魔拳のデイドリーマー

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第15章 極圏の金字塔

第271話 船上・海上の戦い

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洋上戦なう。

連邦の国軍の軍艦に乗って、冒険者、傭兵、そして正規軍の迎撃チームが出立したのが、およそ1時間前。

海岸で取りこぼしの魔物たちを抑える組と、沖に出て斬り込む組の2つに分かれた。
僕らは軍艦組。もとより、こっちの方が強力な魔物を相手にする可能性が高いので、まあ当然と言えば当然である。

その他に、クレヴィアさん率いる『籠のカナリア』、あの鬱陶しいチーム『氷の牙』、ハートフル全開の世紀末集団『慈愛と抱擁の騎士団』なんかも軍艦に乗っている。

で、今……岸を目指して泳いでいた『ブルーベルーガ』の群れに遭遇、戦闘中、というわけ。

単に腹が減って餌を求めていたらしいこいつらは、船の上に手ごろそうな餌がいっぱい乗っているのを見て、遠くの餌よりこっちとばかりに襲い掛かってきたので、誘導も何もいらず楽だったけど……さすがに数が数だし、狭い船の上、相手をするのはかなり大変である。

軍艦ってことで、普通の船よりはだいぶ頑丈だとは言っても……限度ってもんはあるしね。

おまけに、海のど真ん中で風も強く、めっちゃ寒いし。雪は降ってないのが救いかな。

それでもまあ……さすがにここまで戦い抜いてきている手練れたちだ。手慣れた感じである。

皆、剣や槍、弓矢に魔法……それぞれ手に馴染んだ武器を使いこなし、1体を相手に2~3人で当たる感じでうまく戦っている。しかも、特に細かい合図もなしに、前衛や後衛のコンビネーションがうまく機能している。

あっちでは大きな盾を持ったタンカーらしき人がひきつけている間に、槍や魔法で横から攻撃して仕留めてるし、

こっちでは魔法で動きを止めたところに弓矢で弱らせ、あとは接近戦でとどめを刺す、っていう感じの連携で立ち回っていた。

「オラぁ! 死ねっ、このデカブツがぁ!」

そんな雄たけびと共に、手にしている剣――いや、それにしちゃ重厚だな……鉈?――を振るうのは、今朝も騒がしかった『氷の牙』とやらのリーダーさんである。

クレヴィアさんも言ってたけど、腕は確かなようだ。
ブルーベルーガの攻撃をかいくぐり、懐に飛び込んで鉈をフルスイング。急所を的確にとらえて仕留めている。

スピーディでありながらパワフルなその動きは、まるで野生の獣のよう。
ランクAAA相当の看板は伊達じゃないってことか……なるほど、普段の素行不良その他はともかく、戦いでは頼りになるようだ。

今も、喉笛を断ち切ったブルーベルーガを蹴飛ばしてどかし、さらに向かってきた1匹の攻撃を盾で受け流し、その隙間をついて首を斬り落としてみせた。

他の冒険者たちと比べても、1つ2つランクが上の活躍を見せている。

一方、船の反対側では……

「呪うがよい! 無知ゆえに、恥知らずにも、吾輩に挑んできた自らの愚かしさを!!」

「ヒャッハー! オラオラ来てみろ獣共ォ!」

「食肉にしてやるぜぇ!」

「片っ端から屠殺だオラぁあー!」

アレな感じのセリフと共に、元気に魔物たちを迎撃している『慈愛(略)』の皆さん。

その中心にいるノウザーさんは、棍のような棒の、両端に巨大な刃がついている変わった武器を手に、襲い掛かってくる魔物たちの真ん中で無双している。

ダブルブレードって奴か? どうみても扱いづらそうな、ロマン武器の類だと思うんだけど……見事に使いこなしている。周囲の状況を完全に把握し、とにかく効率的な取り回しで片っ端から敵を倒しつつ、広すぎる間合いによる同士討ちなんかも起こらないように立ち回っている。
ただひたすらに苛烈……に見えて、この上なく冷静で堅実な戦い方だ。

