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第20章 双月の霊廟
第468話 同盟結成
しおりを挟むSランク冒険者チーム『籠のカナリア』。
主に『フロギュリア連邦』を拠点として活動している彼女達だが、別にそこでしか活動しない、依頼を受けないというわけではなく、結構自由に他の国に行ったりもしているらしい。
『ネスティア王国』に来るのももちろん初めてじゃないし、ギルドで調べれば、彼女達が成した『功績』と呼べるものをいくつも見つけることができるだろう。
そんな彼女達は、今回、他のクエストの関係でこの国に来てたらしいんだけども、何か面白そうなことになってるってことで、この『ダンジョンラッシュ』の調査に、自分達も名乗りを上げたんだそうだ。
『暗黒山脈』の調査をすることに決めたのは、ギルドに持ち込まれている報告の中でも、特に危険度が高いエリアでのものだったことと、位置的に比較的『フロギュリア』に近い場所だったから、っていう理由だそうだ。
で、クレヴィアさん達はそうしてこの『双月の霊廟』に挑んで……そのとんでもない内部構造の秘密にぶち当たった。
繰り返し潜ってみたはいいものの、Sランクチームである彼女達をしても容易ではないその難易度に、攻略は足踏み状態。
先日ついにメンバーに怪我人も出てしまい、このまま闇雲にアタックし続けても攻略は難しいと判断。
最寄りの、というかこのすぐ近くにある町に戻ってその怪我人を宿に預け、自分達も一旦休息を取ることにしていたそうだ。
「で、気晴らしに散歩でも、と歩いていたところで……見覚えのある空飛ぶ船を見かけてね。来てみたら案の定だった、というわけだ」
「あ、じゃあ、ザードさんがいないのってやっぱり?」
「ああ、探索で出た怪我人というのが奴のことだよ。役割柄、誰よりも多く魔物の攻撃にさらされることになるからな」
フロギュリアであった時には一緒にいた、色黒の人間の、無口な男性のことを思い出す。このチームのタンク役だったからな……前に出て、構えた盾で敵の攻撃を受け止めるのが仕事だ。
そりゃ負担も大きかっただろう……毎度相手が変わるようなダンジョンじゃ、特に。
「別にそこまでケガはひどくない。医者にも見せたが、数日大人しくしていれば問題なく治る程度のものだそうだよ。本人もケガより退屈な方が辛いと言っていた」
「それはまあ……よかったですね。大事ないみたいで。あ、それじゃあクレヴィアさん、ザードさんが治ってからダンジョンアタック再開する予定なんですか?」
「そうだが……先程も言ったが、正直な話、このまま続けても攻略は難しいだろうと思っていた所だったんだ。これを見てほしい。これまで、計6回にわたって私達が『霊廟』に潜ってみての所感や情報をまとめてみたんだが……」
それを読ませてもらったところ……なるほど確かに、相当にこのダンジョン、難易度が高そうだな、っていうのが見てわかる。
出てくる魔物のランクは、下は木っ端程度のFランクやEランク。しかし、上をみればAAやAAAランクの奴らまで普通に出てくる。中には、未だかつて見たことも聞いたこともないような魔物も出たことがあるらしい。
奥に行くほどどんどん強くなっていく。そして、この迷宮自体、どのくらい深いものなのかがわかっていない。イコール……最終的にどのくらい強い敵が待ち受けているのかもわからない。
まあ、大体のダンジョンは、探索開始当初はそんなものではあるんだけども……それでもそういう普通のダンジョンは、『何度も繰り返し挑戦して、情報を集めながら少しずつ攻略していく』っていう方法がとれるから、時間と人手をつぎ込めば、大概の場合、いつかは踏破できる。
けどこのダンジョン最大の特徴である、『構造や出てくる魔物が毎回変わる』っていうとんでもない性質がそれを阻んでいるわけだ。
結果……まあ最初からわかっていたことではあるけど、『ぶっつけ本番の1回の探索で全クリするしかない』という結論になる。なってしまう。
