魔拳のデイドリーマー

osho

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第18章 異世界東方見聞録

第383話 続く誘惑(?)と、本音

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 3ヶ月も一緒にいると、もともと皆そんなに他人と壁を作らない人種だってこともあってか……僕ら『邪香猫』及びそのスタッフと、タマモさんとこの人たちは、皆友好な関係を築けていた。

 片や、大陸の大国から来た護衛にして、その大陸に名をとどろかせる最強の冒険者チーム、
 片や、この国を裏から支配するフィクサーとその側近、

 互いに当初、多少は様子を見るような距離感があったのは否めなかったが……今ではすっかり、節度こそ守りつつも、友達付き合いに近い形になってる者もいるくらいだ。

 運動場ではたびたび、ギーナちゃんやサクヤに加え、シェリーやセレナ義姉さんも加わって、タマモさんの部下の人たちと戦闘訓練して互いに腕を磨いたりしてる。

 主に参加してるのは、側近5人の中でも武闘派だっていう、イヅナさんとサキさんである。物静かな感じのサキさんが武闘派だってのは少し意外だったけども。
 それに加えて、その2人とかのさらに部下の人たちも参加して、切磋琢磨してるみたいだった。

 そこで何気に力を発揮してるのが、セレナ義姉さんである。
 流石と言うか、元王国軍『中将』にして鬼教官。厳しくしつつも、強くなるためにそれぞれを鍛え上げる指導能力は確かなもので……ギーナちゃんとサクヤをはじめとして、訓練に参加してる部下の人たちも、苦しくてもやりがいのある訓練をこなして力をつけていっている。

 一方、戦闘以外でも当然仲よくなって交流している人はいる。

 その筆頭がシェーンだろうな。タマモさんが紹介してくれた料理人たちや、自分も料理が趣味だと言うマツリさんやヒナタさんと一緒に、料理レシピや技能の教え合いをしている。
 具体的には、シェーンが『洋食』や『中華』を教え、代わりに『和食』その他を教わっている。

 きっかけは、タマモさんが僕に『久々に大陸の料理が食べたい』って言ってきたことで……その時、屋敷に招待してシェーンに腕を振るってもらったんだけども、一緒に食べに来てその味に感動したマツリさんとヒナタさんと、あっという間に料理人同士意気投合してたのだ。

 そして、『今後もタマモ様にこれらの料理を作ってあげたい』という2人の希望と、『和食』を勉強したいけど独学では限界があると思い始めていたシェーンの思惑が一致したわけ。

 双方ともにメキメキと腕を上げている。
 そして、練習の際に作った料理は僕らが美味しくいただいているので、皆が幸せになっているというね。うん、最高の結果だ。

 ちなみに、タマモさんが特に美味しい……というか、懐かしいって言って食べていたのは、『中華料理』だった。昔住んでいたところでよく口にしていたらしい。

 ……中華料理って、アルマンド大陸では……今現在、『チラノース帝国』がある地域やその周辺で作られてた料理だって聞いたことがあるんだけど……その辺に住んでたのか?
 そういやあの国、セイランさんの名前とか、アジア的な要素がいくつかあったような気も……。

 あと、ネリドラやリュドネラは、東洋医学や薬学を学んだりもしてるし……漢方薬なんてものまでこの国には伝わっていた。中国の知識じゃないの、コレ?
 大陸の医学・薬学の知識とはかなり違うものも多くて、学ぶ際には戸惑ってる部分も多かったようだけど、どんどん吸収して自分の知識にしていっている。

 もちろん、僕もいい感じの仲を築けている。

 最近は『陰陽術』の訓練もどうやらグレードが上がったようで、ミフユさん以外の人に教わることもあるようになってきたし。
 具体的には、『実戦』形式の訓練が増え……さっき言った武闘派2人が加わるようになってきた。

 今もこうして、森の中で……

「うげ、見つかった」

 森の中とはいえ、結構な速さで走っているはずの僕に、さも当然のように、木々の間をすり抜けて走って追いついてきたサキさん。
 元が狸だから、獣道を走るのには慣れてるんだろうか? 『術者』タイプだって聞いてたのに、その身軽さたるや、下手な戦士タイプを軽く上回っているレベルである。

「式神―――『右鬼』『左鬼』」

 走りながら、ぼそっとそう唱えると、サキさんの両隣に、彼女より少し背丈が小さい……しかし、明らかにそこらのザコモンスターなんて目じゃないであろうレベルの『鬼』が2体出現した。
 直前にサキさんが指に挟んでいた『おふだ』が2枚なくなっていた。つまり……『式神』だ。

