魔拳のデイドリーマー

osho

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第19章 妖怪大戦争と全てを蝕む闇

第398話 寝ても疲れがとれないあなたに

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 さて、

 諸国行脚の旅だけども……順調なようなそうでもないような……。

 日程的には遅れもなく進んでるんだけど……別の面でね。



 『エド』で一泊した僕らは、その翌日に再び町を出て次の目的地へ向かったわけだが、その行き先が『エチゴ』だったのだ。

 事前に聞いていた通りの『豪雪地帯』。幸いというか、吹雪とかにこそならなかったものの……しんしんと降り積もる雪は、足場としては最悪だし、気温はめっちゃ低くて寒い。視界も悪い。

 それでも、足に魔力を集中させて力場を作るなんかの手法で、雪に足を取られずに走ることは可能だ(水面歩きの応用みたいなもんである。雪に沈まずに歩ける)。
 今いるメンバーは全員それができるので、どうにか短時間で移動を終えられた。

 道自体の足場の悪さはもともとだし、雪のあるところではほぼほぼそんな感じで突っ走ってたから、けっこう魔力やら霊力、妖力の消費あったけどね。
 
 その日も僕らが、午後ちょっとすぎたくらいで目的地に到着した。『指令』も達成済みだ。
 『エド』の時と同じように、買い物と食べ歩きをして観光パートを楽しむ。

 異世界でも新潟は米どころらしい。ご飯がとっても美味しかった。
 冬が旬の脂ののった魚とかをおかずに、何杯もお代わりしちゃったよ。



 その翌日に行ったのは『トーノ』。
 日本で言う岩手県である。また豪雪系だよ。

 まあ、東北地方の雪と寒さのやばさについては、僕も日本の知識であれば知ってるんだけどね……田舎のおばあちゃんの家が東北にあったから。

 こちらは運の悪いことに、風が強い時に通ることになってしまった。
 しかも、きちんと(?)雪も降っている。

 すなわち、吹雪である。

 さらに、地面に積もっている雪とか巻き上げて風が吹く……地吹雪も起こる。
 地面に霜が降り、路面は凍結し、そこらの木々や軒下からツララが下がっている。

 ……フロギュリアでも見たけど、やっぱ過酷だな、寒い環境ってのはそれだけで。

 流石に普通の装備ではまずいってことで、あらかじめ用意しておいた防寒装備を使い、さらにペースも少しだけ落として安全第一で走り、なんとか午後も半分くらい過ぎた頃になって、どうにか目的地に到着することができた。

 もちろん、こちらも『指令』達成済みである。

 せめてもの救いは……道がほとんど舗装なんかされてないおかげで、地面に溶けた水が染み込んで、アイスバーン……路面凍結とかがあまり起こってなかったことくらいだな。
 石畳の道なんかは、そのせいで逆に危険だった。滑って。

 それから……途中で通った『ザオー』で見た『樹氷』がきれいだったな。
 ちょうど『指令』がその近くでやる奴だったから、それをこなしつつじっくり見れたんだよね。

 そんな感じで、日程的には順調に進んでいるわけだが……2つほど、気になっている点がある。

 1つは、人間はともかくとして、現地の妖怪とかとの出会いやら交流がほとんどないこと。

 聞いた話だと、『エチゴ』には天狗が、『トーノ』には河童が、それぞれ支配する種族として君臨しているそうで、その配下たちを含めたかなり大きめの妖怪のコミュニティを形成しているらしい。
 その頂点はいずれも『八妖星』の一角だそうだ。

 というか、『エド』にもそういう立場の奴がいたらしい。後から聞いた。

 そんな場所だから、妖怪もそれなりの数暮らしてたと思うんだけど……ああいや、これは言い方が正確じゃないな。街中とかにも、たしかに普通に妖怪とかはいた。
 けど、妖怪だけの集落とか組織、コミュニティみたいなのはあまり見なかったのだ。

 『八妖星』がいるんだから、そういうものがあってもおかしくないと思ったんだけど、僕らの方からそういうのに関わることはなかった。

 ただ、恐らくはよそ者を監視しているのであろう視線なら、何回か感じたけどね……『エド』でも、『エチゴ』でも。

 『トーノ』に至っては……ちらっとだけど、川の中からこっちをみている『河童』を見た。
 そいつはすぐに水の中に引っ込んでしまったけど、確かに頭に皿があって、くちばしがあった。

