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第20章 双月の霊廟
第479話 龍の価値観と、テオの望み
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今回、読む方によっては不快感を覚える表現というか展開というか、風習ないし習性の話が出てくるかもしれません。ご注意ください。
あくまでフィクションの中の表現の一環ということで見ておいていただけたら幸いです。
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「なるほど、人間には、異性の前で肌を見せるのは恥ずかしいことだという風習があるのですね……勉強になりました」
「ははは……まあ、龍にはあんまり縁のない習慣かもだしね」
「というより、人間以外でこういう習慣持ってる動物って確かに少ないものね……」
エルクとクレヴィアさん、他女性陣によってきちっと説得されたテオ。肌を見せることへの羞恥心というものがどうやらそもそもないようなので、ちょっと不思議そうにしていたが。
とりあえず、セレナ義姉さんが予備用に持っていたガウンを着せておいた。
無事に隠すものを隠したところで、話を再開。えーと、どこまで行ったっけ……?
龍の遺伝子を持つ人間をどうやって作ったか、というところですね。と言っても、見ての通りですよ。このように、私達龍の一部は、人間に姿を変えることができます。その状態で人間と交わることで、血の混ざった子を作り出して生むのです」
「……!? 人間の子供を、龍が身ごもって、生むの……!?」
「その逆もありましたね。雄の龍が人間の雌と交わって、子供を産ませるのです。むしろ、雄一匹で何匹もの雌を相手にできるため、効率的だとしてそちらの方が多かったようでした」
……なんか、物凄い衝撃的な上に、めちゃくちゃ生々しい話してるな……。
そして、生まれた子供、あるいはその子孫に、やがて『ドラゴノーシス』を発症した子が……『龍の戦士』あるいは『龍の巫女』が現れる、という仕組みらしい。
龍の遺伝子は、子供という形で生まれてきても、すぐには表に現れないらしい。代を重ねて、遺伝子レベルで混ざり合ってようやく現れたとかで……実際に交わって子を作った、その数代後から『龍の巫女』とかは現れ始めたそうだ。
気の長い話だな……そういう措置を施してから、生まれるまで何代も待ったのか。龍の寿命からすれば、そんなのすぐかもしれないとはいえ……。
そして、『ドラゴノーシス』って……病気じゃなくて、単なる隔世遺伝、あるいは『先祖返り』の一種だったらしい。
ただ、後天的に発生する上、適合できなくて死ぬ場合もあるから、あえて病気だとするなら……『遺伝子疾患』とでも呼ぶべきものなんかも。
そりゃ、感染なんかしようがないわ。病原体なんてもんはなから存在しないんだから。
「そ、そんなことより……つまりは、『龍の巫女』……『ドラゴノーシス』の感染者は、何代かさかのぼれば龍に行きつく、いわばあなた達の子孫なのだろう!?」
「そうですが……それがどうかしましたか?」
「それを……あなた達は、遠縁とはいえ、血のつながった子孫を生贄にして食らっていたのか!?」
大声で、強い口調で、責めるように言うクレヴィアさん。
その後ろにいる、彼女の仲間達……『籠のカナリア』の面々も、同じのようだ。何も言わないが……その視線には、テオを、いや龍を非難するような意思が見て取れる。
……まあ、この反応も当然と言えば当然だろう。ドラゴノーシスのルーツを聞いた今となっては。
しかし、それに対しても、テオはまた不思議そうにしていていた。さっきとおなじ、『きょとん』な……それに加えて、少し困ったような顔になっていたように見える。
が、その後すぐに『ああ』と何かに気づいたようにして、
「なるほど……人間には、同族の亡骸を食べたりするような習慣もないのですね」
「いや、そんなの当たり前……龍は違うのか!?」
「ええ、私達にとって、死した仲間の亡骸を糧とすることは珍しくありません。というより、当然のようにそうしますね……私も何度か経験があります」
「……っ……!?」
信じられないものを見るような目で、テオを見るクレヴィアさん達。
しかし、テオはそのまま続ける。
「これは多分、価値観、あるいは死生観の違いによるものですから、仕方ないのだとは思います。ですが我々にとっては、仲間の血肉を食べて自らのものするというのは、仲間への供養でもあります。これからも共に生き続けるという意味と、その者が内包していた力を、余すことなく受け取って受け継いでいきつつ、その一部を星にも還元する、という意味もあります」
「………………」
「私も、何かあって、あるいは寿命で死んだ後は、親しい者の糧となり、力になりたいと思っています。考え方の違いですから、分からないとは思いますし……わかってほしいとも言えませんが」
クレヴィアさん達は絶句している様だが……こういう習性、実はそこまで珍しくないんだよな。
人間じゃほぼありえないけど、代表的、ないし有名なところだと……カマキリや蜘蛛なんかがそうだ。
カマキリは、交尾の際、卵を産む栄養にするために、雌が雄を食べてしまうことがある。
ある種の蜘蛛は、母親がお腹の中で卵を育て、生まれた子蜘蛛は、そのまま母蜘蛛の腹を食い破って出てくる。そして、母蜘蛛はそのまま、子供達の最初の食料になる。
こういう、命をつなぐ意味での『共食い』って、動物の中には意外と多いんだ。
その他にも、金魚やメダカが産んだ卵を食べてしまったり(自分が生んだものだってことを認識してないため、ただ単に食べられる物があると思って食べる)、ホッキョクグマが敵対する群れの子供を殺して食べたり、色々あるが……そうなると意味違ってくるだろうし。
テオの言う通り、こればっかりは心情とか価値観次第だからなあ……龍には龍の考え方や文化があるって言われたら、それに口出しするのは違うか。
