魔拳のデイドリーマー

osho

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第19章 妖怪大戦争と全てを蝕む闇

第435話 ミナトVSキリツナ

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「しゃあっ! どんどん来ォい!」

 燃え盛る炎の翼を纏ったシェリーが、剣の一撃で『邪気』を纏った鬼を両断する。
 切り付けた傷口から炎が吹き上がり、肉片一つ、血の一滴も残さず燃え散らせた。

 別な方向から襲って来た鬼に対しては、金棒の一撃をひらりとかわし、その横っ腹に剣の柄を叩きつける。その衝撃でうずくまり、動きが止まったところに剣を振り下ろし、首を落とした。

 その屍を踏みつけて跳躍し、空から襲い掛かろうとしていた別な……蝙蝠のような妖怪を貫いて落とし、落下しながら……回転しながら、周囲に爆炎をまき散らした。跳躍した際には既に練り始めていた魔法の炎は、周囲で彼女を取り囲んでいた妖怪達の大半を焼き尽くす。
 しぶとく生き残っていた妖怪には、炎を収束させた投槍で今度こそ焼き作るか、近くにいた場合は直接斬り捨てた。

 またたく間に彼女の周囲は、消し炭と化した敵の妖怪達で埋め尽くされた。

 一息ついたところで、ふぅ、とシェリーは呼吸を整え……気持ちを落ち着かせるように、空を見上げて何度か深呼吸する。
 呼吸が落ち着いていくのに伴って、シェリーがまき散らしていた殺気や威圧感といったものも徐々に収まっていき……そして、その体から立ち上っていた黒い『邪気』も大人しくなっていく。

 つい数秒前まで、自らが纏う炎と同じように、激しく迸るような『邪気』を纏っていたシェリーは、指輪の『収納』にいれていた薬を1つ、口に含んで噛み砕いた。
 体を覆っていた『邪気』の一部が剝がれ、霧散していく。

 その様子を横で見ていたナナが、近づいてくる鬼を早撃ちで仕留めながら尋ねてくる。

「……どんどん黒くなっちゃってきてますよ……大丈夫ですか、シェリーさん?」

「あっはっは、大丈夫大丈夫。大したことないって、ほら私、元から黒いし……ってまあ、冗談はこのくらいにして……ちょっとだけきつくなってきたかもね。衝動的にというか、本能に後押しされて剣を振るう割合が増えて来た……ように感じる。思考力は普通に残ってんだけどさ」

 元々が戦闘狂であるシェリーは、『邪気』との相性が『悪い意味でいい』。戦場で、『邪気』を纏う鬼達を斬れば斬るほどに、彼女の体に『邪気』が蓄積し、心身を蝕んでいく。
 力が落ちることはないが――むしろその性質上上がっていっているが――宿主を闘争に駆り立てる作用によって、冷静な思考が奪われ、戦いのことだけを考えるようになる点が危険だ。繰り返しになるが、もともとそういう面がある分、彼女の場合は余計に油断ができない。

 無論、この症状が……『百物語』に感染することによる邪気汚染が起こっているのは、シェリーだけではない。こうして話しているナナも含め、『邪香猫』のメンバーの半分以上は、これを引き起こしていることだろう。長いものでは、各地方で手分けして鬼の軍団と交戦した時から。
 特に、幹部と戦う機会があった者は、確実と言ってよかった。

 だがそれでも……ナナやサクヤ、クロエといった面々に比べて、シェリーの症状は頭一つ抜けて進行が速いのだ。

「薬は? 足りそうですか?」

「飲んでればどうにかなる範囲を逸脱しなければね……しっかし、薬に加えて、『邪気』の吸収自体を妨げる装備つけてコレだもんなー……どんだけ相性いいのかって話」

「絶対量的にも油断できませんしね。この闘いは……言ってみれば、この『ヤマト皇国』に存在する邪気の全てがひとところに集まっているようなものですから」

「確かに……発生源が『鬼』の軍の連中だし、そいつらは仲間を結集させてここに来てるわけだから……自然、そうなるか」

 言葉を交わすうちに、いくらか気がまぎれ、精神の状態を安定させたシェリーは、ぱんっ、と気合を入れるように両手で顔を叩くと、剣を構えなおした。再びその刀身に炎が灯り、背中から……戦闘時ほどの大きさではないが、燃え上がる炎の翼が現れる。