 どれも害意はなさそうだったから、警戒しつつも放っておいたけど……

 ……よく考えたら、よそ者が、しかも別に知り合いでもないのが、そんな簡単に土着の妖怪たちと交流を持つなんてのもおかしい話だよな。なりゆきとかでそうなるんならまだしも……特にこの諸国行脚は、それを目的とかにしてるわけでもないし。

 それにだ。どうやらタマモさん達は、そういう妖怪が集っている都市に行くたびに、数十分から数時間ほど、行先も目的も誰にも告げずにいなくなることが何度かあるんだよな……ひょっとしたら、この土地の有力者とかに会いに行ってるのかも。
 政治的な面での目的とかもある、ってちらっと言ってた気もするし。

 なら、僕らは下手に構わないというか、刺激しない方が身のためだな。

 そして、気になっている点、もう1つは……僕らのコンディションについてだ。

 昨日、今日と足場が悪く、気温もバカみたいに低い中を走ってきた僕らは、どっちもそこそこ疲労がたまった状態で宿についていた。
 もっともその都度、しっかり食べて、ゆっくり風呂に入って、ぐっすり寝て回復してたけど。

 ただ、僕や師匠、タマモさんやイヅナさんはそれで問題なくやれてたんだけど……どうやら、残る2人のメンバーに問題があるようでね。
 日程も4日目が終わろうとしている今の段階になって、それが明らかになった。

 ギーナちゃんと、サクヤ。
 もともと、僕らに比べて実力的にも体力的にも劣ると見られていたこの2人だが……どうやら、少しずつだが疲労を蓄積してきているようなのだ。

 もともと彼女達は、半ばこの旅を『修行』と割り切っているため、基本的に移動の後はずっと宿で休んでいる。休んで、食べて、風呂入って、また休んで、そして寝る。
 そうして体力を回復し、翌日に備えるのだ。

 多少気分転換に買い物とかしたりもするが、基本的にはこの繰り返しである。

 しかしどうやら……それでも回復が追いついていないようだ。

 昨日今日、微妙に動きが悪くなってきている。ほとんどただ走って、跳んで、その繰り返しでここに来ているとはいえ……注意してずっと見ているとよくわかる。イメージした通りにうまく体が動かない時があり、その調整やら何やらに苦労している様子だ。

 それに……2人ほどじゃないけど、シェリーにも多少そういう傾向が見られる。
 ペースにはもちろん、本人の体力やらコンディションにもそこまで影響はないものの……いつもに比べると、疲れてるような様子があちこちで見られるようになった。

 まあ、1日200㎞も走ってんだから、当然ではあるんだけど……それが前提の修行だから、そもそもそこを問題にするわけにはいかない。

 ……ちょっとコレ、対応策を考えないとまずいかもな。
 今はまだ、少しペースが遅れるか遅れないかくらいの差だ。こまめに休憩を取っていればなんとかカバーできるけど、まだ4日目でコレとなると……残り10日、心配になる。

 ましてや、ここからはもっと過酷な道筋も増えてくるって話だし……


 ☆☆☆


「そんな時こそ『房中術』よ!」

「うん、まあ……そんな風に言われる気はしてました」

 さっきの懸念をタマモさんに相談したところ、帰ってきた答えがそれだった。

 うすうす予想はついてたけどね。

 というか、そもそもこないだ『房中術』の指南を受けた時に、『近々必要になる』って思いっきり言われてたもんな。アレ、このことだったんだろう。

 タマモさんは最初からわかっていたわけだ。2人の体力では、この先きついと。
 自力での回復だけでは、最後までやり切ることは難しい。徐々にだが疲労は蓄積し、絶対にどこかで限界が来る、と。

 その時の回復手段として、『房中術』を僕に教えてくれていたのだ。

 この諸国行脚では、ルールにより、疲労回復のために魔法や薬を使うことはできないから。

「……こないだから気になってたんですけど、そういう言い方をするってことは、僕に、彼女達に『房中術』を使って回復させてやれ、って言ってるってことでいいですよね?」

「ええ、そうよ」

 いかにもいたずらっぽい感じの、ニヤリとした笑み。

「自然回復以外の疲労回復の手段がこれしかないんだから仕方ないでしょう? 大丈夫よ、彼女達はあなたを嫌ってるわけじゃないし、むしろ好意的に思っているし……そもそも、いやらしいことをしなければ効果が発揮されないわけじゃないのは説明したでしょう?」

