魔拳のデイドリーマー

osho

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第20章 双月の霊廟

第466話 『地脈』の知識と、奇妙な報告

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「ああ、『地脈』ね、もちろん知っとるよ?」

「そんなあっさり!?」

「いや、わかったのならよかったじゃない」

 えー、『ヤマト皇国』行きを決意してから数日後。

 僕らは、『キョウ』でタマモさんに会い、その数日後、約束を取り付けて『リューキュー』へ行き、『鳳凰』のおばあさんに会って……『地脈』というものについて知っているか聞いた時の会話である。普通に知ってました。

 念のため、僕らが捜している『地脈』ってものが具体的にはどんなものなのかを伝えて――同じ単語でも意味が違ったりする可能性を考えて――再度聞いてみたけど、どうやら間違いなさそう。
 マジか……あっちでは名だたる研究者や研究機関ですら、その存在すらろくに知らなかったものを……すごいな、ヤマト皇国。というか『鳳凰』さん。

 いや、手がかりが見つかったのはよかったけどさ。純粋に。
 これで『地脈』を研究できるとっかかりができたってもんだよ。

「まあ、聞く限り……ミナト君達大陸の者達は、そもそもそういうことに向いてないようだから、仕方ないだろうねえ……いいかい、『地脈』に干渉するにはね……『霊力』か『妖力』を使う必要があるんだよ」

「え、そうなんですか!?」

「そうさ。『地脈』の力は……説明が難しいんだけど、言うなれば『命の力』とでも言うべきもの。それに何かしらの形で干渉するには、こちらも『命』につながる力を使う必要があるんだよ。……それでも大変だけどね、干渉はもちろん……知覚することすらも」

「なるほどな……そういうことなら、今まで一向に研究やら何やらが進まず、観測すらされなかったのも納得だな。そもそもアルマンド大陸には、『霊力』なんてもんを使える奴はいないからな」

「『陰陽術』はこの国特有の技法ですからね……あれ、でも、『サンセスタ島』にいた魔物たちは? あれらも『霊力』や『妖力』を使えるわけじゃないですけど、『地脈』のエネルギーを吸収したりして利用してましたよ?」

「そりゃ多分、直接『地脈』に干渉したわけじゃなく、こぼれて漏れ出た力を吸っていただけなんだろうさ。『地脈』の本流からこぼれ出た力は、しばらくすると周囲の属性に染まって……その分、少しだけ扱いやすくなるんだよ」

 すらすらと鳳凰さんの口から出てくる、『地脈』の関連知識。

「聞けばそのなんとかって島は火山の島なんだろう? そこで漏れ出た力なら、ほどなくして火の属性に染まったはずだ……それなら、溶岩の中に眠っていられるくらいの妖怪なら……ああ、そっちだと魔物だったかね。取り込んで利用できる奴もいるかもしれないね」

 なるほど……するとあそこに眠ってた魔物達は、『地脈』を感知していたっていうより、そこから漏れ出た力が、あの火口周辺にたまって利用できることを知ってた、ってとこなのか。

「ちなみに、この『ヤマト皇国』にももちろん『地脈』はあるよ。細々としたものばかりだけどね。昔はもっと大きなものが通っていたようなんだけど……あたしが生まれた頃……ざっと6000年ほど前にはもう、その名残が感じられる程度になってしまっていたね」

「へー……でも、そういう言い方をするってことは、やはり『鳳凰』さんは『地脈』を感知できるんですね」

「ああ、感知するだけで干渉はできないけれどね。話を聞いているに、ミナト君達は、『地脈』を観測する方法を知りたいのかい? 教えてもいいが……どうしてか聞いてもいいかね?」

「あ、はい。実はですね……」

 かくかくしかじか。

「……なるほどね。他にも『地脈』を利用して眠っている、危険な魔物がいるかもしれない。それをそのままにしとくのは危ないから、どうにかして見つける手がかりが欲しいと」