「……話を戻します。そうして私達は、『龍の加護』に覚醒した者達を、生贄として受け取って来ました。ただし、差し出させていたのは、体が『龍の力』に耐えきれなくなった者……言うなれば、寿命を迎えた者だけです。人間はこれを病と呼ぶこともありましたから……それになぞらえて言えば、『末期に至った者』とも言えるかもしれません」
「そうして、生贄の中に蓄えられていたエネルギーを回収し、『渡り星』に還元していた」
「ええ。恩があったからだとは思いますが、皆、喜んで命を差し出したそうです。もちろん当時、盟約通り、龍達は全力で人間を守っていましたが……しばらく後になって、状況が変わります。龍と人間、双方にとって、予想もしない……そして、好ましくない事態が起こったのです」
「……っていうと?」
「この姿を見ればわかる通り、一部の龍は、他の種族に、体の仕組みも合わせて変身することができます。そしてそれは……人間に限りません」
つまり、人間だけじゃなく……馬や牛、虎やサル……その他色々な動物に変身できる。
そして、そういった動物との間にも子供を作ることができる……ってことだ。
「当時の龍の中には、人間以外とも子を作って、龍の力を持つ動物を生み出させ、それを捕食することで、よりハイペースに力の収集を行えばいいという意見もありました。人間と違って、多くの魔物や動物は成長も早く、体も大きくなりますから。しかし、コミュニケーションを取ることができず、我々の管理下に置けないこと、あまり力を無計画に広めるのはよくないことなどを理由に、その案は却下になったんです。……いえ、そのはずでした」
「……そういう言い方をするってことは、つまり……」
「はい。『龍の巫女』によるエネルギーの回収でも、まだペースが遅いと感じた一部の龍が、独断でその案を実行に移したのです。結果、熊や虎などの野生動物に加え、魔物の中にも、『龍の加護』を持つものが現れ始めました」
最初はそのことについて、確かに前よりもハイペースで力を集められるため、好感触だったが……すぐにそれが間違いだったと気づくことになる。
『ドラゴノーシス』に感染した動物や魔物の増殖を把握できないこと。そして、予想を超えてそれらの魔物が強くなり始めたためだ。
中には、龍を返り討ちにするほどの力を持つものすら現れ始めた。
制御を離れて強力になり始めた魔物達を前に、龍達は……思うように動けなくなる。敵側である魔物や亜人達の戦力が増したことで、人間達との盟約である、守ってやるというのを果たすのも難しくなった。
それには、敵が強くなった以外にも、理由が2つあった。
1つは、地球に降りてこられる龍は、種類も数も限られていたこと。
龍はあの月からこの地球に降りてくるわけだが、移動に耐えられる種族は限られていた。テオの種族である『メテオドラゴン』をはじめ、全体の一部だけがそうだった。
そしてそこから、人間に変化できるものはさらに限られた。
それらの種族だけが、人間と交わって『加護』を持つ血脈を増やすことができ、また地上で人間を守って戦うことができたのだ。
そして限られているからこそ、相手が強力になって返り討ちにされるケースが出てくると、その分、龍側にとっても無視できないダメージになっていた。
そしてもう1つ……あの本にも書いてあったことだが、『ドラゴノーシス』が制御を超えて広がるよりも前に、当時の龍のトップである『龍王バハムート』が死んでしまったことだった。
どうやら、既に龍の中でも高齢だった『龍王』は、突然変異的に魔物の中に生まれた強力な存在と戦い、差し違える形で敗れたらしい。
その後、新たな『龍王』が決まったものの、その『龍王』は、ある理由から月に帰ってしばらく戻って来れなくなった。
加えて、その『ある理由』にも関わりがあるらしいんだが――話すと長くなるからって飛ばして話してた――当時、龍側の戦力がかなり削られてしまい、ますます人間を守るために割ける力が少なくなって苦しくなっていたんだそうだ。
結果、やがて人間を守り続けるのが難しくなったと判断した『龍王』は……盟約を破棄し、眷属達のほとんどを連れて、月に帰ってしまった。
恐らくはそれを、『龍の巫女』や信者たちは、自分達が不甲斐ないから見限られた、と思って……あんなふうに書き残したんだろうな。
「当時の龍達は、盟約を果たせなくなった責任の一端が自分達にもあったと認識していたので、数百年経って自分達に力が戻れば、また地上に降りるつもりだったそうです。しかし、その数年後……突如として、それもできなくなってしまいました」
「……それは、何で?」
「『天領』が消滅してしまったためです。私達龍は、この場所にしか降り立つことができないのです」
空に見える月、もとい『渡り星』は特殊な空間というか力場みたいなものに覆われて守られていて、普通の方法では干渉できないのだそうだ。
単純な話、ロケットを飛ばして大気圏を突破しても、確かにそこにある『渡り星』にはたどり着けない。
この『天領』……というか、この祭壇がある位置からは『渡り星』に向かって力場が伸びている。それは、初代(地球に来てからの、という意味で)龍王が、この地に走っていた『大いなる力の流れ』と、『渡り星』とを結びつけて作ったものらしい。
その力場が道になっていて、そこを通ってのみ、龍は月と地球を行き来できる。
地球に舞い降りる時はこの祭壇に降臨し、月に帰る時はこの祭壇から飛んでいく。
それ以外の場所では、『渡り星』にいくことはもちろん、視認することもできない。
あくまで、『天領』から正規のルートを使って行かなければならない。コレをせずに地上と『渡り星』を行き来できるのは、『龍王』を含むごくごく一部の龍だけらしい。
……だからあの本には、『天領』は龍が降臨する唯一の場所だって書いてあったのか。
そして恐らくは、『大いなる力の流れ』ってのは……『地脈』のことだろう。やっぱり偶然じゃなく、あの『双月の霊廟』は……いや、『天領』は、もともと『地脈』のエネルギーを利用するつもりで、そこに作られたんだな。
