けている旨を伝えて……ここに保管されているらしい、『アバドン』らしき魔物を見せてもらった。
一目見てわかった。なるほど……違う。
似ているけど、確かに違う。あの時の奴らとは。
1年前にこの聖都で暴れたアバドンは、頭部や脚部、爪焼き場は、狼とかの肉食獣のそれで……体のおおまかな骨格は、カンガルーのような感じだった。
さっきも言ったけど、二足でも四足でも、どっちでも走れるような感じで……戦闘時は二足で立って、爪や牙を振りかざして襲ってくる感じだった。
毛の色は茶色で、鬣みたいな感じの毛が、頭から背中にかけて生えてる。
だが、こっちの『アバドンらしき魔物』は……毛の色は全体的に、茶色くはあるけど赤っぽくなってて……骨格もちょっと違う気がする。毛皮でぱっと見はわかりにくいけど……ネコ科の肉食獣に近いな。牙や爪の形も微妙に違う。
鬣の生え方も、体の前側まで少しだけどあって、ライオンのそれに近い。
……近縁種って可能性があながち否めなくなってきた、かも。
とりあえず参考にしたいので、1匹分の死体を買い取らせてもらった。後で、宿に戻ってゆっくり解析してみよう。わかることがあるかもしれない。
とまあ、そんな感じでひとまずその日は終わり。
明日以降、調査やら何やらを本腰入れて始めよう……
……となる予定だったんだけども。
その、ギルドを出た後のことだ。
その依頼とは全然関係ないところで、思いがけない出来事が起こった。
もうそろそろ夕方ってくらいの時間帯。あとは各自自由行動にしようか、って感じで解散した。
と言っても、やることなんてぶらぶら街を歩いたり、買い物したりするくらいしかないだろうけどね……ザリーとかは、例によって情報仕入れに行くみたいだったけど、他のメンバーは、特にやることもなく、何人かはまっすぐ宿に戻って行ったくらいだし。
僕もそうしようかと思ったんだけど、ふと思いついて、外縁部の町に足を運んだ。お供には、アルバとサクヤだけを連れて。
以前この町に来た時、非合法のマーケットで、面白そうな魔法書物をいっぱい買ったのを思い出して……その時に利用した書店に、また行ってみようと思ったんだ。
また、面白そうなものを入荷してたら買おうかな、とか思って。
……その途中に、ね。
「うふふっ、素敵なお兄さん……どう? 今日一晩、私といい夢を見てみない?」
そんな感じで声をかけられて、僕は……1人の奇麗なお姉さんに絡まれていた。
状況的にもだが、物理的にも。腕を僕の腕に絡めて、その大きくて形のいい胸を押し付けてくる。
服装は露出が高く、艶めかしいデザインで……まあ、どう見てもそういう職業の人である。
こういうような事態に遭遇するのは……そこまで珍しくもない。
自画自賛になるけど、僕、SSランクの……世界最高峰の冒険者だしね。覚えをめでたくして、愛人に据えてもらおうとか考える人は、あちこちにいるし……飲食店とか利用すれば、そういうサービスも対応の女給さんとかが誘惑してくることもある。
エルクとかサクヤと一緒にいれば、空気読んで寄ってこないことも多いけど。
というかむしろ、AAAランクとかSランクだった頃の方が多かったかもな。SSになってからは、逆に手出ししづらくなったのか、減った気もする。
いやまあ、頻度とかそういうのはどうでもよくて……現在僕は、そういう職業のお姉さんに絡まれてる、って話ですけどもね? しかも、サクヤが一緒にいるのに、無視するような形で。
……普段なら僕は、やんわりと角が立たないように、しかしきっぱりお断りする。Noといえない日本人だったのは遥か昔のことです。
