魔拳のデイドリーマー

osho

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第18章 異世界東方見聞録

第385話 弟子VS側近

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 師匠とタマモさんのバトルが終わったと思ったら、唐突に『次お前な』って指名された僕は、反論したもののなぜか全面却下されたため、師匠の支持通り戦っているところだ。

 『隔離結界』の維持は、師匠に任せている。

 この空間は、『虚数』を組み込んだ術式であるため、構築こそ僕がやらなければならないが、それを維持するだけなら、それ相応の技術と魔力量を持っている人なら可能なのだ。
 ……今んとこ、それを満たすのは師匠しかいないが。

 そんなわけで、この空間の心配はほぼしなくていいので、僕は僕の戦いに集中できている。
 というか、集中しないととても無理だ、こんなガチバトル。

 で、僕が誰と戦っているかだが……タマモさんではない。
 彼女は師匠との模擬戦で既に満身創痍なので、水分補給しながら休憩中だ。

 加えて、その後師匠がタマモさんとこんなことを話していた。

『俺とタマモの後でだから、折角だし互いの弟子同士戦わせたらいいんじゃねーか?』

『いや、私の場合は弟子じゃなくて部下よ……まあ弟子でもあるけど』

 そういうわけで、僕はタマモさんの側近の人たちと戦うことになったわけだ…………

 
 …………5対1で。


(いやホントどうしてこうなった……ッ!?)

「――ふっ!!」

「――せィッ!!」

「……っ! 危ぶっ!?」

 以前にも見た『縮地』を使って一瞬で距離を詰めて横一線に刀を振るうイヅナさん。
 それに一拍遅れる感じで、矢が3本同時に飛んでくる。きっちり逃げ道を塞ぐ軌道で。

 とりあえずイヅナさんの刀はかわして、飛んできた矢は手刀で叩き落し、

 3段構えだったらしく、上空から振ってきた火炎弾を、回し蹴りを縦に放つような感じで繰り出して粉砕する。今のは……サキさんだな。

 そしてさっきの矢は多分……ってまた来た!

 距離を取って遠距離から矢を放って攻撃してくるヒナタさんが見えたが、その瞬間にはまた矢が、今度は5本一気に飛んできた。またしても、僕が攻撃直後で回避も迎撃も大変なタイミングで。

 あの人アレだろ、心読んで絶妙なタイミングで攻撃してきてるだろ絶対。
 完全には読めなくても、攻撃とか回避のタイミングや方向さえ何となくでもわかれば、後は自分の経験則とかで予想立てて、未来予知じみた予測攻撃繰り出せるんだろうし……。

 腰にさしてる刀は使わないんだろうか? 両方使えるのかな? ……それはそれで怖いな。

 そして残る2人。ミフユさんとマツリさんは、それぞれ遠近距離でタイミングを見計らって襲ってくる。

 サキさんの火炎弾やヒナタさんの矢と同じように、ミフユさんは氷の塊や、尖ったツララみたいなのを飛ばして攻撃してきたり、拳大の雹みたいなのを含んだ猛吹雪で攻撃してきたりする。
 あと、油断してると足元を凍らされて動けなくなったり、アイスバーンみたいにツルツル滑ったりするようにされるので注意が必要だ。

 マツリさんは意外にも接近戦型だ。重厚だけど艶やかな装束を翻し、舞うような動きで戦う。
 ……ただし、その戦い方はめっちゃ怖いんだけど。

 着物の長い袖の部分を、ひゅんひゅん音を立てて鞭か何かみたいに振り回すんだけど……斬れるんだよこの着物。どんな材質で作ってるのかわからんけど、へたな刃物より鋭いし、重い。ミフユさんが放った氷塊を、一瞬でみじん切りにしてしまったのを見た時は、目を疑った。

 振袖の部分はもちろん、裾の部分も、帯も切れる。なんかもう、不規則な動きで中距離の斬撃が放たれるので、制空権を握っているかのごとく厄介だ。

 挙句の果てに、あの布、防御もこなす。僕が突き出した拳を布で受け止めて、そのままからめ捕ろうとしてきたり……他のメンバーを布を伸ばして攻撃から守ったり、なんてことまでやる。
 
 接近戦を、マツリさんとイヅナさんが。中~遠距離をサキさんとヒナタさん、そしてミフユさんが担当して、間断なく攻めてくる。しかもサキさんは、時折『式神』を作って近距離・遠距離の両方に加勢させるので、油断ってもんができない。

 ちょっとこれ……ガチで手ごわいんだけど!?
 師匠、何考えてこんなとんでもない試合組んだの……いや、確かにいい経験にはなりそうだけどさぁ!?