『龍王バハムート』すごいな。宇宙から地上の『地脈』を探知できた上、そこに軌道エレベーターみたいなラインを通すことまでやってのけたのか。
だが、『最後の龍の巫女』が、地脈の力も使った『ザ・デイドリーマー』で、『天領』を含む周囲広範囲を封印してしまったため、降り立つ場所をラインごと失った。
それが、テオの行っている『天領が失われた』っていう部分だろう。
「でも最近になって、突如『天領』へ通じるラインが復活したんです。原因は不明ですが……」
「それって、いつぐらい?」
「……半年、は経っていないと思います。そして、その時に復活したラインは、言い伝えにあったものよりも力強く……まだ未熟な私が、こうしてここに降臨さえできてしまえるほどのものでした。そして今回、ラインを通して『祭壇』に何かの干渉があったのを察知して降りて来たのです」
……読めてきた。
ラインの復活……それは多分、この『双月の霊廟』が出現した時期だ。
そして、それを引き起こしたのは……ごく最近起きた地脈の変動だ。
『サンセスタ島』で、地脈の恩恵がなくなったことで魔物達が叩き起こされたのとは逆。ここは地脈の効能がより強力になったことで、『ザ・デイドリーマー』の封印が緩むほどの地脈のエネルギーが流れ込んで……不完全ながら、『天領』が、そしてラインが復活したんだ。
その片鱗が、『双月の霊廟』というダンジョンとなって地上にもつながってしまった。それが……このダンジョンの、本当の意味での正体であり、真実だ。
聞き終えたところで、ふぅ、とテオは息をついた。
「少し疲れました……こんなにたくさん、それも知らない人と話したのは初めてかもしれません」
「あ、ごめん……何か、会ったばかりの君に色々聞いちゃって」
「いえ、私もやりたくてやったことですし……いきなりこうして姿を見せて、驚かしてしまったでしょうから。何か、他に知りたいことはありますか?」
知りたいこと、か……まあ、あるっちゃある。結構いっぱい。
前々から知りたかった、気になっていたこともあるし、今の話を聞いてて、新たに浮かび上がってきた疑問もある。でも、それ全部聞くのもなあ……流石にちょっと失礼だろう。
でも、こんな機会もうないかも……とか思ってたら。
「なんだか、色々聞きたいことは多いけど、遠慮して聞けない、といったお顔ですね」
「…………よくわかるね」
テオにそう言い当てられてしまった。毎度のことながらわかりやすいらしい僕よ……。
隣のエルクから視線が向けられているのを感じる。きっとジト目だろう。ご褒美です。
けど、反対側に立っているクレヴィアさんも、その仲間達もまた、僕と同じように色々と聞きたいことがありそうな雰囲気である。後ろに立っている『邪香猫』のメンバー達の中にも、そういう感じの者は多いと思う。
何せ、今までずっと謎だった『龍神文明』や、それに関連する多くの謎について聞き出せるかもしれない相手だからなあ。そりゃまあ、僕じゃなくても興味津々になる人は多いだろう。
学者であれば知識欲求から、貴族であれば国益のために、その他色々。
師匠なんて……なんか、顎に手を当ててすっごい考え込んでるし……アレ絶対、頭の中ですごいスピードで情報とか整理して聞きたいことまとめてるよね。そう経たないうちに質問ラッシュが始まりそうだぞコレ。
止めるべきか否か……いやでもどっちかっていうと僕も色々聞きたい側なんだが……
けどそれよりも先に、口を開いたのは……テオの方だった。
「ミナトさん……いえ、皆様。それでしたら、私の方から提案させていただきたいことがあるのですが……。かつて、『龍神文明』の時代にやっていたのと同じことをしてみませんか? 先程ミナトさんが言っていた……『ギブアンドテイク』というやつです」
「? えっと……どういうこと?」
「単純に、皆さんのお願いをかなえる……この場合は、質問に答える、でしょうかね。でも皆さん色々ありすぎて、あまりたくさん聞くのを遠慮されていたり、今すぐには聞くことが思い浮かばないけれど、あとで情報を整理してからまた色々と聞きたい、といったところではないですか?」
大正解。100点。察しいいね、テオ。
「それらの質問に、いくつでも、そして今でなくて後ででも私が答えて差し上げます。その代わりに、こちらもきちんと、それに関する対価をいただきたいんです」
なるほど……適正な対価を支払った上で色々聞くんなら、こっちもあんまり遠慮とかせずに、聞きたいことを聞けるな。
テオの方はその結果、時間も手間も食うことになるけど……その分、適正な対価を得ることができるから、損ってわけでもない。うん、いい案かも。
でも、対価って何を出せばいいんだろ? ……流石に生贄とかは無理だけど……
「あははは……違いますよ、安心してください。ちょうど私、頼みたいというか、力を貸していただきたいことがあって……あ、でも結構危険なことなので、もし嫌なら断ってほしいです。地上に降りて初めてできたお友達が死んでしまったら、その方が私、哀しいですし」
うん、なんかそこそこ気になる発言混じってたね? え、何、君、何か危険な、命にかかわるようなこと要求する気なの? やだ、無邪気な風なのに物騒……。
でも、嫌なら断ってもいいと……でもそれだと情報聞けないし……。
……自画自賛だけど、こう見えても僕ら、SSランクの冒険者だし、多少の荒事は平気だけどな……一応聞いてみよう。
「ええと……なんか、危なそうっぽいけども……頼み事って何なのか聞いてもいい?」
「うーん……危ないかどうかがわからないんです。けど、このまま放っておくと、確実に危ない、というか、やばいことになりますね。最悪、人間滅んじゃうかもだし……それは私としても、何か嫌ですし……でも、あいつ強いし、私じゃどうにもならなくて……」
ますますわからん上に物騒さが増したんだけど!? 具体的に教えてくれ!