これは後から聞いた話なんだけど、彼の実力は、うちのシェリーと並んで……いや、キャリアの長さで言えばそれ以上にギルドから評価されており、Sランク昇格の筆頭候補であるらしい。

ただ、彼や彼の部下たちにも共通することなんだけども、大物の討伐とかそういう、大口のポイントになるような依頼・仕事ばかりを好まず……いうなれば『地域に根差した冒険者』って感じの活動がメインであるそうで……そのれが原因で、昇進がやや足踏み状態なんだとか。

その気になれば、すぐにでもSランクの人数が4人に戻ろうものの……彼曰く、

『他者の評価など最初から求めてはおらん。己が理念を貫かんことを邪魔するのは、たとえそれが天意であろうともお断りよ……地に足をついて共にある者達をないがしろにする気はない』

訳すと、

『ランクや武功に興味はない。そもそも自分たちは市井の人々の幸せと安全な暮らしのために活動しているのだから、たとえこの力を評価されていても、そのために自分たちが大切に思っているものに手が回らなくなるようなことになるのは絶対に許容できない』

……ホントいい人たちである。

まあ確かに……強い魔物の討伐とか、そういうあからさまな武勲がなければ、Sランクってあげられづらいからなあ。

それに集中するようなことになれば、確実に今まで通りの活動できなくなるだろうし……加えて、武功でランクを勝ち取ったとなれば、今後も同様の活動を期待されるだろうし。

まあ、そもそも彼らはそこに『興味がない』からこそ、こうして何のためらいもなく、好きなようにやってるんだろうしね。

僕も似たような感じなので、気持ちはわかる。

しかしそうなると……ただ自分たちがやりたいように、地域住民に対する貢献メインの活動を続けて来ただけでこのランクまで来たってのは本当にすごいよな……。

これなら、僕らの出番は本格的にないんじゃないか……とも思ってたんだけど、どうもそれはさすがに虫が良すぎるって話だったようだ。

多い。数が。
『ブルーベルーガ』もだけど……他の魔物もいっぱい出てきた。

大きいものでワイバーンくらいの大きさになり、見た目に似合わない凶悪な足の握力を持ち、嘴と爪の鋭さは鉄製の鎧を貫き、切り裂く巨大なカモメ『プレデタークー』。

蛇かウナギのように長い胴体に、サメとワニを足して2で割ったような頭がくっついており……素早くぬるっと動いて食いちぎろうとしてくる『キラーイール』。

前半分がライオン(ただし手に水かきアリ)、後ろ半分が魚になっており、接近戦に加えて魔法まで使いこなす半獣半魚の魔物『マーライオン』。

海水で形作られた半透明の体を持ち、音もなく忍び寄って奇襲してくる『アクアスライム』。

ピンからキリまで多様な魔物たちが襲ってくるわけだけど……やはりというか、それら全部の相手をAAA以下の皆さんや軍人、傭兵たちができるかと言われれば否である。

なので、ぼちぼちってところで僕らも参戦している。

嬉々として前線に出て、接近戦で魔物たちを切り倒すシェリー、その援護をしつつ、堅実な戦い方で魔物を殴り倒し、蹴り飛ばしているギーナちゃん。

ナナとスウラさんは遠距離からの射撃で対応し、ミュウは召喚獣――間違えて倒されないように、明らかに海では出てこない外見のものを選んで――で迎撃している。

ザリー、義姉さん、オリビアちゃん、その他残りのメンバーは防御主体の迎撃メイン。エルクは戦場全体の把握と、海中から迫ってくる新手の感知に神経を注いでいる。『サテライト』で。

それに加えて、『籠のカナリア』のメンバーも同じような感じだ。
ヴォルフさんは召喚獣で戦い、ザードさんは前線でタンクしつつ&ほかの人たちと連携して迎撃、レムさんは弓で、矢に魔力をまとわせて狙撃、二コラさんは普通に魔法。

で、そのリーダーであるクレヴィアさんは……なるほど、これが『雷光』の名の由来か。

「――ふっ!」

腰に差している剣で戦っているんだけども……それで相手を切っているわけじゃない。
切っ先から電撃をほとばしらせ、超高速でうねるように動くそれを敵に叩きつけている。まるで……鞭みたいだ。

しかもだ……命中の瞬間に、そこに感じる魔力もとい電圧が、数十倍に膨れ上がっている。

(ひょっとして……『先駆放電』と『帰還電撃』の理屈か?)