それでも聞かない、強引に迫ってくるような場合は……かわいそうだけど、ちょっとだけ殺気を向けて威嚇するとかする。それで離れてもらいます。
しかし今は、僕はそうはしていない。
かといってもちろん、この女性を『買う』つもりがあるわけでもない。そういうの、間に合ってますのでね……僕みたいな奴を好いてくれる人が、分不相応なくらいに多くいるわけだし、彼女らに不義理になるようなことはするつもりはないよ。
……僕が今、何もせずにこの女性の抱擁を受けて入れているのは……単に戸惑ってるからだ。
なぜって? そりゃ……
「……何してんの、マ―――」
「あん! やーねえお兄さん、もう我慢できないの!? ふふっ、しょうがないんだからぁ……ほら、こっちに行きましょ? いいお店を紹介してあげる!」
と、僕のセリフを遮る形で、早口でそんな風に言うと……その女性はぐいぐいと僕のことを引っ張って、裏路地の方に連れていく。笑顔のまま、しかし有無を言わせず強引に。
サクヤとアルバも当然それについてくるが、何も言わない。
そして、表通りから見えないくらいの位置にまで来たところで……おもむろにその女性は、認識阻害の結界魔法を張った。目だけじゃなく、耳も誤魔化す(盗み聞き不可能になる)上位版だ。
そしてはじめて、笑顔を崩し……はぁぁあぁ、と特大のため息をついた。疲れた感じを隠そうともせずに。
その表情を見て、僕は、自分の予想というか直感が間違っていなかったことを確信した。
目の前にいるこの女性が……僕の顔見知りであると。
「……で、何してんのマリーベル?」
「こっちのセリフよミナト君……どうしてこの国に、しかもこの『聖都』にいるの!?」
髪色も髪型も違う。目の色すら違う。肌の色も微妙に違う。
『夢魔族』の特徴の1つである尖ったエルフ耳(ただし長くはない)も、どうやっているのか、普通の人間の耳の形になっている。
それでも、目の前にいる彼女は間違いなく……僕の友人であり、同時に、ネスティア王国最強の特殊部隊『タランテラ』の一員……マリーベル・パーシマンその人だった。
「……とりあえず、こないだぶり、でいいのかな?」
「あんまりよくはないんだけどね……うん、こないだぶり。あの時はありがとね」
あの時……ああ、『カオスガーデン』に逃げ込んできた『タランテラ』の皆を保護した時ね。うん、どういたしまして。
でも、あの後マリーベル達、任務の報告して……それからしばらく、傷をいやして体を休めるために休暇になったんじゃなかったっけ?
何でこんなところで、しかも娼婦みたいな変装までして……まるで、また潜入捜査でもしてるみたいじゃない。
「みたいじゃなくてそうなのよ。今私、潜入中。『タランテラ』としての仕事中なの」
「えぇ……復帰早っ。ていうか、何でまたここに? 一応同盟国でしょ、シャラムスカって」
そんな、隠れて色々探るようなことしたら、ネフィちゃんも流石にちょっと怒る……あるいは、悲しむんじゃないかな?
「大丈夫よ、聖女様やその側近たちには、事情を話して黙認してもらってるわ」
「……事情って何? 何があったらそんな、自国内での他国の密偵活動なんて認めるのさ」
「そのへんは、ごめんだけど話せない。任務に関わってくるから。で、そっちは何でここに? シャラムスカに来るなんて情報になかったから、正直さっき見かけた時はめっちゃびっくりしたんだけど」
「僕の方は普通に冒険者としての依頼だよ。魔物の討伐とか調査なんだけど……ややこしいし話が長くなるから省略で」
「……ってことは、ここでこうして遭ったのは単なる偶然か……あーもう」
頭を抱えるマリーベル。何やら、僕に遭遇するとまずい事情か何かあったのかな?