 その2体は、それぞれ赤色と青色の、全身を覆うタイプの鎧兜に身を包んだ、武者のようないでたちをしている。『鬼』だとわかったのは、兜の下から角が伸びていたからだ。赤い方は頭頂部から1本、青い方は頭の側面から2本。加えて、赤色の方は斧を、青色の方は鎌を持っている。

 直後、2体ともすごい速さでこっちに突っ込んできた。

「うぉわ!?」

 足場の悪さをものともせずに突っ込んでくる2体は、赤い方が斧を振り下ろして、青い方は鎌をすごい速さで振り回して攻撃してくる。

 赤い方……『右鬼』が振り下ろした斧で、地面がえぐれてクレーターができた。
 青い方……『左鬼』が振り回した鎌で、周囲の木々が輪切りになって散らばった。

 強いなどっちも!? コレまともに受けたらヤバくないか僕でも!
 こんだけの式神を作り出せるって、やっぱすごいな術者としての腕は……そして何より、そいつらを前衛として放ってくるサキさんの術がまた凶悪なのだ。

 ヒナタさんやイヅナさんと同じく、『陰陽寮』の長老であるらしいサキさんは、今の『式神』然り自身が使う術然り、並の術者何課とは比べ物にならないレベルだ。
 さっきから、僕への攻撃として放っている『鬼火』なる火炎弾を見ても、それがわかる。

 僕でもあたると『熱ッ!?』って怯むか硬直するくらいの熱量と威力なんだが……それをかわして、森の中の地面や木々に着弾してしまうことがよくある。
 しかし、サキさんが使うこの術は、そこから燃え広がらないのだ。火なのに。あんだけ熱いのに。

 術自体にそう言う効果があるわけじゃなく……これはひとえに、サキさんがこの術を、ほんのわずかな放出熱に至るまで完璧に制御しているからに他ならない。 

 本来なら放って終わり、コントロールできても多少動きを誘導するだけであるはずの、この手の放出系の術を彼女は完璧に制御して見せている。攻撃対象である僕以外は燃やさないように。
 流石に、全く痕跡なしとまではいかないようではあるが、木々に、地面に着弾しても、わずかに焦げ跡ができる程度で、延焼する気配はなしだ。

 加えて、そんな見事な制御の術に気を取られていると、また別で痛い目に遭う。
 理由は、主に2つ。

 1つ目は、同じくサキさんの術だ。
 サキさん、目に見える形で飛んでくる『鬼火』だけじゃなく……目に見えない攻撃まで飛ばしてくるからさあ……不可視の風の刃とか、地中を伝ってくる土砂の棘とか。

 『サンセスタ島』でウェスカーと戦った時のことを思いだす。幻術を巧みに操って、虚実り混ぜた攻撃を雨あられと繰り出してきたあいつのことを。
 剣、魔法、召喚獣……どこから何が出てくるかわからない中で対応するの、大変だったなあ。

 それと同じように、常に周囲の気配を探って、妙な魔力、ないし霊力や妖力の動きがあった場合は、そこから攻撃が飛んでくることを警戒しなければならないわけだ。

 ただし、そういうのに気を取られていると……もう1つの危険がしのびよる。

 それは、ちょうど森の中でも開けた部分に取った時のこと。

「隙アリでござる!」

「うぉっと!? 危なッ!?」

 視界の端に一瞬だけ人影が見えたと思うと……次の瞬間、ごくわずかな霊力の揺らぎのあとに、僕の横1mもないくらいのところに、イヅナさんが一瞬にして現れた。
 そのまま、手に持っていた刀を鋭い角度で振るって攻撃してくるのを、どうにか避ける僕。

 超スピードで走ってきた? 跳んできた? 飛んできた? いや違う、何も見えなかったし、移動の際に起こる空気の流れとか、超音速の衝撃波も何もなかった。

 これって……転移か!?

「いや、少々違うでござる。今のは『縮地』と呼ばれる技法でござるよ」

 その直後、反撃しようと僕が身構えるよりも早く、イヅナさんはまた数十m離れた所まで一瞬にして距離を取ってしまった。またもや見えなかったし、加速した様子すらなかった。

 そもそも、下駄なんて履いててあんな急激な加速ができるのかっていう……いや、達人級はそのへんの常識なんて容易くぶっちぎってくるからな。

「天狗の神通力……と言えば聞こえはいいが、れっきとした『術』でござる。今度、きちんとお教えするゆえ……今は、存分にその身で味わわれよ」

 にやり、と意地悪そうな笑みを浮かべるイヅナさん。そういうとこあるよね。

 ていうか、彼女だけに集中してみてるわけにはいかないんだよね。
 油断するとほら……反対側からは、サキさんの術と、『右鬼』『左鬼』が迫ってきてるから……っていうかあの2体、『前鬼』『後鬼』の類型だろうか? 和風ファンタジーでよく聞く奴。