「考えすぎだったならそれで全然いいんですけどね……ただここ最近、こうも立て続けに『地脈』が絡んでると思しき異常事態が発生してるとこ見ると……どうしても懸念は消えなくて。同時多発的にこんなことが起こってること自体、偶然じゃないんじゃないか、とも思いますし」

「……確かに気になるわね。普段と違うことがいくつも同時に起こっているのなら、往々にしてそれらの間には相関関係があるものよ。楽観視していいものではないわ」

 と、タマモさんも同意見のようだ。

「環境の変化によるものか、はたまた別な何か……魔物とかの影響か……あるいは、人為的な理由か……そのあたりの調査も並行して行うことを進めるわ」

「前2つはともかく、人為的ってのは流石に……いや、でもやりそうな連中居たわ……」

 世界に破壊と混乱を巻き起こそうとしてる、悪の秘密結社が……。うわぁ、やってもおかしくないよあいつらなら……。
 『地脈』を利用して休眠してるヤバい魔物を覚醒させて暴れさせるとかしても……いやでも、今回調査した場所に、そんな感じの痕跡はどこにも何もなかったな。違うか?

 ……まさか、地脈そのものを動かしてってわけじゃないだろうし……それは不可能だって、鳳凰さんも言ってたもんな。

 ……でも、今回のことは違っても、今後そういう事態が起こらないとも限らないっていう懸念は生まれてしまった気が……いや、そんなのは元々か。
 元々何するかわからない連中だったし、今さらだ。警戒はするけど、そこまで過度に考える必要はないだろう。

「まあそれはいいや、今は。それで鳳凰さん……その『地脈』の見つけ方とかを教えてもらいたいんですが……可能でしょうか?」

「構わないよ。ただこれは、ちょいと才能も重要になってくる分野でね……そこは少し懸念かね」

「才能……っていうと? 具体的には、どんな?」

「『地脈』の感知は、言ってみれば自然の力そのものを理解するのと同じ。仕組みは単純だし指南もできるけど……習得できるかどうかは感覚がものをいう。自然界に存在する……そうだね、精霊の類を感知したり、それに干渉したりするような才能があればかなり有利なんだけども……」

「ああ、そうなんですか……それなら多分大丈夫です」

 そういうの多分、『霊媒師シャーマン』にとっちゃ得意中の得意だから。
 しかし、やっぱ『霊媒師』と『陰陽師』の能力、相性いい部分多いな。お得。


 ☆☆☆


「ちょ~っと最近仕事忙しすぎな気がするなぁ……何でこんなに厄介事ばっかり報告上がってくるのやら」

 ところ変わって、ここはネスティア王国はウォルカの町。
 その中心部にある、冒険者ギルド本部。

 そこで、次から次へと持ち込まれる書類に目を通し、処理していくのは、まだ10代かと思うほどに年若く見える女性。
 しかしその実、年齢は優に3桁を超え、100年以上の長きにわたり『ギルドマスター』の椅子に座り続けている女傑、アイリーンである。

 実務能力はもちろんのこと、冒険者にとって最も重要になると言っていい戦闘能力においても、今なお『世界最強クラス』と言って差し支えないレベルに君臨している彼女だが……そんな彼女にしては、性格的な意味でも珍しく、疲れたような様子になっていた。
 憂鬱そうな態度を隠そうともせず、はぁ、とため息をついて……机の上にいくつも積み重ねられている書類の束を見る。

「単なる環境の変化や、モンスターの生息域の移動ならまだしも……こんな、マジに『異常事態』と言うしかないような事態が……まあ、新発見の類も合わせてとはいえ、こんなに一気に……」

「ギルドマスターも、やはり不自然に思われますか」

「コレ見て不自然に思わないようなアンポンタンはこのギルドに、少なくともフロアチーフ以上の地位にはいないと信じたいもんだね」

 さらさらと書類に何事か書きこんだうえで、ギルドマスター専用のハンコを押し、それを『処理済』と書かれた箱に放って入れ、次の書類に手を伸ばすアイリーン。
 もう今日だけで何十回と繰り返した作業。部下であるバラックスと喋ったり、ため息をつきながらもよどみなく動いていたその手と目が、不意に止まった。

