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第20章 双月の霊廟
第470話 ランダムエリア、突入
しおりを挟む豪華だか荘厳だか、何と言ったらいいんだかわからない通路を進むことしばし。
それなりのレベルである魔物達はどんどん出てくるが、特に苦戦することもなく倒して進んでいたんだが……しばらくして、僕らはそこに行きついた。
「えーちょっとコレ……またえらいところに出たな……」
「何、ここ……中庭?」
「あー、まあ、そういうリアクションになるよな……初めてここ来たら
唖然として驚いて、僕とエルクの口からは、思わずそんな言葉が出て来た。
それを後ろから見て、うんうん、と頷きながらいうヴォルフさん。
周囲を見れば……『邪香猫』メンバーは大体僕らと同じような反応で、逆に『カナリア』メンバーはヴォルフさんと同じようなリアクションである。
長い通路を抜けてたどり着いた先にあったのは……どう見ても『屋外』にしか見えない場所だった。
エルクの言葉通り、表現するなら『中庭』とかになるんだろう。周囲を建物の壁その他に囲まれていて、しかし上の方には空が見える。
足元は石造りの床じゃなく地面。草花も生えていて、土の匂いもする。
しかもなんか……通路同様、無駄に豪華な作りである。噴水とかあるし。
……まあ、それだけならよかったんだけどね。ただ単に『中庭あったんだな』ってだけで済む。
ダンジョンってのは結構何でもありな空間であることが多いし、それを作った昔の人の考えなんぞわかるわけもない。構造そのものに疑問を抱くだけ無駄だ。
ただ、このダンジョン……『双月の霊廟』なんだが……僕の記憶が正しければ、こんな『中庭』なんてものはなかったはず、なんだよなあ。
オルトヘイム号に乗ってた時に、このダンジョンの外観については、遠目にだが一応よく見た。
なんちゃら大聖堂的な見た目の、すごく豪華な建物である、ってのがパッと見の感想だったけど……すくなくともその時には、建物の上側には、全面きちんと屋根があって……中庭みたいなものは見えなかったはずだ。
見間違えた、ってことはないと思う。こんだけの大きさの、こんだけ大きく空が見える中庭なんて……遠目からでも十分に気付けるはずだ。
だからこのダンジョンは、ずっと屋内の迷宮的な感じのフロアが続くんだろうな、と思ってたところにこれだもの……そら驚きもする。
一瞬、転移魔法か何かによるトラップで、全く別な場所に飛ばされたのか、とも考えた。『ネガの神殿』の時みたいに。あの時は、太古の魔法人が偶発的に発動したおかげで、海岸地帯から海底にある遺跡型ダンジョンに転送されたんだっけ。
けど、そんな魔法が発動した気配はなかったし、そういうのが作動したんなら、僕らが身に着けている『指輪』その他のアクセサリーの防御機構が作動するはずだ。少なくとも、何も反応せず、抵抗も許さずに転送される……なんてことにはならないはず。
つまりここは、どこか別な場所なんかじゃなく……きちんとあのダンジョンの中。道なりに進んでたどり着いたどこかの空間……ということになる。
……そして、この謎の『中庭』に来て……もう1つ僕、気づいたことがあるんだが……
「なんでこんな、ダンジョンの中に『外』がいきなり出てくるの!? さすがにちょっと、いきなりメチャクチャ過ぎない?」
「このくらいで驚いていてはだめだぞ、シェリー殿。この先へ進めば、もっと度肝を抜かれる場面がいくらでもあるからな」
苦笑しながらいうクレヴィアさん。彼女も、初めてこの謎な空間に出た時は、そりゃびっくりしたそうだけど……何度も訪れるうちになれてしまったんだそうだ。
さっきまでの『通路』然り……この謎な『中庭』は、ダンジョンを攻略するにあたって、重要なターニングポイント足りうる力を、既に持っている。
ふいに、彼女は上の方を……天井ではなく『空』になっているそれを見上げる。
そこに見える『空』は……あるはずのないものであるという以外に、もう1つ、いや2つ、おかしな点があった。
まず1つは、時間だ。
僕らはまだ、日の高いうちからこのダンジョンの攻略を始めた。だから、そんなに時間は経っていない。まだ夕方にもなってないはずだ。