 すると今度は、刀を持っていない方の手に、羽で作った団扇を持ち、それをぶぉん、とこっちに向けて仰ぐように振るい……突風を起こした。

 その程度じゃ僕は揺らぎもしないが、どうやら攻撃が目的ではなかったようで……吹き付けた風は、まるで縄か何かのように僕の体にまとわりついて、そのまま拘束したのである。

「うぉっ!? バインド系?」

「頑丈だからと言って余裕こいてると痛い目を見るでござるよ? 妖術『天狗弾』!」

「『右鬼』『左鬼』……突貫。……妖術『鬼火・大玉』」

 つむじ風に捕らわれた僕目掛けて、イヅナさんが無数の石礫を弾丸のように乱射し、サキさんは先までの数倍の大きさの、直径2m近い大きさの『鬼火』を放った。それに少し遅れるようなタイミングで追撃をかけるためか、『右鬼』『左鬼』がその名の通り(?)左右から飛びかかってくる。

 僕の防御力で受け止められないことはないが、それじゃ訓練にならないので……迎撃に動く。

 まず、拘束しているつむじ風よりも速くその場でギュルルルン!! とコマのように回転し、同時に魔力も放出することで、風の拘束を振りほどく。

 同時に、拳を突き出した衝撃波でイヅナさんの石礫の弾幕を全部吹き飛ばし、反対側からやってくる特大の火炎弾は、受け止めるように手のひらを突き出す。
 そして、そこに着弾……というか、触れると同時に、その巨大な熱量を『吸収』する。

「……っ!?」

「これは、また、面妖な……」

 炸裂の瞬間にそうしたから、全部を吸い取り切ったわけじゃないけど、明らかにエネルギーを吸い取られたのが分かったんだろう。サキさんもイヅナさんも、面食らったようにしていた。

 石弾を砕いたのは、単なる衝撃波だから説明は不要として……『鬼火』を吸収したのは、手のひらに発生させた『マジックダイナモセル』……『攻撃吸収充電』用の疑似的な細胞小機関だ。
 使うの自体結構久しぶりだけど、今回はそれに更に改良を加えたものを使った。

 こないだサクヤを治療した時に経験した、あのすごい勢いのドレイン攻撃(いや、あくまで栄養補給が目的で、攻撃じゃないのは知ってるけど)を参考にして、吸収力・回収力を大幅にUPさせることに成功している。
 相変わらず、肉体にかかる負担は攻撃が直撃した時と変わらないから、僕にしか使えないけど。

 そして、残る『右鬼』『左鬼』については……目には目を、歯には歯を。
 式神には式神で対抗ってことで……僕も、自作の『おふだ』を取り出す。
 カードじゃない、おふだだ。事前に作っておいた『CPUM』じゃなく、この場で作る『式神』だ。

 集中……しっかりイメージして、自分自身の意思を、魂を転写するように。それを形を変えて、自分の思い通りに動く眷属ないし部下を作り出すイメージ。

 イメージしやすいもの……者……特撮……怪人……よしこれでいいや。

「式神……『甲鬼』! 『鍬鬼』!」

 言うと同時に僕が放った『おふだ』から現れたのは、僕オリジナルの式神。

 僕と同じくらい、あるいはそれよりも大柄で……人型ではあるが、東洋風の鎧兜に、それぞれ『カブトムシ』と『クワガタムシ』を交じり合わせたような造形。武器は、カブトムシの方が大太刀を、クワガタムシの方が刀と小太刀の二刀流である。

 ……ぶっちゃけ、それぞれ昆虫をイメージした特撮の敵怪人みたいな見た目である。
 まあ、うん……こうなる予感はしてたし、これはこれでかっこいいというか趣味には合う。力もそれなりに込めたので弱くはないはず。気にしても仕方あるまい。

「ほう、コレは中々……物々しいが力強いでござるな」

「……あなたの趣味?」

「そんな感じです。よし、GO!」

 号令と同時に、『右鬼』『左鬼』を迎え撃つ『甲鬼』『鍬鬼』。

 それに一瞬遅れるタイミングで……再び『縮地』とやらで襲って来たイヅナさんと、その後衛を務めるように術を放ってくるサキさんの2人を相手取るため、僕も両の拳を構えた。


