魔拳のデイドリーマー

osho

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第20章 双月の霊廟

第463話 サラマンダーアンデッド…?

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 さて……ここでいったん、『サラマンダーアンデッド』という名の種族について振り返るというか、あらためて確認してみようと思う。

 『サラマンダーアンデッド』は、その名の通りアンデッド系の魔物で、全高数十mにもなろうかという巨大な黒い骸骨の体に、屍肉のような赤いものがどろりとまとわりついて、ごぼごぼと泡立っているという、中々にグロテスクな外見をしている。
 ……遠目に見れば、そんな感じで『うわ、気持ち悪』とか『怖! デカ!』という感じの感想に落ち着くだろう。実際僕も、初めて見た時はそう思った。

 が、戦うためにそいつの近くまでいくと……それどころではない。高確率でそんな感想は吹っ飛ぶ。
 そして、思考はほとんど1つ……『熱い』という感想で統一されることだろう。他のことを考えている余裕がないほどに。

 ただひたすらに……『熱い』。それしかなくなる。いやホントに。

 そもそも『サラマンダーアンデッド』は、さっき言った通りアンデッド系の魔物なんだが……見た目通りの、骨と屍肉の体を持っているわけではない。
 あれは見た目だけだ。外見がそれっぽいだけなのだ。

 黒い骨のようになっているのは、冷えて……はいないけど、固まって固体になった溶岩である。
 そして赤い屍肉のようなドロドロは、溶けていてまだドロドロの溶岩だ。
 要するに、固まった溶岩と固まっていない溶岩が、骸骨っぽい形になってるだけなのだ。

 ならこいつアンデッドじゃなくて『魔法生物系』なんじゃないかと思うかもだが、最初に言ったように、こいつはれっきとしたアンデッドだ。

 こいつの本体は、大量の溶岩と同化している怨念の集合体なので。

 だから、溶岩の体を動かしているその怨念をどうにかしないことには、いくらそれを破壊しようが(そもそもそうすること自体至難の業だが。硬いし熱いしデカいし)倒せない。破壊した部分から溶岩がボコボコとあふれ出し、形をとってすぐに再生する。
 その上、体を構成する溶岩は、溶かすも固めるも自由自在なので、かなり柔軟に形が変わり……腕が長くなったり、爪が鋭くなったり、大量の溶岩をそのままぶつけてきたり、火山弾を無数に飛ばしてきたり……変幻自在、厄介極まりない。

 その怨念だが……一説には『サラマンダーアンデッド』は、火山災害で大都市一つが一夜にして壊滅し、1人残らず焼け死んだその町の人々全員の怨念から誕生した、と言われている。
 そして、その逸話は本当なんじゃないかってくらいに、強力な怨念を宿している。半端な光魔法や浄化魔法くらいじゃ全然効果はない。

 広範囲、高威力、超重量、超高熱の攻撃が怒涛の勢いで繰り出されるのに対し、こちらからの有効な攻撃手段が酷く限定されるという理不尽の塊。それが、『サラマンダーアンデッド』という、ランク測定不能の魔物なのだ。
 まさしく災害そのもの。というか現象的には、実際に火砕流が意思を持って動き出したようなもんであるし……普通の冒険者では、遭遇した瞬間に死が確定すると言ってすらいい。逃げ出すことすら用意じゃないからな、こいつの攻撃からは。

 ……さて、ここまでは僕らも事前に知識のある範囲である。
 
 というのも僕、以前――それこそ、『ヤマト皇国』に行くよりもさらに前だ――別なクエストで行った先でこいつに既に遭遇しており、そこで、やや苦戦はしたものの、倒すことに成功している。
 そしてその際に回収した素材をもとにした研究の成果として、ミシェル兄さんが『サラマンダーアンデッド』を召喚できるようになっている。超がつくくらい魔力食うけど。

 なので、そうして研究まで済ませている分、こいつについては並み以上には知識とか理解はある……つもりだった。

 しかし今回僕は、出現したその『サラマンダーアンデッド』を見て……その瞬間に、どうやらまた1つ賢くなってしまった。
 いや、なんというか……見た目がさ。見た目一発、そのー……

「……『サラマンダーアンデッド』って……人型だけじゃないんですね、初めて知りました」

「……まあ、遭遇する機会自体、そうそうねえ魔物だ。研究だって進んでねえし……そりゃ無理ねえだろ。俺も初めて知ったよ……つか、アレ何て呼べばいいんだ?」

「見た目一発ドラゴン……の、骨ですから……『サラマンダーアンデッドドラゴン』、とか?」

 そう……今、僕らの目の前にいる『サラマンダーアンデッド』は……骸骨は骸骨でも、人のそれの形をしていない。
 鋭い爪と牙、前後に長く、角の生えた頭蓋骨、背中から生えた羽(骨だけど)……どこからどう見ても……ドラゴン、の骨である。