 ☆☆☆


「ほー……大したもんだ。1人1人の戦い方はだいぶ個性的なのに、きちんと連携になってんだな」

「大したもんだ、はこっちのセリフよ。あの5人を相手に1人で戦えるなんて……流石というか、SSランクの名は伊達じゃないわね。ゆくゆくはあなた達の領域に至るんじゃない、彼?」

 側近5人の連携攻撃、間断なく繰り返されるそれを、体術の身で全てさばき切っているミナトを見ながら、クローナとタマモはそう話していた。

「あの5人、全員まとめて来れば私でも相当苦労するのに……」

「でも勝てるんだろ?」

「ええ、どうにかね。ただ……無傷でとは言えないわ。それに個人的には、あの子たち5人が力を合わせて挑めば、『八妖星』すら屠る力になると思っているわ」

「お前もその『八妖星』だかの1人なんだろ? その言い方だと、やっぱ強さにはばらつきがありそうな感じだな……お前と同列にみられるくらいだから、そりゃ強い連中なんだろうが……お前より強い奴っている?」

「……どうかしらね。自画自賛になるけど……私もその中では1、2を争うレベルだと言う自負はあるわ。けど……そうね、私と同格と言えるのは……残り7人の中でも、2人くらいかしら」

「ほー……どんなの?」

「1人は、隠居して穏やかに暮らしてるおばあちゃんよ。好んで戦おうとするような人じゃないわ……っていうか、人とは呼べないんだけどね。もう1人は……今はどこほっつき歩いてんのやら。本来あの人は、『イズモ』の地を治める立場でしょうに……あの放蕩者は」

 何か、昔を懐かしむように、呟くように言うタマモ。
 その様子を、クローナは何も言わずに横目で見ていたが、

「っと、話がそれたわね。それはそうと……あの子たちは、戦いの中で徐々にコツをつかんでくるタイプだから、本当にきついのはここからよ? ホラ」

 と、タマモが指差す先を見ると……そこには、徐々に押され始めるミナトと、まるで上手く噛み合った歯車のように、先程まで以上に苛烈で、しかし鮮やかで流れるような、隙間のない連続攻撃を叩き込んでいる、側近5人の姿があった。

 凄まじい速さで刀を振るい、一撃離脱を繰り返すイヅナ、

 その反対側から、1枚1枚が斬馬刀に等しい切れ味と威力を持つ布の刃で襲い来るマツリ、
 
 接近と後退の隙間に、炎と氷……だけでなく、雷や風の刃、土の弾丸や鉄砲水のような水流が襲いかかってミナトを押しつぶさんとする。

 そこにさらに矢が射かけられるのだが……その矢は的確に逃げ道を潰してくる上に、なんと途中で曲がって飛んできたりするので、いつの間にかミナトは迎撃と防御で手いっぱいになっていた。

「防戦一方みたいね。これからどんどん激しくなるわよ」

「あ、あれより……ですか?」

「今でも十分に苛烈ですけど……いや、それよりも、あれ以上に攻撃の密度を上げてしまうと、相互の攻撃の間隙が小さくなりすぎて、フレンドリーファイアの危険が出てきますけど……」

「というか、今の時点で、普通に考えれば十分危険域だけどね……紙一重で味方の攻撃に当たらないで、コンビネーションとして成立させてるような感じだわ……すでに神業の領域よ」

 と、横で同じように見ているエルクとナナ、それにセレナが聞くと、タマモはうなずいて、

「それを可能にするのがあの5人なのよ。実際私と戦う時も、最後の方になると、5方向からほぼ同時に攻撃が間断なく叩き込まれるレベルになるからね……見てるこっちが怖いレベルよ」

 今の状態でも既に、一拍でも攻撃のタイミングがずれれば、前衛のイヅナやマツリが、後衛が放つ術攻撃や弓矢に当たってしまいそうな場面も多い。これが今以上に狭まってくるのかと考えると、敵ながらその技術の高さ、連携の巧みさにエルク達も舌を巻かずにはいられない。