「長引かせてもいいことないもんね! さっさと終わらせることだけ考えよう!」

「そうですね。ですが……限界だと思ったら下がってくださいね、シェリーさん。あまり考えたくもありませんが……『邪気』に侵食されて暴走状態になるのだけは、避けなければなりません」

「わかってるって。それでもさ……多分だけど、私よりきつそうなのに、最前線で頑張ってる人がいるわけだし、それ…………」


 ――ドッゴォォオオン!!


 シェリーが言い終わる前に、戦場全体に鳴り響くような轟音が……しかし、今日もう何度も聞こえてきているそれが、彼女達の耳に届いた。

「……っ! 派手にやってるわね……」

「ミナトさん……!」

 その音の発生源を知っている2人は、聞こえた方角を向き、心配するような視線を向ける。

 
 ☆☆☆


 ミナトVSキリツナ。
 タマモよりも先にミナトが遭遇したことで実現した対戦カード。

 ミナトは最初から『アルティメットジョーカー』を発動させ、金の髪と漆黒のライダースーツを身にまとって拳を振るう。

 キリツナは、『百物語』でさらに強化した肉体に『邪気』を巡らせ、新しい、より強靭な装備を身に纏っている。今までの甲冑を黒く染め、所々を金糸のようなもので縁取った鎧だ。

 互いに漆黒の装備を身に纏った2人は、刃と拳をぶつけ合っていた。

 その戦況がどのようになっているかと聞かれれば……誰の目にも、それは明らかだろう。

 ミナトが、押している…………などという生易しいものではない。
 どうにか戦いにこそなっているものの、あまりにも一方的と言ってよかった。

 ガキィン! と、轟音を立ててぶつかり合った、ミナトの拳とキリツナの刀。
 拮抗したのは一瞬で……軍配が上がったのは、拳の方だった。キリツナの刀は、折れこそしなかったものの、大きく弾かれ、正面ががら空きになる。

 鋭くそこに踏み込むミナトだが、キリツナは腰の脇差を片手で抜き放って、その勢いのままミナトの首筋目掛けて走らせ……しかし、それよりもさらに早く唸ったミナトが、柄の部分をつかんで止めてしまう。逆に手を取られて拘束される結果となった。

 その手を引いて強制的に接敵すると同時に、もう片方の手で鎧の胴体目掛けて拳を繰り出す。
 生半可な攻撃では傷一つつかない鎧だが、その一撃を防ぐには強度が足らず、バキン、とあっけなく胴が砕けて穴が開く。鳩尾にめり込み、キリツナは息を詰まらせた。

 それでも、歯を食いしばって腕をひねるように動かし、さらに同時に刀(長い方)を振るうことでけん制とし、ミナトにつかんでいた手を放させることには成功する。

「――っ、げほっ……ならば!」
 
 次なる一手に出るキリツナ。手に持った刀……その刀身に妖力と『邪気』を収束させ、黒い闇でできた巨大な刃を形成する。
 エネルギーの刀身ゆえに重さがなく、また実体がないため容易には防げないそれを、まだ飛び退ったばかりで空中にいるミナト目掛けて、逆袈裟の軌道で思い切り振りぬいた。

 しかし、たいていの者であれば視認することすら難しいであろうそれを、ミナトは容易く、しかも空中で回避する。
 体をひねりつつ、背中を曲げて小さく丸まるようにすると……振りぬかれる闇の刃の表面を、接触に合わせて転がるようにして回避。さらにその一瞬の間に、刃に拳を叩きつけていた。
 バリン、という音と共に、エネルギー体の刃が粉々に砕け散る。