「正直、私達が挑戦で来た中で、もっとも深くまで行った時でも……どちらかと言えば苦戦、辛勝だったと言わざるを得ない。その時は幸いというか、私に相性のいい、水生生物系の魔物が出るダンジョンだったんだが……」
「それでも、地下4階まで潜るのが精一杯でした。というか、毎回地下に行くか地上に登るか、あるいは階段がなくひたすら奥に行くか……そんなレベルで構造が変わるので、階層の数に恐らく意味はないんですけど」
クレヴィアさんに続けて、二コラさんが言う。次いで、ヴォルフさんやレムさんも、
「最後に戦った魔物は、『シェルドラージ』って奴だ。それは、クレヴィアが前線に立って何とか倒したんだが、アレであの迷宮の底を見た気にはどうしてもなれねえ。あれ以上の魔物が、下手したら群れを成して襲ってくるとなると……俺達じゃとても無理だ」
「リーダーに相性のいい、水属性の魔物が出てくる場所でそうだったとなると、安定しない環境下に置かれるあそこで、これ以上の探索は……率直に言って、私達のチーム単独では不可能ではないか、と話していたところだったのだ」
そりゃまた……一番奥まで進めたからこそわかるってことか、このダンジョンの底知れなさが。
しかも『シェルドラージ』って確かあの、トカゲとヤドカリを足して二で割ったような奴だよな……ランクAAAの。そんなのが、普通にとは言わないまでも出てきたわけだ
その時点で、普通の冒険者チームには攻略はどう考えても無理だな。AAAと言えば、1匹で小国1つを下手したら滅ぼせるレベルだし。
皆で読んでいいというので、クレヴィアさんにもらった資料を、エルク達も含めた皆で読み進めている。そこにはいくつか、クレヴィアさん達が体験したわけではない……他の冒険者チームから聞いたらしい情報も書き込まれていた。
もうここには、のべ50を超える冒険者チームや、多くはないけどソロの冒険者も挑んでいるのか……それら全体の半分くらいが、『ランダム』になる領域まで進んでいる。そして現在のところ、わかる限りでは、同じ構造パターンになったという報告はない。
属性とか出てくる魔物くらいは、同じような感じになったところもあるらしいけど、ダンジョンの構造は本気で毎度毎度変わってしまうようだ。
そこに規則性はない。一定のパターンで属性が巡ったりしているわけではないらしい。
共通点があるとすれば、難易度自体はどんな構造でも大きくは変わらないところ。
そして、ある程度奥まで進まないと『ランダム』にはならないところか。
入り口から入ってある程度までは、いつ誰が入っても構造や出てくる魔物は同じ。
しかし、その範囲でも決して出てくる魔物は弱くはなく、『ランダム』の領域に行く前に引き返す冒険者やチームも決して少なくはない。
そして『ある程度奥』まで進み、『ランダム』の領域に入ると……そこから危険度が跳ね上がる。
仕掛けられているトラップや、出現する魔物のランク。それらが一気に上がるため、壊滅状態になって戻ってくるチームや、戻ってこないチームも少なくないそうだ。
クレヴィアさん達の感覚では、共通のエリアが大体ランクにしてB寄りのCくらい。『ランダム』に入ると、少なくともA、くらいにはなるらしい。悪辣な差だな。
そして最終的には、AAAランクの魔物すら出てくるレベルになると……ホント何なんだここ。
「それで本題だが……どうだろう、ミナト殿? このダンジョンの探索、協力して当たらないか?」
あらかた資料を読み終わったくらいのタイミングで、クレヴィアさんはそう切り出した。
「ミナト殿らには及ばないとはいえ、私達も腕には覚えがあるし、そうそう足手まといにはならない。役に立てる自身もある。もっとも、このダンジョンに関しては、先に何度も挑戦しているという点が、残念ながらノウハウにはなりにくいのだが……」
「いえ、心強いです。えーと、皆、いいかな?」
「いいんじゃない? 頼もしいし、信頼もできる相手だし」
と、エルク。他の面々も、反対はないようだ。
それを見た上で、クレヴィアさん達に『よろしくお願いします』と返事をすると、彼女達も安心したような、あるいは嬉しそうな表情になった。
こうして僕らは、『邪香猫』と『籠のカナリア』の合同チームで、前代未聞のランダム構造ダンジョン『双月の霊廟』の攻略に当たることになった。