豆知識。自然界の落雷は、まず『先駆放電』という電気の通り道を作り出し、そこを通って『帰還電撃』が起こるとされている。前世に、何かで読んだ。
前者が準備、後者が本命、という認識でまあ、雑だけど正しいと思う。

それを多分、クレヴィアさんは人為的にやっている。電撃の鞭が相手の体に当たった瞬間……そこを通り道にして本命の電撃を流し込んでいるのだ。

そんな、前世の地球基準でも比較的専門的な知識にあたるそれを、果たしてクレヴィアさんが理解して狙ってやってるのか……はたまた、単に攻撃の威力を増すための戦術として考えただけなのかは、正直わからない。

けど、これにより尋常じゃない威力の攻撃を、無駄なく発生させ……ほとんどの魔物を、見る限り一撃で沈めている。そしてその沈んだ魔物のこれまたほとんどが、黒焦げになって即死だ。
マジで落雷と同等か、それ以上の電圧じゃなかろうか。

2発以上必要としたのなんて……件の強敵『シーサーペント』が出てきた時くらいだ。
それも、胴体に2発入れて動きを鈍らせ、頭に1発入れて完全に動きを止め、そこで初めて普通に剣による物理攻撃。首をスパッと斬り落としていた。

周囲があっけにとられるほどにあっさりと、AAランクの魔物は屍に変わっていた。
これがSランクかと、戦慄していた人も少なくない。

巻き込まれるのを恐れて、彼女の周囲には人がいない。
けど、心配は微塵もいらないだろう……彼女、間合い……というより、最早『制空圏』といってもよさそうな広さのその中に、全く魔物を寄せ付けてないから。
さっき言ったカモメの半分以上は、ろくに近づけもせずに彼女が片づけてるし。

そんでもって僕は……これだけの乱戦だと、ちとやりづらい。
最初は普通に殴るか、『ジャイアントインパクト』系列の技で衝撃波を飛ばしてたんだけど……ちょっと思い付きで、トリッキーな戦い方を試しているところだ。

船の守りはクレヴィアさんたちに任せておけば大丈夫そうなんで、僕はちょっとばかり留守にすることにして……精霊魔法の応用で、船の直上十数mの空中に立っている。

そしてそこから、こないだも釣りするのに使ったあのチート釣り竿で、海の中にいる、あるいは船に上ってこようとしている魔物たちを片っ端から釣り上げている。
餌を使ってじゃなく、釣り糸を鞭みたいに振り回して、獲物に引っ掛けてばしゅっと。

今もこうして、水面下から船に襲い掛かろうとしていた『シーサーペント』の1匹に狙いを定め……針を引っ掛けて一本釣り。空中に引っ張り上げ、そのまま放り出す。

で、そこに……僕と同じく空中で待機していたアルバが、流れるように各種魔法攻撃を叩き込み、瞬殺。落下するころには……あー、今回は風系使ったのか、ぶつ切りだ。
とまあ、コレを10秒に1回くらいのペースでやっている。

……思えば、訓練以外の実戦でこいつと連携して戦うのも久しぶりだな。

こいつを拾った当初こそ、僕が近距離戦担当、アルバが遠距離戦担当、みたいにやってたけど……今となっては、その辺の区分もあんまり意味なくなってるしな。
僕は遠距離での攻撃もできるようになったし……逆にアルバも、近距離戦闘できるし。

今だって別に苦戦してるから役割分担してるわけじゃないけど……これはこれで昔を思い出して楽しいので、このまま行こうか。
どんどんいくぞー、よろしくねー、アルバ。

――ぴーっ!

