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第19章 妖怪大戦争と全てを蝕む闇
第411話 ひとまずの終幕
しおりを挟む「……相変わらず加減ができんな、この力は」
爆風の中心に、キリツナは立っていた。
その姿に、数秒前までとの違いはほぼない。指の間に挟んでいる『黒い羽根』が、焼け焦げた燃えカスのように、ぷすぷすと情けない音を立てて、変わり果てているくらいだ。
それに対して、その周囲は……見るも無残な有様だ。
見事な日本庭園だったはずのその庭は、今の爆風で、岩は砕け、小石は吹き飛んで土の地面がむき出しになっている。植木は燃える……を通り越して消し飛び、池は蒸発し、中を泳いでいたはずの鯉は、よくわからない炭化した燃えカスだけが残っている。
そして、ほんの数秒前まで、キリツナを仕留めんと襲い掛かろうとしていた、タマモの側近たちは……今の爆発で、吹き飛ばされていた。
とはいえ、言ってしまえば……単なる爆発だ。庭園を無残にも崩壊させ、景色を一変させるだけの威力を持ち、常人ならば消し炭になって死ぬのも免れない威力のそれであっても……タマモの部下たちであれば、異変を察知して防御することはできていた。
ゆえに、死者はいない。動けないような重傷者も、いない。
だが、動ける程度の重傷者はそこら中にいた。
武器を構えて警戒していた兵士たちは、もう少しすれば、無理をすれば動けそうだが……現在は1人も立ち上がれず、呻いている。
側近たちも、大なり小なり爆発の影響で傷を負っていた。
一番ひどいのは、既に重傷を負っていてろくに防御できなかったマツリだろう。本体である布の体は焼け焦げていて、無生物の体だとわかっていても痛々しい。
その体にくるまれていたマツリも、とっさに術か何かで緩和したようだが、火傷を負っている。
逆に、ある程度距離を保っていたサキとミフユは、無傷ではないが、影響もさほどなかった。
直感的に動いたミフユが、追加で起こした強烈な吹雪でキリツナの周囲を包み込んでいなければ……側近以外の兵士たちや、すでに重傷を負ってろくに動けなかったヒナタやマツリは、それで済まなかった可能性もある。それを考えれば、それでも助かった方なのかもしれない。
ただ、彼女らの傷がこれだけで済んだのは……もちろん、彼女達の力量やとっさの判断、そしてミフユの吹雪の結界のおかげでもあるだろうが……何より大きな理由は、その主の一手だろう。
『黒い羽根』を手にしたキリツナが、周囲を爆風で吹き飛ばすその瞬間、観察に徹していたタマモが瞬時に凄まじい妖力を噴出させ……上から打ち下ろすような暴風を地面に叩きつけたのだ。
それにより、放射状に広がるはずだった熱と爆風はかき乱され、散っていき、その範囲と威力を大幅にそぎ落とされることになったのである。
当然、そのことはキリツナも気づいていた。
恐らくは秘策のつもりで使ったのであろう、『黒い羽根』を用いた大爆発をも抑え込む威力……しかも、とっさに、一瞬で放った攻撃でそれなのだ。
『キョウ』の妖怪の総大将の名は伊達ではない。それを、改めてキリツナは認識した。
「助けに入るなら、もう少し早くしてやればよかったのではないか?」
「うちの子たちの連携は優秀でね……例え危機に陥っても、考えるよりも早く、即座に状況に適した動きを取れるくらいに熟達しているの。何の断りもなく手を出したりすると、私も彼女達もかえって危険なのよ。まあそれでも……」
いいながら、タマモは虚空から薙刀を取り出す。
手にした瞬間から……その刃は、周囲に凄まじく剣呑な空気をまき散らし始めた。
刃が炎に包まれたわけではない。暴力的な熱を発しているわけでもない。
ただ、ひたすらに……その刃のきらめきは、持ち主の怒りと覇気を、見るもの全てが感じる死の予感に変えて……ひどく静かに周囲を席巻していた。