タイミングとしては、ザードさんの怪我が治って万全に戻ってから。大よそ3日後くらいから。
それまでは僕らも、その町か、あるいは『オルトヘイム号』で待機かな……と、思ってたんだけど、
「ただ、1つの可能性、ないし選択肢としては……ザードの復帰を待たずに、我々だけで挑戦するというのもアリだと考えている」
「え、どうしてですか?」
ザードさん待たないの? チーム組めたからって、それはちょっと冷たいんじゃ……なんて思ったんだが、どうやら、戦力とか人数、それにケガとはまた別の理由らしい。
「実は……最後の、ザードが負傷した探索の時に、奴の装備も破損していてな。鎧は少しの修繕で使えそうなんだが、一番重要な……守りの要である盾が、いささか不安な状態なんだ」
「町の鍛冶屋にも見せたのですが、すぐに修理は難しいそうです。希少な魔法金属も使っている、特注品なので……応急手当で使えないこともないのですが、また、あのレベルの魔物を相手取ることを考えると……」
「万全の状態……いや、よくを言えば、より強化するくらいのつもりでないと厳しいだろう。一応、予備の盾もなくはないんだが、性能は数段落ちる。どちらにしても……というところだ」
「なるほど……タンクが防御面で不十分っていうんじゃ、そりゃ連れていくのに不安しかないわね……最悪、むしろ味方の足を引っ張ることになりかねないし」
それで、ザードさんはリタイアかな、って考えてたわけか。理由としては納得だな。
「でも、ダンジョン自体は……構造にもよりますけど、内部はかなり広いんですよね。なので、ある程度の大人数でも探索はできそうなんです。それこそ……ここにいるメンバー全員でも」
と、ニコラさん。
聞けば、少し前にはもっと大規模なチームが……5チーム合同、30人規模での探索が行われたこともあったらしい。
その時も、きちんと各々考えて動きさえすれば、人数の多さが邪魔になったりはしなかったそうだ。
そうなのか……すると、できるならザードさんも参加できた方がいいってわけか。
ええと、現時点でのメンバーは……僕ら『邪香猫』からは、僕、エルク、シェリー、ザリー、ナナ、ミュウ、サクヤ、師匠、セレナ義姉さん、それにアルバ。
『籠のカナリア』からは、クレヴィアさん、ヴォルフさん、レムさん、ニコラさん、あと一応ザードさん。と、ギルドの担当のジャネットさんか。
クロエやネリドラ、シェーンはもともとバックヤード担当だし、船の留守番を任せるつもりだったから、除外だけど。リュドネラもだ。
計15人……と、1羽か。ダンジョン探索としては、これまでで最大クラスの大所帯だな。
「そうだ、ミナト殿。あまり頼りすぎるのはよくはないと承知しつつ聞くんだが……フロギュリアの『ルルイエ』の時にいた、クローナ殿の知人だという方々は、今回は不参加なのか?」
「ああ、テレサさん達か……師匠、どうします? 声かけます?」
難易度的には未知数だけど、確かに『面白そう』なダンジョンではあるからな……そういうの好きそうな面々だし、一応読んだ方がいいかな? 母さんはじめ、『女楼蜘蛛』の方々も。
と、思ったら師匠が、
「いや、必要ねえ。というか、俺がすでにここ来るより前に声かけといたんだが……全員都合悪くてダメだとよ」
「え、そうなんですか?」
いつの間に……つか、聞いてないんですけど。何、ここでいきなり合流してくる可能性もあったのそれ?
……いや、あの人達が何の前触れもなく突然やってくることなんて、割かしいつものことと言えばそうだけどさ……特に母さん。
「しかし、最近皆さん忙しそうですね。……ぶっちゃけ、多少の用事ならぶっちぎって、こういう面白そうなダンジョンとかの探索行きそうなのに」
「まあ、基本気分屋な連中だからな。その時その時で優先順位変わるし……別に、冒険ばっかりが好きなことってわけでもないから、おかしくもない。エレノアとかはその筆頭だな。孫が可愛くてひたすら猫かわいがりし続けてるらしい」
「そっか。師匠も研究に没頭するとその他一切後回しというか、眼中になくなりますもんね」
「まあな。それに……」
? それに?