☆☆☆

で、そのしばらく後になって……奴が来た。

急に、魔物たちの攻撃がまばらになり始め……あっという間に襲ってこなくなった。

これを、攻撃をしのいだんだと思って喜びだした連中と、何かおかしいって思ってより警戒心を高めた連中に分かれた。
なお、前者に『氷の牙』、後者に『カナリア』『慈愛』そして僕ら『邪香猫』が入ってる。

そんな、まとまらない空気の中……沖の方に見えだしたんだなー、奴が。
海面をまくり上げ、白波を立ててこっちに迫ってくる巨体が。

簡単な話だ、魔物たちは……アレから逃げていなくなったんだろう。

「は、は……白鯨龍だぁ―――っ!!」

見張り役の、悲鳴にも等しい叫び声に、騒然となる現場。
しかし、ほとんどは……あらかじめ聞かされていたことでもあるわけなので、すぐに落ち着き――とは言えないまでも、臨戦態勢を整えた。

しかし、こっちに迫ってくるその『白鯨龍』は……今、自分たちが乗っている軍艦と同じくらいか、それよりも大きいってこともあって、それを見て改めて恐れを抱く者も多い。

そんなのを無理に動員しても、足を引っ張るだけ……いや、そもそも、十把一絡げの連中じゃあ、まともにやれても戦力になるかどうかアレだし……

一応、こいつを相手にすることになるかもしれないと告知はあったし、その場合の対応の仕方も事前に皆に教えられてたんだけどね……実際に現場で相対するとなると違うってもんだ。

なので、まとめ役をやることに事前に決まっていた軍人さんが、使えそうな奴とそうでもない奴を選別しつつ配置を素早く決めて伝えていく。

そして、軍艦1隻を前に出し、そこに動かせる大戦力を乗せて迎撃に当て、弱らせたところで後ろに下がらせておいた後発の連中を投入して一気に……ってことになった。
一気に艦隊全部を当てると、士気や戦力がまばらなせいで余計に犠牲が増えると思うので。

で、『邪香猫』と『カナリア』は先発、『氷の牙』『慈愛と抱擁』は後発になった。

腕利きの連中を軍艦に乗せて、こっちに向かってくる白鯨龍と……このままだと正面衝突するコースで航行していく。甲板にいる面々は、緊張に表情筋を引きつらせている。
その眼前で、白鯨龍はそのでかくて長い体の前半分を持ち上げ……

―――ゴォォォオオオ―――――ッ!!!

腹の底から響くような、大音量かつ重厚な咆哮を上げた。

それが合図になったわけじゃないけども、軍艦備え付けの大型バリスタから、次々に矢が発射され、一直線に『モビーディック』に向けて飛んでいく。

その切っ先には、オリビアちゃん特製の『毒』の魔力が込められていて、刺さると同時にその巨体を内部から侵食していくようになっているそうだ。

「いいの? 毒なんか使っちゃって……食肉にもなるんでしょアレ?」

「……昨日のアレで、健啖家だというのは知っていたが……アレを前にしても真っ先に考えるのがそれなのか……いやまあ、確かにそうするんだけれども」

なんか、呆れたような様子のクレヴィアさんに、ため息交じりにそう返される。

「問題なかろう。ウィレンスタットの毒は、毒と言っても魔力だ。完全に術者のコントロール下にあり、時間経過で完全に無毒化するようになっていると聞いた」

「いやそれは僕も知ってるけど……ほら、食べる側が気分悪いかもしれないじゃん」

「そこは『気にするなら食べるな』というしかないだろう……そもそも、あのような巨体を毒などによる絡め手なしで狩ろうというのは無謀だ。体が大きいというのはそれだけで脅威であるし、加えてここは海の上……奴のホームグラウンドだ。使える手は何でも使わねばなるまい」

「ごもっとも……っと?」

その時、視線の先で……白鯨龍が、その巨体をよじって、勢いをつけて跳ね上がった。
前世のテレビで見た、クジラがそうするみたいに……体の前半分くらいを勢いよく海面に出し、海にたたきつけるかのようにして……その衝撃で、巨壁のような大波が起こる。