 興味深いものを見つけたか、あるいは何かに気づいたかのように、1枚の書類に目を向けたまま、動かず止まっている。
 それに気づいたバラックスは、

「どうしました、ギルドマスター? 何か気になる報告でも見つかりましたか?」

「……ああ、そうだね。ちょっと、いやかなり気になるものを見つけたところだよ、今」

 そう言って、アイリーンは手にしていた書類を、歩いてデスクの傍まで近づいてきたバラックスに見せる。
 バラックスが受け取ってそれを見ると、それは、昨今話題になっている『ダンジョンラッシュ』……その、異変が起こっている場所の1つに関する報告書だった。

「『常夜の谷』ですか。確かここは、今まで全く未確認だったダンジョンが突如出現した場所でしたね……ん? しかしこの内容は……」

「……バラックス、これ以外の『常夜の谷』に関する報告資料、下でチェックする前のものも含めて全部持ってきてくれるかい?」

「……かしこまりました。10分ほどお待ちください」

 そして、10分後。
 バラックスはギルドの事務処理部門に顔を出し、アイリーンの注文通り、『常夜の谷』に関する報告資料を全て、職員による内容の精査等がまだ済んでいないものも含めて全て回収。
 それをひとまとめにして、アイリーンに提出していた。

「ご苦労さん。……随分あるね、しかも日付が結構前のものまで。こんだけあってボクのところには、今日まで1つも回ってこなかったのかい?」

「それは……情報の真偽に関しての精査が非常に難航していたためであるようです。何分、それら全て、内容が……」

「ああうん、わかってるよ……想像ついてたしね。しかしまあ……なるほどねえ……」

 言いながらアイリーンは、束ねればそこそこの厚みの本が1冊できてしまいそうな量の、何十枚もの資料に、素早く目を通していく。

「……うん、コレはそりゃ精査に時間かかるはずだ……見事なまでに内容がバラバラだね」

「はっ、左様で……そのために情報が錯綜し、真贋の確認に非常に時間と手間を要している、という現状であるとのことでした。ゆえに、報告として上げることができなかったと」

 アイリーンが手元に持っている、『常夜の谷』の新ダンジョン(まだ名前なし)に関する調査結果が記された、何十枚もの資料。
 そのほぼ全てで……見事なまでに内容がバラバラで、一貫性どころか共通点が皆無なのだ。

 ある資料には、非常に入り組んだ迷宮のようになっていると記されていて、ある資料には一本道の荘厳な神殿のようだったと記されている。
 
 ある資料には階段のない、階層1つだけのダンジョンだと記載があり、別な資料には、地下に続く階段がいくつもあって何層あるかわからないとあった。
 
 ある資料にはアンデッド系のモンスターがわらわらと出て来たとあり、ある資料にはスライムやゴーレムといった魔法生物が待ち構えていたと、ある資料には虫や植物の魔物がひしめいていて、ある資料には、迷宮の大部分が水没していて水生の魔物が待ち受けていたと……エトセトラ。
  
(そりゃーこんなん見たら、正確な情報がどれかわかるまで上げるわけにはいかない、ってなるよねえ。……この子らが行ってくれてたことに感謝だね。おかげで気づけた)

 ギルドに提出された情報は、当然ながら、全てがギルドマスターに報告としてあげられるわけではない。それよりも下の部署で幾重にもチェックされ、整えられた状態で回ってくる。
 中には、ギルドマスターまで回すほどのものでもないということで、各部署で決済を終えて処理されるものもある。いや、むしろそちらの方が多いと言えるだろう。

 新しいダンジョンなどの重要な情報については一応前者なのだが、それでも情報の真贋に関して精査もされていないものを上げるわけにはいかない。ゆえに、これらの書類は今まで1枚もアイリーンの所まで回ってこなかった。