なのに、こうして見える光景は……明らかに『夜』。とっぷりと日が暮れている。
月や星の光のおかげでかなり明るいので、手元足元が見えなくてこまる、なんてことはないけど……一体何なんだろうな、ホントに。この謎空間。
そもそもが普通じゃない空間だから、時間帯何で気にするだけ無駄なのかもしれないけどさ。
そしてもう1つ。これもまあ、時間帯と同じように、気にすることじゃないのかもしれないけど……
(月が2つある……)
恐らくはこれが、『双月の霊廟』という名前の由来になったんじゃないだろうか、という光景。
そのままずばり……空に、月が2つ浮かんでいる。
1つは、普段僕らが見ているのと変わらない感じの月。欠けているところのない、満月だ。
もう1つは、それよりも1~2周りほど大きい月。こちらも満月なんだが、なんというか……妙にものものしい雰囲気があるんだよな。
そうはっきり見えているわけじゃないけど、何かこう……オーラみたいなものを感じるというか、フィーリング的に、凶兆を現しているような気配がすると言うか……
まあ、恐らくはただ見えているだけであろう、作り物の空に対して、こんな詳しく考察しなくてもいいことか。
(……作り物……だよな?)
何だろう……さっきからやけに気になるんだけど。
この光景っていうか……特に、あの2つある月が。それが浮かんでる空が。
……ひょっとして、この空間が『ザ・デイドリーマー』の力を帯びた異空間であることが、その理由だろうか?
恐らくは僕以外、誰もまだ気付いていないであろう事実。僕らが今いるこの場所は恐らく……ここ最近何度もお世話になっている『異空間』である。
ジャスニアの遺跡にあった、『アスラテスカ』が封印されていたアレと同じ感じの場所だ。
ここはそれにさらに、ヤマト皇国で見たあの『凪の海』と同じ、『ザ・デイドリーマー』の気配を感じる。恐らくは、この空間……『異空間』自体に、何らかの影響が及ぼされていると思う。
超古代のトンデモ魔法技術空間に、不可能を可能にするトンデモ能力……そんなもんが組み合わさってればまあ、このくらいの意味わかんない空間にもなるのか。なるんだろうな。
そして恐らくは……これから始まるであろう『ランダムダンジョン』の部分も。
中庭に出た出口の、ちょうど反対側の壁。そこに、僕らが今出て来たのと同じような出入り口っぽい大きな門がある。
クレヴィアさん達によれば、あれこそが奥へと続く道。『ランダムダンジョン』の入り口なのだそうだ。あそこをくぐった先に、どんなダンジョンが待っているか……それは毎回違い、くぐってみなければわからない、ということだ。
ここまで実際に来て、目の前にしているからこそわかる。この空間に、そして何よりも、あの扉の先の空間に……『ザ・デイドリーマー』の力を強く感じる。
ということは……その『ランダムダンジョン』の仕組みはもしかして……そういうことか?
ずっと気になってたんだよな……壁が動いたりして、物理的に構造が変わるとかだけならまだしも……出てくる魔物や内装、トラップの種類やら何やらまで変わるってどういうことなのかって。
プログラム1つで設定やら切り替えが可能なゲームじゃあるまいし、一体どんな仕組みを用意すれば、現実にあるダンジョンでそんなことが可能なのかって。
けど、『ザ・デイドリーマー』が働いてるなら話は別だ。あの力は……大よそ何でもありだ。
あらゆる法則を無視して『穏やかな海』を作り上げていた、ヤマト皇国のあの『凪の海』と同じように……『ザ・デイドリーマー』の力が『ランダムダンジョン』を作り上げているんだろうか。入るたびに中身が変わる、驚愕のダンジョンを。
どういう経緯でこんな空間が出来上がったのか、どんな願いを吸い上げて『ランダムダンジョン』なんてものを作り上げるに至ったのかはわからないが。
(しかしそうなると……本格的にここから先、何が待ち受けてるかわかったもんじゃないな……何度かここに挑戦してるクレヴィアさん達だって、まだダンジョンの全容を把握できたわけじゃないんだし。この『ランダムダンジョン』が形作られる原因になった、願いや思いの内容次第では……超危険な罠や、洒落にならないレベルのモンスターが待ってる……なんてこともあり得るか?)