 時間的にも空間的にも、徐々にミナトは逃げ場を失っていく。1秒、いや一瞬でも隙ができれば、その瞬間怒涛の連続攻撃が叩き込まれるだろう。

「……クローナ。こんなことは言いたくはないけど……危ないと思ったら止めないとダメよ? ああなったうちの子たちが相手じゃ、一瞬で全方向から致命的なダメージを受けることだってあるんだから……ミナト君が、どれだけ頑丈だと言ってもね」

 それを聞いて、横に座っていたクローナは、しばし何も言わずに戦いの様子を見ていた。
 視線の先では、さらに狭まっていく包囲網の中で、拳を、足を縦横無尽に振るい、攻撃全てを必死にさばいているミナトの姿があった。

 限界も近いか、と、タマモのみならず、エルク達も固唾をのんで見守っている中で……クローナは、なぜかにやりと笑ったかと思うと

「そりゃちっと俺の弟子を舐め過ぎってもんだぜ、タマモ」

「……? どういうこと? 彼もまだ本気ではないと?」

 そう、タマモは訝し気に問いかける。
 
 それに対する、クローナの答えは、やれやれ、という呆れたような笑いを含んでいた。

「あいつの場合も、大概の戦闘……特に模擬戦はスロースタートで、様子見から始まるからなあ……けど、トップギアになった時のアイツは……強いぜ? いや、それ以上に……」

 一拍置いて、

「滅茶苦茶だ」

「滅茶……苦茶?」

「見てればわかるよ、あいつが……リリンに一番似てる息子だっていう意味がよ。ああ、あと……俺が育てたっていうことの意味もな」



(ここまで追い詰められたの、久しぶりかもしんないな……『アスラテスカ』の時だって、こうも全方位が絶望的なまでに逃げ場なし、って感じじゃなかったし)

 一方その頃、話題の中心になっている当の本人はと言うと……暴風雨のごときコンビネーションを前に、それらをどうにかさばいて立ち回っていた。
 感知能力と反射神経を限界まで酷使し、前後左右から襲い来る攻撃をかわし、そらし、叩き落す。

 やっていることはその繰り返しだが、決して単調ではなく、刻一刻とそのテンポと手数、タイミングを変化させる攻撃の嵐をさばくのは容易ではない。既に、1発1発の攻撃の間隙は、コンマ数秒単位にまで落ちていた。

 一瞬でも気を抜けば、瞬く間に数えきれない攻撃を叩き込まれ、再起不能に追い込まれそうな、絶望的な状況である。彼女達の攻撃は……それら全てがとは言わないが、ミナトの耐久力をもってしても、十分に大怪我に、下手をすれば致命傷につながりかねないものだった。

 ……にも関わらず、ミナトは、その状況を半ば楽しんでいた。

(追い込まれるほど、余裕がなくなるほど……自分の思考から、余分な考えがそぎ落とされていくのがわかる。久しぶりだな、この感覚……言っちゃなんだけど、こうまで追いつめられるっていうか、ギリギリの状況になる戦いなんて、ここ最近なかったし……うん、身になる)

 考え方としては『臨界業』に近いだろうか。徹底的に自分を追い詰め、極限状態とも呼べる状況に追い込むことで、さらなる扉を開く、というコンセプトの修行方法。
 ミナトには、今まであまり縁のなかった修行法である。

 ハイリスクハイリターン、と言えば聞こえはいいが、失敗すれば大きなダメージどころか、命に関わるような修行法も少なくないそれらは、一般的によくは思われていない内容である。

 しかし、ミナトが『臨界業』に馴染みがなかったのは、危険を嫌ったからだけではない。
 ただ単に、ミナトをそうそう追い込めるような状況が、最早ほとんどないからだ。

 『グラドエルの樹海』でリリンに鍛えられ、その後さらに様々な修行を積んで強くなって……命の危険を覚えた場面は数えるほど。
 そのどれもが『実戦』の中であり、手段を選ばず相手を倒すための、半ば総力戦と言っていい戦いだったし、守るべき者達もいた。そこから学ぶものがなかったとは言わないが、その状況を楽しむ余裕や、修行に変える余裕など、ほぼなかった。

 しまいには、万を超える軍勢を単騎で圧倒できるレベルになったミナトにとって、『一歩間違えば』というこの状況は……大変だと、何だコレと呆れるようなそれであると同時に……間違いなく、己の成長につながる試練足りうる場でもあった。

 限界、ギリギリ、もう後がない、これ以上は無理、
 そんな、傍から見れば絶望的な状況の中で、彼が成長していることに……徐々に、気づく者が出始めていた。

「……さっきより、動きが速く……!」

 クローナの隣で、ミナトの……親友の息子の様子を、固唾をのんで見守っていたタマモが、

(これだけ早く斬り込んでもかわされる……いや、これはただかわしているだけではない。当たるギリギリを見極めて、最小限の動きでかわしているでござるか!?)