「……それなんですけど、こないだから聞こうと思ってたんですが……何で魔法や陰陽術、ポーションの類はアウトで……『房中術』を使った回復はOKなんですか?」

 雑な言い方になるが、同じように『不思議な力で回復させる』っていう点であれば、『房中術』もアウトなんじゃないかと思ってそう聞いたんだが……するとタマモさんは、

「ああ、それはね……『房中術』による回復は、あくまで肉体の活性化によるもの。すなわち、自然治癒の延長上だからよ」

「自然治癒の延長上?」

「ええ、そうよ。そうね……あなた、人間の筋力がどのようにして鍛えられるか、そのメカニズムを知ってる?」

 その問いかけを聞いて、僕も合点がいった。
 なるほど、そういう理由なら、前の3つがアウトでこっちがセーフな理由もわかるってもんだ。

 要するに、タマモさんがこの修行におけるポーション等の使用を禁じたのは、『超回復』による肉体の成長を起こすことを睨んでのものだろう。
 元々この修行は、そのためのものだったわけだ。

 人間の体において『筋力』というのは、簡単に言えば、筋繊維の数と太さの掛け算である。
 そして、その数については、訓練で増やすことはできない。生まれつき決まっている。

 そうなると、筋力を鍛える方法は1つ……1本1本の筋繊維を太くすることだ。

 筋トレなんかで筋肉を酷使した際、筋肉痛が起こるのは、筋繊維が傷ついたからだ。そして、それが修復される際、破損前よりも少し強くなった状態で回復する。これが『超回復』だ。
 筋トレとは、筋肉を傷つけて治して、この繰り返しで筋繊維を育てていく作業なのだ。

 ただ、この『回復』のさせ方に問題がある。

 魔法による回復は、体の損傷を『治す』ものではあるが、その過程では、あまりに急激に治る+魔力やら術式が損傷個所に直接作用して治すので、『超回復』が起こらないのだ。

 同じ理由で、ポーション類も無理。魔法よりはましだが、誤差の範囲だ。これも薬効により『傷を治す』ことだけを起こしてしまう。

 筋繊維を育てるには、自然治癒により、きちんと体のメカニズムに沿って、栄養を使って治すしか方法はない……こともないが、少なくとも真っ当な方法はそれだ。

 そして今回のこの『諸国行脚』は、1日200㎞のマラソンで足腰を鍛え、同時に全身各所に損傷を起こさせる。
 こんだけの距離、こんだけの悪路を走れば、酷使されるのは足腰だけじゃない。腕や腹筋、背中や運動する体を支える各種内臓やその周辺の筋肉、その他色々なところが傷つく。
 それを『超回復』させることにより、全身各所を鍛えるのが目的なわけだ。

 ゆえに、『超回復』が起こらない治し方で回復してしまうと、意味がなくなってしまうからアウトであり……逆に言えば、『超回復』さえ起こせれば、疲労回復に外的手段を用いてもOKなのだ。

 その点『房中術』は、魔力やら霊力を作用させて『治す』技ではなく、あくまで肉体機能を『活性化させる』技なので、回復自体は正真正銘自分の肉体機能によって行われる。
 自分の食べたものを栄養に変え、その栄養を用いて筋繊維を修復するわけだ。だから、きちんと成長につながるということで、使用を妨げられない。

 ……きちんと聞いてみれば、普通に理にかなったやり方だな、『房中術』。
 体力も回復するし、筋力その他も強化されるし。デメリットらしいデメリットもない。……羞恥心とか、精神面とか、倫理面以外は。

 それだって、ただ単に手をつなぐとかの接触だけで十分できるわけだし……ここまで理解してしまうと、やらない理由がない感じになるな。

 ただ単に、僕が『房中術』っていう名前で避けてるとか、イメージがアレだからっていう以外の理由がなくなっちゃってるし……彼女達のことを思うのであれば、ここは……きちんと説明した上で、回復手段の提供を申し出るべきなんだろうか……

「ついでに言うなら、やってあげるなら早めにしたほうがいいわよ」

 と、悩んでる僕に対して、タマモさんが付け加えるような形で言ってきた。

「『房中術』で行えるのはあくまで肉体の活性化による回復であり、さっきも言ったように自然治癒の延長線上。高位の治癒術や強力な魔法薬のように、大怪我レベルにまで発展していても問題なく治せるようなものではないの。あまりに疲労が蓄積しすぎていれば、『房中術』でも治せない、治しきれないということになる可能性も普通にあるのよ」