「力ずくで何とか出来る範囲ならいいんだけど……最悪の場合、『エクリプスジョーカー』で空間ごとぶっ壊してでもどうにかすれば……」
「今度はどういう道筋をたどってあんたそんなおっかないこと言ってんのよ」
思考に没頭していて、斜め後ろからエルクの視線とツッコミが飛んできているのに気づかなかった。いけないいけない、ちゃんと説明しなくちゃね。せっかく気付いたことなんだから。
……『邪香猫』の皆にはいいとして……クレヴィアさん達『籠のカナリア』には、どう説明したもんかな……難しいな、言葉にするの。長くなるし。
☆☆☆
この『双月の霊廟』の、本番とも呼べる『ランダムダンジョン』への挑戦を前に、僕らは一度休憩を取った。
あらかじめ用意しておいた食料を持ち寄って、簡単な食事もとる。ここからは一層戦いが激しくなるだろうし、ここみたいな安全地帯?がまたあるとも限らない。きちんと食べて、体力を回復させておかないと。
ここからは本当に危険な冒険になる可能性だってある……いや、その可能性の方が高い、と言っても過言じゃあない。ピクニック気分で行くわけにはいかないんだ。
「うん、それはわかってるんだが、できるならこの状況で言ってほしくはなかったかもしれん」
「あー、そうだな……説得力とか、色々……うん」
だってのに、なんかクレヴィアさんとヴォルフさんが遠い目になりながら、ほかほか湯気の上がるパイシチューを食べてるんだが……何か気になることでもあったんだろうか?
「いや、気になることしかないんだと思いますよ……?」
「というか今更ではあるんだが、何で私達はこうして、仮にも危険地帯であるダンジョンの中で、パイシチューなんていう手間のかかる凝った料理を軽食として出されて食べているんだ。これむしろピクニックだと言われた方が説得力のある光景だぞ、傍から見たら」
「さっき『ランダムダンジョン』から戻ってきた人達、二度見してましたもんね……」
ニコラさんとレムさんもそんなことを。そしてその隣で、無言で何度も頷くザードさん(無口)。
あー、なるほど……そのあたりか気になってたのは。
僕らが今食べているのは、さっき言ったばかりだけども、パイシチューである。
器に入ったシチューを上から覆うように、サクサクのパイ生地がかぶせられて焼き上げられてる料理だ。スプーンでさくさくと上のパイを崩してシチューに落として食べる。美味しい。
シチューを器に注いでからパイをかぶせて焼き上げるわけなので、1杯1杯作ることになって、やや手間がかかる料理である。確かに、こんな場所で休憩中の軽食で食べるようなメニューではないかな……普通なら。
もっとも、そのへんの『普通』だの『常識』だのって奴をとっくに放り投げて捨ててる僕らからしたら、この程度のことはまあ……今更ってもんなんだけどね。
このパイシチューは、シェーン監修の元で僕が作った、れっきとした野戦糧食の類である。持ち運びも保管も、調理も簡単にできるように、インスタントみたいな感じで作ってあるものだ。
どんぶりサイズの器に、固めたシチューが入ってて、その上にパイ生地がかぶせてある状態で包装されている。
そしてそのどんぶりがマジックアイテムであり、魔力を流すと内側が発熱してシチューとパイを温め、シチューはホカホカのトロトロになり、パイはふっくらぱりぱりに焼き上がる。そして器はほんのり温かくなる程度で、持ってる手が熱くなることはない。
所要時間およそ3分で出来上がる、超お手軽メニューだ。
「なるほどな……そんなものをつくる技術も、ミナト殿にはあるわけか。それゆえに、このような光景が出来上がっているのだな……」
「そして、この程度の光景は、あんたら『邪香猫』にとっては最早驚くようなことではない、と」
広げられたブルーシート(のようなマジックアイテム)の上に、所狭しと並べられた数々の料理を見て、『籠のカナリア』の皆さんは遠い目をしている。