そしてそれは、不自然なくらいに形を保って、こっちに迫ってくる。この艦を飲み込まんと。
……しかも、波そのものに魔力を感じる。

魔法……と言っていいのかはわからないけど、とりあえずアレはこちらに対する攻撃らしい。

「お、おおおおおおい! こ、こっちに来るぞ!」

「や、やばいだろあんな大波……ど、どうすりゃいいんだ!?」

「落ち着け皆の衆! この軍艦は波浪区域の航行も視野に入れて設計されている! 障壁気候も展開可能だ、簡単に沈むことはない!」

と、統括役の軍人さん。

「……けどまあ、ノーダメージってのはさすがに無理そうだけど」

「だろうな……少しでも威力を削った方がいいか」

と、僕とクレヴィアさんがぼそっと会話。

「どうやって?」

「規模の大きな魔法をとにかく当てる……くらいしか思い浮かばんな。あの波自体が魔力を含んでいるようだから、そこに干渉できれば一番いいが……」

「……なら、ちょっと試したいことがあるんで、やってみてもいいかな?」

「? よくわからんが、少しでも威力を散らせるなら……って、おい!?」

そんな、驚愕した感じのクレヴィアさんの声を背中に浴びながら……僕は甲板を飛び降り、水面を走って大津波に向けて走っていく。

ちらっと見ると、いきなり突撃しだした僕の奇行に、甲板の皆さんは仰天するやら悲鳴を上げるやら……まあ、はたから見たら、自殺行為以外の何物でもないだろうしね。

その皆さんの顔にかぶる形で……僕を追いかけて飛んできてくれているアルバの姿を確認しつつ、もう少しで波に激突するというところで、僕は急停止。

「アルバ、足場よろ」

――ぴーっ!

それだけで察してくれたアルバ。
次の瞬間……僕が魔力で水面に作っていた力場という名の足場が、さらに強固なものになったのを感触で感じ取り……それを蹴って勢いよく跳躍。

眼前に迫る津波。それを……

「アルバ! やれ!」

アルバが練り上げていた氷属性の魔法がはなたれ、直撃。
着弾部分から冷たい青い光があふれたかと思うと……一瞬にして、波全体が氷結した。

「どっせい!」

そして僕は、そこに突っ込んでいって……思いっきり掌底で殴りつける。張り手か?

結果、その背後にいた白鯨龍は……巨大な氷の壁がドミノのごとく倒れこんできて、それに押しつぶされる形に。
恐らくは悲鳴の類であろう咆哮と共に、水面下に叩き落された。

よし、出鼻はくじいてやれたな。

じゃ……始めるか。捕鯨の時間だ。



その後、とりあえず軍艦に近づけないようにしつつ、遠距離からちまちま削っていく……という、当初の方法を軸にして戦いは始まった。

前衛を務めるのは、僕と、ミュウとヴォルフさんがそれぞれ召喚した大型の召喚獣。

ヴォルフさんは、呼び出せる魔物の中では切り札に近いという、4足歩行で有翼の龍『ファフニール』を出して空中からかく乱し、ミュウは僕が『品種改良』で作り出した食用魔物をさらに軍用にカスタマイズした『ネッシー』で海中から。

で、その2匹+アルバに援護を任せて、僕は真正面からぶん殴ってるんだけども。

実のところ……自画自賛だけど、こいつが軍艦にまで迫ってこれないようにしてるのは僕だ。

突っ込んでこようとすれば横から殴って強引にUターンさせ、
噛みついてこようとすれば踵落としで強引に口を閉じさせて叩き落し、
のしかかって押しつぶそうとしてくれば蹴り上げで逆にひっくり返し、
船に近づきすぎたら尻尾をつかんでジャイアントスイングで遠くへFLY AWAY。

全長数十mの巨獣が、その万分の一の体重もないであろう僕に……しかも、徒手空拳で七転八倒させられている光景は、船の上の皆さんが絶句するのに十分だったようで。
途中で、あっけにとられて攻撃の手が止まることも多々あった。