 馬力や強度などの問題ではなく、『実体がない』ために破壊どころか防御すら非常に難しいはずの闇の刃を、あろうことか物理的に砕かれてしまったことに驚くキリツナ。
 その一瞬は、あまりに大きい隙だった。

 空中で再度体をひねって体勢を立て直したミナトは……転がる際、狙ってキリツナの方に近づくように転がっていたため、すぐそこに、手の届くところに……キリツナの頭があった。
 それを、ぽん、と手でつかみ……直後、強烈な膝蹴りをその顔面に叩き込んだ。

 空中にいたままに放った一撃だったため、勢いや威力はそこまででもないが……あくまで『比較的』そうだというだけの話である。ミナトの超人的な身体能力から繰り出される一撃は、『邪気』による防御を紙同然に突破し、顔面が陥没する勢いの蹴りを浴びせていた。

「ごがっ、ぁ……!」

 それでも、強靭な精神力で意識をつなぎとめたキリツナは、体から『邪気』をあふれ出させ……それを顔の付近に集中させることによって、陥没するまでに至った顔面を急速に修復する。
 『エド』での戦いでリュウベエが見せたのと同じ治療法に、ミナトは既視感を覚えていた。

 今度はキリツナは近づいてこず、手元に妖力を収束させ、遠距離攻撃用の火炎弾をいくつも作り出してミナトに放ってくるが、ミナトは避けもせず、手で払うような動作をするだけでそれら全てを防ぎきってしまう。その手に火傷一つ作ることもできずに。

 最後の1つを、線香の煙を払うかのように容易くかき消し……その直後、ミナトは地面を蹴り、反動で蜘蛛の巣状に大地がひび割れる勢いでキリツナに突っ込む。

 刀を構えなおして迎え撃つ姿勢を取るキリツナだが、接触する直前、ミナトは『虚数空間』へ突入してキリツナの視界から消える。

 驚くキリツナだが、それからさらに一瞬後、横っ腹を貫かれるような痛みを覚えた。
 とっさに目をやると、横合いの何もない空間から、黒紫のゲートを開いて出現したミナトが、突き刺すように鋭い飛び蹴りをキリツナの胴体に叩き込んでいた。

 息が詰まり、今度こそ動けないキリツナに降りかかる追撃。

 足を払われて転ばされ……しかし、体が落下するよりも早く蹴り上げられて宙に浮く。
 そこに、闇を纏った上段回し蹴りが炸裂し、矢のような勢いでキリツナは吹き飛んだ。

 まるで水切りをする石のように、地面をバウンドして飛んでいくキリツナは、それでもどうにか受け身を取り、体勢を立て直して着地しようとして……

「『ルシファーパンチ』ッ!!!」
 
 竜巻のようにも見えるほどに、すさまじい量と密度の魔力を纏ったミナトの拳をもろに受け、再び顔面を砕かれ、さらに発生した衝撃波で、纏っている鎧も大きく破損させながら吹き飛んだ。
 戦場を縦断するかのような勢いで飛び……しかし、途中で何かにぶつかって墜落する。

「!? 何が……っ! き、キリツナ様!?」

「……が、はっ……た、タキ……か?」

 激突したのは……タキが召喚した『ガマ』の1体の横っ腹だった。
 そして、その隣には当然タキの姿もあり……突如として飛来して激突したキリツナに、そしてその傷や装備の破損といった惨状に、驚きを隠せない。

 驚いているのは、タキと相対しているギーナとサクヤの2人も同じだが、直後、周囲の鬼や敵の妖怪達を、移動(超音速)の余波で吹き飛ばして追いついたミナトの姿を見て、『そういうことか』と納得していた。