現在、この『即席パイシチュー』の他に、同じく僕らが持ち込んだ『即席パスタ』『即席パーティーオムレツ』『即席石狩鍋』『即席ローストビーフ』『即席生野菜サラダ』『足跡パンケーキ』が用意され、どれもこれも出来立てほやほやの美味しそうな……
「うん、まあ美味しそうなのは認めるけどな? 限度ってあると思うんだわ。何でこんなあの……これから危険なダンジョンに挑むって時に、ちょっとこじゃれたレストランでも行かないと食えないようなメニューが並んでるのかっていうな? 美味いけども、雰囲気とか気分とか……」
「いいじゃないですか、美味しくて腹も膨れれば、それすなわち士気高揚にもつながるってもんでしょ」
少なくともまずい携帯食料か何かを食べて、さあ頑張ろう、なんて空元気出すのよりずっとマシでしょ。
「というか、100歩譲って……シチューやロースト肉はいいとしてもだ。ただ作り置きを温めるだけで、パスタやオムレツ、パンケーキがこんな見事に出来立て感を保って持ち運べるものなのか……? あと、この生野菜はどう見ても新鮮そのものなんだか、どうやって保管してたんだ?」
「その辺はまあ、超低温で急速冷凍とか色々と工夫しまして。あと、パンケーキは焼く前の生地を入れてて、器の過熱で焼き上げてるんでホントに今出来立てなんですよ。野菜は、水耕栽培の要領で、器に魔力を流すと水と栄養を吸収して即座に収穫可能なところまで成長させるようになってまして、あとはそれを摘み取って盛り付けてこんな感じです」
「出来立てどころか採れたてだったのかよ」
すごいでしょ。『ユグドラシルエンジェル』のネールちゃんの協力で実現した『インスタント生野菜』。僕の自信作の1つです。どこでも新鮮な野菜が食べられますのよ。
今のところ、キャベツとか一部の種類のみでしか成功してないけど、いずれはもっと種類増やす予定だ。
何か皆さん、ダンジョンに入る前に、心身共に休憩するつもりで食事にしたら、別方向から疲弊させられた、みたいな微妙な顔になってしまっていたけども……さすがにそこはSランクの冒険者チーム。不測の事態にもすぐに順応し、『気にしない』ことで対処したようだ。純粋に美味しいご飯を体力・気力回復の手段として受け入れている。
うちのチーム……『邪香猫』は、まあ、そんな切り替えなんていちいち必要ないくらいには平常運転だけどもね。もう、このくらいでガタガタ言うよーなのはうちにはいません。
普段の住環境がもう、大分自重棄ててるからねえ……今更、今更。
それに何度も言うけど、これから挑戦する場所は……『ザ・デイドリーマー』っていう、とびっきりの『否常識』が焼き付けられている……ホントのホントに何が起こるかわからない場所だ。
ランダムに、入るたびに中身の全てが変わる……それだけでもありえない、理不尽そのものな話だったけど……最悪の場合、それだけじゃ済まないレベルの何かが待ち受けている可能性すらある。『ランダムダンジョン』すらも、その片鱗でしかない可能性がでてきているのだ。
肉体労働がメイン仕事の冒険者だけあって、線は細くても皆さんきっちりガッツリ食べる。
用意したインスタントフルコースは、全て奇麗に僕らの腹に収まりました。
さー、十分休憩もとったということで……行きますか、いよいよ。
このダンジョンの本丸こと……『ランダムダンジョン』のエリアに。
☆☆☆
で、外の入り口以上に重厚で荘厳な扉をくぐり、『ランダムダンジョン』に足を踏み入れた僕らを待ち受けていたのは……あまりにもいきなりな歓迎だった。
「……ド初っ端からコレなの?」
「これは……私達としても初めてだな、こんな……いくら何でも意味不明なレベルの構造は」
「構造の問題じゃないだろ、最早……」
『ランダムダンジョン』は、入るたびに内部の全てが変わる。
遺跡のようになっていることもあれば、豪華な宮殿のようになっていることもある。水気の欠片もない砂漠のような状態のこともあれば、水没した洞窟になっていることもある。
それに合わせて魔物も変わる。
ここまでは事前に聞いていたし、覚悟もできていた。どんな風になるだろうと思っていた。