「えっと……頼み事っていうのはですね……私、家出したいので、手伝ってほしいんです」
「……家出?」
「はい。家出」
……詳しく。まだ情報が足りん。
「……ご家族と、喧嘩でもなされたのか? そうならば、お節介かもしれないが、一度きちんと腹を割って話し合ってからにした方が……」
「いえ、そういう感じではなく……単に私、このままだとなんか殺されそうだなーと思いまして、死にたくはないので地上にこのまま亡命したいなと……」
「もうさっさと全部話せや! 順序良く! 全体像がさっぱり見えねーんだよ!」
「は、はいぃ!? すっ、すいません!」
とうとう怒鳴ってしまった師匠に、テオ、びびる。ごめんね驚かせて……。
でも、正直僕も、意見そのものは師匠に同意でした……わかりにくいもん、テオの話。なんか、遠回りというか……肝心なことを話してない感じがして。
わざとわかりにくくしてる、ってわけでもなく、天然でそうなってるっぽいけど……
びっくりしつつも、息を整えて『えーとえーと』って必死に話したいことをまとめてる様子のテオ。慌ててる様子がちょっとかわいいなとか思ってしまった。ゆっくりでいいよゆっくりで。でもきちんとわかりやすくはお願いね。
「え、ええとですね……順序よくということなので、始めのところから……。まず、1年ほど前の話になるんですが……先代の『龍王』様がお亡くなりになりまして……もうすぐ、次の『龍王』を決めるところなんです」
結構でっかいイベント起こってた。ええと……お悔やみ申し上げます。
「それでですね……先程は飛ばしてしまいましたが、新しい龍王を決める場合、まず、我こそはと思う者が立候補します。この権利は誰にでも認められていますが、ぶっちゃけ弱い若手の龍が出たところで死ぬ未来しかないので、必然、相応の強さを持つ龍のみの戦いになります」
うーん、さらっと言ってるけど、殺し合いするっぽい? 選挙とか、世襲とかじゃないのね。
戦いとか死ぬとか……殺伐。
「そして、出揃った候補者たちで戦い、力を競い合います。負けを認めて降参するか、死ぬかすると脱落です。最後の1体になるまでそれが続きます。ちなみに、敗者が死亡した場合、勝った者は負けた者の亡骸を全て食べて、その力と意思を受け継ぐ義務があります」
ここでも出て来たよ共食い風習……。
「そうして最後に残った1体が、新たなる『龍王バハムート』となります」
さっきちらっと聞いた、本でも読んだ固有名詞も出て来た。『バハムート』って、種族名とかじゃなくて、襲名する感じの名前だったのか。『龍王』は代々その名前なんだな。
「問題はその後なんです。その……まあ、龍王を決める決戦……まあ、言ってしまえば殺し合いなんですが、もうすぐ始まろうとしています。で、今回その最有力候補として目されている龍が……ちょっと、いやかなりアレでして」
「アレ?」
「簡単に言えば、かなりの過激派なんです。自分に逆らう者に対しては容赦しないというか……いえ、龍ってもともとそういう所がある種族なので、あり方としては間違ってないんですけど……アレの場合、敵対してなくても、自分の立場を脅かす可能性がある奴に対しては、恫喝したり痛めつけて忠誠を誓わせたりするんです。誓わなければ殺されたりします」
「うわ、小物感……で、テオも危ないの?」
「はい……自分で言うのもなんですけど、私、結構優秀で強い種族の血筋なので……。というか、既に今もう『忠誠を誓え』だの『妾になって俺の子供を産め』だの言われてまして……」
「うわ、サイッテー……」
「威風威厳の欠片のない龍もいるものなのだな……」
横でエルクとクレヴィアさんが、心底軽蔑する感じの声でそんなことを言っていた。
いや、声に出していなくとも、皆……特に女性陣は同じことを思ってるようだ。師匠すらも。
「で、そいつが今度龍王になったとしたら、自尊心とか血筋とか色々目当てに、今度こそ確実に私のこと手籠めにしようとしてきますし……それでも抵抗したら、それはそれで殺されそうなんです。ぶっちゃけアレの卵産むとか死んでも嫌だけど、かといって死にたくもないしどうしようって」
「それで、ちょうどよくラインが復活した上に、僕が干渉して呼んでたみたいだったのに気づいて、ここにこうして降りてきたと?」
「はい。そしてもういっそ帰りたくないです。私、父も母ももうそいつに殺されていますので、未練とかも特にないですし」
……なるほど、事情は分かった。
つまり、彼女は……このまま『渡り星』にいると、その暴君その者って感じの新・龍王(予定)に手籠めにされるか殺されそうだから逃げたい。知識の提供とかは協力するから、その代わりに逃亡を手伝ってほしいと。
「となると……その、新しい龍王とかから追っ手がかかったりした時に、追い返してほしいとか、守ってほしい、っていう感じになるのかな?」
「いえ、それよりも、どうにかしてこのラインをもう一回、今度は何かの拍子に復活とかもしないように、完全に破壊したいんです」
おー……なるほど。
そうすれば、他の龍は地上に降臨できなくなるから、追っ手もかからないもんな。しかし、中々に思い切ったことを考える……いや、有効な手段だとは思うんだけどさ。
「……それとですね……このラインを破壊した方がいい理由、もう1つあるんです。さっき私が、下手したら人類滅ぶ……って言ったの、覚えてますか?」
「……ああ、言ってたね。それって、テオが逃げたことに対して、その龍王が怒って追っ手を放って襲ってきて……この地上の人類が巻き添えを食うかもしれない、ってこと?」
「いえ、そこはむしろ私も関係ないんです。仮に……や、絶対嫌ですけど……私があいつに忠誠を誓って妾になったところで、あいつは多分地上に攻め込んできます」
「……は? 何で?」
「……このラインが復活したのは数か月前です。そのことは、私だけでなく、あいつを含む多くの龍が知っています。が……もう既に、かつて龍と人類が交流していた時から数万年の時間がたっていますので、トラブルになるくらいならと、今更地上に降りようとする龍はいませんでした」
でも、と続ける。
「このことを知ったアイツが、あろうことか言い始めたんです。自分が龍王になったら、今よりも積極的に、手段を選ばずエネルギーの収集を推し進めて、早く『渡り星』を元通り動かし……星々の海を旅する生活に戻ると。龍という種族の、あるべき姿を取り戻すと」
「……っ……!?」
それって、まさか……
「あいつは……『ジャバウォック』は! かつての龍王が、この星の生き物達を尊重して選ばなかった方の方法を実行に移すつもりです。手あたり次第に動植物を捕食したり、高エネルギーを持つ物質を持ち帰って、星にそのエネルギーを還元する……『渡り星』の燃料となるエネルギーを確保するために、暴力に物を言わせて、この星の全てを食い物にするつもりなんです……!」
……最後の最後に、とんでもない情報がぶっ困れてきた。
え、何? ……こないだ妖怪大戦争が終わったかと思ったら、今度は宇宙戦争(相手:宇宙怪獣)が始まるのか? 1ミリも笑えないんですけど……
あくまでフィクションの中の表現の一環ということで見ておいていただけたら幸いです。
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「なるほど、人間には、異性の前で肌を見せるのは恥ずかしいことだという風習があるのですね……勉強になりました」
「ははは……まあ、龍にはあんまり縁のない習慣かもだしね」
「というより、人間以外でこういう習慣持ってる動物って確かに少ないものね……」
エルクとクレヴィアさん、他女性陣によってきちっと説得されたテオ。肌を見せることへの羞恥心というものがどうやらそもそもないようなので、ちょっと不思議そうにしていたが。
とりあえず、セレナ義姉さんが予備用に持っていたガウンを着せておいた。
無事に隠すものを隠したところで、話を再開。えーと、どこまで行ったっけ……?