 アイリーンが目にしたのは、偶然この国に来ていたSランク冒険者のチーム『籠のカナリア』から提出された書類である。

 前述の通り、基本的に全ての書類は下の方から順に決済や確認などの作業・処理が行われ、それら全てを終えてからアイリーンにまで回ってくるわけだが、例外的に、AAA以上の高ランク冒険者から提出された資料の中で、『非常に重要』『緊急の対応を要する』といった内容のものについては、具体的な中身にもよるが、間の手続きを飛ばして、そのギルドの上役の元に、最短距離で届けられることがある。
 ここ最近で持ち込まれたミナトからの報告書類も、その多くはそうしてアイリーンの元に届いているのは余談だ。

 そして今回は、『籠のカナリア』のリーダーであるSランク冒険者『雷光のクレヴィア』から持ち込まれた報告書がそうしてアイリーンに届いた。
 その中身を読んで、アイリーンは『常夜の谷』のダンジョンにおける異常事態……いや、ダンジョンそのものの異常性に気づけたのだ。


「複数回ダンジョンに入って無事生還している彼女達だからこそ気づけた異常性だね……これは。まさか『入るたびに中身が変わる』ダンジョンとは……」


 クレヴィアの報告書にあった『異常』とは、1回目に入った時と、2回目に入った時とで……明らかにダンジョンの中身が違っていた、というものだった。
 それはもちろん、3回目、4回目も同様である。

 内部の構造、環境、ギミック、出現する魔物まで……まるで、全く別の場所、別物のダンジョンであるかのような変わりようだった。前回入った時の経験が全く役に立たず、毎度初めて訪れるダンジョンを攻略しているかのようだった……と。

「『ランダムダンジョン』とでも名付けるべきなのかな……面白いもんがあるもんだ」

「にわかには信じられませんな……まさか、そのようなダンジョンが存在するなど……今までに聞いたことも……」

「ああ、間違いなく前代未聞だよ。トラップか何かで単に構造が変わるだけならともかく、生息している魔物やら何やらまで変わってしまうなんて……一体どういう仕組みになってんのか想像もつかない。それに……入るたびに内部構造が変わるんじゃ、マッピングも意味をなさない。時間をかけて、回数を重ねて攻略する、なんてこともできないね」

「つまり、ぶっつけ本番の探索で、1度も出ずに一気に踏破する必要がある……と。しかもこの、出現した魔物のデータを見るに……難易度は計り知れませんな」

「構造が変わるのは、ある程度奥まで進んだ地点かららしい。そこまでは毎回同じ構造……でも、そこに至るまでに出てくる魔物もかなり高レベルで、大半の冒険者はそこまでたどり着けないで引き返してくる。しかし、それ以降に足を進めた冒険者は……」

「その『それ以降』はさらに難易度が跳ね上がるがゆえに、多くは壊滅状態で命からがら戻る。戻ってこなかった者達も多数……それゆえ、2度目以降の挑戦をする者がほぼ皆無……ですか」

「そのせいで、最初の1回だけの探索経験しか報告に上がってこず、真贋の確認に手間を取られていたわけだ。まあ、まさか『全部違うのに全部本当』なんてそりゃ、わかるはずもないからねえ……現地で実際にそうなってるっていうのを、見た者がいなけりゃ」

 先程までの疲れたような様子は、最早なくなっていた。
 とても面白いものを見つけた、とでも言うように……アイリーンは、手元にあるクレヴィアからの報告資料を何度も読み返していた。

 そして、一言一句余すことなくその内容を頭に叩き込むと、

「バラックス、コレ、どうするのが正解だと思う?」

「……情報の真偽が確認でき次第、公開することにはなるでしょう。その危険度や攻略の困難さを十分に知らしめた上で、ですが。ランクはざっと……AAA、いや、Sランクといったところかと」