 なるほど、それは確かにそうだ。

 ……こりゃ、覚悟決めないとだな。


 ☆☆☆


 そして、その夜。

「よ、よろしくお願いします……っ!」

「ギーナちゃん、大げさ。さっき言った通り、『房中術』っつったって、ただ単に手つなぐだけなんだから、そんなにテンパらないで」

 相手するこっちまで恥ずかしくなってくるから。

 その後ろにいて控えている、サクヤとシェリーはというと……サクヤはやっぱり緊張した様子で、シェリーは真逆に、うきうきしていかにも楽しみって感じで待っている。

 言うまでもないと思うが、今僕は宿の、ギーナちゃん達の部屋で……ギーナちゃんとサクヤ、そしてシェリーに、『房中術』による治療を施すところだ。

 事前にきちんと説明はしたものの……いや、むしろ説明したからこそか、こんな風にギーナちゃんが緊張しまくってるんだけどね。

 さっきなんか『わ、私はその……み、ミナトさんがお望みなのでしたら喜んで!』って、別な覚悟決めちゃいそうになってたし……大丈夫だから、手だけだからくっつけるの。

 そう言ったら、落ち着いた半面、少し残念そうにしてたように見えたのは……気のせいだろうか?

「ともあれ、これから始めるからね、ギーナちゃん。さっき教えた通りにして」

「は、はい……わかりました」

 僕は、まずギーナちゃんと真正面から向かい合って座り……僕の右の手のひらにギーナちゃんが左の手のひらを、僕の左の手のひらにギーナちゃんが右の手のひらを、それぞれぴたっと重ねてくっつける。両の手のひらに、じわっと、彼女の肌のぬくもりを感じる。あったかい。

 しかし、そればっかり堪能していては意味がないので、手のひらに魔力を流し……同じようにしているギーナちゃんの魔力と解け合わせ、馴染ませ、共鳴させる。
 すると、ギーナちゃんもそれによっておこる変化に……肉体の活性化が起こり始めていることに気づいたんだろう。顔を赤くしつつも、驚いていた。
 
 あ、ちなみに今更だけど、この『房中術』、霊力じゃなくてもできます。魔力でも普通に可。
 効率は霊力の方が上っぽいけどね。

 徐々にではあるが、ぽかぽかとあったかい感触が全身に広がっていく。
 あの時と同じように、接していない部分も活性化されていくのがわかる。

 けど……それなりに時間かかるな。

 理由はわかっている。
 主に2つ……『実力差』と『興奮度』だ。

 僕とギーナちゃんの間には、言っちゃ悪いが……僕との間には、かなりの実力差がある。

 前にタマモさんやイヅナさんも言ってたけど、『房中術』を使う2人の間に実力差がありすぎる場合、あまりうまく働かないらしい。
 ただ、肉体の活性化についてなら、さほど影響はなさそうだ。回復の助けにはなる。

 イヅナさんが言ってた、『強くなる』っていうのは、どうやら肉体の活性化とは別の話のようだし……それについては、まだ課題だな。

 そしてもう1つ。房中術は、互いが興奮しているほどに効果が上がる。
 しかし、そんなもんどうやって引き出せばいいんだって話になるし……下手なこと言うと、この純情なギーナちゃんのことだ。めっちゃ恥ずかしがって、魔力のコントロールに支障をきたす恐れがある。
 あるいは、『ミナトさんが望むなら!』って、またさっきみたいなこと言う可能性も。

 幸いと言っていいのか、こうして手を合わせるだけでもある程度緊張してドキドキしてるので、それで十分だろう。少なくとも、今回は。



 で、次、サクヤなわけだけど……

「ふ、不束者ですが、よろしくお願いいたします……!」

 三つ指ついてそんなことされますと、その……うん、そういうことを想像してしまうんですが。

 というか、ギーナちゃんといい彼女といい、ひょっとして僕がそうしたいって言えば……いや、女性に対してこんな風に、軽薄ないし軽率に物事を考えるのは失礼だな。反省。
 あくまでコレは、治療行為の一環としてなんだから……と思ってたんだけども、