「ミナト殿、ご無事……のようですね」

「まあね。にしても……あんだけ叩き込んだのにまだ割と元気そうだな。前準備でどんだけ殺してからここに来たんだか……」

 『エド』でキリツナと戦ったのはタマモである。ミナトはそれを遠目に見ているだけであり……リュウベエとの戦闘でそれどころではなかったわけだが、それでも大体、どの程度の強さであるかを察することはできていた。『邪気』による強化込みでだ。

 その時と比べても、さらに『百物語』を重ねがけしたキリツナの力は、攻撃力、防御力、機動力、そして回復力や術攻撃力にいたるまで、さらに強化されていた。タマモと戦った時の力を、はるかに上回る水準になり、それでいてその力を完全に制御し、ものにしていた。

 大概の妖怪は相手にもならないだろう。刀の一振りで、下手をすればその余波で切り刻まれる。
 『八妖星』級と言っても差し支えないであろうその実力は、紛れもなくこの国でもトップクラスのものだ。並び立つ者など、探して見つける方が難しいほどだ。そして……

 …………その程度では、本気になったミナトにはかなわない。
 今、こうして満身創痍一歩手前にまでキリツナが追い込まれているのは……ただそれだけの理由である。

 攻撃力・防御力・機動力……全てにおいて負けている。
 回復力はそもそも傷を負わせられていないので問題にならない。
 術攻撃力なら勝っているが、ミナトはそもそも魔法や術をあまり使わない。加えて、遠距離攻撃やトリッキーな戦術がしたければ、自作した発明品が山とあるため、問題にならない。

 それを丁度、キリツナも認識したところだった。
 どう考えても……勝てる気がしないと。

「……カムロの分析は、的を射ていたわけか……」

「っ……お下がりくださいキリツナ様! ここは私が……いでよ、わがしもべ!」

 鼓舞するような掛け声と共に、タキは何十体もの式神や、使役している妖怪を呼び出す。
 体を覆う『邪気』が一気に活性化している所を見るとわかるが、これもまた『邪気』の応用である。術系統の能力を強化しているのだ。

 キリツナの代わりにミナトの相手を引き受けるべく、タキは……ペース配分や戦略利用を考え、温存していた召喚戦力の大半を一度に呼び出した。数の暴力でミナトを押し返すつもりで。

 しかし……

「ギーナちゃん、サクヤ、伏せてて……『ワルプルギス』」

 ミナトの援護をすべく動こうとした2人にそう告げると、ミナトは首元のスカーフ……『アルティメットジョーカー』への変身で金色に変わっているそれを、片手で引っ張ってしゅるりと解く。

 次の瞬間、光を放ちながら大きく広がっていくそれは、広がるにつれて裂けるようにばらけていった。スカーフとしての原型はすぐになくなり、まるで幾十幾百もの光の束のようになって周囲に光流をまき散らす。

 それをミナトがぐるん、と頭上で振り回すと、無数の光流が台風のように周囲を席巻し、呼び出されたばかりのしもべたちを切り刻み、焼き払い、消し飛ばす。
 もともと周囲にいた妖怪達も含めて奇麗に円形に殲滅され……指示通り伏せていたギーナとサクヤだけが無事にそこにいた。

 無論、タキとキリツナも巻き込まれ、浅くない傷を負っている。戦闘続行が不可能と言うほどではないが、しもべたちが一瞬で無に帰された光景と合わせて衝撃は小さくなかったようだ。

 ミナトは一瞬で『ワルプルギス』をスカーフサイズに戻して首に巻き付けると、邪魔する者がいなくなったところで、今度こそ終わりにしようとキリツナに向き直る。

 キリツナを守らんと、手負いの状態でタキが……恐らくは決死の覚悟でミナトの前に立ちはだかる。大薙刀を持つ手が震えていないのは、その強靭な意思の力のなせる業だろうか。