 ☆☆☆


 そのしばらく後、模擬戦は無事終了した。
 模擬戦自体は、僕の勝利である。
 
 ただ、式神対決は僕の負けだった。
 流石に、即興で作り出す式神の完成度じゃ、プロフェッショナルであるサキさんのそれには及ばなかったってことだな、少しの間ねばっていたものの、力尽きて切り捨てられ、2体とも紙に戻ってしまった。
 その後、襲い掛かってきた2体……『右鬼』『左鬼』は僕が自分で粉砕したけども。

 そしてその後、抜群の連携で襲ってくる2人……サキさんとイヅナさんをどうにか捕縛して勝利としたんだが……そこに至るまでがまた大変だったなあ。見たことも無い術のオンパレードで。

 イヅナさんなんか、空飛んだり、弓矢で攻撃……してきたと思ったら、1本しか射ってないはずなのに無数に分裂して弾幕になったり、挙句の果てにはかの有名な『影分身』まで使ってくるしで気の抜けない時間が続いた。

 それをフォローするサキさんは、相変わらず見える攻撃と見えない攻撃を織り交ぜたり、途中で式神を追加召喚したり、挙句の果てに地形や天候を操作してきて……うん、大変だった。

 霧に紛れて攻撃してくるのに対応できなくなりそうで、最終的に『ハイパーアームズ』まで使う羽目になったよ。ホント苦戦した。厄介だな。東洋の術の数々。
 その分、覚える時が楽しみだけどね……。

「しかし、よかったのでござるか? ミナト殿は水浴びをしなくても……それなりに汗をかいたり、土埃で汚れたりしたであろうし、気持ち悪いでござろう?」

「大丈夫ですよ。家に帰ってから入りますから……というか、水場一つしかなったじゃないですか」

「何、減るものでもないし、一緒に入ればよかったであろうに。ともに汗を流した後、その汗を洗い流すところで裸の付き合いと言うのも、武芸者として仲を深めるひとつの手段であろうし」

「性別に気を使ってくださいよ……」

「イヅナはそういうの、気にしなすぎる」

 と、今回は僕のフォローに回ってくれるサキさん。よかった、味方がいて。

 というか、普通の感性としてはそうだよね? いくら武芸者とか修行仲間だからって、水浴び一緒にとかそれは流石にアレでしょ……

 いやでも、大陸でもそのへんの考え方が大らかな人って結構いた気もするな……一番パッと思いつくのだと、スウラさんとかそうだった気がする。

 エルクから聞いた話だけど、部下の人が覗き見したりしないのかっていう話になった際に、『私の裸くらいなら好きに覗き見ていればいい』とか言ってたって。

 そんな問題行為、見つかったら懲罰モノだけど、見つからないくらいに隠密が上達したのなら、覗き見くらいはご褒美に大目に見る、的な意味で。自分の体くらいなら好きに見ろって。
 軍っていう男社会で揉まれると、そういう感性が育つのかな、ってエルクも驚いてたそうだ。

「む……拙者とて、誰にでも肌を晒すのを良しとするわけではないでござるよ。相手はきちんと選んでいるし、きちんと信用できる相手か、もし仮にその先にまで……間違いが起こってしまっても納得できるような相手にしか声はかけんでござる」

「だから女性がそういうこと……何かこないだも同じようなこと言われた気がするな」

 ミフユさんといい、この人といい、タマモさんの側近って、そういう方向に大らかな人が多い気がする。主の影響だろうか。

「それに、今後必要になるかもしれないんだから……あまりこういうことに壁、ないし苦手意識があるのもどうかと思うでござるよ? ミナト殿」

「それ、ミフユさんにも言われましたけど……何、『陰陽術』の修行で房中術でもやるんですか?」

 だとしたらちょっとそこのカリキュラム相談したいんだけど……研究や修行のためとはいえ、さすがに『身内』以外の人とそういう関係になる気はないんだが。

「そういうわけではないでござるが……いやまあ、何も来るもの拒まず、開けっ広げになれと言っているわけではないでござるよ。ただ、そういう『技』もあり、それによってなせることや、手に入る強さもあるのでござる。色事というだけで避けるのではなく、それも一つの分野と割り切って修行に組み込んで力とする、清濁併せ吞むような度量も重要だ、ということでござる。実際、有用な技術ではあり、色々な場面で役に立つゆえ、覚えておいて決して損はないのでござる」