「ここからは思う存分にやらせてもらうけれどね」
「やれやれ、まだ返してはもらえん……っ!?」
しかし、その瞬間。
タマモが刃を閃かせるよりも、キリツナが刀を構えなおすよりも早く……ため息をつくところだったキリツナ目掛けて、何かが猛スピードで飛んできた。
とっさに後ろに飛びのいて身をかわすキリツナ。
一瞬前まで彼がいたところに、ズドォン! と轟音を立てて、突き刺さるように降ってきて……先程の爆発ほどではないにせよ、派手にそこにあった砂利を飛び散らせた。
そして、土煙が晴れたところで……タマモとキリツナ、そしてそこに居た者達は、一体何が降ってきたのかを知る。
「……貴様だったか、サカマタ」
「ぐっ、ふ……申し訳あり、ませ……キリツナ、様……お見苦しい、ところを……」
その体は傷だらけで血にまみれ……所々、青あざや、骨折と思しき、骨格が妙な形に変形してしまっているところすら見受けられる……1人の『鬼』の男。
紛れもなく、キリツナの部下の1人……『天邪鬼』のサカマタの姿だった。
ほんの数分前に、サクヤの勧誘、あるいは誘拐のためにミナトの屋敷を強襲したその男は、見るからに満身創痍となって、主の元に投げ返されていた。
他ならぬ……襲撃した家の主の手で。
そして、
―――すたっ
その者自ら……次の瞬間、荒れ果てた庭に降り立った。
「よーしわかった、この光景だけで十分わかった。……よっぽど僕を怒らせたいらしいな、ん? 鬼共。え、コラ?」
☆☆☆
タマモさんの屋敷も変なことになってるであろうことが確定した時点で、僕は様子見で戦うことをやめた。
そもそも、こいつらはどうやら戦争を始めるつもりらしいっていうのは……屋敷に来た時に、この『天邪鬼』とかいう男が言ってたことを聞いて判明している。であれば、それに伴って、色々な手段が物騒なものになっていくであろうことは容易に想像できるってもんだ。
例えば、交渉が成立しなかった結果が実力行使になるとか、
例えば、敵の頭を刈り取るために暗殺者を送り込むとか、
例えば、敵の色んな部分にダメージを与えるために破壊工作をやるとか、
ざっと考えただけでもこんな風に思いつく。しかも、たいていの場合、この手の事柄は予想を裏切られると思っていいもんだ……悪い方向に。
なので、瞬殺してタマモさんの屋敷に向かうつもりでいたんだが……一言で感想を言おう。予想以上に、こいつがしぶとかった。
そもそも、最初にはなった僕の拳でろくに傷を負わなかった時点でおかしいとは思ってたので、まあ予想できないじゃなかった。ある程度頑丈であろうことは。
その『頑丈さ』の方向が、ちょっと予想と違ったのだ。
どうもこいつの……『天邪鬼』の能力とやらは、一言でいうと『攻撃反射』らしかった。
上手いこと言ってるつもりなのかは分かんないけど……妖怪『天邪鬼』といえば、右と言えば左、前と言えば後ろ……といった風に、何でもかんでも逆のことを言って人を困らせる妖怪、というイメージというか知識が僕にはある。
この能力ってその名残? なのかな……相手の攻撃を受け付けず、そのまま相手に返す、的な。
実際、こっちが放った火炎弾とかいろんな攻撃は、反射されてこっちに跳ね返されたり、明後日の方向に飛んで行ったりしていた。しかも、その能力は持っている武器や防具にも及ぶようで……けん制で放った魔力弾を、刀をすっと構えて跳ね返す、なんて芸当まで見せたのだ。
率直に言って、厄介すぎる能力としか言いようがないだろう。相当な火力をぶつけても、そのまま自分に跳ね返ってくる上、全身をその力で覆ってるから死角がない。
力押しじゃまず倒せない上に、その防御力を強みに、奴自身はその剣の腕を生かした接近戦を挑んで切り込んでくるのだから。
普通の人が相手をしていたら、その能力の前に心折れて絶望してしまってもおかしくない。
え? 僕はどうしたのかって?