 完治不可能なはずの『縮地』で、一瞬のヒットアンドアウェイを繰り返すイヅナが、

(布から感じる手ごたえが……変わった? 力任せに払っているわけじゃない、最小限の動きと、最小限の力を、最適な方向にかけて受け流している……!)
 
 数枚の、手足のように動く布の刃や布の槍を構えて猛襲するマツリが、

(矢が、当たらない……いや、それだけなら今まで通りだけど……心が全く読めなくなった? あんな猛攻の中に置かれていながら、なんて静かな心……思考が漏れ出てこない……!)

 漏れ出た思考を拾い、心を読んでマツリ達の掩護になるように……しかし、あたればきちんと痛手になる矢を放っていたヒナタが、

(私の炎も、ミフユの氷も届かなくなった……)

(全部撃ち落とされる上に、足元を凍らせようとしても足踏み1つで砕かれますの……というか、さっきから後ろにも目がついてるみたいな動きを……)

 おなじく遠距離から、多彩な術で支援していたサキとミフユが、

 それぞれが……間違いなくどんどん苛烈で隙間のない包囲網を築いて攻撃しているにも関わらず、一向に有効打を叩き込めないミナトに対して、戦慄していた。

 追い詰めれば追い詰めるほど恐ろしくなるという、奇妙な矛盾の中に置かれて……ミナトという男の底知れなさを味わっていた。

 そして、その膠着は……ほんの一瞬の隙間から、食い破られる。

 最早、攻撃の間隙はあってないようなもの。
 実質、絶え間なくと言っていいレベルで繰り返される嵐のような連携攻撃の中を……針の孔を突くように、ミナトは訪れたタイミングをものにした。

 布の刃をさばき、氷を撃ち落とし、矢をそらし、炎を吹き飛ばし……その刹那、

 ―――ドスッッ!!

「かっ……!?」

「イヅナ!?」

 空間を歪ませ、開いているはずの距離をなかったことにする……高速移動とも転移とも違う、イヅナの移動術『縮地』。
 文字通り一瞬の間に、前触れなしで引き起こされるその神通力の発動を、ミナトは察知し……その瞬間、拳を腰だめに構えていた。

 そして、イヅナが射程圏内に現れた瞬間。まるで居合切りのように腰を入れて拳を振るい……その一撃は、彼女の鳩尾に深々とめり込んだ。

 肋骨がきしみ、背骨がずれそうになり、呼吸が止まるほどの衝撃に、イヅナは体を硬直させ……ほぼ同時に、同じ場所にもう片方の手が、今度は掌底の形で叩き込まれた。

 その衝撃に、刀を取り落とし、逆回しのように吹き飛ばされるイヅナ。
 吹き飛ばされ、落下するより先に、彼女の意識は刈り取られていた。

 一瞬とも呼べないようなタイミングを完璧についてイヅナに逆撃を叩き込んだミナト。
 残る4人は、その事実に驚きを隠せない様子ではあったが……そこで手を止めることはないのもまた、彼女達が超一流たるゆえんである。コンマ1秒もない間に精神を持ち直し、さらにそれ以前に体は動きを止めていない。

 ただ、その一瞬とも呼べない隙間が、
 さらに言えば、イヅナという包囲網の一角が抜けてしまったことが……致命的だった。

 その一瞬、イヅナがカバーしていた部分から外に飛び出し、そこを埋めるように襲い来る、暴力的なまでの炎と氷の弾幕を、頑丈さに任せて強引に突破する。
 その際、『MDC』でむしろエネルギーを吸収するのを忘れない。

 その弾幕を目隠しにして、素早く回り込んでいたマツリが布の刃を広げて襲い掛かるも、トップスピードに達したミナトは、そのまま布の間をすりぬけ、振り切ってマツリに突っ込む。

「な……っ!?」

 いわゆる『ぶちかまし』のように体当たりを決めるが、マツリは体を『ほどいて』本来の布の体に戻ることでその衝撃を受け流し、無効化する。
 しかし、それがまずかった。ミナトは最初からそれを読んで、狙っていたのだから。

 ―――ギュルルルン!! シュババババッ!!