「うーん……言ってることはまあ、わからなくもないような……でも……」

「まあ……このへんは個人の趣味嗜好も絡んでくるがゆえ、強制はできないでござるがな……もし気が変わったら、拙者か……今の話を聞く限り、ミフユも協力的なようでござるし、気軽に声をかけてほしいでござるよ。ああもちろん、既にミナト殿には、エルク殿達という、懇ろな中の女子がいるというのは知っているゆえ、あくまでその方々とまずいことにならなければ、でござるが……」

 話を聞いて、ちょっと残念そうにそう言うイヅナさん。

 僕には僕の価値観ってものがあるから強制する気もないし……あくまで彼女が、僕のことを『そうなってもいい』という程度にはよく思ってくれているがゆえのことだというのはわかった。
 それ自体が強くなるための『手段』であり、ある種の『修行』あるいは『技術』と呼べるものであるため、そういう認識で行ってもいいんじゃないか、っていう、彼女の価値観も。

 ……というか、ミフユさんといい……なんでこんな風に誘ってくるんだろう?
 いや、男としては、困りはしつつも悪い気はしないけど……さすがに戸惑うっていうかさ。

 聞いてた感じ、王族貴族のお家芸であるハニートラップや政略結婚の類としてやってるような気配もないし、かといってそれ自体が趣味って程にがっついてるわけでもない。

 ……あんまりこういうこと考えるのってどうかと思うし、さらに言えばこの手のことに関して僕の感性は当てにならないんだが……僕を好き、ってわけでもないと思う。
 いや、それなりに好意は抱いてくれてるんだろうけど、あくまでそれなりどまりだろうし。

 ……繰り返すが、色恋沙汰に置いて、自分に向けられる行為には未だに絶対的に鈍感だという嫌な自信がある僕には、あまり当てにできない感覚ではあるんだが……と、思ってたら、

「……うむ、ひょっとしたら気を悪くするかもしれないでござるが……黙っているというのもそれはそれで不義理ではあるゆえ、お教えするでござる。『房中術』というのは、先程も言ったように、強くなるために有用な手段であることは間違いないのでござるが……ただヤればいいいというわけでもないのでござるよ。きちんとやり方があるし……同時に、『相手』も重要なのでござる」

 ちょっと気まずそうに、イヅナさんはそう、説明を始めた。

「相手?」

「左様。この手の術は、相手となる異性が強ければ強いほど効果がある。だが同時に、双方の実力にあまりに開きがありすぎてもよくないし、今言ったように、きちんとやり方を覚えてそれに沿って行為に及ぶ必要がある……力量的にも技量的にもちょうどいい異性が必要なのでござる」

「例えば、イヅナやミフユみたいな実力者が、そんじょそこらの半人前の陰陽師や侍、あるいは何の力もない男娼を買って行為に及んだところで、実力が違いすぎてどっちにもほぼ効果はないし、今言ったようにやり方をきちんと理解する必要もある」

 と、イヅナさんに続く形でサキさんも説明に加わる。

 ……あー……何か、言いたいことがわかってきたかも。
 つまり、イヅナさんやミフユさん、そして今の話を聞く限り、ひょっとしたらタマモさんも……僕に目を付けた理由、少なくともその1つは……

「左様……ぶっちゃけこの国に今、拙者たちがそこまで信頼できる相手であり、なおかつ『房中術』の相手足りうるほどの力を持っている男はいないのでござる。ただ単に行為を楽しむだけなら問題ないが、『房中術』で互いの体と霊気、妖気を活性化し、より力を増すということはできないゆえ、今まではせいぜい、疲れた時の回復の一助とするくらいの使い方しかできなかったのでござる」

「しかも、女同士で。効果も半減以下」

 そんなこともできるんだ……深いな、房中術。
 つか、女同士ですか……絵面はいいけど、非生産的だな。
 まあ、元々生産性を目的としてないからいいんだろうけどさ……。

「そういうわけで……あくまで修行としての行為、と言えば聞こえはいいものの……これ幸いとミナト殿を修行相手として利用するような形でもあるゆえ、我らとしても後ろめたい部分がないわけではないのだが……強くなれるのは本当でござる。ミナト殿にも、いや、ミナト殿のお仲間達にとっても益になる話であるのは保証するゆえ……考えるだけ考えてほしいでござる」

 やっぱりちょっと気まずそうにそう言って……いつの間にか、それぞれの屋敷に通じる分かれ道にまでたどり着いていた僕らは、そこで解散した。

 ……去り際にサキさんが、

「普通にやるよりも気持ちいいらしいから、お得。あなたがやり方を覚えれば、あなたの大切にしてる女性に使って強くしてあげることもできるから、考えてみて」

 と、耳打ちしてから去っていった。

 ……そんなこと言われてもなあ……。


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