龍の遺伝子を持つ人間をどうやって作ったか、というところですね。と言っても、見ての通りですよ。このように、私達龍の一部は、人間に姿を変えることができます。その状態で人間と交わることで、血の混ざった子を作り出して生むのです」
「……!? 人間の子供を、龍が身ごもって、生むの……!?」
「その逆もありましたね。雄の龍が人間の雌と交わって、子供を産ませるのです。むしろ、雄一匹で何匹もの雌を相手にできるため、効率的だとしてそちらの方が多かったようでした」
……なんか、物凄い衝撃的な上に、めちゃくちゃ生々しい話してるな……。
そして、生まれた子供、あるいはその子孫に、やがて『ドラゴノーシス』を発症した子が……『龍の戦士』あるいは『龍の巫女』が現れる、という仕組みらしい。
龍の遺伝子は、子供という形で生まれてきても、すぐには表に現れないらしい。代を重ねて、遺伝子レベルで混ざり合ってようやく現れたとかで……実際に交わって子を作った、その数代後から『龍の巫女』とかは現れ始めたそうだ。
気の長い話だな……そういう措置を施してから、生まれるまで何代も待ったのか。龍の寿命からすれば、そんなのすぐかもしれないとはいえ……。
そして、『ドラゴノーシス』って……病気じゃなくて、単なる隔世遺伝、あるいは『先祖返り』の一種だったらしい。
ただ、後天的に発生する上、適合できなくて死ぬ場合もあるから、あえて病気だとするなら……『遺伝子疾患』とでも呼ぶべきものなんかも。
そりゃ、感染なんかしようがないわ。病原体なんてもんはなから存在しないんだから。
「そ、そんなことより……つまりは、『龍の巫女』……『ドラゴノーシス』の感染者は、何代かさかのぼれば龍に行きつく、いわばあなた達の子孫なのだろう!?」
「そうですが……それがどうかしましたか?」
「それを……あなた達は、遠縁とはいえ、血のつながった子孫を生贄にして食らっていたのか!?」
大声で、強い口調で、責めるように言うクレヴィアさん。
その後ろにいる、彼女の仲間達……『籠のカナリア』の面々も、同じのようだ。何も言わないが……その視線には、テオを、いや龍を非難するような意思が見て取れる。
……まあ、この反応も当然と言えば当然だろう。ドラゴノーシスのルーツを聞いた今となっては。
しかし、それに対しても、テオはまた不思議そうにしていていた。さっきとおなじ、『きょとん』な……それに加えて、少し困ったような顔になっていたように見える。
が、その後すぐに『ああ』と何かに気づいたようにして、
「なるほど……人間には、同族の亡骸を食べたりするような習慣もないのですね」
「いや、そんなの当たり前……龍は違うのか!?」
「ええ、私達にとって、死した仲間の亡骸を糧とすることは珍しくありません。というより、当然のようにそうしますね……私も何度か経験があります」
「……っ……!?」
信じられないものを見るような目で、テオを見るクレヴィアさん達。
しかし、テオはそのまま続ける。
「これは多分、価値観、あるいは死生観の違いによるものですから、仕方ないのだとは思います。ですが我々にとっては、仲間の血肉を食べて自らのものするというのは、仲間への供養でもあります。これからも共に生き続けるという意味と、その者が内包していた力を、余すことなく受け取って受け継いでいきつつ、その一部を星にも還元する、という意味もあります」
「………………」
「私も、何かあって、あるいは寿命で死んだ後は、親しい者の糧となり、力になりたいと思っています。考え方の違いですから、分からないとは思いますし……わかってほしいとも言えませんが」
クレヴィアさん達は絶句している様だが……こういう習性、実はそこまで珍しくないんだよな。
人間じゃほぼありえないけど、代表的、ないし有名なところだと……カマキリや蜘蛛なんかがそうだ。
カマキリは、交尾の際、卵を産む栄養にするために、雌が雄を食べてしまうことがある。
ある種の蜘蛛は、母親がお腹の中で卵を育て、生まれた子蜘蛛は、そのまま母蜘蛛の腹を食い破って出てくる。そして、母蜘蛛はそのまま、子供達の最初の食料になる。
こういう、命をつなぐ意味での『共食い』って、動物の中には意外と多いんだ。
その他にも、金魚やメダカが産んだ卵を食べてしまったり(自分が生んだものだってことを認識してないため、ただ単に食べられる物があると思って食べる)、ホッキョクグマが敵対する群れの子供を殺して食べたり、色々あるが……そうなると意味違ってくるだろうし。
テオの言う通り、こればっかりは心情とか価値観次第だからなあ……龍には龍の考え方や文化があるって言われたら、それに口出しするのは違うか。
「……話を戻します。そうして私達は、『龍の加護』に覚醒した者達を、生贄として受け取って来ました。ただし、差し出させていたのは、体が『龍の力』に耐えきれなくなった者……言うなれば、寿命を迎えた者だけです。人間はこれを病と呼ぶこともありましたから……それになぞらえて言えば、『末期に至った者』とも言えるかもしれません」
「そうして、生贄の中に蓄えられていたエネルギーを回収し、『渡り星』に還元していた」
「ええ。恩があったからだとは思いますが、皆、喜んで命を差し出したそうです。もちろん当時、盟約通り、龍達は全力で人間を守っていましたが……しばらく後になって、状況が変わります。龍と人間、双方にとって、予想もしない……そして、好ましくない事態が起こったのです」