「っ、何を……え……こ、こんな、えっ!?」

 一瞬だった。
 一瞬で、彼女は……マツリは、無力化されていた。

 ミナトはその場でマツリの本体である布をつかんで高速回転し、巻き取るようにしてそれを回収したかと思うと、目にもとまらぬ速さでそれらを滅茶苦茶に結びあげて動けなくしてしまった。

 これでは元に戻る――人型に擬態することもできず、布がほどけないので攻撃も防御もできない。リタイアと言っていい状態だった。

 そこに前後から襲い掛かる、氷と炎。
 いつの間にか位置を変えていたミフユとサキは、前衛がいなくなってしまったが、怯まず攻撃を続け……サキは式神を、『右鬼』『左鬼』を作り出して前衛に充てる。

 先程までは、攻撃があまりに密集していたため、逆に使えなかったのだ。しかし、メインの前衛だった2人が共にいなくなってしまったため、こうして出番が回ってきていた。
 そして、前衛に加わる者がもう1人。

 腰の刀を抜き、一気に距離を詰めて斬りかかるヒナタ。
 弓矢で戦っていた彼女だが、彼女はどちらもこなせるため、この場で前に出てきていた。

 心を読んで相手の隙を的確につき、完璧に攻撃をかわし、防御をすり抜けるように致命の一撃を放つ彼女の攻撃は、むしろ近距離、インファイトが脅威である。
 そうでなくとも、彼女の剣術の腕は一級品であり、小細工なしでも十分に戦えるのだが…… 

 ――ズドッ

「あっ、が……!」

 極限の集中からくる高速思考。最早並みの反射と変わらないかそれ以上の速さで行われた、しかもひどく静かなミナトの思考を読むことはできず……さらに、その速さに、反応はできても追いつくことはできなかった。

 懐に入られ、ミナトの肘がしたたかに脇腹に打ち込まれたことで息が詰まる。
 そして、追撃に首筋に打ち込まれた手刀が、その意識を刈り取った。

 残る2人、ミフユとサキは、完全に戦線が崩壊したことは悟りつつも、降参はせず、式神たちを前衛にして術で勝負を挑む。しかし、もともとミナトの堅牢極まる防御力には、魔法ではほとんど有効打を与えられない。

 前衛にしていた鬼2体も、文字通り一蹴されて消し飛び、その勢いのまま距離を詰められる。

 そして……サキがしかけた幻術にも一切惑わされることなく、本体のサキの所に踏み込むと、後ろに回り込んで首に腕を回す。
 奇麗に決まった、俗に言う『裸締め』というそれは、ものの数秒でサキの意識を刈り取った。

 そして、ミナトは最後の獲物に向き直る。サキが捕まっている間に、彼女を見捨ててまで力を溜め、自分が打てる最強の魔法を放つ準備をしていたミフユに。

 ミフユの手には、自分が扱える限界ギリギリの妖力と冷気を凝縮して作った、氷の、いや、暴風雪の槍が形作られている。その意図を察したミナトは、わざと誰もいない方に歩いていった。

 術による大威力の攻撃を放っても、誰も巻き添えにならない位置に。

 それが誘いであると知りつつも、ミフユはミナト目掛けてそれを投擲する。
 投げて手を離れた瞬間、槍の形を保たずに割れて崩れたそれはしかし、まるで暴風雪が竜巻となり、それがそのまま槍として飛んでいっているような災害そのもののような光景を生み出した。

 氷点下数十度はくだらないであろう、その切っ先がミナトに迫る前で、ミナトはそれを……



 『魔力』と『霊力』を握り込んだ拳の一撃で、木っ端微塵にした。



「うっそぉ……ははは、滅茶苦茶ですね……」

 そして、己の全力の一撃が通じず、呆気にとられるミフユに、一瞬で近づくと……先程のヒナタと同じように、首筋に手刀を入れて……戦いを終結させた。



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