平気だった人らと言えば、『邪香猫』関係者くらいだ。クレヴィアさんすら、何度かぽかんとしていた。

そのクレヴィアさんだけど……彼女も、『ファフニール』と『ネッシー』ほどではないとはいえ、横合いから何度か掩護射撃してくれた。

具体的には、白鯨龍が動こうとしたタイミングで最大電圧の電撃を叩き込んで硬直させたり、僕の攻撃によって大きな隙ができたところで剣を突き立てて電撃を流して内側から焼いたり。

なお、足場にはアルバが作ってそのへんに浮遊させている氷塊を使っている。
表面を乾燥させてある上に魔力で力場を作ってるので、滑りにくい足場となっております。

数mおきにそんなのがあれば、飛び移りながら戦うくらいは朝飯前のようだった。さすがSランク、どんな状況にも即座に適応してみせる。

今も、ボディプレスあるいは津波攻撃の予備動作的に飛び上がった白鯨龍に電撃を叩き込み……硬直したところに僕がドロップキックかましてひっくり返す。はい墜落。

その後、2人そろって着地。
ただし、僕の場合は着水。水面に。そしてそのまま立つ。

「しっかしタフだなーこいつ……でかいから攻撃効いてんのかもいまいちわかんないし」

「間違いなく聞いてはいるだろう。『毒』も繰り返し打ち込んでいるし……そもそも、あれだけの攻撃を打ち込まれて聞いていないはずがないというか……あんな風に『白鯨龍』をぽんぽん殴り飛ばしていることが今でも微妙に信じられないというか……」

まあ、身長数十倍、体重で言えば数万倍くらいはあろう怪物だしね。
でも、できている以上は受け入れてくださいな。

「……徒手空拳で戦うというのは聞いていたが……ここまでとは。なるほど、世界最強の冒険者の肩書は伊達ではないということか……」

「それはまあいいとしてさ……どうする? このまま続けるの? さっきから毒だのバリスタだの電撃だの色々浴びせちゃってるけど、あんまり派手にやると食肉とか素材取れなく……はならないと思うけど、さすがにとれる分がだんだん減ってくると思うよ?」

「……この状況でそんなことを考える余裕があることに驚かされるよ。……というか、もしかしてなんだが……そのあたりを考えなければ、もっと簡単に仕留められたりする……のか?」

「まあ、そりゃできなくもないけど……」

「……本来はそうした方がよいのだ。今でこそ、軍艦にさしてダメージもなくこうして戦えているが、本来あれは数隻の軍艦が沈むのを覚悟で戦うべき天災だからな。素材や肉よりもとにかく命や安全を取るものがほとんどだろうさ、普通に考えてな……」

「そうなの? でも、マジでそれやると素材は大半が使い物にならなくなる気がするし……うちのメンバー、特に師匠とかメラ先生は素材としてまともなのが手に入る前提で考えてるだろうし……粗末にしたら師匠に怒られるし、そもそも研究者兼技術者のはしくれとしては絶対こいつの素材は状態がいいまま手に入れたいというか……」

クジラにしろ龍にしろ、捨てるところがない魔物ないし動物として有名だからなあ……外皮、甲殻、骨、牙、肉、油、内臓……なるべく全部完全な状態で持ち帰りたいのだ。

でなきゃ、とっくに木っ端微塵にしてると思う今日この頃。

あと実は、攻撃しながらその手ごたえとか感触で、簡単に肉体の内部構造とかを診てたりする。

「なるほど……SSランクともなると、コレを前にしてもそこまで余裕があると……私もランクに見合った強さを持っている自身はあったのだが、思ったよりあなたとの壁は大き……」

―――ジリリリリリリリ!

お、スマホに着信。ちょっとまってねクレヴィアさん。
誰だろ……宿にいる師匠からだ。

「はいもしもし? どーしました師匠?」

『どうしましたじゃねーよ、たかが捕鯨にいつまでかかってんだ』

なんか、ちょっとばかり機嫌悪そうな雰囲気の声だった。何ゆえ?