決まってるじゃん……力ずくでぶち抜いたよ、そんなもん。
最初の方は僕の攻撃も、こいつ……サカマタ、とかいう名前だった気がするけど、その皮膚に触れるか触れないかのところで阻まれて止められた。
意識して防御するようにすれば、僕の拳でも防げる自信があったんだろう。自分の顔面目掛けて飛んでくる拳を見ても、そいつは全く取り乱しもしなければ、よける気配もなかった。
実際に、最初の一撃は、ほぼ不意打ちだったにもかかわらず、あの通り防がれたわけだしね。
けど実際には、そのまま吸い込まれるように僕の拳は顔面を撃ち抜いたわけだが。
一瞬とも言えないような時間、こいつの防御の力が僕の拳を阻んだのは感じたんだけど……ろくに拮抗することもなく、ぱりん、とそれを砕いて、すかした顔のまま、サカマタの顔面は僕の拳を思いっきり無防備に受け止めることとなったわけで。
流石に予想外だったんだろう。驚愕を顔に張り付けて飛んでいったっけな。
その現象が、僕の拳の威力が強すぎて防げなかったのか、それとも……要所要所で仕事してくれる『ザ・デイドリーマー』の力なのかはわからん。
あの能力、『絶対に○○できない』系の天敵だったはずだからな、あり得るとは思う。
けど、何が起こったか理解するのを待ってるつもりもないので、そのままボコった。
顎を撃ち抜き、膝を割り、刀をへし折り、両肩を砕いて腕を動かなくし、トドメに背骨の真ん中くらいを、中身の脊髄ごと粉砕した。
……訂正。したつもりだった。
けど、何かこいつ……『反射能力』以外にも防御手段を持ってたんだろうか?
殴った感触が変というか……思った通りに体を破壊した手ごたえがなかったんだよね。
何ていうのかな……生身の肉体を殴ったはずなのに、それっぽくない何かが邪魔して衝撃が通らず、攻撃の威力が散らされてしまった、みたいな……説明しづらい。
今、ホントに生身の肉体を殴ったのか? みたいな、奇妙な感触があった。
そのせいで思ったより拳の威力は削られて、殺す気で放った攻撃が、『立つことができない程度に満身創痍』くらいに追い込むにとどまり……しかも、転移で逃げられそうになったので、あわてて追跡することになった。
で、今。転移終わった瞬間の『天邪鬼』をダメ押しでぶん殴ってすっ飛ばして……それがあそこに飛んでいったわけだ。
そして、今に至る。
「さて……タマモさん、状況説明貰えます? それともアレボコってからにします?」
「後者で行きましょう。とりあえずアレが諸々の犯人よ……ついでに聞くけど、今あなたが投げつけたあの鬼は?」
「住居不法侵入と誘拐未遂の現行犯で処刑しました。あと、投げたんじゃなくて殴りました」
「結構なお手並みね」
口先は軽口を交わしている僕らだが、きちんと目の前にいる鬼たちを警戒して身構えている状態なのでご安心を。
なおその間に、タマモさんの部下たちが、負傷した仲間達――タマモさんの側近たち含む――を保護して離脱させていっている。できれば、退避終わるまで連中には動いてほしくないもんだが……さてそううまくいくかどうか。
しかし以外にも、その通りうまくいきそうである。
というか何だろう……あっちはあっちで、僕らに構わず2人で会話してるっぽいし。
まあ……時間をかけてくれるなら大いに結構だけども。こっちとしても好都合だ……また広域爆破じみた攻撃をスタンバイしてる様子もないしね。
「サカマタ。俺は1人で行くといったぞ? 用件は、キョウの総大将への挨拶だけだとも。何ゆえ貴様、俺に黙ってここに来ている? ここで何をしていた?」
「……古の盟約に基づき、我らの同胞となる者を迎えに行っておりました。おっしゃる通り……キリツナ様のご挨拶とは全くの別件、私の独断での行動にございます」
「独断専行の結果がその様か……恥をかかせおって」
「は……申し訳ありません。この沙汰はいかようにも……」
……聞く限り、あの『天邪鬼』の優男は、主であるらしい『四代目酒吞童子』に黙ってここに来てたのか? あくまで自分の独断でサクヤを迎えに来たと……本当は、あの『四代目』は、自分一人でサクヤさんに会いに来る予定だった?