「……っていうと?」
「この姿を見ればわかる通り、一部の龍は、他の種族に、体の仕組みも合わせて変身することができます。そしてそれは……人間に限りません」
つまり、人間だけじゃなく……馬や牛、虎やサル……その他色々な動物に変身できる。
そして、そういった動物との間にも子供を作ることができる……ってことだ。
「当時の龍の中には、人間以外とも子を作って、龍の力を持つ動物を生み出させ、それを捕食することで、よりハイペースに力の収集を行えばいいという意見もありました。人間と違って、多くの魔物や動物は成長も早く、体も大きくなりますから。しかし、コミュニケーションを取ることができず、我々の管理下に置けないこと、あまり力を無計画に広めるのはよくないことなどを理由に、その案は却下になったんです。……いえ、そのはずでした」
「……そういう言い方をするってことは、つまり……」
「はい。『龍の巫女』によるエネルギーの回収でも、まだペースが遅いと感じた一部の龍が、独断でその案を実行に移したのです。結果、熊や虎などの野生動物に加え、魔物の中にも、『龍の加護』を持つものが現れ始めました」
最初はそのことについて、確かに前よりもハイペースで力を集められるため、好感触だったが……すぐにそれが間違いだったと気づくことになる。
『ドラゴノーシス』に感染した動物や魔物の増殖を把握できないこと。そして、予想を超えてそれらの魔物が強くなり始めたためだ。
中には、龍を返り討ちにするほどの力を持つものすら現れ始めた。
制御を離れて強力になり始めた魔物達を前に、龍達は……思うように動けなくなる。敵側である魔物や亜人達の戦力が増したことで、人間達との盟約である、守ってやるというのを果たすのも難しくなった。
それには、敵が強くなった以外にも、理由が2つあった。
1つは、地球に降りてこられる龍は、種類も数も限られていたこと。
龍はあの月からこの地球に降りてくるわけだが、移動に耐えられる種族は限られていた。テオの種族である『メテオドラゴン』をはじめ、全体の一部だけがそうだった。
そしてそこから、人間に変化できるものはさらに限られた。
それらの種族だけが、人間と交わって『加護』を持つ血脈を増やすことができ、また地上で人間を守って戦うことができたのだ。
そして限られているからこそ、相手が強力になって返り討ちにされるケースが出てくると、その分、龍側にとっても無視できないダメージになっていた。
そしてもう1つ……あの本にも書いてあったことだが、『ドラゴノーシス』が制御を超えて広がるよりも前に、当時の龍のトップである『龍王バハムート』が死んでしまったことだった。
どうやら、既に龍の中でも高齢だった『龍王』は、突然変異的に魔物の中に生まれた強力な存在と戦い、差し違える形で敗れたらしい。
その後、新たな『龍王』が決まったものの、その『龍王』は、ある理由から月に帰ってしばらく戻って来れなくなった。
加えて、その『ある理由』にも関わりがあるらしいんだが――話すと長くなるからって飛ばして話してた――当時、龍側の戦力がかなり削られてしまい、ますます人間を守るために割ける力が少なくなって苦しくなっていたんだそうだ。
結果、やがて人間を守り続けるのが難しくなったと判断した『龍王』は……盟約を破棄し、眷属達のほとんどを連れて、月に帰ってしまった。
恐らくはそれを、『龍の巫女』や信者たちは、自分達が不甲斐ないから見限られた、と思って……あんなふうに書き残したんだろうな。
「当時の龍達は、盟約を果たせなくなった責任の一端が自分達にもあったと認識していたので、数百年経って自分達に力が戻れば、また地上に降りるつもりだったそうです。しかし、その数年後……突如として、それもできなくなってしまいました」
「……それは、何で?」
「『天領』が消滅してしまったためです。私達龍は、この場所にしか降り立つことができないのです」
空に見える月、もとい『渡り星』は特殊な空間というか力場みたいなものに覆われて守られていて、普通の方法では干渉できないのだそうだ。
単純な話、ロケットを飛ばして大気圏を突破しても、確かにそこにある『渡り星』にはたどり着けない。
この『天領』……というか、この祭壇がある位置からは『渡り星』に向かって力場が伸びている。それは、初代(地球に来てからの、という意味で)龍王が、この地に走っていた『大いなる力の流れ』と、『渡り星』とを結びつけて作ったものらしい。
その力場が道になっていて、そこを通ってのみ、龍は月と地球を行き来できる。
地球に舞い降りる時はこの祭壇に降臨し、月に帰る時はこの祭壇から飛んでいく。
それ以外の場所では、『渡り星』にいくことはもちろん、視認することもできない。
あくまで、『天領』から正規のルートを使って行かなければならない。コレをせずに地上と『渡り星』を行き来できるのは、『龍王』を含むごくごく一部の龍だけらしい。
……だからあの本には、『天領』は龍が降臨する唯一の場所だって書いてあったのか。
そして恐らくは、『大いなる力の流れ』ってのは……『地脈』のことだろう。やっぱり偶然じゃなく、あの『双月の霊廟』は……いや、『天領』は、もともと『地脈』のエネルギーを利用するつもりで、そこに作られたんだな。
『龍王バハムート』すごいな。宇宙から地上の『地脈』を探知できた上、そこに軌道エレベーターみたいなラインを通すことまでやってのけたのか。