そう聞くと、別に僕に限った話じゃなく……単純に隠密活動に影響を及ぼしそうな要素の混入を嫌ったというか、危惧してのことらしい。
そのままマリーベルに簡単に説明してくれたところによると、潜入捜査においては、当たり前のことながら、『正体がばれない』ことが絶対のルールであり、普段の生活の中の一挙手一投足、呼吸1つに至るまでそれを徹底することが絶対原則らしい。
そしてそれは、ただ単に演技をするというだけではなく、身元バレに繋がる要素の一切を排除することが求められる。
マリーベルは今、名前、経歴、職業その他が全く別な設定を用意して、その架空の人物になりきってこの町に滞在している。そうして普通に……『架空の人物の普通の暮らし』をしながら、隙間を縫って諜報活動を行っているのだ。
そしてそれは、マリーベルだけではなく、ミスティさんやメガーヌ、ムース、そしてモニカも同じであるらしい。
彼女達は今、それぞれ全くの別人として、知り合いでもないし何も関係のない赤の他人として生活しているので、仮に偶然街中で会ったとしても、そんな素振りは微塵も見せないし、顔色一つ変えることもない。
……それこそ、誰かが目の前で殺されそうになっていたとしても、任務を第一に考えて、身元が露見するくらいならそれを見捨てる……そのくらいの覚悟で任務に当たっている。
……いつも明るくて軽い感じのマリーベルの口からそんな言葉を聞くと……彼女達が正真正銘の特殊部隊員なんだなって痛感するな……。
で、そんな潜入捜査中においては……全然任務に関係ない、こっちの事情も知らない顔見知りと偶然出会って『おー久しぶり』なんて言ってくる状況は悪夢でしかないわけだ。
うん、今の僕だな。
……それでいきなり、何か言う前に抱き着いてきてこんなとこに引っ張り込んだのか。
「つまりマリーベルは今、潜入捜査中だから……ネスティア王国の工作員っていう身元に繋がりそうな……『ネスティアのマリーベル』として交流のある僕と接触するのはまずいと。だからこれ以降は自分のことを町とかで見ても無視してくれとか、そういう感じ?」
「そんな感じ。まあ、一番いいのは、それでも正体の露見に繋がっちゃう可能性をなくすために、聖都を早めに離れてもらうことなんだけどね……冒険者の仕事ってどのくらいかかるの?」
「正直分かんないんだよな……ああでも、討伐対象の魔物の巣とか探したりするのもあるから、町の外で主に活動するくらいはできるかもだけど。オルトヘイム号を拠点として使えば……ああでも、冒険者ギルドと情報共有とかもするから、時々は戻ってくる必要あるけど」
「……無理言うのはわかるけど、できればそうしてもらえるとありがたいかな。私達のコレ、まだいつ終わるかの見通しが立ってなくてね。結構な期間続くかもしれないの」
その途中で、正体が露見して任務が失敗するのは何としても避けたいそうだ。
マリーベル曰く……自分が潜入捜査員であることが仮にばれたとしても、極論、そのまま自分が何も情報を吐かずにいれば、ネスティア王国にはつながらないから、それはそれでいいらしい。
マリーベルがスパイだとバレる
→『災王』とマリーベルが会っていたという目撃情報が上がる
→『災王』はネスティア王国の出身。王族とも交流があるはず
→マリーベルはネスティアの密偵か!