「その、よろしいでしょうか、ミナト様」

 と、質問があるらしいサクヤ。
 どうやら彼女、屋敷にいない間というか、この修行の間は……僕のこと『旦那様』じゃなく名前で呼ぶことにしたようだ。それでも『様』ついてんだけど。

「え、何?」

「その……この『房中術』というのは、より広い面積で触れ合っているほど、より鼓動が高鳴っているほど効果が高いと聞きました。ですので……」

 するとサクヤは、差し出した僕の両手に、ギーナちゃんと同じように両手を重ねる。
 それだけでなく、残る4つの手で、僕の腕の手首と肘近くの部分を、ぐっ、と優しく握るようにした。なるほど……これならただ手と手で触れるより効率的だ。
 握ってる方の手は、手首とかも触れている状態になってるし。まるで、僕の手が包み込まれてるような感じに……。

 あくまで手と手ではあるものの。ぴったりと触れている面積が大きいこともあって、やっぱり多少は緊張するらしく、それだけで『興奮』の部分は十分だった。

 ……肌の色が紫でも、顔が赤くなってるのって案外わかるんだな。目が泳いでたせいで、余計にそう見えたのかもしれないけど……。

 ……そういや、サクヤの目って複眼だよな? こういう時って、複眼全部泳いでんのかな……なんてどうでもいいこと考えたり。

 加えて、サクヤは『霊力』を使えるので、僕も霊力を使った。
 それらの要因のおかげで、サクヤの治療はギーナちゃんよりも早く終わった。手ごたえからも、しっかりそれが伝わってきた。
 わかるんだな……霊力を通して、サクヤの体が活性化し始めたのが。

 ギーナの時はなかったな。でもタマモさんと試した時には……あった気がする。
 霊力を使ったからか? それとも、どれくらい上手く、スムーズにいったかの問題か? うーん……



 そして最後に、シェリーの番になったわけだが……

「またまたぁ、ミナト君ってば、わかってるくせに♪」

 そんなことを言いながら、シェリーは僕の隣にすり寄ってきて、僕の手を取ると、ぎゅっと胸に押し付けて抱くようにした。

 腕に、温かくて柔らかい感触が当たってドキッとする僕。
 そんな2人を見て、顔をさっきより赤くする2人。

 あーっと……何となく彼女の言いたいことは分かった。
 最初に『房中術』は、本来どういう使い方をするのかっていうのを説明したし……なるほど、このためにシェリーってば、ギーナちゃんとサクヤに『お先にどうぞ』って順番譲ったんだな?

 そして、横で見学していて、大体どういう風にやるのか、どうすれば上手く行ったことになるのかをきちんと把握したシェリーは、

「私とミナト君の仲でしょ。わざわざ手とか腕とか他人行儀なことしないで……折角の『房中術』だもの。本来のやり方で最高効率で使えばいいじゃない……そうでしょう?」

 ……まあ、うん。
 確かに、シェリーと僕はそういう仲だしね……断る理由はない、か。うん。

 できればこんな、2人が見てる前でじゃなく言ってもらえたらよりよかったかな……それなりに恥ずかしいものがある、って感じはするというかね? 
 ……無理か。むしろ見せつける感じでいちゃつくスタンスなのがシェリーだからね。

「えっと……せめて部屋は変えるよね?」

「ふふっ、私は別にいいんだけどね……全くの他人ってわけじゃないし? まあでも、2人きりの水入らずでの方がいっか。じゃ、ギーナちゃん、サクヤちゃん、コレで失礼するわね、お休み~♪」

「「あ、はい、おやすみなさい」」

 なんか、テレビドラマで濡れ場を見てしまった子供のようにカチコチになって、やっぱりさっきより緊張しているっぽい2人を部屋に残して(もともと2人の部屋だから問題はないが)、僕とシェリーは、別な部屋に場所を移した。

 ……はっ! 今日の宿の部屋……タマモさんが『念のために』って一部屋余計に取ってた理由はコレか。

 どこまでもお見通しな人だな……助かったけど。
 僕の部屋には師匠が、シェリーの部屋には義姉さんがいるからな。



 ……で、そのあとどうなったかと言えば、まあ、それは……
 
 ……やっぱり本来のやり方だと、活性化も回復もすごく効果出るんだな、とだけ。
 むしろ翌日に疲れが残るんじゃないか、って途中では心配してたんだけど、翌朝、心身共に元気いっぱいで起きることができました、まる。



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