 人間の骨格ではなく、ドラゴンの骨格を模した『サラマンダーアンデッド』なのだ。

 感じ取れる怨念の反応とか、その強力さからして、『サラマンダーアンデッド』なのは間違いないんだけど……こんなのがいるとは。師匠も初めて見るって言ってたし……世界は広いんだな。

「しかしコレ、何か理由があってこんな形してるのかな?」

「理由って、例えば?」

「例えば……人間の怨念から生まれると人型になるけど、ドラゴンの怨念から生まれるとドラゴン型になる、とか?」

「……案外ありそうね。さっきからコイツ、ただ前に見た奴と形が違うだけ、って感じじゃないもの。しっかり攻撃の手段も、ドラゴンっぽいのがってまた来た回避!」

 と、義姉さんが言ったと同時に……目の前にいる『サラマンダーアンデッドドラゴン(仮称)』は、すううぅう……と、息を吸い込むような動作をする。

 さっき言ったように、こいつの体は骨だけで、しかも骨ではなく岩石なので……息を吸い込む、なんて行動に意味はない。空気を吸い込んでためておく肺なんてないわけだし。

 しかし、次の瞬間には……その体中の溶岩から発生させた火山ガスを、まるでブレスのように吹き付けて攻撃してくる。
 ぶっちゃけコレ、本家本元のドラゴンのブレスより凶悪だ。熱量も上だし、火山ガスが含まれてるから有毒で、しかも可燃成分に引火してさらに熱量大きくなってるし。
 
 しかもその直後、その大質量でどうしてそんな動きが可能なんだ……って聞きたくなるような行動に出た。
 背中の翼を羽ばたかせて、飛翔した。そのまま、高速でこっちに突っ込んでくる。

 しかし、その飛び姿は優雅さとは程遠い。体中からぼとぼとと屍肉……に見える溶岩が零れ落ちてあたりを焼き、羽ばたくたびに溶岩が飛び散ってあたりを焼き……グロいし危ない。そして熱い。

 それを回避すると、今度は尻尾を薙ぎ払って攻撃してくる……うーん、確かに、見た目に目をつぶれば、ドラゴンの行動パターンそのものだな。

 コレはひょっとして、ホントにあるんじゃないか? さっき義姉さんが言ってた……ドラゴンの怨念が集まってできたからドラゴンの骨の形になってるっていう説……。
 何かしら、ドラゴンの要素が入ってでもいなければ、こんな動作はしないだろうし……

 それを調べるためにも……

「ちょっとびっくりして思わず観察とかしちゃってましたけど……これ以上暴れさせると後が面倒ですね、さっさと倒しますか……!」

「そうだな。ぼちぼち地形も変わっちまって来てるし……熱いし……」

 と、回避に専念するのはやめて、『サラマンダーアンデッドドラゴン』に向き直る、僕と師匠。
 他のメンバーには……ぶっちゃけ荷が重いので下がっててもらって……アルバには、皆を戦闘の余波から守るためのバリアと、他の魔物の乱入を察知・防止するために『サテライト』を展開しておいてもらうことに。

 で、僕は、こいつを相手にするなら……コレだな。
 左腕に『エンドカウンター』を出して……文字盤の『11』をタッチ。

「フォルムチェンジ……『ハーデスフォルム』!!」

 顔の左半分を覆うドクロの仮面をはじめとした、スカルアクセ風のデザインに、黒の法衣を纏った……『死神』イメージの強化変身。アンデッド特効の『ハーデスフォルム』に姿を変える。
 手に持った大鎌『ヘルズゲート』はすぐさま変形させて、刃付きの脚甲になった。

 師匠は別に変身はしないけど……武器を持ち換えた。
 収納アイテムから取り出したのは……日本刀。ただし、明らかによくないオーラを纏っている……おそらくは、いや、間違いなく『妖刀』とかそういうカテゴリーに属するであろうそれ。

 あー、あれよく見たら、こないだ『妖刀・耳長切』を解析して一緒に作った奴だ。
 『陰陽術』の術式をいくつか組み込んで作った、斬りつけると同時にえげつないくらい大量かつ凶悪な呪いが降りかかるようになってる奴。確か名前は……『妖刀・呪薔薇』。