こんな感じで身バレに繋がるのがむしろ困ると。
最悪、救助が来るまで、拷問されようが凌辱されようが耐えるか、情報を抜き取られる前に自決するか、それすらできなくなった場合には……メガーヌあたりに自分を暗殺させれば、って。
だから重いって……覚悟完了しすぎだって。
「潜入捜査ってのはそういうもんよ。これ以降は、町で誰を見かけても、それがどんな状況でも知らないふりしてね? お仲間さん達にもそう伝えて徹底させて。あと……間違っても手伝おうとか助けようとなんてしないでよ……邪魔だから」
彼女にはだいぶ珍しい、かなり強い口調と目つきでそう言うマリーベル。
全入のプロフェッショナルとしての彼女を見るのは初めてだけに、気圧される感じすらあった。
今までは何だかんだで、息を抜いても問題ない状況でだったからな……彼女と話すのは。完全な敵地で、完全なお仕事モードだと、あんな感じなんだ。
僕らとしても、彼女達の邪魔をするのは本意ではないし、それを受け入れてその場は解散しようかと思ったんだけど……
認識阻害の結界もそろそろ解けるし、表通りに戻ろうとした、その瞬間だった。
音もなく、しかしすごい速さでここに近づいてくる『何か』に気付いて、僕とサクヤが、そして少し遅れてマリーベルがばっと振り向いた。
その瞬間、しゅたっとそこに降り立つ……色黒の人影。
「? これはどういう状況だ、マリーベル? なぜミナト殿がここにいる?」
「……冒険者としての依頼でここに来てたらしいわ。さっきそこであったの。全くの偶然よ。……メガーヌこそ、何で今ここに?」
マリーベルの同僚で、『タランテラ』の副隊長……メガーヌだった。
こちらはマリーベルと違って、何かに変装している感じじゃない。むしろ、わかりやすく『隠密』って感じの装束だな……溶け込まずに闇で動く系の役割なのかな?
けど、気のせいかな? なんだか……すごく張り詰めた雰囲気をまき散らしてる気がする。
どうやら、何か用事があってここに、というかマリーベルに会いに来たようだけど……何だろう、嫌な予感がするな。
シリアス100%の空気の中で、視線を僕らからマリーベルに移したメガーヌは、言った。
「任務を一時中断する。2日以内に今住んでいる場所を引き払って、隠れ家に身を隠せ。調査再開は少なくとも2週間後以降、ほとぼりがさめてからだ。すでにムースとミスティには通達済みだ」
「……? なぜこのタイミングで……何かあったの?」
するとメガーヌは、一瞬、ちらっと僕らの方を見た上で、
「……ミナト殿なら問題はないか。他言無用で頼むぞ」
「え、あ、うん、わかった。てか、僕聞いてていいの?」
「問題ない。余計なことをしないでいてくれればいいだけの話だ……それに……完全に他人事、というわけでもないしな」
? どういう意味?
「……モニカがしくじったらしい。調査対象に、正体が露見した」
「「「っ!?」」」
僕とマリーベル、それにサクヤが、息をのんだ。
「おそらく、我々がネスティアの工作員である、ということまではバレてはいない。だが、脱出に失敗して身柄を抑えられたようだ。奴も『タランテラ』の一員……いかような責め苦に遭おうとも、口は割らないとは思うが……念のため一旦ここを離れる。通達は以上だ、迅速に動け」
0
お気に入りに追加
8,537
あなたにおすすめの小説
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
スナイパー令嬢戦記〜お母様からもらった"ボルトアクションライフル"が普通のマスケットの倍以上の射程があるんですけど〜
シャチ
ファンタジー
タリム復興期を読んでいただくと、なんでミリアのお母さんがぶっ飛んでいるのかがわかります。
アルミナ王国とディクトシス帝国の間では、たびたび戦争が起こる。
前回の戦争ではオリーブオイルの栽培地を欲した帝国がアルミナ王国へと戦争を仕掛けた。
一時はアルミナ王国の一部地域を掌握した帝国であったが、王国側のなりふり構わぬ反撃により戦線は膠着し、一部国境線未確定地域を残して停戦した。
そして20年あまりの時が過ぎた今、皇帝マーダ・マトモアの崩御による帝国の皇位継承権争いから、手柄を欲した時の第二皇子イビリ・ターオス・ディクトシスは軍勢を率いてアルミナ王国への宣戦布告を行った。
砂糖戦争と後に呼ばれるこの戦争において、両国に恐怖を植え付けた一人の令嬢がいる。
彼女の名はミリア・タリム
子爵令嬢である彼女に戦後ついた異名は「狙撃令嬢」
542人の帝国将兵を死傷させた狙撃の天才
そして戦中は、帝国からは死神と恐れられた存在。
このお話は、ミリア・タリムとそのお付きのメイド、ルーナの戦いの記録である。
他サイトに掲載したものと同じ内容となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。