その『挨拶』ってのが、ホントにそれだけ、言葉面だけの意味だったのか……それとも、武力行使を暗喩してるのかはわからんけども、なんだか、部下を痛めつけられてるってのに起こる様子はないな……ドライなのか、はたまた自分へ黙って動いたことに目が行ってるのか……。
「……沙汰は追って下す。今日はもう戻る……共をせよ」
「はっ……!」
とか何とか考えてたらそんなことが聞こえて来た。
え、何、逃げる気かこの2人? この状況で?
「……貴様ら、これだけのことをしておいて逃げられると思うのか」
「戦いになったのは、貴様らが刃を向けたがゆえだったと思うがな……何度も言うが、今日ここで刃を交えるのは俺の本意ではない。戦いの場は、戦場でだ……」
隣で、静かに怒気を迸らせているタマモさんと、あくまで冷静かつ大胆不敵な態度を崩さない『四代目酒吞童子』のやり取りを聞きながら、僕は何もしていない風を装って動く。
左手薬指の『指輪』に意識をやり……その機能を発動。
(転移阻害結界構築……魔法発動感知・阻害システム機動準備……アンチジャミング、エコーロケーション、赤外線・紫外線センサー、温度感知器、魔力探知、その他諸々用意…………)
声には出さず、そぶりも見せず、あくまで思考で静かに操作。
あらゆる手段でもって『逃がさない』ための準備を着々と進める。
転移系の術は妨害して発動させないし、煙幕とか張って逃げるのも封じる。視界が封じられても、温度・音波・魔力その他あらゆる手段で追跡して追撃できるようにしてある。
こういう風に言うってことは、何らかの手段で逃げますってことだからな。
大体この場合、7割くらいは秘密兵器とか隠し玉的なものをつかった、追尾も妨害もされない離脱手段を用意してて……残り3割は、敵の妨害を力ずくで食い破って離脱ってパターンだと思う。いずれにしても、成功するかは別として。
ただでさえ『妖怪』や『陰陽術』は何をしてくるかわからないからな……できる手は全部打って妨害しておかないと。
相手の意表をついて明後日の方向から勝利を掻っ攫うってのは、僕も『発明品』を使ってよくやる手だけど、その分、有用性も厄介さも知ってる。
(それでも防げるかどうかわからないところが怖いんだよな……)
「すまんが俺も暇ではなくてな……どうやら、帰りが遅いから迎えが来たらしい」
呟くようにそんなことを言ったその直後、ふっ、と僕らのいる場所に影が差す。
上空にいきなり何かが現れて、月の光が遮られたんだろう……角度がちょっとアレだから、影を見ても……どんな形になってるのかよくわからない。
なので、反射的に空を見上げて……そこで、僕らは絶句した。
おそらくだが、タマモさん他は……突如として上空に現れている、謎の異形の妖怪……それが持っているであろう、恐ろしいほどの力を感じ取って。
あるいは、その、荒々しくも神々しい、とでもいうような姿かたちに驚いたとかもあるかも。
だが、僕が絶句した理由は……違う。
同じ感想を抱かなかったわけじゃあないが、主に驚いた理由が違う。
だって、今、空中に浮いているのは……間違いなく……
「麒麟……!?」
思わず、口を付いて出た。
そう、あの時に見た……こことは異なる空間を飛び回っていた、謎の魔物…………いや?