だが、『最後の龍の巫女』が、地脈の力も使った『ザ・デイドリーマー』で、『天領』を含む周囲広範囲を封印してしまったため、降り立つ場所をラインごと失った。
それが、テオの行っている『天領が失われた』っていう部分だろう。
「でも最近になって、突如『天領』へ通じるラインが復活したんです。原因は不明ですが……」
「それって、いつぐらい?」
「……半年、は経っていないと思います。そして、その時に復活したラインは、言い伝えにあったものよりも力強く……まだ未熟な私が、こうしてここに降臨さえできてしまえるほどのものでした。そして今回、ラインを通して『祭壇』に何かの干渉があったのを察知して降りて来たのです」
……読めてきた。
ラインの復活……それは多分、この『双月の霊廟』が出現した時期だ。
そして、それを引き起こしたのは……ごく最近起きた地脈の変動だ。
『サンセスタ島』で、地脈の恩恵がなくなったことで魔物達が叩き起こされたのとは逆。ここは地脈の効能がより強力になったことで、『ザ・デイドリーマー』の封印が緩むほどの地脈のエネルギーが流れ込んで……不完全ながら、『天領』が、そしてラインが復活したんだ。
その片鱗が、『双月の霊廟』というダンジョンとなって地上にもつながってしまった。それが……このダンジョンの、本当の意味での正体であり、真実だ。
聞き終えたところで、ふぅ、とテオは息をついた。
「少し疲れました……こんなにたくさん、それも知らない人と話したのは初めてかもしれません」
「あ、ごめん……何か、会ったばかりの君に色々聞いちゃって」
「いえ、私もやりたくてやったことですし……いきなりこうして姿を見せて、驚かしてしまったでしょうから。何か、他に知りたいことはありますか?」
知りたいこと、か……まあ、あるっちゃある。結構いっぱい。
前々から知りたかった、気になっていたこともあるし、今の話を聞いてて、新たに浮かび上がってきた疑問もある。でも、それ全部聞くのもなあ……流石にちょっと失礼だろう。
でも、こんな機会もうないかも……とか思ってたら。
「なんだか、色々聞きたいことは多いけど、遠慮して聞けない、といったお顔ですね」
「…………よくわかるね」
テオにそう言い当てられてしまった。毎度のことながらわかりやすいらしい僕よ……。
隣のエルクから視線が向けられているのを感じる。きっとジト目だろう。ご褒美です。
けど、反対側に立っているクレヴィアさんも、その仲間達もまた、僕と同じように色々と聞きたいことがありそうな雰囲気である。後ろに立っている『邪香猫』のメンバー達の中にも、そういう感じの者は多いと思う。
何せ、今までずっと謎だった『龍神文明』や、それに関連する多くの謎について聞き出せるかもしれない相手だからなあ。そりゃまあ、僕じゃなくても興味津々になる人は多いだろう。
学者であれば知識欲求から、貴族であれば国益のために、その他色々。
師匠なんて……なんか、顎に手を当ててすっごい考え込んでるし……アレ絶対、頭の中ですごいスピードで情報とか整理して聞きたいことまとめてるよね。そう経たないうちに質問ラッシュが始まりそうだぞコレ。
止めるべきか否か……いやでもどっちかっていうと僕も色々聞きたい側なんだが……
けどそれよりも先に、口を開いたのは……テオの方だった。
「ミナトさん……いえ、皆様。それでしたら、私の方から提案させていただきたいことがあるのですが……。かつて、『龍神文明』の時代にやっていたのと同じことをしてみませんか? 先程ミナトさんが言っていた……『ギブアンドテイク』というやつです」
「? えっと……どういうこと?」
「単純に、皆さんのお願いをかなえる……この場合は、質問に答える、でしょうかね。でも皆さん色々ありすぎて、あまりたくさん聞くのを遠慮されていたり、今すぐには聞くことが思い浮かばないけれど、あとで情報を整理してからまた色々と聞きたい、といったところではないですか?」
大正解。100点。察しいいね、テオ。
「それらの質問に、いくつでも、そして今でなくて後ででも私が答えて差し上げます。その代わりに、こちらもきちんと、それに関する対価をいただきたいんです」
なるほど……適正な対価を支払った上で色々聞くんなら、こっちもあんまり遠慮とかせずに、聞きたいことを聞けるな。
テオの方はその結果、時間も手間も食うことになるけど……その分、適正な対価を得ることができるから、損ってわけでもない。うん、いい案かも。
でも、対価って何を出せばいいんだろ? ……流石に生贄とかは無理だけど……
「あははは……違いますよ、安心してください。ちょうど私、頼みたいというか、力を貸していただきたいことがあって……あ、でも結構危険なことなので、もし嫌なら断ってほしいです。地上に降りて初めてできたお友達が死んでしまったら、その方が私、哀しいですし」
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でも、嫌なら断ってもいいと……でもそれだと情報聞けないし……。
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「ええと……なんか、危なそうっぽいけども……頼み事って何なのか聞いてもいい?」
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ますますわからん上に物騒さが増したんだけど!? 具体的に教えてくれ!