それに、外側からでは『サテライト』による探知もできなかったからな。
阻害されているとかじゃなくて……ホントに入るまで何もわからない、というか、入って初めて構築・確定されるとかそんな感じなんだろう。
なので、どんな風になってても受け止めて、それに合わせて最善を尽くしていくつもりだった。
……でもちょっとコレは流石に予想外だわ。
「何、ここ……闘技場?」
面食らった様子でエルクが言った通り……ゲートをくぐった先にあったのは、いわゆる『闘技場』を思わせる、だだっ広い空間だった。
学校のグラウンドみたいな乾いた硬い土の地面。それがかなり大きく円形に広がっていて……それを囲むように、観客席が設置されている。いかにもな『コロッセオ』って感じがする空間だな。
しかも、観客席は超満員で……何万人いるかわからない人が、歓声を上げながらこっちを見下ろして、戦いが始まるのを待っているときた。
「何で、ダンジョンの奥に、こんな空間が……というか、こんなに人がいるんでしょう……!?」
「……いや、ありゃ全部幻影だ。動いて騒ぐ、単なる賑やかし役の……投影されてる幻だな」
困惑して呟くナナだったが、即座に師匠がその正体を看破して言った。
僕も、見てすぐに分かった。あそこに……観客席に見えてるのは、本物の人間じゃない。ゴーストやファントム、ゴーレムみたいな、擬態タイプの魔物ですらない。
あそこには誰もいない。アレは全部……ホログラムみたいな幻の観客だ。
一体何であんなもんが用意されてるのかはわからないけど……まあ、考えても仕方ないだろう。
それよりも問題は……闘技場で待ち受けている、幻じゃないものの方だろうし。
闘技場は、僕らが今入って来たものも含めて、4方向(恐らくは東西南北)にゲートが設置されていて……残る3方向のゲートからも、何かが現れるところだったのだ。
現実世界の『コロッセオ』がそうだったように闘技場ってのは、人と人の、あるいは人と獣の戦いを観戦する場所だ。現実だろうが創作物だろうが、そのへんは変わらない。
つまり、あれらのゲートから出てくる存在は、僕らの『対戦相手』と見て間違いない。しかも、4つ全部同時に開いていってるってことは、バトルロイヤル方式だな。
向かって右のゲートからは、頭が三つある犬、あるいは狼の魔物『ケルベロス』が姿を現した。
強靭極まりないと一目でわかる巨躯の肉体に、生半可な刃物は通さない強度を誇っているであろう漆黒の毛皮を併せ持ち、飢えているのか、目は血走っていて涎をぼたぼた垂らしている。怖。
反対側、向かって左のゲートからは……こっちも獣系っぽい見た目だが……違うな、どっちかっていうと悪魔系だ。ヤギの頭に、人間の肉体(上半身)。背中には蝙蝠の羽、下半身はこれまた獣……毛皮に覆われて蹄がついている、異形の魔物……『ミクトランデーモン』。
左右から出て来たこの2匹も、どちらも区分はSランクで十分にヤバいが……個人的には、一番ヤバいのは、正面のゲートから出て来た最後の1匹だと思う今日この頃。
二足歩行の人型のトカゲ……あるいは龍、と表現できる見た目をしていた。
細身ではあるが、その肉体には信じられないほどに高密度の筋肉が搭載され、超合金をも容易くしのぐレベルの、漆黒の鱗と甲殻の装甲に覆われている。爪と角は琥珀色に輝いていて、キレイではあるが危険で凶悪な光を帯びていた。
……僕ら『邪香猫』の、特に初期メンバーにとっては……見覚えがありすぎる魔物である。
「『ディアボロス』……!」
「しかも、黒い鱗に琥珀の爪と角……『亜種』だ。そして成体だね、この大きさだと」
推定SSランクの怪物が、ド初っ端からコンニチハだよ……どうなってんだこのダンジョン。
ランダムルートの大外れ引いたとしても、限度ってあるんじゃないのか。殺しに来てるとしか思えない布陣だ……。
ホント、この先どうなるんだか……。
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