(麒麟、に見えるけど……細部が違うか? 大きさも、あれよりかなり小さめ、だと思う……。普通の馬サイズ? それに、威圧感っていうか、存在感も……)
なまじ、あの空間が……距離感も何もない、現実なのかすら判別できない、わけわかんない空間だったから……ところどころ記憶に穴があるんだよな。
けどそれでも、冷静になって見て見ると、あの時に見た『麒麟』とは違う。
けど、ああまで姿が似てるってことは、何かしら関わりがある魔物、あるいは妖怪だと思う。
気配も何もなく、突如上空に現れたことといい……異空間を自在に跳躍して現れた、あの時の麒麟と通じる部分もあるし……
「! ほう……『麒麟』を知っている者がいたか、これは予想外だな」
そんなことを考えていると、『四代目酒吞童子』がそんなことを言う。感心したような、少しだけ驚いたような声音で。どうやら、僕の呟いた言葉は聞こえていたようだ。
でもそういう風に言うってことは、やっぱりアレ『麒麟』か?
つまり、あの時見たアレの幼体か、あるいは近縁種か……
しかし、だとすると……
「しかしならば……わかるだろう。俺達を止める手段が、最早ないということも」
そう言う『四代目』の元に、空中に浮いていた(あるいは『立っていた』かもしれない)麒麟が、がつん、と派手に蹄の音を響かせて飛び降りてきて……その隣に立った。
ほぼ同時に、ひらりとその背に飛び乗る『四代目』。その脇に、満身創痍の『天邪鬼』を抱えて。
それを止めようとタマモさんが動きかけて……しかし、『麒麟』にぎろりと睨みつけられて、足を止めてしまう。
気圧されたとか、おそれを成したわけじゃないだろう。
見た感じあの『麒麟』、相当強いだろうが、タマモさんなら戦って勝てない相手じゃない。
ただ……ここで戦えば、そしてその戦闘の規模次第では、まだ避難を完了してない負傷者たちが巻き込まれるかもしれないと思ったからだろう。一瞬止まったのは。
しかし、この場においてはその一瞬が致命的だった。
あの時と同じ、空間が歪むような感覚。それが静かに、しかし即座に『麒麟』の周囲を覆い、目には見えない空間の揺らぎを形作り……その瞬間、『麒麟』とその背に乗る2人は、外部から干渉不可能な領域に保護されてしまった。
それをわかってだろう、『四代目』は悠々と、捨て台詞のつもりで口を開き……
「騒がしい夜になってしまったが……改めて言おう、『九尾の狐』……『キョウ』の総大将よ。戦の世は、今日この時より―――ッ!?」
そしてその『揺らぎ』を……干渉不可能なはずの結界をガン無視して(というかむしろ消し飛ばして)殴りかかってきた僕の拳に驚き……ながらも、とっさに刀でガキン、と受け止めた。
ちっ、不意打ちにはなったものの、反応されたか……やるな。
というか、完全に殺す気で殴ったのに、片手で受け止められたばかりか、刀すら破壊できないとは……こりゃちょっと、こいつの相手するの、単なる戦闘力でもかなり苦労するかもしれん。
「『はいえるふ』を殲滅するほどの力といい、陰陽の深淵に踏み込む頭脳といい……只者ではないと聞いてはいたが……貴様のことも、これ以上無視はできんな。異邦人の頭目……!」
「その『ハイエルフ』とお前らも同じってわけだ? 人が楽しく平和に暮らしてるところに、わけのわからない価値観の押し付けで戦火を放りこんできて……全く、はた迷惑な」
「……我らに『勝利』という義がなき今、そのように言われる不徳も甘んじて受けよう。だがそれも長くは続かん、これから先の戦でもって、我らはこの天下全てに覇という理を敷く!」
そしてそれを言い終わるか言い終わらないかの内に、再び発生した『揺らぎ』と共に……『四代目』はその場から掻き消えるようにいなくなった。
もちろん『麒麟』と……抱えている『天邪鬼』も一緒にだ。
もっとも、『天邪鬼』は……この場から逃げおおせても、どっちみち無事には済まないようになってるが。
「……何にせよ、こりゃ面倒なことになるか……」
「否定できないわね……条約締結の話し合いも大詰めと言う時に……! とにかくミナト、今は皆の救助と手当をしたいわ。手を貸してもらえる?」
「もちろん」
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