『もうそろそろ昼前だぞ、さっさとそれ持って帰って来りゃ、昼飯にクジラ料理が食えるだろうが』

「あー、もうそんな時間ですか? どうりで小腹が空いたと思った……つか、さっきから電撃で肉が焼ける匂いがちょっとしてきてるんで、余計に……」

『おい、てめー……じゃねーんだろうな、その電撃とか使ったっつーのは。にしても……ったく、食材や素材を劣化させるような真似を容認すんなよコラ。さっさと仕留めて戻ってこい』

「だからこいつでかい分タフなんですよ……素材痛ませないように殴ってるんですけど、なかなかどうにも……こうなりゃ『ダイバー』で……いやでもアレはアレで……」

『やれやれ……弟子、お前まだ頭が固いぞ』

「はい? どういう意味?」

『いいか? お前は要はアレだ。それを港に持って帰って解体して素材にするのに、なるべく損傷を少なくして仕留めなきゃいけないと思ってんだろ?』

「そうですけど……」

『あのな弟子……何で仕留める必要があるよ?』

「はい?」

『だーかーらー……』


………………ああ、なるほど。
そりゃそうだ。どうせ……だし……うん、よし、それならいけるわ。


っと、ちょうどいいところで白鯨龍が復活した。
ナイスなアドバイスをくれた師匠にお礼を言って、スマホの通話を切り、収納。

じゃ、まずは……

「アルバ! 『まな板』お願い!」

――ぴーっ!

「お、おいミナト殿!? 何を……というか、今誰とどうやって話を……」

ちょっとクレヴィアさんの問いかけはスルーさせてもらって、僕は白鯨龍の背後に回り込み……尻尾をつかんでジャイアントスイング。上に投げる。

その瞬間、アルバに海面を凍らせて分厚い板状の氷を作ってもらう。

そこに落下、激突した白鯨龍。当然、大質量の激突で割れる氷。
そこを、さらに周囲の海水ごとアルバに凍らせてもらって……できたのは、巨大な板状の氷の上に乗っかっている白鯨龍の図。

そこにさらに、取り出しましたるはCPUM……『ジェミニ』『リブラ』『キャンサー』。

『リブラ』を使ってアルバの魔力を増幅させ……その状態で『金縛り』と『重力魔法』をかけ続け、氷の板の上で白鯨龍を動けなくしておいてもらう。

その間に、僕が『ジェミニ』を使って2人に分身。
正しくは、僕が自分の体と『ジェミニ』の体の両方を同時に動かす。
さらに、『キャンサー』とも精神を接続して、念じるだけで命令して動けるようにしておく。

さて、さっきも言った通り、こうして、巨大な氷の板の上で拘束されている白鯨龍、という絵面が出来上がったわけだけども……その様は、まるで……まな板の上の鯉。

そして最後に僕が取り出したのは……大型魔物解体用の、巨大な出刃包丁みたいな器具。
もちろん、僕オリジナルのマジックアイテムである。それを2本。

僕と、僕が操る『ジェミニ』がそれを1本ずつ持って、さらにここに、切れ味抜群のハサミを持つ『キャンサー』を助手として迎えて、さらに僕は『ヘカトンケイル』まで装着して……もう何するかわかるね?

『あー、エルク? 船の上の人たちにさ、心臓の弱いひとや気の弱い人は見ないように言ってくんない? ちょっとこっからさき、刺激が強いかも』

『ちょ、あんたまさか、今から、そこで……』

念話で帰ってきたエルクの問いに、肯定で答えておく。

「うん……このまま解体バラす」

別に、仕留めてから解体しなきゃだめなんてこたないんだよね。
素材の破損が心配なら、解体を先にしちゃえばいい、という、師匠からの金言。

どの道、血抜きとかしなきゃいけないわけだし……だったら、ちょうど拘束すれば動けなくなるくらいのダメージ負ってるわけだし、このままここでやっちゃえばいいのだ。

ちょっと残酷な気がしなくもないけど……まあ、これも生存競争の延長上ってことで。

じゃ、解体ショーのスタートだ。鮮度が大事だから、時間かけずにスピーディーにGO!
急げば……昼飯に間に合う!



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