「だよねえ……どう考えても、半端な腕の冒険者が挑んでいいようなダンジョンじゃないぜ、コレ」

 そこまで行って、ふぅ、と一息つくアイリーン。そして、

「ちなみにさあ、バラックス……あくまで冗談として聞いてくれればいいんだけども」

「はい?」

「……この面白そうなダンジョン……ボクが入ってみちゃダメかな?」

「……そのお言葉が『あくまで冗談』であったことに、私は今、心より安堵しております」

 と、バラックスの、言外に『ダメに決まってるだろ』という意味の込められた返しに……先程までとは全く違う理由で、アイリーンは面白くなさそうにした。

「……やっぱダメ?」

 まるですねた子供のように、未練たらたらに行ってくるアイリーン。
 バラックスはこの『大きな子供』状態の上司を前に……今度は、彼がため息をつく番だった。

「当たり前でしょう……ご自身の立場をお考え下さい。以前、休暇を取ると言って『アトランティス』なる未知のダンジョン、ないし遺跡を訪れた際も後始末が大変だったのをお忘れですか? 変えの利かない御身でそのような危険な場所に赴くなど……関係各所への説明がどれだけ……」

「はいはい、わかってるよ、覚えてるよそれは……心配しすぎなんだよ、あの時も思ったけどさあ……自画自賛を承知で言うけど、ボクはそんなに弱くないってのに。たかだかAAAランクの魔物がいるようなダンジョンごときで死ぬはずないだろうにさ」

「そういう問題ではありません……今言ったばかりですが、立場をお考え下さい。実力に関しては何も反論のしようがございませんが……今あるダンジョンの探索は、現役の冒険者の領分です。……我々老骨の役目は、そんな若者達を支えてやること。それを理解されているからこそ、貴女は100年前……『ガラじゃない』などと言いながら、この地位につくことを了承されたのでしょう?」

「……それを言われるとねえ……」

 はぁ、と何度目かになるため息をつきながら、アイリーンは書類をしたためていく。
 ギルドマスターの指示として、その謎の『ランダムダンジョン(仮)』の調査を進めて報告するように、という、近傍のギルドへの指示書を作り、ハンコを押すと、それをバラックスに差し出す。

 バラックスはそれを受け取ると、この指示書の送付を含め、迅速にこの案件に関する対処を進めるべく、関連書類の一切を持って部屋を後にした。

「やれやれ、バラックスの奴……」

 そして、執務室に1人残されたアイリーンはと言うと……先程までに引き続き、面白くなさそうな、退屈したような表情のまま……ぽつりぽつりと、独り言つ。



「……もう何十年もボクの部下やってるってのに……まーだわかってないようだなあ、ボクの性格のことも、考えてることも……やっぱアレ、本気にしてたのか」



 表情ひとつ変えず、しれっとそんなことを言っていた。

(……自由にやるっていう方針を謳いつつも、ボクら『女楼蜘蛛』もまた、ギルドには随分お世話になってたのはわかってた。だからその方針を理解して、まあ、恩返しの意味もかねて、この地位についた……っていうのは別に嘘とか。間違いじゃない……けど……)

「役目だの、立場だの……そんなもんでボクら『女楼蜘蛛』が、己の欲望ってもんを抑え込んで、公に尽くすような……そんなお利口な集団だとでも思ってんのかねえ、あの小僧は? 相変わらず、頭の固い……老け込んだのは外側ばっかりかい?」

 にやり、と、
 口の端がつり上がるように動き……その顔に笑みが浮かんでいく。

「ああ、そうとも……あの小僧は、私達『女楼蜘蛛』のことを、まだまだわかっちゃいない」

 それはまるで、悪戯を計画する悪ガキを思わせる……しかし、この女性が一体どこの誰で、何ができる力を持っているのかを正確に把握している者が見れば……背筋が寒くなるような『危険な』笑みだった。

「ま、でも今回は我慢してやろうかな……いきなりのことだったし、ここで好き勝手やって方々に迷惑かけるのもねえ……後が余計大変そうだし。それに……まあ何だか、コレだけで終わりそうにないような予感もするしぃ……! 今回のコレが何かの予兆だとしたら、今後もっと色々……」

 アイリーンは、その座り心地のいい椅子の背もたれに体を預け、リラックスした姿勢になると……左右に視線を動かし、この100年ずっと縄張りとしていた、見慣れたどころではない執務室の風景を眺め……

「……いーかげん、恩も返したと思うし、潮時かねえ……? くすくすくす……」

 誰に聞かれることもなく、そう、ぽつりとつぶやいて……嗤った。



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