「……なんかここだけ見ると、僕の方が悪者みたいだな……」

「この期に及んで軽口を叩くか……来るなら来い。またたらふく『邪気』を食わせてやる」

「ご心配なく。その前に消し飛ばしてやるから」

 ぎし、と、音がするほど強く拳を握るミナト。同時に、たったそれだけで周囲に暴力的なまでの魔力が溢れ出し、渦巻き始める。

「……タキ、下がれ。俺の相手だ……!」

「しかしっ!」

「貴様では、こいつとは一合と戦うことはできん。『邪気』ならば、まだ俺には余裕がある……今ので、少し補充もできた……傷もあらかた癒えた」

 刀を杖のように使ってどうにか立ち上がるキリツナ。自らをかばわんとするタキを押しのけて、今一度ミナトの前に立とうとする。

 言っていることはあながち嘘ではなく、先程までよりもさらに多くの邪気がキリツナの体を覆っており、その影響で傷もほとんど癒えてきていた。それでも治りが悪いのは……ミナトの攻撃がそれだけ強力である表れだろう。
 あるいはそこに、ミナトの『倒す』という意思をくみ取った『ザ・デイドリーマー』が絡んでいる可能性も否定できない。

 とはいえ、これ以上『邪気』を吸収されて強化されても困るため、ミナトはこの一撃で決めるつもりで……それこそ、今しがた言った通り、『邪気』ごと全て消し飛ばして『百物語』を終わらせるつもりで拳を握る。込められた魔力は、先程の『ルシファーパンチ』を超える量と密度で……放てば余波だけで地形が変わり、眼前のもの全てを破壊するであろう力を帯びていた。

 この戦いにおいて……時間はミナト達にとって味方とは言い難い。時間が立ち、死者が増えれば増えるほどに、『邪気』が寄り集まって『邪気』使いが強化される。
 ゆえに、最初から本気を出して全速力で片づけるつもりでいた。『アルティメットジョーカー』を早々に発動させていたのも、そのためだ。

 冗談でも何でもなく、ミナトはこの一撃で、タキもキリツナも消し飛ばすつもりで拳を振りかぶり……しかし、次の瞬間、はっと何かに気づいたように、ミナトは突然上を見上げた。

 一拍遅れて、キリツナとタキも……それにギーナとサクヤも空を見上げる。
 同じようにして、戦場のあちこちで……『それ』に気づいた者達が、戦闘中であるにもかかわらず空を見上げていた。そうせずにはいられない、とでも言うように。
 
 視線の先に見えているのは……空に浮かぶ、黒い点。
 最初、虫でも飛んでいるのかと思うような、何なのかもわからないほど小さく見えていたそれは……徐々に大きくなり、形もはっきりと見えるようになってくる。

 数秒後には全員が理解できるまでになったそれは、巨大な鳥だった。
 両翼を広げた大きさは、10m近くになるだろう。漆黒の羽毛に体全体を包まれ、くちばしや足先の爪も黒い。色が違うのは、血のような深紅に染まっている目の部分だけだろう。

 大きさを除けば、ほぼほぼカラスに見えるその鳥だが……最大の特徴は、足が3本あるという点だった。普通のカラスと同じ個所に2本と……そのやや後方、体の中心線上から伸びる形で1本。

 そして、『足が3本あるカラス』と言えば……ミナトの脳裏には、一瞬である想像上の存在の名前が思い浮かんでいた。

「まさか……『八咫烏ヤタガラス』!?」

「ほう、やはり博識だな……『災王』ミナト・キャドリーユ」

 ミナトが呟くように言ったのを耳聡く聞きつけたのか、『八咫烏』の背に乗っていた……地上からでは見えづらく、ミナトを含め大半の人間・妖怪がその存在に気づいていなかったその男……カムロは、可笑しそうに笑いながら、戦場全体を愉悦の目で見降ろしていた。

 そのカムロの視線と……地上にいて、取り乱すことなく『八咫烏』を視界に収めていたキリツナの視線が交差する。

「……どうやら、間に合ったようだな」

「おう、待たせたな大将。そら、さっさと傷治して準備に取り掛かれ……手に入れるんだろ? 『究極の闇』って奴をよ」



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