「えっと……頼み事っていうのはですね……私、家出したいので、手伝ってほしいんです」
「……家出?」
「はい。家出」
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「……ご家族と、喧嘩でもなされたのか? そうならば、お節介かもしれないが、一度きちんと腹を割って話し合ってからにした方が……」
「いえ、そういう感じではなく……単に私、このままだとなんか殺されそうだなーと思いまして、死にたくはないので地上にこのまま亡命したいなと……」
「もうさっさと全部話せや! 順序良く! 全体像がさっぱり見えねーんだよ!」
「は、はいぃ!? すっ、すいません!」
とうとう怒鳴ってしまった師匠に、テオ、びびる。ごめんね驚かせて……。
でも、正直僕も、意見そのものは師匠に同意でした……わかりにくいもん、テオの話。なんか、遠回りというか……肝心なことを話してない感じがして。
わざとわかりにくくしてる、ってわけでもなく、天然でそうなってるっぽいけど……
びっくりしつつも、息を整えて『えーとえーと』って必死に話したいことをまとめてる様子のテオ。慌ててる様子がちょっとかわいいなとか思ってしまった。ゆっくりでいいよゆっくりで。でもきちんとわかりやすくはお願いね。
「え、ええとですね……順序よくということなので、始めのところから……。まず、1年ほど前の話になるんですが……先代の『龍王』様がお亡くなりになりまして……もうすぐ、次の『龍王』を決めるところなんです」
結構でっかいイベント起こってた。ええと……お悔やみ申し上げます。
「それでですね……先程は飛ばしてしまいましたが、新しい龍王を決める場合、まず、我こそはと思う者が立候補します。この権利は誰にでも認められていますが、ぶっちゃけ弱い若手の龍が出たところで死ぬ未来しかないので、必然、相応の強さを持つ龍のみの戦いになります」
うーん、さらっと言ってるけど、殺し合いするっぽい? 選挙とか、世襲とかじゃないのね。
戦いとか死ぬとか……殺伐。
「そして、出揃った候補者たちで戦い、力を競い合います。負けを認めて降参するか、死ぬかすると脱落です。最後の1体になるまでそれが続きます。ちなみに、敗者が死亡した場合、勝った者は負けた者の亡骸を全て食べて、その力と意思を受け継ぐ義務があります」
ここでも出て来たよ共食い風習……。
「そうして最後に残った1体が、新たなる『龍王バハムート』となります」
さっきちらっと聞いた、本でも読んだ固有名詞も出て来た。『バハムート』って、種族名とかじゃなくて、襲名する感じの名前だったのか。『龍王』は代々その名前なんだな。
「問題はその後なんです。その……まあ、龍王を決める決戦……まあ、言ってしまえば殺し合いなんですが、もうすぐ始まろうとしています。で、今回その最有力候補として目されている龍が……ちょっと、いやかなりアレでして」
「アレ?」
「簡単に言えば、かなりの過激派なんです。自分に逆らう者に対しては容赦しないというか……いえ、龍ってもともとそういう所がある種族なので、あり方としては間違ってないんですけど……アレの場合、敵対してなくても、自分の立場を脅かす可能性がある奴に対しては、恫喝したり痛めつけて忠誠を誓わせたりするんです。誓わなければ殺されたりします」
「うわ、小物感……で、テオも危ないの?」
「はい……自分で言うのもなんですけど、私、結構優秀で強い種族の血筋なので……。というか、既に今もう『忠誠を誓え』だの『妾になって俺の子供を産め』だの言われてまして……」
「うわ、サイッテー……」
「威風威厳の欠片のない龍もいるものなのだな……」
横でエルクとクレヴィアさんが、心底軽蔑する感じの声でそんなことを言っていた。
いや、声に出していなくとも、皆……特に女性陣は同じことを思ってるようだ。師匠すらも。
「で、そいつが今度龍王になったとしたら、自尊心とか血筋とか色々目当てに、今度こそ確実に私のこと手籠めにしようとしてきますし……それでも抵抗したら、それはそれで殺されそうなんです。ぶっちゃけアレの卵産むとか死んでも嫌だけど、かといって死にたくもないしどうしようって」
「それで、ちょうどよくラインが復活した上に、僕が干渉して呼んでたみたいだったのに気づいて、ここにこうして降りてきたと?」
「はい。そしてもういっそ帰りたくないです。私、父も母ももうそいつに殺されていますので、未練とかも特にないですし」
……なるほど、事情は分かった。
つまり、彼女は……このまま『渡り星』にいると、その暴君その者って感じの新・龍王(予定)に手籠めにされるか殺されそうだから逃げたい。知識の提供とかは協力するから、その代わりに逃亡を手伝ってほしいと。
「となると……その、新しい龍王とかから追っ手がかかったりした時に、追い返してほしいとか、守ってほしい、っていう感じになるのかな?」
「いえ、それよりも、どうにかしてこのラインをもう一回、今度は何かの拍子に復活とかもしないように、完全に破壊したいんです」
おー……なるほど。
そうすれば、他の龍は地上に降臨できなくなるから、追っ手もかからないもんな。しかし、中々に思い切ったことを考える……いや、有効な手段だとは思うんだけどさ。
「……それとですね……このラインを破壊した方がいい理由、もう1つあるんです。さっき私が、下手したら人類滅ぶ……って言ったの、覚えてますか?」
「……ああ、言ってたね。それって、テオが逃げたことに対して、その龍王が怒って追っ手を放って襲ってきて……この地上の人類が巻き添えを食うかもしれない、ってこと?」
「いえ、そこはむしろ私も関係ないんです。仮に……や、絶対嫌ですけど……私があいつに忠誠を誓って妾になったところで、あいつは多分地上に攻め込んできます」
「……は? 何で?」
「……このラインが復活したのは数か月前です。そのことは、私だけでなく、あいつを含む多くの龍が知っています。が……もう既に、かつて龍と人類が交流していた時から数万年の時間がたっていますので、トラブルになるくらいならと、今更地上に降りようとする龍はいませんでした」
でも、と続ける。
「このことを知ったアイツが、あろうことか言い始めたんです。自分が龍王になったら、今よりも積極的に、手段を選ばずエネルギーの収集を推し進めて、早く『渡り星』を元通り動かし……星々の海を旅する生活に戻ると。龍という種族の、あるべき姿を取り戻すと」
「……っ……!?」
それって、まさか……
「あいつは……『ジャバウォック』は! かつての龍王が、この星の生き物達を尊重して選ばなかった方の方法を実行に移すつもりです。手あたり次第に動植物を捕食したり、高エネルギーを持つ物質を持ち帰って、星にそのエネルギーを還元する……『渡り星』の燃料となるエネルギーを確保するために、暴力に物を言わせて、この星の全てを食い物にするつもりなんです……!」
……最後の最後に、とんでもない情報がぶっ困れてきた。
え、何? ……こないだ妖怪大戦争が終わったかと思ったら、今度は宇宙戦争(相手:宇宙怪獣)が始まるのか? 1ミリも笑えないんですけど……
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