「後から色々やるために、今、色々と準備してるような気配の奴もいるしな……アイリーンとか」
何やら考え込むような目をしつつ言う師匠。
え、何それ怖い。何か企んでんのあの人?
よくわからんけど、こっちに何か被害的なものが飛んでこないことを祈ろう。
けどそれなら、今回の探索は、今いるメンバーだけでよさそうだな。
戦力的にも、役割のバランス的にも、いい感じのメンバーなんじゃないか? ちょっと分野分けしてまとめて見ると……
近距離:僕、シェリー、セレナ義姉さん、ザードさん
遠距離:ナナ、アルバ、クレヴィアさん、ニコラさん
遊撃 :エルク、ザリー、サクヤ、レムさん
その他:ミュウ、ヴォルフさん、ジャネットさん、師匠
うん、バランスいいな。
ちなみにクレヴィア達の『担当』のジャネットさんは、剣も魔法も使えるオールラウンダー的な感じだそうなので、この区分である。ミュウやヴォルフさん共々、全距離に対応できるから。
師匠は……ホラ、あの人あんまりこういう区分とか意味ないくらいには強いし。
僕もどっちかっていうとその区分かもしれないけどね。マジックアイテム使えば、遠距離だろうがいくらでも対応できるから。
あ、そうだ、マジックアイテムで思い出したというか、思いついたというか。
「クレヴィアさん、提案なんですけど……ザードさんの盾、直せそうなら僕が直しましょうか?」
「何、ミナト殿が?」
「……そう言えばミナトさんって、マジックアイテム技師としても一流でしたもんね」
クレヴィアさんに加えて、ニコラさんも思いだしたように言う。
それならザードさんも安心して今回の探索に復帰・参加できるだろうしね。そのくらいは協力させてもらうけども、クレヴィアさん達さえよければ。
「それはもちろん、頼めるならありがたいが……修理のための素材がな……。拠点に帰ればともかく、今手元にないんだ」
「んー……もし、僕らが手持ちで持ち歩いてるもので足りれば、そこから出してもいいですよ? 流石にそうなると、ただってわけには行きませんけど」
「それはもちろん……というか、修理は無償でやる気だったのか? いやまあそれなら助かるが……ザードの盾は、先程も言ったが、かなり希少な魔法金属も使っているんだが……」
「例えば、どんな?」
聞いてみたところ、ミスリルや煉鉄を筆頭に、色々と確かに希少な金属が並んだ。
それら全てが大量に必要、ってわけじゃないだろうが……なるほど、普通の冒険者なら、持ち歩いてないどころか、持ってもいないし、見たこともないものがほとんどだろう。
けど……
「あ、それなら何とかなりそうですね。今言ってたものなら割といっぱいあるんで」
「…………いっぱいあるのか」
「はい、いっぱいあります。あ、どうせなら強化とか一緒にします? 今聞いたラインナップに組み合わせられそうな他の素材も色々ありますけど……」
「……た、例えば?」
「オリハルコンとか、アダマンタイトとか。あとは……ちょっとならヒヒイロカネとかジョーカーメタルも使えますけど。宝石系なら『ニミュアンバー』とか『虚無の黒真珠』、『プリズムダイヤモンド』とかお勧めですね」
「……すまん、魅力的ではあるんだが……支払いができなくなりそうだからやめておく。とりあえず、修繕だけで頼む」
微妙に声を震わせながら、クレヴィアさん、そう言って来た。あら、そりゃ残念。
その後ろの方では『伝説の金属とか秘宝ばっかりなんですけど……持ち歩いてるって……』『しかもそれら使って装備作ってくれるとか言ってたんだが……』『というか聞いたことない素材も何個かあったんだけど』とか言ってるし。聞こえてるんだけどなー。
……まあ、常識的に考えてぶっとんだ提案だったかな、ってのは僕としても自覚なくはないんだけど……そのくらいでちょうどいいとすら思える場所に挑戦するんだから、決してふざけたり、冗談で言ったつもりはないんだけどな。きちんと1つの選択肢として提示したつもりだ。
とりあえずじゃあ、盾は直す方向で。
その他準備とかじっくり進めつつ、打ち合わせとかも適宜やりながら、探索実行の日を待ちましょうかね。あー、楽しみだ。
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