 それぞれ、非実体のアンデッドにも問題なくダメージを通せる装備を身に着けて……あ、せっかくだから今回は僕は……

『久しぶりに手、貸してもらっていいかな、テラさん?』

『おー、いいぞいいぞ、どうせ暇じゃしの。ちょっくら食後の運動と行くか』

『食後なのか……了解、よろしくね』

 『ハーデスフォルム』の能力の1つ……憑依強化によって、遠く離れた『アトランティス』にいる、『エターナルテラー』のテラさんに協力を要請。装備越しに僕に取り憑かせる。
 丁度暇だったらしく、快く了承してくれたので……テラさんの能力をその身に宿し、ますます対アンデッドに強化した状態で、咆哮を上げて飛びかかってくる『サラマンダーアンデッドドラゴン』に向き直った。



 ――で、まあ終わり、と。

「案外あっさり終わったな」

「まあ……姿かたちと攻撃手段以外は、普通の『サラマンダーアンデッド』と同じですしねえ……それなら、宿ってる怨念全部削り切れるまで殴ったり蹴ってれば終わりますから」

 はい、倒しました。『サラマンダーアンデッドドラゴン』。

 こいつの厄介なところは、高熱と巨体による攻撃性能、そして『怨念が本体』っていうことによる不死性だからね。
 前者はかわせばいいし、後者はそれを問題にしない攻撃手段があれば、普通に戦える。僕の『ハーデスフォルム』と、師匠の妖刀なら、通常攻撃で十分削り切れるってわけだ。今は特に、テラさんが宿ってくれてるから、対アンデッド性能倍増しだからね。

 ひたすらかわしながら、殴って蹴って砕いて……の繰り返し。それだけで、まるでHPを削るかのように怨念を消し飛ばし、そぎ落とし……最終的に、存在を保てくなった段階で残りの怨念が消滅。その場で溶岩が形を崩し、溶けて、砕けて、大地に散った。

 が、その前に、怨念も溶岩も(溶けてる方も固まってる方も)きちんとサンプルは採取しておいた。この後解析して、色々調べなきゃいけないからね。
 ……念のためもうちょっと持って帰ろうかな。めっちゃいっぱいあるし……

『しかしお主ら、またけったいなもん相手にしとったのう……炎の龍の体を持つ亡者なんぞ、わしも流石に初めて見たぞい』

 収納用のケースにマグマや岩石を集めて回収していると、僕越しにこの場の光景を見ているテラさんがそんなことを言って来た。

 テラさんでも知らないのか……そういえば、テラさんもこいつと同じように(?)無数の怨念が寄り集まってできた魔物だったよな。

 テラさんの場合は、『アトランティス』の地下にあるカタコンベ(巨大墓地)で、数万の怨念が寄り集まって生まれたんだっけか。そして、そのもとになった人達の記憶や知識を全て受け継いでいるから、『アトランティス』から出たことがなくても、色んな事を知っている。

 まあそんなテラさんでも、当然『知らないことは知らない』よな……とか思ってたら、それに続けてテラさんがこんなことを。

『ふむ……しかし今の亡者、ちと妙じゃったの』

「? 妙、って?」

『どうにもな……怨念そのものの量は大したものじゃったが、蓄えておる力が妙に新鮮というか……穢れてもおらず、純粋に強かった、という印象でな。アンデッドっぽくないというかな』

「へー、そんなのわかるんですか。……依り代が死体とかじゃなく、溶岩……自然物だからですかね?」

 流石にシャーマンの力を使っても、エネルギーそのものの……何て言ったらいいんだ、鮮度? みたいなものまでは測れないしなあ……というか、そんなものがあるなんて考えてもなかったかも。

 というか、テラさんの今の口ぶりだと……アンデッドって、瘴気とか怨念はわかるけど、エネルギーそのものも穢れてるってことなのか? 本来は。
 けど、あの『サラマンダーアンデッドドラゴン』にはそれがなかった。つまり……どういうことだ?

『まるで、常に外部から新鮮なエネルギーを供給されていたような……そういえばこの島自体も、どうやらそういった『力』に満ち溢れておるようじゃのう。地面から噴き出している溶岩も、単なる自然現象ではないようじゃし……この島、『地脈』でも通っとるのか?』

(……地脈?)

 えっと、確か……ききおぼえのある単語なような、そうでもないような……何だっけ?

『ねえテラさん、その……『地脈』って?』

『うん? 何じゃ、知らんのかミナト。地脈というのはな……』

 この時、テラさんに聞いて学ぶことができたこの知識から……一気に謎が解けていき、そして、事態は加速していくことになるということを……僕はまだ、知らなかった。



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